見よ!これが軍師北郷の・・・なにっ!?
大変、お待たせ致しました。最後に皆さんにお知らせがありますので、そちらもお見逃しなく!
風に靡く三国の旗と、蠢くようにひしめき合う軍勢を眺めながら、俺は目を細める
「…んー、于吉くん?」
「何でしょう?」
「私は今、三国時代に来た頃以上の疑問を抱いているのだが…何故、軍師たちまで、私に戦いを挑もうとするのかね?」
「あー…それは恐らく、武将たちと同じように、軍師たちも一刀くんの力を見極めたいんでしょうね」
「適うわけないじゃん!相手は三国志でも、指折りの将たちだよ!?映画見てないの!?赤壁で大活躍のアノ人を、相手に闘うんだぞ!?」
「レドリフですね?左慈と二人で観に行きましたよ。大変、面白かったですねー」
「え?見に行ったの…?左慈と二人で?」
「はい。え?何か変ですか?外史監視者は映画を観に行っては行けないんですか?」
「い、いや。そういうわけじゃないんだけど…」
「そうとしか見えませんよ、その笑みは…」
二人がポップコーンとドリンクを片手に、映画館で大興奮している姿を想像して思わず笑みがこぼれてしまう
対する于吉は、俺の笑みに不機嫌そうに頬を膨らませると、ふいっとソッポを向いてしまった
「悪かったって。あまりに意外な言葉が出てきたもんだから、驚いただけだって。そんなに怒らないでくれよ。な?」
「…まぁ、いいです。此度の戦の話ですが、当然、勝てるわけありませんよ。子供が教授に、勉強で闘いを挑むようなもんです」
「そこまで言う?」
「でも、軍師たちはそんなこと、当然、分かっています」
「それは、つまり…ただ、リンチしたいだけじゃないのかな?」
「あはは…!そうかもしれませんね。でも、それだけじゃないでしょう…。恐らく、期待しているんですよ。皆さん」
「期待?」
「勝ち負けはどうでもいいんですよ。きっと。一瞬でもいい…あなたの輝く瞬間を見たいんですよ」
「輝く瞬間…ねぇ?」
進軍してくる三国の兵を見回しながら、苦笑する
魏呉蜀の各軍三万と、その他軍勢一万
計十万の軍勢。対する自軍も同じく十万
ただ、あちらのように強力な将などいない
武将と呼べるのは、俺と于吉くらいなものだ
とてもじゃないけど、勝てる気がしない…
個人の武なら自信はあるさ。でも、今回は話が違う
スーパーマンだって、数の暴力には適う訳ないって話
だからこそ今回、俺は軍師を引き受けざるおえなかったわけだけど…
「…輝く前に潰されそう」
「華々しく散っては如何ですか?最後には、カスくらい残りますよ、きっと」
「そうだな…それしかないか…」
俺はふむふむと頷くと、懐を探り始めた
そうだよねー…どうせ散るなら、何か残さなきゃねー…
『さぁ!行くわよ!敵は一刀率いる、十万の兵!正直、どんな戦術でくるか予想も出来ないけど、負ける相手ではないわ!だって、あなたたちがいるもの…ねぇ?』
「…はぁ、何で華琳様まで偽物なの?」
「仕方ありませんよ。華琳様は今、修行の真っ最中ですから」
「ん~…、でも、士気が下がるのは否めませんね。こう、なにか、気が緩んでしまいますね~」
「はぁ…。あんたは、いつも緩みっぱなしでしょ?」
「ぐー…」
「「寝るな!!!」」
「おぉ!?すみませんねー。自分に都合の悪いことには眠気が出てくるのですよ~。おやおや?でも、久しぶりに受けた感じがしますね~?」
「そういえば最近、一刀殿の前では、タヌキ寝入りしてませんね?」
「むー…タヌキ寝入りではないのですよー?…でも確かに、お兄さんの前では寝たいと思えませんねー。なんででしょ~?」
飴を含むと、眉を寄せて遠くに立つ一刀を見つめた
『…偽物という自覚はあるけど、ここまでスルーされると、流石に寂しいわね』
「大丈夫ですよ~。ちゃんと、やることはやりますから~」
「まぁ、仮とはいえ、魏の名を掲げるのだもの、勝ちには行くわよ」
「聞けば、用意された軍勢は、現実と相違ないとのこと。幾戦の闘いを生き抜いてきた私たちに、敗北は有り得ませんよ」
『はぁ…。だといいのだけど。まぁ、私たちも本物には及ばないまでも、死力は尽くすつもりよ。頑張りましょう』
「ふむ~。言ってるそばから、敵さんが動き出したようですよ~?」
見ると、真っ白い鎧を纏った軍が、一歩一歩進軍を開始していた
敵は長方形の綺麗な隊列を保ったまま
別に、何かの陣形を組んでいる様子もない
「ふむ…。数も揃っていることから、伏兵もいないようですね。どうやら、徹底交戦の構えのようです」
「はぁ…。本当、初心者ね…。まぁ、やりやすくて、こちらとしては助かるけど」
半ば呆れ顔の三軍師は、隣の軍に目を向ける
呉蜀が頭一個分、前に出ていることから、挟撃を仕掛けるつもりのようだ
「呉蜀の方針も決まったようですね」
「ではでは~風たちは、風たちの仕事をやるのですよ」
「じゃあ、このまま、敵前面に一当てして後退。先頭が釣れたところを、両軍に挟撃させましょう」
「ですね~。隙を見て、後方から別働隊を出しましょう。ついでに他国の伏兵も借りて、敵の後方から強襲すれば、一気に畳み掛けられるでしょうから」
「敵はきっと、大混乱になるでしょうね」
「混乱、大いに結構!こんな遊びは早く終わらせて、ついでに、あの男達の息の根も止めるわ。そして、華琳様から暖かいお言葉とご褒美を貰うのよ!」
「ご褒美ですか…?」
『稟、どうしたの?急にこちらを見つめて…?』
「ご褒美……ブハァー!?」
『へ!?きゃ!?なに?血!?』
「おやおや~、こちらも久しぶりですね~?」
「ちょっ!静観してないで、鼻血止めなさいよ!戦の前に死んじゃうわよ!?」
「ピクピク…ご褒美…ピクピク…華琳様のご褒美…」
『衛生兵!いや、警備兵!早くこの危ない娘を連れて行きなさい!』
「はい、稟ちゃん。トントンしましょうねー。トント~ン!」
「ふが…ふが…」
「もー!しっかりしなさいよ!戦は始まってるのよ!」
『し、仕方ないわね。一旦、風たちは体制を立て直すために後方に下がりなさい』
「ふが!ふがが!」
「大丈夫らしいのですよ~」
『全然、大丈夫に見えないわよ!なんで、刃を交える前から、戦場の真ん中に血溜まりが出来るの!?』
「ふがが…ふんがー!」
「"犯人は…お前だー!"らしいのです~」
『えぇ!?私なの!?』
「あんた、黙りなさい!!!」
「あた!?」
「ふが!?」
ギャーギャー騒ぎ、混乱しはじめた軍師と王
その混乱は、ジワジワと魏の中へ広がっていく
『ほ、報告します!魏の軍師、郭嘉様が負傷されたようです!』
「あわわ!?奇襲ですか!?」
「お、落ち着いて!雛里ちゃん!敵に伏兵はいないはずだよ!その前に、まだ開戦してないし!」
『よもや、伏兵ではなく、一矢射たのやもしれませんな?こう、開戦の挨拶代わりみたいなものを、ひゅーんと』
冗談混じりに、星は弓を引く真似をして振り返る
しかし、その瞬間、皆の顔から笑顔が消え去った
言った本人の顔からすらも…
『そういえば、ご主人様は弓も使うと言っていたわね…』
『待て!あの距離からの一矢だと!?それでは、我々も危ないではないか!』
「お、落ち着いてください、愛紗さん!流石にそれは、有り得ません。ご主人様は今回、軍師に徹すると言っていましたから」
「で、でも、朱里ちゃん。それが、計の一つだとしたら…」
「うんん、大丈夫。ご主人様は、こういうことで、嘘は吐かないよ。絶対」
「朱里ちゃん…。うん、そうだね。それこそ怪しい人が、もう一人いるもんね」
「うん、あの人だよ、絶対…」
左翼がそういった結論を出したころ、右翼に陣取る呉でも同様の混乱が起きていた
「稟が…だと!?」
「んー。まだ、前線が触れてすらいないのに、おかしな話ですねー?」
「もしや、于吉様が妖術を!?」
「亞莎ちゃん、それはないと思いますよー?今までの修行で、于吉さんは一度も術は使用したことがありませんから。何より今日は、一刀さんもいますし」
「まぁ、北郷なら、止めてくれるだろうな」
「そうですね…一刀様なら。…では、なぜ、稟様は?」
「んー…なぜでしょうねぇ?」
不穏な空気に包まれ、僅かに統率へ乱れが生まれたまま、三国は敵へぶつかっていく
「「「オオオォォォー!!!」」」
「くっ!結局、態勢も立て直せないまま、敵にぶつかっちゃったじゃない!」
「まぁまぁ、ぶつかってしまったものは仕方ありませんから~」
「そうですよ、桂花殿。喋る隙があったら、崩れそうな戦線を立て直すために指示を出してください!」
「崩した張本人のあんたにだけは、言われたくないわよ!」
「おや~?敵さんの動きがおかしいですね~?」
見ると、敵がジリジリと後退していく
しかし、後退するのは両脇の兵のみで、中央の兵は前進を始めた
長方形から菱形への、陣形の変化
『両脇の兵を下げられたせいで、挟撃がしずらくなったわね~?どうするの、冥琳?』
「ふむ。問題ない、こちらもそれに合わせて、陣形を組み直すだけだ」
『そうね…あれ?また、陣形が変わっていくわよ?』
「む?」
三国が陣形を変え終えたあと、再び、敵の陣形に変化が現れる
「あわわ!?敵部隊の中央が割れていきます!」
「誰か来る…あ、あれは!」
「ウオオォォーン!?」
『「『!!?』」』
菱形の中央が割れ、そこを突っ切るように現れた男に皆、目を丸めた
「ひどい!酷すぎますよ~!一刀く~ん!」
馬に両手両足を縛られた于吉が、馬に括り付けられていたからだ
『どういうことだ…?敵の副大将が単身で出て来たぞ!?しかも、縛られて。しゅ、秋蘭、あれは、迎撃するべきなのか?』
『う、うむ…。流石に、あぁ堂々と出て来られると、勘ぐってしまうな。風たちは、どう思う?』
「縛ったのは、お兄さんで間違いないでしょうねぇ。他に居ませんし」
「問題は…敵の狙いよね?囮かしら」
「の、わりには…」
「一刀く~ん!助けてくださいよー!もう、"華々しく散れ"とか、言いませんからー!」
「結構、本気で泣いているようですが?」
「そ、そうねぇ…。春蘭!あんた、試しに挑んで来なさいよ」
『はぁ!?お前、人を子供か何かと勘違いしていないか?私を、そう簡単に扱える人間だと思わないことだな!』
『姉者…それは、全然、誉められたことではないよ』
「むしろ、子供の方が素直に聞く分、幾分かマシよね」
『なんだと~!?ぐぬぬ…このお洒落頭巾軍師め、言わせておけば…!』
『姉者…それは、全然、貶せていないよ』
「はぁ…あんた、ご託宣はいいから、とっとと、アイツを斬り伏せなさいよ。このままじゃ、危険極まりないアノ物体が、我が軍にぶつかるわよ?」
ちょいちょいと、泣き叫ぶ于吉を指差しながら、桂花は肩を竦めてみせる
隣に立つ華琳は、単騎で突出してくる于吉に、眉を寄せると少し考えてから、春蘭を見た
『確かに、目的も分からない敵影を放置するのは危険ね。春蘭、ちょっとあの不男を牽制してきなさい。ただし、敵兵に動きが少しでも見えたら、不男は放って置いてもいいから、こちらに戻りなさい。撤退の指示は…稟、お願い出来るかしら?』
『はっ!分かりました!』
「御意!」
「(本当、子供どころか、犬ね…)」
日頃の自分を棚に上げながら悪態を吐くと、桂花は憎らしげに敵を睨みつける
軍の後方では、魏の種馬が腕を組んで、戦を静観していた
「余裕そうにして…ムカつくわね…。あの変態…一体、何を企んでいるの?」
「桂花ちゃん、桂花ちゃん」
「なによ!?…ムグ!?」
背中をつつかれ、苛立ちを隠すこともせず振り返ると、風が飴を口に押し込んでくる
「怒りんぼさんは、戦に嫌われますよ~。軍師は誰よりも戦が見える場所に立っているんですから~。冷静に~冷静に~」
「ムグ…ぐぐぐ…っ…そうね」
風の言葉に頷くと、自分を落ち着かせるために深呼吸をする
皆、序盤から想像していた
この戦は、予想外のことが起こり、必ず苦戦するだろうと
何たって、敵の中枢はアイツなのだから
「(なのに、早々に冷静さを失うなんて…挙げ句、味方に嗜められて…)」
もう一度、深く呼吸をすると、より落ち着きを取り戻せたのか、桂花は苦笑してみせた
「悪かったわね。もう大丈夫」
「それは良かったのですよ~」
風はほくそ笑むと、踵を返して華琳の隣に並ぶ
王と二三、言葉を交えると、近くに控えていた兵や将に的確に指示を出していった
「(ぼぉーっとしてるように見えて、意外とよく周りを見ているのよね、風は)」
「ぼぉーっとは余計ですよ~。ほらほら、桂花ちゃんこそ、ぼぉーっとしてないで、お兄さんの策を先読みしてくださいよ~」
「ぐっ…あんたに言われるのは屈辱的だわ。しかも、何気に人の心読んでるし…」
「それが、軍師の仕事ですから~」
「いや、違うでしょ…。でも、アイツに策なんて、あるのかしら?」
「といいますと~?」
「アイツ、兵法はさほど学んでないんでしょ?」
「らしいですね~」
「学んでないなら、出しようもないじゃない。于吉は単なる捨て駒よ。捨て駒。どうせ、気に障るようなことを言ったんでしょ?」
「本当にそうなら、風はガッカリなのですよ…」
風は面白くなくなったように、口を尖らせる
「なに?まさか、あんたも何か期待してたの?」
「"も"と言うことは、桂花ちゃんも期待してたんですね~?」
「はぁ?そ、そんなわけないじゃない。なんで私がアイツなんかに!」
「違うんですか~?」
「違うわよ!私が言っているのは、呉や蜀の連中のことよ」
「あぁ~。そういえば皆さん、いつも、お兄さんを見極めようと躍起になってましたからね~?周瑜さんなんて、毎日のように、明命ちゃんを監視に送っていたようですし」
「そんなことしてたの?」
「周瑜さんだけではなく、孔明ちゃんや鳳統ちゃんも、色んな人に聞いて回っていたようですよ?」
「あ、あの二人まで…?」
「皆さん、買い被りすぎですよね~。お兄さんは単なる変態だと言うのに」
「そうね…」
クスクス笑う風を余所に、桂花はぐるりと周りを見渡す
呉蜀の軍は、上手いこと味方の動きに合わせて陣形を整え、ジリジリと敵の数を減らし始めていた
迅速かつ正確な攻守
両軍に全くの容赦は見えない
その様子から十分、伝わってきた
皆、この好機を逃すまいとしているのだ
北郷一刀の本質を見極める、千載一遇の好機を逃すまいと…
「お兄さんは三国にとって、希望となるのか…害悪となるのか…。仕える程の価値があるのか…信じるに値する人物なのか…それらを試したいんでしょうねー」
「そんなもの、期待するだけ無駄よ」
「さぁ?どうでしょう?少なくとも、お兄さんは期待に応えるつもりのようですよ?」
「え?」
風が微笑み手で指し示す先、敵軍の中央で北郷一刀は剣を突き上げていた
それに応えるように兵たちは道を開け、一刀の通り道を作っていく
開かれた先にあるのは『呉軍』
誰の目にも、一刀の狙いは見て取れた
「ま、まさか…アイツ…」
「えぇー、副大将に続いて出てくるみたいですねー」
「な!?アイツ、軍師でしょ!?なに、考えてるのよ!」
剣を振り、駆け出す一刀に軍師たちは目を丸めた
まさか、軍師が戦陣を切って出て来るとは…
「ふっ…思いもしなかった、そんなわけない。予定どおりだ」
『よね~?んじゃ、一刀の相手は私がするわ。思春、あなたも来なさい』
『御意!』
「雪蓮…そんな装備で、大丈夫か?」
『大丈夫、問題ないわよ!』
雪蓮は手を振ると、思春を連れて歩み出した
「ふむ一、困りましたねー。呉軍に援軍を出そうにも、魏軍の主力はアノ変態さんの相手に持っていかれてますしー」
「苦戦は目に見えてるわ。霞を出しましょう」
「そうですね~。雪蓮さんと霞さんなら、大丈夫でしょう」
「来なさい、霞へ伝令よ」
桂花は前線で遊撃を行っている霞へ、伝令を飛ばす
『へぇー、ウチが一刀の相手かー。ええで!なら、行こか!』
伝令は早急に伝えられ、霞は一刀へ向かって馬を走らせた
一方、魏の前線で于吉討伐を言い渡されていた、春蘭、秋蘭、稟はというと
『見つけたぞ!変態!』
「え?貂蝉?どこに居るんですか?」
『貴様だ、貴様!キョロキョロしてる貴様だ!』
「え?私はただの紳士ですが?」
『嘘を吐け!亀○縛りで馬に括り付けられているヤツが紳士なわけあるか!』
「これは、デフォルトですよ。紳士の嗜みです」
『お前、謝れ!世界の紳士に、今すぐ謝れ!』
『落ち着け、姉者。本気で相手にするな。于吉もその辺にしたらどうだ?』
「ははは…バレましたか。はい、冗談ですよ。変態を変態として自覚していないのは、貂蝉だけで十分でしょう?」
于吉は不適に笑うと、馬の上でモゾモゾと動きだす
『な!?』
「ふぅ…やはり、罠でしたか…」
「えぇ。私の目的は…よっ!」
軽く力を入れると、スルリと縄が解けてしまった
伸びをすると、ゆっくりと周りを見渡し馬を下りる
『ふ、私たちを引き付けることか?しかし、于吉。お前にその任、完遂できるのか?』
「おや、秋蘭さん、何か問題でも?」
「分かりませんか?今のあなたは、ルール上で仙術を封じられている。仙術が主体で闘うあなたに、私たちを止める手立ては無いんですよ。つまり…あなたの負けです!」
ビシッと指を差し、稟は于吉に負けを突き付ける
「ふ、ふふふ…」
しかし、対する于吉は含み笑いを浮かべるだけだった
『な、何だこいつ。おかしくなったのか?』
『私たちを止め切れぬと気付いて、やるせなくなったのだろうさ。さぁ、分かったら、投降を…』
笑い続ける于吉に、苦笑すると秋蘭は手を差し出す
「あはは!私に、あなた方が止められない?ふ、ふふふ…何を言っているんです?」
『!?』
その手を払い除けると、于吉は数歩下がり、芝居がかった動きを始めた
「私は、数多の世界を渡り、三国を幾度となく滅ぼして来た者。世界により、悪という役目を与えられし者。正義を掲げる北郷一刀の影にして、北郷一刀の悪を現す者」
『(なんだ?この異様な殺気は…)』
「私の名は于吉。左慈の兄弟にして、北郷一刀の…天の御遣いの子なのですよ…」
懐を漁ると、橙色の半透明な球体を取り出し、にっこりと微笑んだ
「つかぬことをお伺いしますが、それは…于吉殿が愛用されている"水晶"ではありませんか?」
「いえ、違います。これは天界で有名な"龍玉"というものですよ」
「龍…玉…?」
「ほら、中に星が一つあるでしょう?これを集めると、何でも願いが叶うんですよー。凄いですよねー?」
『于吉!まさか、お前は仙術を使おうとしていないか?それでは、ルールが…』
「ご安心を。これは、こうやって…使うものです!出よ、龍の神さま!」
于吉は、玉をむんずと掴むと、メジャーリーガーばりの豪快なフォームで、地面へ向かって玉を投げつけた
玉は土を抉り、空高く舞い上がると姿を消したが、かわりに辺りは、土埃が舞い上がっている
『くっ…目眩ましのつもりか!?姉者、気を付けろ!』
「そして何と、これがあと六つもあるんですね!それ!それ!それー!」
次々と地面に玉がぶち当たっては、空に消えていく
かわりに、土埃はもくもくと大気へ舞い上がり、ついには視界を覆い尽くしてしまった
『えぇい!洒落臭い!こんな、土埃、我が一太刀で晴らして…わぷ!?ペッ!ペッ!土が口に入った!』
『くっ!視界も塞がれ、呼吸もし辛い…姉者、条件が悪い。撤退するぞ!稟!道を作ってくれ!』
「御意!」
『しゅ、秋蘭!?待て!私はまだ!』
「おや…お帰りですか?残念ですね?これからだと言うのに…。史実で、私が小覇王を苦しめた"技"…とくと御覧に入れようと思っていたんですが…」
『なに!?雪蓮をだと!?』
『姉者!』
「はぁ…結構ですよ。さぁ!お二人共、道は出来ました。撤退を!」
『分かった。姉者、行くぞ!』
『イヤだー!私はアイツを倒すんだーー…』
ジタバタともがく春蘭の首根っこを掴むと、秋蘭と稟は撤退して行く
「あー…逃がしてしまいましたかー…。まぁ、時間稼ぎは出来ましたかね…。さて、確か次の策は…」
ポリポリと頭を掻くと、于吉は兵を集め、撤収を始めた
『いっくわよー!孫策伯符の一撃!受けてみなさい!』
「とりゃ~」
『ウチも行くで!堰月刀の味、とくと味わえや!』
「それ~」
『北郷、覚悟!鈴の音と共に、堕ちろ!』
「せや~」
三人の一糸乱れぬ攻撃を悉く避けて見せると、一刀はヒラヒラと舞うように、戦場を駆け回る
「のりゃ~」
『『『いい加減、その気の抜けた避け方はやめなさい!』』』
ムキー!と武器を振り、三人は一刀を睨み付けた
「え?気が抜けてるだって?バカ、言うなよ。俺は本気でやってるぞ!」
『……はあっ!』
「あらょ~」
『『『抜けてるじゃない!』』』
「抜けてないって。その証拠に、ほら、目的は達したから」
『え?な!?ウチの兵が伸されとるやん!?』
一刀の視線の先では、霞の連れて来た小隊が目を回して倒れていた
それを囲うように、北郷軍が立っている
どうやら、一刀が将を翻弄している間に、一刀の隙を狙っていた兵たちは、伸されてしまったようだ
『な、なにしてんねん、あいつ等ー!』
「あはははは…!よ~し!次、行くぞ!野郎共ー!一番隊から十番隊はこのまま、応戦!十一番隊から百番隊に伝達!次の作戦に移るぞ!」
『『『応っ!!!』』』
『あ、待てや、一刀ー!』
『こら、待ちなさーい!決着はまだ着いてないわよ!』
「ふふ…これは武道大会じゃない。戦なんだよ」
さわやかに微笑むと、一刀はヒラヒラと手を振って、呉軍へと別れを告げた
その後、三国は一刀と于吉による数多の奇策に襲われることとなる
「あわわ!敵軍副将、于吉さんが前線で暴れ回り始めたよ、朱里ちゃん!」
「うん、見えたよ、朱里ちゃん!今すぐ、于吉さんの退路を塞いで……は、はわー!?」
『ど、どうしたの?朱里ちゃん』
「ご、ご主人様が…ご主人様が、出てきちゃいました!」
『え…えーっ!?ご主人様が!?』
「は、早く、対抗しなきゃ!朱里ちゃん!このままじゃ、前線が崩されちゃうよ!」
「うん。愛紗さん、鈴々ちゃん、星さんにお願いしよう」
『いいのか?それでは、他の所が手薄になってしまうぞ…?』
「分かってはいます。ですが、ここで、あの二人の進軍を止められなければ、戦況が完全に傾いてしまいますから」
『ふむ、それもそうか。あい、分かった』
前線へ援軍を向かわせれば…
『おかしいのだ!お兄ちゃんも、あの変な眼鏡の人もいないのだ!』
「あわわ!た、大変です!我が軍の左翼に、敵軍勢が集中!被害が出始めています!合わせて、右翼にご主人様と于吉さんが現れたそうです!」
『くっ…主力を分断するのが狙いか!?』
『ふふ…やるな、主…』
『か、関心している場合か、星!右翼へ向かうぞ!』
『あぁ、分かっている…(…ただ、行ったところで、二人の姿はもうないだろうがな…)』
駆け出す二人を見つめながら、星はため息を吐くと、混乱する前線を眺めた
やがて、戦いは終盤へと向かい始める
『先は見えたわね…』
戦況を見つめながら、華琳は苦笑すると戦場へ歩きだす
「何をする気?」
『桂花?見ての通り、前線に出るのよ』
「あなたは、三国軍の総大将なのよ?そんなこと、軍師である私が許しはしない。何より、華琳様はそんなことしないわ」
『この戦況を見なさい。前線は乱され、その不安の色は刻々と兵全体へと広がっていく…。この不安を、ぬぐい去る方法は一つよ』
「王自ら、前線に出て兵を鼓舞する…。でも、それは、あまりに危険が多いわ」
『承知の上よ…』
魏の王は武器を取ると、ゆっくりと歩き始めた
「ふん…所詮は偽物ね…。本物には、似ても似つかないわ」
前線へ向かう王の背中を睨み付けると、桂花は唇を噛み締め、小さく毒づく
『勘違いしないで…桂花。私は私…本物は本物よ…。なら、本物も思い付かないことをして、華々しく散るのもありでしょ?』
肩を竦め苦笑すると、武器を振り上げる
『我は三国軍総大将、曹孟徳!皆、恐れるな!天命は我にあり!全軍、己を鼓舞し、我に続け!全軍…突撃――!!!』
雄々しく叫びを挙げながら、前線へと駆け出した
「はい!終了でーす!お疲れ様でしたー!」
「そりゃないって…」
「ですねー…。まさか、飛び出してきた曹孟徳を餌に、武将全員で一刀くんへ総攻撃を仕掛けてくるとは、思いも寄りませんでしたよ」
「あぁ…、調子に乗って前に出過ぎたのが敗因だな…。すまん、于吉」
「いえいえ、私も助太刀出来ずに申し訳ありません」
二人は互いに頭を下げると、ポリポリと頬を掻いて苦笑し合う
「でも、本当に強くなってたね。軍に切り込むことは出来ても、深くまで切り込めなかった。色んなところから仕掛けたつもりだったのに、対応が迅速な上、的確なんだ。やりにくいったらないよ」
「確かに、ここ数ヶ月で実力は、かなり上がっています。凄い成長力ですね」
「ほんとになー、于吉が暴走するのも分かるよ」
「分かって頂けて何よりですよ。では、皆さんの結論を聞きましょうか?」
「あ…そうか…」
こちらを見つめ苦笑する軍師たちへ、向き直る
そうだった。この試合の目的は、別に彼女たちの実力を見るためにやっているじゃなかった
「どうかな?やっぱり、信用できない?」
「あはは…」
「ふむ…」
俺の問いかけに、皆、苦笑すると首を振って否定する
「北郷…お前は軍師には向いていないな」
「あ、やっぱりか…」
「あぁ、大将である人間を囮にして戦うなど、言語道断。軍師の風上にも置けないな」
「う、手厳しい…」
「何より、最後の一戦は有り得ない。敵大将が出て来たから、単騎決戦を挑むなど、話にならない。互いに条件を出し合った上での、決闘ならいざしらず、いきなり、斬りつける人間がいるか」
「そうですね…」
「よって、軍師としては失格。素人同然と判断せざるおえない」
「はい…」
深いため息を吐く周瑜さんを筆頭に、軍師たちから失笑が漏れる
それほどまでに酷い内容だった、ということだろうな
本当、手間を取らせてしまったのが、申し訳ない気持ちになってくる
はい。軍略も、もっと勉強します
「だが…」
「え?」
すっかり、小さくなり俯く俺の頭に、周瑜さんの手が置かれる
頭に置かれた手からは、先ほどまでの言葉は嘘かと、思ってしまうほど、温もりが伝わってきた
「だが、我々は翻弄され、苦戦を強いられたのも事実だ。正直、あそこで魏王が予想外の行動に走らなければ、活路を見いだせず、ズルズルと敗走へと追い込まれていたかもしれない」
「それは、間違いないと思います。ご主人様の策は、確かに三国を苦しめていましたから」
周瑜さんの言葉に、孔明ちゃんは頷くと、にこやかに微笑みかけてくる
その横から、恐る恐るといった感じで、鳳統ちゃんが顔を出してきた
「軍師としては失格でも、勇猛果敢に敵へ挑み、戦場を支配せんとする姿は、英傑と変わりありませんでした。もしも、ご主人様が先の大戦に、武将として参加していたらと思うと…」
「はい~。ゾッとしますね~。軍師泣かせの武将さんになっていたと思いますよ~?」
「あわわわ…!?」
鳳統ちゃんの言葉に頷きながら、呉の軍師、陸遜さんが身を乗り出してくる
その凶器とも呼べる、爆裂爆乳が鳳統ちゃんの頭に乗っていることは触れない
触れない。小さな軍師さんが、さめざめと泣きながら、救いを求めて手を伸ばしているが…決して触れない
軍師泣かせは貴女ですよ、陸遜さん…
「ふ、ふぇ~ん…ご、ご主人さまぁ…」
ジタバタと必死に手を伸ばしているが、面白可愛いので、触れない
「…たぶん、俺はこの力を最初から持っていたとしても、前線には立たなかったと思う」
「「「え?」」」
俺の言葉に皆が目を丸める
まぁ、当然の反応だとは思ったけど…
と、魏の三人を見ると別段、驚いた様子もなく苦笑していた
「お兄さんは、そういう人なのですよ」
「あ、誤解の無いように言っておきますが、別に楽をしたいというわけではありません。ただ…」
「ビビりなのよ、コイツ。それも、戦場を見ただけで震えるほど」
「桂花ちゃ~ん?」
「桂花殿~?」
「な、なによ…」
「はぁ…。まぁ、間違いではありませんが、正確には戦嫌いなんですよ」
ねぇ?と、魏の三軍師が見つめてくる
対する俺は、全くその通りなので頷くことしかできなかった
「そのことで、華琳と口論になったこともあるけどさ。未だに、戦は嫌いだよ。やっぱり、人の死ぬ姿は見たくない。だから、囮も買って出たんだ。于吉には、かなり、渋られたけどね」
「初めに策を聞いた時は、目眩がしましたよ。総大将自ら、囮なんて、聞いたこともありませんでしたからね」
「戦嫌い…か。ふふ…そういうことか…」
周瑜さんは納得いったように頷くと、微笑みを浮かべて、手を差し出してくる
「訂正だ。お前は、軍師に向いている。誰よりも」
「え?」
微笑みの意味が分からず、思わず首を捻るが、周瑜さんは構わず俺の手を取ると満面の笑顔を見せてきた
「姓は周、名は瑜、字は公瑾。真名は冥琳だ。宜しく頼む、北郷…」
「え?はい…宜しくお願いします…?」
「そうですね。軍師とは、王や将、何より兵や民を、危険から遠ざけることが仕事ですから」
「はい。ご主人様は人の痛みが分かる、優しい人ですから、とても向いていると思います」
唖然とする俺を尻目に、孔明ちゃん、鳳統ちゃんが手を握ってくる
条件反射で手を握り返すと、二人はほんのり朱色に頬を染めて、俯いてしまった
「せ、姓は諸葛、名は亮、字は孔明。ま、真名はしゅ、朱里でしゅ!」
「せ、姓は鳳、名は統、字は士元。ま、真名はひな、雛里でし!」
「あ…えーっと…うん、宜しくね…」
カミカミだった…まぁ、可愛いから許すけどね!
「…じゃなくて、何で、真名を?戦の出来は、誉められた物じゃ…」
「ごめんなさ~い、一刀さん!実は私たち、とっくに認めているんですよ~!」
「え?何で?」
「はい!実は、呉と蜀の政は、魏の政を基盤にして改革を始めたのですが、この魏の政の基盤は一刀様、貴方様の案が基となっているんです。言わば一刀様は、私たち軍師の師なんですよ!」
「え?案って…えええぇぇ!?」
思わぬ言葉に度肝を抜かれ、叫びを上げる
するってーと何かい?
俺が江戸に行ってる間に、俺の提案した政が、三国の軍師に認められて、三国に広まったってこと!?
あの有名な方々に、認めて貰えたってことか!
ちょっ…これって…実は凄いことなんじゃ…
「はい、一刀さん♪」
「一刀様♪」
「え!?あ、はい!」
感動に打ち震えていると、呉の名軍師が手を差し出してくる
俺が握り返すと、二人は満面の笑顔で微笑み頷いた
「姓は陸、名は遜、字は伯言。真名は穏ですよ~。宜しくお願いしますね♪」
「姓は呂、名は蒙、字は子明。真名は亞莎といいます!宜しくお願いします!」
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
頭を下げると、軍師のみんなを見回す
皆、優しい目で俺を見つめ返してくれ……あれ?
「「「ハァハァハァ…」」」
あ、あれ?何か、違いません?
気持ち…視線が生温かいような?
というか、どちらかといえば…ねっとり、してない?
「さ、さて、真名の交換も済んだところで北郷…?」
「え?な、何でしょう?」
何か、凄く嫌な予感がするのは…気のせいじゃないよね?
思わず、一歩後退…なんか、怖いよ?
「お前は、軍師の能力…というより、政務に関する能力は極めて高いようだな」
「そ、それは、気のせいではなかろうか?」
「「いいえー?ご主人様は凄い人ですよー?」」
っ!?ステレオボイス!?
両側から聞こえた声に目を向けると、孔明と鳳統…じゃなかった
朱里と雛里が、がっちりと腕を掴んでいた
二人は三国に珍しい幼女タイプの女の子…
なのに…なのに、目が怖いです…すごい…
「す、凄い?どこがでしょうか?私は単なる庶民で、曹操さんの玩具ですけど、何か?」
「(一刀くん…それはそれで、凄いですよ?)」
苦笑する于吉を睨みつける
「(いいから、今すぐ助けなさい!)」
「(無理ですよ。さっきから、バンバン殺気が飛んで来てますから…。動けば死にますよ、お互い…)」
対する于吉は、フルフルと首を振ると、こちらに手を合わせてくる
要は、見捨ててくれやがりましたか…
くっ…!父さん、悲しいです!
「そう。その曹操から聞いた話なのだが、北郷…お前はまだ、私たちの知らない策を知っているのだろう?」
ゆったりと、冥琳は近付いてくると、ツー…っと指で喉を撫で上げる
思わず、身震いしてしまうほどの、艶めかしさと妖美な微笑み
冥琳はドS、絶対、ドSだ!これ、決定!
「私たちは、純粋にそれを知りたいんだ、北郷…。お前の全てを…」
「いや、三国の民のためになるなら、俺はいくらでも協力するつもりだけどさ…。先ずは、華琳に聞いてみないと…。ね?ほら、俺、華琳のモノだし?勝手に物事を進めるわけには…」
「当然、タダでとは言わん」
冥琳が指を鳴らすと、軍師たちが俺の身体にすり寄ってくる
「好きな者を選べ。あぁ、大丈夫だ。皆、お前に憧れと、信頼の念を持っている。身を預けても良いと、思えるほどにな…」
私もその一人だと、冥琳は微笑むと、ヒシと抱き付いてきた
「だ、誰でも…?」
「ふふ…あぁ、誰でもいいぞ?」
「誰でも……」
身体を包む熱、女性の香り、妖美な視線…全てが俺の五感を刺激し、そして、脳を熱く溶かしていく
「誰でも…じゃないでしょ!バカ!」
「へ?あだだだ…!?千切れ、千切れる!」
耳をつんざくような声に振り返ると、耳に激痛が走る
「おー、痛ってー…。一体、誰だよ…って、えええぇぇ!?」
痛む耳をさすりながら振り返ると、我らが、嫉妬深き小さな覇王様が立っていた
「ど、どどどうして、ここに!?」
「きゅ、休憩時間よ?暇だったから、ぁあっちこっち散策してたら、この部屋に入ったのよ。ま、まさか、浮気現場を見せられるとは、思わなかったけど」
ふるふると震えながら、華琳は拳を握ると、じわりと涙の浮かんだ瞳で俺を見つめる
ゃ…やばい…これ、真面目にやばい…
「ま、待て!話せば分かる!って言うか、分かってください!」
「問答…無用!!!」
「ひっ!?いやああぁぁー…!げはっ!」
握る拳に渾身を込め、俺の腹を目掛けて拳を突き出してきた
見事なボディーブローだ
まさか、鉄壁のガードを超えて、ダメージを与えてくれるとは思いもしなかったぜ…
成長したな…華琳…ガク…
「ふん!じっくり、反省なさい!」
腰に手を当て、鼻を鳴らす少女の姿を最後に、俺は意識を手放した
「さ、さぁ、皆さん!撤収しましょう!」
「そ、そうだな。昼食もあるし!ほ、北郷…さ、先に行っているな?」
「ぐっ…ま、待て…俺も…」
「はわ!?い、意識が戻ったんですか!?」
「あれれ~?でも、視点が定まってませんよ…?無意識のようですね~」
「無意識ですか…?」
「あわわ…まさに、生存本能が高いからこそ、なせる技…ごくり…」
「全く、北郷には驚かされるな…。それより…」
苦笑する軍師を他所に、華琳は一刀を簀巻きにするとズルズルと引きずって、部屋を出て行く
その背中には、何者も寄せ付けぬほどの怒りに染まったオーラが立ち上っていた
「ふふふふふ……覚悟しなさいよ、一刀?」
「(ガクガク…ブルブル…ガクガク…ブルブル…!!!)」
「……北郷一刀の運命や如何に!?ってところですか?」
于吉は苦笑すると、二人が消えていった扉に向かって静かに手を合わせるのだった
三国の裏社会を仕切ってるのは私だ!
へぅ…メ、メイド番長、月です…!
あ、あの…ご主人様、お知らせがあります!
なんと、次回の華琳さん家は、お休みするそうです
なぜ、お休みなのかと言いますと…へぅ…実は、私も知らされていないんです…
お役に立てず申し訳ありません、ご主人様…
でも、お二人が消えた部屋と、何やら幕の裏が騒がしいのが気になりますね?
一体、何が起こるんでしょうか?
怖いような、楽しみなような、複雑な心境です…
ご主人様…一体、何が起きようとしているんでしょうか?




