初日はこんなもんさ
「今日はここまで!お疲れ様でした♪」
「「「はぁー…」」」
沈む夕日を背にして微笑む少女を中心に、乙女たちが座り込んでいた
皆、一概に魂が抜け出している
「これは…大丈夫なのか?」
「あはは…。ちょっと、しごき過ぎたかな?」
「「「はぁ…」」」
どう見たって、ちょっとどころの騒ぎじゃない。みんな、口から何か出てきてるじゃないか…
北郷にバレたら何を言われるか分かったもんじゃないぞ?
「曹操。初日はどうだ?」
「実力の差を感じたわ…」
「そうか。孫権、お前はどうだ?」
「…ごめんなさい。私…何をして、何をされたのかすら、全く理解できなかったの…。私が受けたのは、修行だったの?それとも、ただの強姦?」
「そういえば、最終的には服を脱がされていたな。北郷に見られなかったのが、唯一の救いじゃないか」
「ええ、そうね。でも本当、理解できない修行だったわ…」
「ははは…。劉備はどうだった?」
「うーん…。強くなってるようなー?変わらないようなー?本当、どうなんだろうね?」
「急には変わらない。最初の成長なんて、ゆっくりとしたもんだ。それこそ、自分でも分からないくらいにな。それでも確かに、成長はしているんだ。自信を持つといい」
「うん、そうだよね!確かに、今までしたことないよな経験をしたんだもん。きっと、無駄にはならないはずだよね!」
「あぁ。どんな経験も、力になるさ。何にせよ、ご苦労だった。今日はゆっくり休むといい」
俺は頷くと、皆を見回して労いの言葉を掛けていく
「そういえば、一刀はどうしたの?春蘭たちの姿も、見えないようだけど」
「あぁ。あいつ等なら…」
俺は苦笑すると、少し離れた林のそのまた向こうを眺めた
「ふっ!どうした、北郷?ぼーっとしているぞ!?減らず口も無くなっているし…はっ!」
「おらっ!意識が、どこかに飛んどるんやないか?心ここにあらず…せいっ!みたいやんか!」
「そこ…。ご主人様…闘気が希薄…?」
「それ!やっ!…こういう場合を、天の国では確か…こういうのよね~」
「しっ!そこ!あぁ…私も聞いたことがあるぞ!確か…」
「「「チャンスー!!!」」」
少女たちはニヤリと笑うと、申し合わせたように、武器を四方八方から突き出した
「あはは!残念!正確には、チャーンス!だ!」
「「「っ!?」」」
俺は迫りくる武器を、垂直に飛んで避けると、空中で雪蓮に向かって刀を突き出す
「くっ!?」
「あ!こら、貴様!そこで退いたら…!」
雪蓮が太刀を引いた隙に着地すると、横凪の一閃を放つ
突き出された武器を弾くと、再び四角の中心に立って周りを見渡した
「はぁ…まだまだだな…」
平静を装ってはいるが、内心はハラハラしていた
危なかった。次から修行中の考え事は止めよう…
「雪蓮~~!!?」
「し、仕方ないじゃない!私の武器と一刀の武器じゃ、長さが違うの!避けなかったら、また意識を刈り取られところだったのよ!?」
「そんなもの気合いでなんとかしろ!立ったまま、太刀を突き出していれば、ヤツを追い詰められたかもしれんのだぞ!?」
「ちょっ!む、むちゃ言わないでよ!そんな化け物地味たことができるのは、あんただけよ!」
「言うに事欠いて、化け物だとー!?戦狂いのお前にだけは言われたくないわ!」
睨み合う春蘭と雪蓮を余所に、他の三人は黙々と武器を振るっていた
しばらくの攻防が、俺と三人の間で続いていたが、その間も二人の喧嘩は続く
「だから、貴様は莫迦なのだ!」
「だから、あんたは馬鹿なのよ!」
「「「っ~~!!!」」」
「おや?」
ついに痺れを切らしたのか、三人は闘いの手を止め、後ろでギャーギャー騒ぐ二人へと振り返った
あらら…。こりゃ、ヤバいぞ?
「おん前らー!ゴチャゴチャ言うとらんで、持っとる得物振るわんかい!」
「そうだぞ!五人がかりでも倒せないのだ。三人では到底無理があると言うものだろう!?」
「ん…!相手が違う!いい加減に喧嘩、止めて…力を合わせる!」
「「は、はい…」」
三人にスッゴい形相で睨まれた春蘭と雪蓮は、引きつった笑いを浮かべると、再び武器を構えて飛び込んで来た
「見ろ!貴様がいつまでも絡んで来るから、私が怒られたではないか!」
「はぁ!?いつまでも絡んできたのは、あんたの方でしょう!?」
「なにを~!?」
「なによ、やる気!?」
しかし、すぐに喧嘩が始まる。しかも、今度は俺の目の前かよ。飽きないな、お前ら
「いい加減に…しろ!」
「…せいや!」
「…する!」
「「へ?…ぶっ!?」」
怒り心頭の三人に得物で殴られ、目の前で騒いでいた少女たちは、頭を押さえて地面に突っ伏す
本当、なにやってんだかな…
俺は苦笑すると、武器を収めてその場に腰を下ろした
「あ、あはは…。少し、休憩しようか」
「な、何を言う!まさか、臆したのではあるまいな?」
頭を押さえながら春蘭は立ち上がると、怒り冷めやらぬ様子で太刀を突きつけてくる
「…ちゃうわ!どっかのアホのせいで、うちらの集中が切れたからや!」
「はぁ…もう少しのところだったのに。お前たちときたら…」
「うん…残念…」
深いため息を吐きながら、三人は俺の隣に腰を下ろすと呆れたように二人を見上げた
「すまん…」
「ごめんなさい…」
「まぁまぁ、みんな、その辺にしとこうよ。修行は始まったばかりなんだから、焦らずいこう。ね?」
みんなが喧嘩しては、それこそ本末転倒になりかねない
俺は苦笑すると二人にも座るように、手で示して勧める
「……はぁ。そうやな、一刀の言うとおりか」
「そういえば、ご主人様?先ほど、考え事をなさっていたようですが、何か気になることでも?」
「え?…あ!あぁ、アレね?理由は簡単さ。周りを見てみてよ」
「周りを?」
「うん。ほら、辺りも暗くなって来てるだろ?」
言って周りを見渡す。夕日も中程が沈み、辺りはゆっくりと闇に包まれ始めていた
「音や声が聞こえないだろ?きっと今頃、みんなは今日の修行を終えて、夕食やお風呂に入ってるんだろうね」
「確かに、気配がありませんね?気付きませんでした」
「うち等が絶え間なく攻撃しとったちゅうのに、よう聞いとったなー」
「どんな状態でも、周りの気配には気を配らないとね。注意してさえいれば、未然に防げることなんて世の中、ざらにあるんだからさ」
「そうですね。ましてや、戦場の真ん中で喧嘩など、言語道断でしょう」
言いながら、先ほどまで喧嘩していた二人を、愛紗はジト目で見つめる
「「ぅ…」」
「あはは…まぁまぁ、愛紗。二人も反省してるみたいだしさ、許してあげようよ。ね?」
「ご主人様が、そう言われるのでしたら…」
「ありがとう、愛紗。…んじゃ、落ち着いたところで、修行に…いや、もう皆と合流しようか」
俺は辺りをを見渡すと、苦笑しながら武器箱を背負い立ち上がる
五人も立ち上がり、倣うように辺りを見渡すと、理由が分かったのか苦笑した
「と、桃香様…あんなに遠巻きで見なくとも…」
「か、華琳様が…見ていらっしゃったとは…くっ!なんたる不覚!」
「げっ!冥琳まで居るじゃな~い!こりゃ、説教もらうわね。はぁ…憂鬱…」
「あはは…なんや、凪たちも来とるし。恥ずかしいところを見られたなー」
俺たちを見守るように、遠くの林から華琳たちが覗いていた
バレたことに気付いたのか、皆、苦笑すると微笑むと手を振りながら林から出てくる
「さぁ、戻ろう。大切な人が待ってるよ」
「「「応っ!」」」
照れた笑いを浮かべ、五人は頷くと皆へ向かって駆け出した




