第一回!乙女だらけの鬼ごっこ☆
「さてと、宣言通り、すぐに終わらせるよ…悪いけど手加減はしない。理由は君たちも分かるだろ?」
林に飛び込んだ俺は、木を一太刀で斬り倒すと、足をかけて周りを見渡す
「…手加減をしていては、訓練にならないから、でしょ?」
辺りを伺う俺に、林のどこからか声がかかる
この声…華琳か…
「そう。早々に捕まった子たちはこれから先、厳しい修行を受けてもらうことになるだろうね」
「だとしたら、残った私たちはどうなるのかしら?修行を優しくしてくれるの?」
含み笑う声とともに、林のあちこちから武器を構える気配がする
なんだよ、全然投降する気はないんじゃないか
「ははは…見込みはあるよ。だからこそ…」
「だからこそ?」
「厳しくいかせてもらうよ!」
「っ!」
狙いを絞り、目の前に立つ木を真っ二つにする
すると、その裏から小さな少女が転がるように飛び出して来た
「ちっ!逃がしたか!」
「あっぶないわね!あなた、本気でやったでしょ!絶対、許さないんだから!春蘭、秋蘭!やっておしまい!」
「「御意!」」
「っと!…はぁ、やれやれ」
華琳の号令と共に、両脇の木から斬撃と矢が飛んでくる
奇襲を避けると、静かに体勢を立て直し、睨むように相手を見据えた
「春蘭と秋蘭か…。ん?…季衣と流琉も一緒なのか?」
「さぁ?どうだろうな?我らのように、奇襲を狙っているかもしれんぞ?」
俺の質問に矢をつがえながら、秋蘭が答える
「そうか…。奇襲は怖いな」
「でしょう?なら、仲間でも呼んで来たらどうかしら?」
不適に華琳は笑うと、林の外を指差す
仲間を呼びに、早く出て行けってことか
「仲間を呼びに?あぁ…于吉みたいに?」
「「「っ!?」」」
「何を驚いているんです?」
「う、于吉!?あなた…」
俺の後ろからヒョッコリと顔を出した于吉を見て、華琳が驚愕する
「私が本気で仲間を呼びに行っている間に、皆さんを見逃した、と思っているのでしたら、笑ってしまいますよ?そんなわけないじゃないですか」
「そう。華琳は開始から、今までずっと監視されていたんだよ。于吉に」
「そ、そんな…」
「いやー、大変でしたよ。伏兵なんて嘘をつかれた時は、つい笑い出してしまいそうでしたからね。最初から見ていたのに…ククク…」
「くっ!」
「さて、伏兵はいない。増援もない。さて、どうする、華琳?」
太刀を担ぎ、静かに三人を見据える
できることなら、投降してほしいがおそらくは…
「どうする、ですって?そんなの決まっているでしょう!?春蘭!秋蘭!手伝いなさい!この狼藉者を林の外に叩き出すわよ!覚悟しなさい!はああぁぁぁ!!!」
「「御意!」」
死神鎌による斬撃を防ぐと、横から春蘭と秋蘭が挟撃を仕掛けてくる
華琳の大鎌の弾き、体を捻ると脇を矢が通過し、体制が崩れたところに太刀による斬撃が降ってきた
横には逃がしてくれないようだな
転がりながら、後ろに避けると案の定、前から死神の大鎌が振り下ろされる
なんとか防ぐと、華琳に身を寄せ降着状態に持っていく
「くっ!?投降する気は!?」
「あ、あるわけないでしょう!?これだけコケにされて黙っていては、大陸の王の名折れでしょうが!」
「あ、あぁ、確かに…」
「分かったら、今すぐ、斬られなさい!!!」
「そうだ!おとなしく、刀の錆になれ北郷!」
「すまんな、北郷。極度の緊張状態で、華琳さまも姉者も我を忘れているのだ」
華琳に押され、ふらついたところに再び挟撃が入る
さすがは、幼い頃から共に剣を握り鍛え合った三人だな…息ピッタリじゃないか
「ふふ…よ!ほ!あらよっと!」
苦笑しながら三人の攻撃を避けてると、あれよあれよという間に林の端まで追いやられてしまった
「あははっ!三国一の武将がなんて様だ!三人がかりも相手にできんとは、情けないな、北郷!」
「ふぅ…全くだな…」
俺はため息を吐くと、大きく後ろに飛び林を出る
「わはは!我らの力、思い知ったか、北郷!」
「あー、やばかった。春蘭は凄いよ。あのまま闘っていたら、確実に負けてた」
俺はよろめくと、地に片膝を着き、剣を突き立てる
「あはは!そうだろ?私は凄いのだ!」
「うんうん。春蘭は凄いよ。もしかしたら、あのまま倒されて、鬼ごっこは終わってたかもしれない」
「なに?お前を倒せば、この遊びは終わるのか?」
「当然だろ?鬼の大将は俺なんだから」
「そうだったのか…。ふふ…!」
太刀を構え、春蘭が林から出てくる
「ま、待ちなさい!春蘭!」
「姉者!林に戻れ!」
「ご安心ください!華琳様!あんな弱った男一人に後れを取ることなどありません!必ずや北郷の首を取り、このふざけた遊びを終わらせてみせます!覚悟しろ!北郷!」
「ちょっ!考え直せって!春蘭!」
「問答無用ー!はああぁぁー!!!」
太刀を振り上げ、手を挙げて制する俺めがけて春蘭が駆け出した
うわぁ…、忠告まるっと無視ですか
「くっ!姉者!」
「秋蘭!春蘭の援護を!意地でも連れ戻すわよ!」
「御意!」
嬉々と走る春蘭の後ろから、焦りの表情を浮かべた二人が追いかけてくる
「死ねー!北郷ー!」
「くっ!危なっ!」
俺は立ち上がると、春蘭の太刀をギリギリで避け、よろめきながら後ずさる
「避けるな!貴様!」
「無茶言うなって、本当に命取りに来てるじゃないか!」
「当たり前だ!」
「っと、ととと!?いったー!」
春蘭の猛攻撃を何度か避けていると、足がもつれ派手に転けた
「ふはは!無様だな!北郷!さぁ、大人しく、その首を差し出…ん?なんだ?」
春蘭は周りを見渡すと、武器を下ろし首を傾げる
「砂塵…?春蘭…見える?」
「んー…あれは!?」
「あぁー。みんな、出て来ちゃったみたいだね…」
周りの林から、中央で闘っている俺たちを目指して、続々と武将たちが出てきた
「待ったれよ!その勝負、我らも参戦させてもらうぞ!夏侯惇殿!」
「弱ってる今が好機なのだー!お兄ちゃん、鈴々のご飯のため、覚悟するのだ!」
「すみません、ご主人様。一瞬で、楽にして差し上げますから、今少しご辛抱ください!」
星、張飛ちゃん、愛沙…
「あら、みんな出て来ちゃったんだ…!でも、残念。一刀の首は、私が貰うんだから!」
「ふむ。軍師で闘えるのは私くらいか…まぁ、無いよりマシだろう。腕がナマってなければいいけど」
雪蓮、周瑜さん…
「なんじゃ、冥琳。生きておったのか?」
「ほぅ…、見てみろ紫苑!蜀はまだまだ、骨のあるヤツが残って居るようだぞ?」
「ふふ…あら、当前よ。歴戦を勝ち抜いた五虎将ですもの、簡単に負けたりしないわ」
祭さん、桔梗、紫苑…
「ちぇ…、みんな、どこに行ったかと思えば、こんな近くに居たのか…」
「んにゃ?翠!蒲公英いないじょ?」
「多分、にぃ様に食べられたにゃ」
「にぃ様はケダモノにゃ」
「にぃ様、ぺろりにゃ」
馬超さん、美以、ミケ、トラ、シャム…
「おーっほほほ!北郷さん!この遊びは何ですの?予行演習にも成りませんわよ!早いとこ、お縄を頂戴なさいな!」
「うわぁー、よく見ると結構減ってるなー。よく、あたいら生き残れてたよな?」
「多分、麗羽様の悪運のおかげだよ…。私達、麗羽の後について行ってただけだし…」
袁紹、文醜、顔良か…
フラフラの俺の姿を見て、これ幸いと出てきたみたいだな
みんなの口振りからして、ターゲットは当然、俺なんだろうけど
それはきっと、目の前の彼女が許さないんじゃないのかな?
「貴様ら!何をしに来たー!こいつは私の獲物だぞ!?」
「待て、姉者!ここは皆と協力し、北郷を討つべきだ」
「し、しかし…こいつは弱っているし…私一人でも…」
「春蘭。一刀のあの表情を見ても、気付かない?」
「華琳様?」
追いついた華琳と秋蘭が今にも斬りかかりそうな春蘭を宥めると、静かに俺を指差す
「ふ、ふふ…よく集まってくれたね」
指を差された俺は苦笑すると、服の埃を落とし、ゆっくりと立ち上がる
「っ!?まさか…北郷、貴様!」
「そっ!演技です♪」
「「「っていうことは!?」」」
「そっ!罠です♪」
俺が微笑み、手を上げると林から鬼たちがゆっくりと中央に集まり始めた
「いやー、助かりましたよ。時間ギリギリでしたからね」
「正直、こんな簡単に引っ掛かるとは思ってなかったわねー。名演技よ、一刀♪」
「ふん。これから、先が思いやられるな」
「だよねー。華琳?家臣の手綱はしっかり持ってないとダメでしょ?」
「んーまぁ?演技を見抜けなかった、みんなにも落ち度はあるわよん!慎重に様子を伺えていれば、気付けたわけだのも?」
「そうですね。まぁ、こうなっては後の祭りでしょう。それでは、皆さん?」
「「「覚悟!」」」
「てわけだ…残念だったな!」
「か、一刀おおぉぉー…!!!」
武器を構え、鬼たちが駆け出す
周りの攻撃に合わせ、俺も内側から武器を振るった
中と外からによる挟撃に、三国連合は瞬く間に戦線を掻き乱され瓦解していく
「くーっ!やってくれたわね!一刀のバカ!バカ!バカぁー!」
可愛い華琳の叫びに、俺は苦笑すると周りの武将をなぎ倒し一人ずつ捕まえていく
あっという間に、数は減っていき、とうとう、残り一人となった
「ぷるぷる…!」
「はは…そんなに怯えないでよ…」
「お、怯えてなんかないわよ!」
「ふふ…愛弟子!覚悟はいいかなー?」
「きょ、橋玄様…見逃しては頂けませんか?」
「お師匠様は大変に、ご立腹なんだよ?今日の統率はなんて様なのかな?」
「面目ありません…私の力が足りず…」
「まぁ、今日は初めてだったしね。次は頑張ってね、華琳♪それじゃー…お仕置き、いこっか♪」
「え?」
にっこりと桜は微笑むと、指を鳴らす
「もう二度と失敗できないように、キッツイのいくから!貂蝉!やっちゃって♪」
「……え?…え?…」
「ぬふん!あつ~い包容と共に!曹操ちゃん、つーかまえーたー!!!」
「ぎっ!ぎにょああぁぁー…!!!」
少女の断末魔が部屋全体に響き渡る
ほどなく、少女は息絶え、静かに天に召された
「あらん?静かになったわね?」
ぐったりとなった華琳を抱きしめ、貂蝉が満足げに微笑む
うわぁ…なんかヒロインらしからぬ、色んな物が出ちゃってるよ…
「こ、これで全員捕まえたかな?」
「うん♪林に隠れてた軍師も、隠密の二人もバッチリだよ♪」
「というわけで、第一回!どき☆乙女だらけの鬼ごっこ、終了~!さぁ、戦績はこうなったわよ♪」
第一回!どき☆乙女だらけの鬼ごっこ
蜀、全滅(桃香は不参加)
呉、全滅(冥琳が以外に善戦を果たす)
魏、全滅(約一名精神崩壊)
その他勢、全滅(何があったか不明)
「ふぅ…予想通りとはいえ、あんまりな結果ですね?これは、計画を練り直さなくてはいけませんね。一刀様、午後はどうしましょう?」
「まぁ、最初はこんなもんさ。午後は予定通りで行こう。貂蝉、今日のデータを元に体力作りプログラムを組み直してといて」
「むふん!分かったわ!」
「……貂蝉。そろそろ、曹操を離してやったらどうだ?目を覚ます度に、声にならない声を挙げて、気絶してるぞ?」
「そうなの?曹操ちゃん?」
「(ぴく!…ぴくん!ぴくん!)」
虚ろな目で痙攣を始めた
もう、覇王の面影はないな…
「あはは…貂蝉、貰うよ」
「どぅふふ…やっぱり、愛する人に抱かれて最後は終えたいわよね。いいわよん♪」
俺の背に華琳を預けると、貂蝉は頬を染め微笑んだ
良かったな、華琳。これで、精神崩壊の無限ループは取り敢えず脱したぞ
「んじゃ、昼食にしようか」
「捕まったら飯抜きって話はどうする?」
「さすがに、ご飯抜きで稽古は可哀想だよ、一刀!」
「ふふ…分かってるよ。大丈夫、みんなには普通に昼食を振る舞ってあげて。ここでは、不摂生は許すつもりないよ」
「さっすがー!話が分かるね、一刀!そうと決まれば、ご飯行こう!すぐ行こう!」
「満腹にすると動けなくなるわよ?腹八分目にしときなさい」
「うん、分かってる。もう、あんな思いは嫌だし…」
桜は頷くと、俺に駆け寄りひしとしがみつく
どうやら、武道大会での一件で懲りたようだな
これで少しは、北郷さん家のエンゲル係数は下降することだろう
「いい子だ、桜。それじゃ、みんなのところに行こうか。昼飯だ」
「おー!」
腕を振り上げ、先頭を歩く桜に苦笑しながら俺たちは、首を長くして待っているだろう皆の元へ、ゆっくりと歩きだした




