我!魏と共に!
「「北郷」」
「兄ちゃん!起きて!」
「兄様!起きてください!」
「一刀~、いつまでも寝とらんと目覚ましや~」
「「「隊長!」」」
「お兄さ~ん。朝ですよ~」
「一刀殿ー。早く起きないと、悪戯しますよー。主に、風が…」
沢山の人から名前を呼ばれ、俺は目を覚ます
「んんー…ん?」
「一刀…起きなさい…。こんなところで寝ていては、風邪をひくわよ」
「ん?…華琳?…って、うおっ!?」
目をこすりながら起きると、椅子を囲うように魏のみんなが立っていた
「今から、皆でお風呂に行くのだけど。あなたも、来ない?」
「兄ちゃん!一緒に行こう!」
「兄様!お背中、流します!」
「へ?いや、ちょっと待って!」
季衣と流琉が手を握りしめ、混乱している俺を引っ張り起こす
「て言っても、答えなんか端から聞いてないわ。強制よ。春蘭、秋蘭!一刀を逃がさないように、縛り上げておきなさい」
「「御意!」」
「え?ちょっ!?待っ!?」
簀巻きにされ、布で口まで塞がれる
「凪、真桜、沙和。一刀の着替えと、風呂用具は?」
「ここに!」
ちょっ!?どこから、持ってきた!?
まさか、マイ・バック!?
ヤバ!?あの中には…
「因みに~こんなのも入ってたの~」
「隊長の秘蔵の艶本(十八禁本)やでー。『巨乳美少女白書』やて♪大将、どないしましょ?」
「きょ…。焼きなさい!!!」
「ムオオオォォ――!!?」
「ふん!桂花、風、稟?風呂場には、敵影はある?伏兵は?」
「ありません!いつでも、占拠出来ます」
シクシク…俺のお宝が…
ん?占拠って…?風呂場で何する気だよ?
「はい~。皆さんは、ぐっすりお休みなのですよ~。
「今日は色々あって疲れていたようです」
「そう、よかったわ。でも、そうね…霞!」
「分かっとる。もしも、空気読めんヤツが来たら、ウチの機動力で倒したらええんやな?」
いや、それダメだろ…
「ええ、お願い」
いいの!?
「任しとき!"迅速の張遼”の力、見せたるで♪」
「ふふ…期待しているわ。それじゃ、行くわよ!一刀を掲げて、いざ風呂場へ!全軍、前進!」
「「「応っ!」」」
ちょっ!?だ、誰か…助けてぇ―!!
こうして、ワケも分からないまま、俺は身内によって拉致られた
風呂場へ着くと、無抵抗の俺は脱衣所へ投げ込まれる
「秋蘭。これを表にかけて来て」
「これは…。なるほど」
華琳から木札を手渡された秋蘭は、まじまじと見つめると納得したように頷いた
木札には『準備中』の文字
「さて、念には念をいれるわ。もう一度、偵察よ!」
「「「御意」」」
華琳の号令で、皆が風呂場のありとあらゆる場所を調べ始める
一体、彼女たちは何をするつもりなんだ?
「敵影なし!」
「よし!みんな、突撃準備に取りかかりなさい!あ…一刀はコレを着けて、しばらく待つのよ。代わりに、声は返してあげる」
「ぷは…!って、開放された瞬間、目隠しですか!?」
簀巻きで転がされていた俺は、華琳に目隠しをされる
もう好き放題ですね、華琳さん!?
「隊長、すみません」
「まぁ、アレやで、隊長。音声のみでお楽しみください♪ちゅうヤツや」
「世知辛い世の中だな…。凪、真桜…」
「そうしないと、隊長、何かムラムラしてきた~!とか言って、襲ってきそうなの~」
「なの~じゃない!沙和、万年発情してるみたいに言わないの!!!」
「違わないでしょ!女とみれば、猿みたいに腰を振り出す万年発情期全身孕ませ白濁男!!!」
「桂花、もはや、それは人でも猿でもないだろ!」
「少なくとも、一刀は人じゃないでしょ?」
「か、華琳~…」
「ふふ…、冗談よ。一刀は大切な仲間であり、三国の平和の象徴よ。ここにいる皆も、ちゃんと分かっているわ。ね、桂花?」
「確かにこの男は、今や三国の平和には無くてはならない存在になりました。ですが…」
「そうね。だからといって、私たちを蔑ろにして良い、という言い訳にはならないわ。分かるわね?一刀?」
「ごめん…」
「私たちの身体を気遣ってくれたことは、嬉しく思うわ。でもね、念願叶ってやっと、会えた相手と繋がれないなんて、悲し過ぎるじゃない。確かに、言葉も大事よ。想いを伝えるには、最も早急で的確な行為だと思うわ。でもね、こう言っては元も子もないけど、言葉は所詮、言葉なのよ。間違いもあれば、嘘もあるの。分かる?不安なのよ、あたし達は。だから、心や言葉だけではなく、身体を欲するの」
「……」
華琳の言葉に、俺は言葉を失った。当然だ。彼女たちを傷付けまいと振舞った結果、不安を与え、親しいはずの俺を連れ去らなくてはならないほど、彼女たちを追い込んでしまったのだから…
「これだけ私が言っているのよ?まだ、迷うの?いいわ、一刀!言ってみなさい、私は誰!?」
「君は…誇り高き魏の…いや、違う…。…そうか。そうだったな。君は、誇り高き大陸の王!曹孟徳!」
「そうよ!私は大陸の王よ!大きくなったからってなによ!たったそれだけのことで、この、私が動じるものですか!私たちの器はそんなに小さくないのよ。それは、今まで一緒に過ごしてきた貴方が一番分かっていることでしょ!?」
「そうだな…。俺が間違ってたよ、華琳。本当、ごめん!華琳…みんな!」
俺は頷くと、上体を起こし正座すると深々と頭を下げた
「…ふう。分かってくれると信じていたわ。だからこそ、こうして…」
小さな手が、頬に添えられる。この手を俺は知っている。俺の最も愛する人、華琳の手だ
その手で、ゆっくりと目隠しが外される。開かれた世界に、俺は再び言葉を失った
「!?」
「皆で、貴方に…奉仕しようと思えたのよ…」
はにかんだ華琳を中心に、春蘭、秋蘭、季衣、流琉、凪、真桜、沙和、桂花、風、稟がタオル一枚を巻いた姿立っていたのだ
「……」
「……」
「……」
「…な、何か言いなさいよ、一刀」
「え!?ああ!ごめん!あまりにみんなが綺麗で何も言えなかった」
「「「き、きれ…!?」」」
「そ、そういうところは相変わらずね…貴方…」
「ま、まあ、一刀やし?なぁ?」
「うむ。しかし、逆にそれが安心するから不思議だ…」
「そ、そうか?どうせ、世辞だろう?」
「あはは…春蘭様。兄ちゃんは、お世辞とか言える人じゃありませんよ」
「だね。兄様は、本音しか言いませんから」
「ですね~。白状するなら、お兄さんを信じていない人なんて、誰一人いませんよ」
「ましてや、不安に思っている人など、一人もいません」
「つまり、あんたはまんまと私たちの策に嵌ったのよ、ニブチン変態鈍感男!」
「えーっと…つまり、華琳どういうこと?」
「つまりは、私たちを放って置いた、お仕置きよ。不安に思ったり、疑ったりしたことは無いにしても、その…分かるでしょ!?」
華琳は真っ赤になると、口を尖らせソッポを向いてしまった
「あ…なるほど!寂しかっ…ゴフッ!?」
「それ以上言ったら、な、殴るわよ!!?」
「も、もう殴っちゃってますよ、華琳様!」
「あはは!ええやん、華琳。ほんまのことやし。そうやで、一刀。華琳だけやない、ウチも皆も寂しゅうて、恋しゅうて、待ちくたびれたんや。せやから、こうして動いたちゅうわけや!分かったかー?色男」
「そうだんたんだ。ほんと、ごめんな」
「いえ、こちらこそすみません。正直、やり過ぎかとも思ったのですが…なにぶん、自分も…その…」
「そうなのー!凪ちゃん、ずっと待ってたのー!隊長が帰って来てから毎日のように、三つ指揃えて部屋の前で待ってたのー。警邏の時も、今か今か待ち構えて、悶々とした日々を過ごしてたのー!」
「さ、沙和!何を言って!?」
「それは、北郷隊の三羽烏全員に言えることでしょう?毎日のように、一刀殿の寝室の前に来ていると、侍女から聞いていますが」
「り、稟はん!?シー!!!それは、言わん約束やで!?」
「ちなみに、稟ちゃんもその一人ですけどね~」
「ふ、風!?それをいうなら!」
「はい~。風も、お兄さんの部屋に幾度と無く侵入しては、無人の部屋に涙した一人なのですよ~」
「…あんた、言ってて恥ずかしくないの?」
「いいえ~?本当のことですし~。桂花ちゃんこそ、今のうちに言っておくことは言っておいたほうが、後々のためですよ~。罪悪感に苛まれたお兄さんが進んで、部屋を訪れるようになるかもしれませんよ~?」
「そんなの、こっちから願い下げよ!」
「おやおや、素直じゃありませんね。では、恥ずかしがり屋の桂花殿に代わって、私が言うとしましょうか。侍女の話では…」
「稟!殺すわ!それ以上、言ったら殺すから!」
「ふふ…じゃあ、私が言うわ」
「か、華琳さま!?」
「あのね、一刀。侍女の話だと、桂花は貴方の部屋に行っては、誰も居ないと分かると、深いため息を吐いて帰って行ったそうよ。それが、週に二回はあったそうよ」
「そ、それは!北郷がまだ帰って来てない頃の話で…」
「そうね、一刀が帰ってきてからは、毎日、中庭に罠を仕掛けていたわね。まるで、構って欲しい子どものように」
「ち、違います!誰が、北郷なんかに構って欲しくてそんなことなんか!」
「あら?私はてっきり、私にお仕置きされたいがために、私用の罠を作っているのだと思っていたわ。まさか、一刀のための罠だったとはね…。ふふ…そうだったの…」
「え?あ、はい…。あれ?い、いえ!違います!あれは…!」
「これこれ、桂花ちゃん。落ち着いて~。間違いでも華琳様のための罠、なんて言っちゃダメですよ~。王へ危害を加えるための罠なんて、反逆者にしかなりませんから。華琳さまも、お戯れは程々に~」
「あ!うぐぅ…。か、華琳さまー…」
「ふふ…、ごめんなさい。あまりに、反応が可愛かったから、つい、ね。でも、これで一刀も分かったでしょ?」
「うん。やっと、桂花がデレた」
「デレてないわよ!!!」
「てのは冗談で。皆がどれだけ想ってくれてたか、よく分かったよ。みんな、ありがとう。本当、俺は世界一、幸せものだよ」
皆を見つめ返し、満面の笑顔で微笑んだ
「「「でしょう?」」」
「ふ、ふん!」
華琳を中心に皆が、はにかんだ笑顔で頷き返す
やっぱり、桂花はツンだったけど…
それも含め、本当に心が温かった
「ああ…まったくだ…」
俺はぽつりと呟くと、何度も頷く
「それじゃ、完全に心のシコリを取るために、幸せを肌で体感してもらうために、一刀には頑張ってもらおうかしら?」
「え?本当にするの?」
「当たり前よ。そのために、ここに居るんですもの」
「いやでもさ、ほら、魏は俺たちだけじゃないだろ?天和、地和、人和だって居るわけだし!不公平になるじゃないか!」
「あぁ、それなら、心配ないわ。だって」
華琳は脱衣所の入り口を見ると、小さく微笑んだ
この流れは…まさか!?
「あれー?もう始まっちゃたかなー?」
「うわ!?どうしたの、一刀!?なんで、簀巻きなわけ!?新しい趣味!?」
「ちぃ姉さん、違うわ。たぶん、一刀さんが逃げないように縛り上げられたのよ」
「なんだ、そういうこと。てっきり、変な趣味に目覚めちゃったのかと、思ったじゃない」
「むぅー!一刀、酷いよー。私を置いてけぼりにするなんてー」
「そうそう!ちぃのことを仲間外れにするなんて、許さないから!ちぃだって、一刀のこと大好きなんだよ!」
「私たちを危険から守るために、色々動いてくれたのは知ってる。でも、私たちは一刀さんと一緒に居たいから、無理を言って、左慈さん達に連れてきてもらったの」
「天和、地和、人和…」
「て、わけだからー。私たちも一刀と一緒にシュギョー?するねー。よろしく!一刀!」
「修行!?」
「うん♪」
「私たちは別に、武を求めるわけじゃないわ」
「ちぃたちは、アイドルだもん!ステージをもっと、駆け回りたい、もっと、この声を大陸の隅々まで届かせたいの。だから、一刀!ちぃたちを、もっと上のアイドルにして!」
「もっと上のアイドル…?歌唱力は誰よりもあるんだから、今更…あ、そうか」
「そう、もっと体力を付けたいの。喉だって鍛えようと思えば、鍛えられる」
「目標はー」
「「「天に届くほどのアイドルになる!」」」
張三姉妹は天を指差し、満面の笑顔で微笑んだ
「天に…か。ははは…、分かったよ!マネジャー、引き受けた!」
「これで、一刀の杞憂は無事解消ね!それじゃ…覚悟はいい?」
「っ!?デシタネー…」
「頑張ってね♪一刀!」
「ちょ、ちょっと待った!その前に、縄を外し…!」
「ダーメ♪…まずは、誰から行こうかしら?」
華琳が思案しながら周りを見渡す
「無論、華琳様が一番手ですよ。なぁ、姉者?」
「えぇ…そうですね。ここは、華琳様が行くべきでしょう」
「そうと決まれば、ウチらは風呂に行くでー!一刀!しっかり、華琳を"りいど"するんやで」
「え?あ、あぁ。分かった」
「ちょ!え!?あなたたちも一緒じゃないの!?」
「大将…野暮を言ったらあきまへんて。ウチらは、後でゆっくりと相手していただきますから」
「そうなのー。隊長が居なくなってから、一番多く、隊長の部屋を訪れた華琳様が、ここは独占するといいのー」
「さ、沙和!?」
「華琳様…。隊長が居なくなってから、一番悲しんだ人を、自分たちは知っています。誰にも見せないように、陰で泣いていたのも知っています」
「あ…」
「帰って来て、誰が一番喜んだかも知ってますよー。いつも、華琳様はお兄さんの側から離れようとしませんでしたしー」
「そ、それは…」
「ですから、華琳様…。華琳様が"一刀殿拉致の号令"をかけた時、皆で決めたのです。華琳様と一刀殿だけの時間を作る…と」
「私はそんな薄情鈍感無責任男に、華琳様を任せたくありませんでしたけど、華琳様の幸せを思うなら、それが一番でしたから…仕方なく、頷きました」
「そうだったの…」
華琳が見渡すと、皆は笑顔で深く頷いた
「ふぅ…分かったわ…。皆の言葉に甘えるとしましょう」
華琳が頷くと、皆は風呂道具を持って大浴場へと入っていく
「では、我らは風呂に突入だー!」
「春蘭様!走ると危ないですよ!」
「あはは!案ずるな、季衣!風呂場に罠などあるはず…!?ごふっ!?」
「うわっ!?春蘭なにしてんねん!?」
「大変だ!春蘭様が石鹸を踏んで、転倒を!」
「姉者…姉者ああぁぁー!!!」
何やら、大浴場で事件が発生したらしいが、大丈夫か?
「はぁ…。何やってるのよ、あの子たちは…」
「あ、あはは…大丈夫だろ?それより、華琳、移動しない?」
「え?移動?」
「脱衣場は流石に…ね?何だか落ち着かないし。雰囲気ないし。実は、俺専用の風呂があるんだ」
「一刀専用のお風呂?」
「うん。ここ、大浴場の隣に、二人くらいは入れる、風呂があるんだ。因みに完全、防音だよ」
「そう。いいわ、連れてって」
「の前に…コイツどうにかして…」
俺は動かない身体を、もぞもぞとさせると苦笑した
「あ、ごめんなさい。すぐ、解くわ」
「ありがとう…」
やっと解放された俺は大きく伸びをすると、華琳に向き直る
「それじゃ、行こうか…華琳…」
「ええ」
手を差し出すと、華琳は笑顔で手を取り頷いた




