夢パート:帰ってきた『ヤツ』
「か…くん…とくん…一刀くん!」
ゆさゆさと揺さぶられ、目を覚ます
「んん?…誰だ?」
「貴方の恋人、孫さんですよー♪」
このテンション…覚えがあるぞ?
悪い予感を感じ、寝返りをうつ
ここは、気づかぬふりが一番だ
「んー…起きないかー。仕方ない…」
ゴソゴソと背後で音がしたかと思えば、背中にほんのりと温かみが広がる
「だー!!!何してやがる!?」
「添い寝ですけれども?」
「野郎と添い寝して喜ぶ馬鹿がどこにいる!?」
「えぇ!?一刀くん、人間なら誰でも抱けるんじゃないの!?」
「性別大事!女性は人一倍大好きだけど、野郎を抱く趣味なんてない!」
「えぇ!?なんて、ことを!?今の発言を聞いたら、親御さんは何て思うか…よよよ…」
「いや、普通に安心すると思うよ?」
相変わらず、会話が噛み合わない人だった
忘れている人も多いだろうから、説明しておくとしよう
目の前で、泣いたふりをしている男は蓮の…孫堅の旦那さんにして、雪蓮、蓮華、小蓮のお父さん
今は、訳あって亡くなっている人物である
褐色の肌で、短い白髪
青い瞳からは優しい印象を受ける
前回は死衣装だったが、今日は普通に中華服だった
どうやら、素性を隠すつもりは、もうないらしい
「いやー。読み手に優しい解説。お見事ー」
拍手をしながら、にこやかに微笑む男性
「そういえば、前回はありがとうございました。お陰で力を手に入れらましたよ」
「いやいや~。一刀くんには蓮と娘たちを守って貰わなければならないからね~。ていうか、感謝するなら、私と代われ!」
「それは無理」
「ちぇー…まぁ、こっちでも私に楽しみは沢山あるんだけどねー…」
「楽しみ?」
「いやー、聞いてよ一刀くん!この前、太公望ちゃんと三途の川で釣りをしてたんだけどさ…水神様を釣り上げちゃって、大変だったんだよ!?」
「楽しんでますねー…。って…太公望ちゃん?太公望も女なんだ」
「ふっ…ここはHEAVEN!天国!ハーレムなのだよ、一刀くん。死後も楽しみは続くよ?」
死ぬのも悪くないねーっと、孫さんは笑う
ん?…待てよ?
蓮が死んだら…勿論…ここにくるんだよな?
そして、旦那さんがこんな風にハーレムを楽しんでいると知ったら…
ぶるぶる…!!?
「どったの?急に震えて…風邪?」
「いや…なんでも…」
今は触れないでおこう
「それより、今日はどうしたんですか?」
「あぁ、そうだった…実はね…」
孫さんが袖から丸い玉を取り出す
綺麗なオレンジ色の玉
中には星が四個入っていた
「こ、これは…?」
「ドラゴン玉の一つ…四神球だ!」
「ま、まさか!?」
「冗談だよ♪」
地面に叩きつけるとぼよーん!と跳ね返り、どこかに飛んでいってしまった
つまり、ただのスーパーポール…
「期待して損した!!!」
「…もしも、あれが本物なら…一刀くんは何を願ったんだろうね?」
「そんなの決まって…」
といって考え込む
最強の力?いや、もう、必要ないかな?
最強の頭脳?それは軍師に任せればいい
じゃあ…絶倫?
ふふふ…、今の俺なら三国も相手に出来る自信はあるよ
なら、手っ取り早く…反三国連盟を…
「反三国連盟を外史に飛ばしてしまう…とか?でも、いずれまた帰ってくるだろうね…」
「ですよね。じゃあ、ヤツらの力を抑えさせる」
「それよりも手っ取り早く…殺してもらう方が早くない?」
「……え?」
孫さんの言葉に思考が停止する
「だって、ヤツら、三国転覆を狙う重罪人だよ?そんなの死刑に決まってるじゃん!」
「いや、でも、敵にもほら…何か理由があるのかもしれないし」
「あっても、やっていることは変わりないよ?重罪は重罪さ」
「でも、敵は魏ですよ?」
「いや、敵は敵だよ」
「違う!敵は…魏には華琳が…」
「北郷一刀!」
「っ!?」
「それこそ違う。敵は姿形は君の大切な人と同じかもしれない…。それでもヤツらは、君の大切な人たちを、君を殺そうとしている存在…敵なんだよ」
「くっ…」
「惑わされるな…北郷一刀」
俺の肩を掴み、真剣な目で見つめてくる
そこにはもう、さっきまでのおどけた感じは一切なかった
これは…本気なんだ
孫さんは本気で敵の命を奪え、と言っているんだ
「それでも…俺は彼女たちを…」
殺したくなんかない…
そこまで、呟いたところで俯いてしまう
俺の考えが甘いのは分かる…
それでも…彼女たちを助けたいんだ…
「はぁー…強情だね。君も」
深いため息を吐くと、苦笑しながら肩から手を放した
「仕方ない…少しだけと、秘密を教えようかな…」
「秘密?」
「外史の発端である北郷一刀。彼が"あるもの"に触れたことにより、この外史は生まれた」
「それって…銅鏡?」
確か…前に左慈が話してくれた内容にそんなことがあったな
「そう。銅鏡だ。それ実は、太公望ちゃんの時代の物なんだ」
「へぇ…」
確か…太公望が居たのは中国の戦国時代の周だったな
そんな昔から、銅鏡が現代まで引き継がれていたなんて…
「お得意の仙術で、割れたり傷付かないように丹念に加工したみたいだね。で、その銅鏡について聞いたことがあったんだ。そしたら、なんと!あの銅鏡には驚くべき秘密があったんだよ!」
「ど、どんな秘密が!?」
「ぷぷぷ…まだ時じゃないから、言わないよー!曹操ちゃん的に言えば、まだ天命は降りてない。用は、フラグが立ってないからねー。さっさとフラグを立てやがれ、ってんだ!」
「はぁ!?」
「三国の者たちを抱いて抱いて!抱きまくれ!じゃないと、息子をデカくしてあげた意味がないじゃないか!!!」
何やらめっちゃ、怒りだした
「って!これ、あんたの仕業か!」
「当社比1.5倍にしてみましたー♪これで彼女たちをヒーヒー言わせるのだ!!!お薦めは、我が娘たち♪特に蓮華ちゃんは尽くしてくれると思うよー?」
「お、お薦めって、あんた、それでも親かよ!」
「うるせー!こちとら、娘の将来が不安なんだよ!あぁ…愛しの娘たち、ちゃんと子孫を残せるのでしょうか…。お父さん…死んでも死にきれませんよ…?」
うるうると瞳を揺らし、手を広げ天を仰ぐ
「こいつ…今更ながら思ったけど、ウザイ」
「そんなこという一刀くん嫌い!呪っちゃうぞ?毎日、夢枕に立っちゃうぞ?鏡を見たら、必ず後ろに立っちゃうぞ?チンジャオロースの肉、全部豚肉にしちゃうぞ!!?酢豚の肉、全部鶏肉にしちゃうぞ!!?」
「チンジャオロースに豚肉だと!?酢豚じゃなくて、酢鳥だと!?くっ!何てことを!?」
「ほれほれ、分かったら、お父さんごめんなさい、だ!」
「くっ!仕方ない……って!んなわけあるかー!?チンジャオロースがどうした!酢豚がどうした!そんなの、どうだっていいわー!」
「まぁ、私自身、食べられればどっちでもいいんだけどねー」
「ったく…」
「それより、一刀くん。忘れないでね?フラグだよ?バンバン、ヤルんだよ?そうすれば、きっといい未来に繋がるよ」
「いい未来?」
「うん!いい未来だ!薔薇色だ!勿論、"彼女たち"も…おっと…話はここまで…向こうで彼女たちが待ってるよ?アレもフラグも、バンバン、おっ起てろ!行け!性戦士!北郷一刀!」
「何もかも、下品!」
「うるさい!うるさい!うるさい!勇者の剣がちょーっと伝説級にデカくなったからって、相手を傷つけるかも~…とか眠いこと言ってる、お前が悪い!だから、わざわざ、デートの合間を縫って化けて、出てやったんじゃないか!有り難く思えよ!愚弟!」
「ぐ、愚弟って…」
「ふっ…私と一刀くんは同じ穴で繋がっているのさ…」
「格好付けながら、最低なこというなよ!!!」
「聞く耳持ちませーん!それじゃ、そろそろ、あちらの方も起こしにかかっているようなので、恒例のアレ逝くぜ!」
懐をゴソゴソ漁り…何やら引っ張り出した
あー、もう!この世界の人たちって、ツッコミどころ多すぎ!
「ま、まて、それは…?」
「パンパカパーン!太公望ちゃんに因んで、打神鞭を用意しましたー!」
「だ、打神鞭…因みに…どこのネット通販で…?」
「ふっ…本人からちょっと拝借してきたんだよ…」
黒い笑みを浮かべたあと、打神鞭をうっとりと見つめる
「ていうか、モノホンかよ!?」
「逝くぜ!…唸れ!」
「ちょ!?待っ!洒落になってないから!」
「打神鞭――!!!」
「待っ!待っっ!!ゴフッ!」
慌てる俺の頭に打神鞭が叩き付けられる
激しい衝撃を受け、俺は力無く地面倒れ込んだ
「ふっ…峰打ちじゃ…安心せい…」
薄れ行く意識の中、そんなふざけた言葉が聞こえる
「打神鞭に…峰とか…ないじゃん…ガク…」
無駄なツッコミを最後に、俺は意識を手放した…
「逝ったか…」
気持ちいい風の流れる草原
空は青…雲が流れる…
草原の真ん中で白髪の男性が青い瞳を細め微笑んだ
「蓮…雪蓮…蓮華…小蓮…一刀くんをしっかり支えるんだよ…そして、バンバンヤリまくれ…」
爽やかな笑顔で微笑んだ男性は打神鞭を懐にしまうと、静かに草原を後にした…




