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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
76/121

開かれた扉

『天』と書かれた扉の前に準備を終えた皆が立っている


「皆、揃ったかしら」


「うん、蜀は大丈夫だよ」


「呉も全員揃ったわ」


「魏も大丈夫ね…。じゃあ、一刀」


「あぁ。行こう、未来を手に入れるために」


一刀は頷き、扉の前に立つ


応えるように地鳴りを響き、扉が開かれた


扉の中から眩い光が漏れ、皆を照らしだす


「それじゃ、この先で待ってるよ」


一刀は光をもろともせず、扉の中へと入っていく


「蓮ちゃん!私たちも行こう!」


「そうね、空。殿、頼むわよ?」


その後を追うように、橋玄と孫堅が入っていった


「さぁ、皆さんも行きますよ?いつまでも怖じ気づいて、向こうに行けない人は私が叩き入れますよ♪更に叩き入れられた人は向こうにいる間、"チキン"と呼びますから」


櫨植が愛用の虎鉄ちゃんハンマーを振り回しながら、にこやかに微笑んだ


「「「ち、チキン…」」」


言葉の意味は分からなかったが、大変に不名誉な呼称であることは感じとれる

一刀の前で言われたら、どんな顔をされるか分かったもんじゃない


被りを振ると意を決したのか、我先にと扉の中に飛び込んで行った


「単純ですねー」


「全くだ」


誰も居なくなった扉の前を眺めながら、于吉と左慈が苦笑する


「空。これで全員か?」


「はい♪影の薄い私の弟子も入っていきましたから、大丈夫かと」


「影の薄い?」


「左慈…彼女の名誉のためです。そこは何も言わないでおきましょう」


「あ、あぁ…」


「それじゃあ、扉を閉めますよ?貂蝉、左慈、空さん、お先にどうぞ」


「ぬふふ…!楽しくなりそうだわん!三国の皆で修行なんて、今までの外史でも初めてのことだもの!」


「そうだな…。ん…?おい、貂蝉。勝負しないか?」


「勝負ですって?」


「あぁ…勝負だ」


不適に笑うと左慈は貂蝉を連れ立って中に入っていく


「やれやれ、口を開けば勝負勝負と…左慈もすっかり熱血少年なってしまいましたね。まったく…嬉しいやら、悲しいやら」


「良いじゃないですか。初めて会った頃より活き活きとして楽しそうでですし。于吉さんも、とても楽しそうですよ?」


口元に手を当てクスクスと笑いながら、櫨植も中に入っていった


「…えぇ、そうかもしれませんね」


苦笑しながら、最後に于吉が入っていく


最後の人間が入ったことで扉が閉じられていく。チラッと、閉じられていく扉の隙間から外を見れば、袁術と張勲が小さく手を振っていた


「いってらっしゃ~い」


「なのじゃ~」


二人の声が投げかけられた扉は完全に閉じられると、光の粒子となって消え去っていった




「ここは…」


扉の中に入った皆が見たものは不思議な部屋だった


真っ白い部屋、四方には扉が一つずつあり中に入った者たちに違和感を与えてくる


「無事、着いたかな。于吉、誰も置いてきてないよね?」


「えーっと…、公孫賛さんは居ますか?」

問われた于吉は周りを見渡しながら、彼の者の姿を探す


「な、なんだよ?」




「あぁ、大丈夫みたいです」


「そうか…」


一刀はホッと胸をなで下ろすと、華琳たちに向き直った


「ちょっ!?どういうことだよ!それ!」


「白蓮さん、そういうことです」


「うぅー…櫨植様ぁ…」


納得のいかない白蓮の肩に手を起きながら、師の櫨植がにこやかに微笑んだ


「それじゃ、全員揃ったところでこの場所の説明をするぞ?」


「ここは、談話室のような場所。言わば、居間とでも考えてください。今は何もありませんが…必要な物を言えば、簡単に手に入ります。例えば…『椅子と机』」


と于吉が言うと、椅子と机が現れる


「「「おおぉぉ!?」」」


于吉は椅子に腰掛けると、皆に手を向けてやってみるよう促した


「へぇ…面白いわね。私も『椅子と机』が欲しいわ」


習うように皆も口々に欲しい物を挙げていく

瞬く間に何もない部屋は教室へと早変わりした


「それでは、授業を始める。今日の先生は北郷校長だ。補佐を俺と于吉が行う。それでは校長先生、お願いします」


「なんだこれ…まぁ、いいか。皆さん、こんにちは」


教卓に手を付きながら、北郷校長が挨拶を始める


「「「こんにちはー」」」


皆も初めてのことにドキドキと胸を高鳴らせながら、口々に挨拶を交わした


「今日から皆さんは修行の日々を送ります。期間は一年。目標は打倒、反三国勢力。必ずや、彼の者たちを打ち倒してください。期待しています」


校長の言葉に皆が深く頷いてみせる


「それでは、担当の先生を紹介します」


校長は脇に立つ先生方を見た


「魏の担当、橋玄先生」


「宜しくお願いします」


名前を呼ばれ、桜がぺこりと頭を下げる


「得意分野は太刀と槍です。何でも聞いてね!」

「隣に居るのが呉の担当、孫堅先生」


「宜しくお願いするわ」


ニンマリ笑い、娘である雪蓮を見つめた


「ちぇ…チェンジ!」


「不可よ」


冷や汗だらだらの雪蓮が立ち上がり宣言するも、孫堅先生に一刀両断されてしまう


「はは…孫堅先生は呉独特の武にも詳しい。呉を教えるには適任なんだよ。雪蓮の気持ちも分かるけど、強くなるためだ。頑張ってくれよ」


「か、一刀ぉ…うぅー…分かった…」


事実を言われ、渋々ながら雪蓮が席に着く


「ふふ…信じなさい、必ず強くなるから。得意分野は大剣と弓よ」


「その隣、メイド服を着ているのが櫨植先生。蜀担当だ」


「皆さん、宜しくお願いね♪」


「わぁー!櫨植様だ!やったー!」


「ふふ…桃香さんは、ビシビシ行きますよ!因みに得意分野は槍と金鎚です♪」


「金鎚ですか?私も金鎚を使うんですよ!」


顔良が嬉しそうに、手を合わせる


「はい♪お任せください!最高のハンマー使いにしてみせます!」


「宜しくお願いします!」


「そして、俺の隣に居るのが左慈先生と于吉先生だ」


「「宜しく」」


「二人は先生方の援助をするよ」


「体術なら、俺に任せろ!」


「私は術全般ですが…ふふ…武では乗り切れないことも多いことを教えてあげましょう」


「「「ゾッ…!?」」」


于吉の笑いに部屋の温度が一気に下がる


「あー…行き過ぎた時は俺が止めるから、安心してくれ。そしてー、あそこで踊っているのがー…当学校のマスコットだ」


「「「嘘だ!!!」」」


「ひどいわね~。私ほどのマスコットキャラクターなんて、そうそういないわよん?見てご覧なさいこの愛らしさ!そして、この美貌!どぅふふ…もう、イチコロよん?」


「気持ちは分かる。だが、寝るな、姉者!寝たら最後、夢でまたアレに出会うだけだ!」


「ん゛~…やめろ…やめてくれ、秋蘭。私を耐え難い現実に引き戻すな…」


「月ー!!?また、ボクの眼鏡を隠したわね!?」


「詠ちゃん?世の中には知らなくていいことも多いんだよ~?」


「意味、分かんないわよ…」


「華琳…あれ、斬ってもいいわよね?」


「ダメよ。一刀が側に置いているのですもの、何か役に立つに決まっているわ。仮にもしも、もしもの話だけど…本気で何も役に立たないヤツを置いているのだとすれば…私は一刀を斬首にするわ」


結果、大混乱になった…


「お、恐ろしいことを言うなよ。貂蝉のマスコットキャラクターを止めさせたいなら、『勝って』マスコットキャラクターの座から引きずり下ろせばいいだけだろ?」


「よし、貂蝉!今すぐ、殺るわよ!」


華琳が死神鎌を構えて立ち上がる

そんなに、耐えられないのか…


「どぅふふ…私とヤリ合おうなんて百億ねん早いわよん?愛紗ちゃんにも勝てていないのでしょ?」


「ぐっ…」


「聞き捨てならんな、貂蝉…。それではまるで、私はお前に勝てないと言っているようかだが?」


愛紗が殺気を剥き出しにして、立ち上がる


「愛紗…。貂蝉は…強い…」


「恋!?」


隣に座っていた恋が、いきり立つ愛紗の肩に手を置き首を振る


「愛紗も…強いけど…貂蝉はまだ強い…多分…恋より強い…」


「「「な、なに!!?」」」


「どぅふふ…当たり前よん!ご主人様の修行をしたのは誰だと思っているの?」


自慢げに胸を張る貂蝉

その威風堂々とした姿に誰も口出し出来なかった


「今の俺がいるのは、確かに貂蝉のお陰だ。体力作りに関して、貂蝉の右に出る者はいない。その基盤がなければ、今の俺の武はなかったと言っても過言ではないよ」


「つまり、基盤が完成していないあなた達では私は倒せないのよん。マスコットキャラクター戦に名乗り出る権利すらないの!!!」


「「「くっ!!!」」」


「そういうことなら仕方ないわね…。必ず強くなって、あなたを引きずり下ろしてあげるわ!」


華琳は鼻を鳴らし、椅子にどっかりと腰を下ろす

どうやら、目標が変わったらしい


「さすが、我が愛弟子♪負けん気は私譲りだね~♪」

そんな華琳の姿を見て、桜は嬉しそうに笑った


「必ず勝ちます。勝って見せます」


「うんうん、楽しみにしてるよ♪」


「それじゃ、マスコットは貂蝉で決定。不満なら、倒せ!以上」


校長の言葉に皆、深く強く頷いた


「いつでも、挑戦は受付るわよん?貂蝉だけに♪どぅふふ…」


「「「イラ…」」」


皆に殺意が芽生えた瞬間だった


「まぁまぁ。頑張って引きずり下ろしてくれよ。それじゃ、軍師の先生を紹介するね?先生はこちら」


と言って一刀は箱を取り出した


「「「?」」」


当然、意味が分からず首を捻る


「あんた…ついに、頭がおかしくなったんじゃない?」


「ははは…桂花さん、廊下に立ってなさい」


「ちょっ!何なのよ!?」


「軍師に先生を付けるなんて不可能なんだよ。ここにいる皆は、すでに同じことを学び、修めているから軍師してるわけだし」


「そうだな。北郷の言うとおり、基礎が出来ていない軍師などいない。今更、基礎を教える先生が居ても意味はない、というわけだ」


周瑜が頷き、各国の軍師たちを眺める


「そう。ここにいる軍師は名高い者たちばかり。先生をつけるとするなら、目の前にいる君たち自身だよ」


一刀は微笑みを浮かべ、目の前の軍師一人ひとりに頷いてみせる


「確かに、あの大戦を生き抜いた経験は何ものにも代え難い師ですね。ですが、それですと…」


「私たちは今のままで構わないということになるんですか?」


孔明ちゃんと凰統ちゃんが小首を傾げる

本当に愛らしいなぁ…


「そんなわけないわよ!それじゃあ、私たちは一年間、無駄に過ごすことになるのよ!?ちょっと、あんた!まさか、女が多い方がいいからとかいう理由で連れてきたんじゃないでしょうね!?」


「桂花…孔明ちゃんと凰統ちゃんの愛らしさを学ぶべきだよ、本当…」


「愛らしさ…やっぱり、色恋が目的なのね!?この変態!」


「違うっつーの!今のままでも通用はしなくもないけど、まだまだ経験が足らないんだよ。相手はどうやってか知らないけど、外史を渡ってきた存在だ。あの武も様々なヤツと闘ってきた結果だとすれば、場数もかなり踏んでると考えられる。それは、武将だけじゃなく、同じ軍にいた軍師にも言えることなんだよ」


「経験が力になるという前提で話をするなら、私たちが経験したのは、微々たるものということですかー」


「そうなんだ。分かってくれて嬉しいよ、陸遜さん!」


「つまりー?私たちも経験が必要ということですよねー?でも、どうやって?」


「それが、これなんだよ」


と、大きな箱を叩く


「先ほどから気になっていましたがその中には…まさか、天の国の兵法の書が!?」

興奮気味の陸遜さんが箱を凝視する

気がつけば、三国の軍師たちも興味津々な様子で眺めていた


「それもある。天の国の軍略家たちの考えが記された書や逸話が盛り沢山の書物が」


「北郷…なんて物を…」


ずり落ちる眼鏡を直しながら、周瑜さんが渋い顔で俺を見つめる


「え?何かまずかった?」


「いや…強くなるためだ。仕方ない…」


深くため息を吐くと、ズーンと机に突っ伏してしまった


「?…悪いけど、今、手元にある兵法書は少ないんだ。後日、また増えてゆくから許してくれ」


俺は首を捻りると、一人ひとりに本を手渡していく


「天の国の書、ね…一刀!私も読みたいのだけれども」


「華琳も?えぇーっと何かあったかな…?」


箱から一冊一冊取り出しながら、表紙を眺める

ふと、一冊で手が止まった


「…今、背中に隠した本、それがいいわ。見せなさい。一刀」


ニコニコと手を差し出す華琳

しかし、これは見せてもいい物だろうか…


「い、いや…こっちにしよう!天下を統一した男の話しだ、色々と勉強に…」


「一刀?私はその後ろに隠した本が見たい、と言ったのよ?」


「…はい」


泣く泣く、後手に持っていた本を手渡した


「オダ…ノブナガ?これは、人の名前?」


「「「信長!?」」」


華琳の言葉に江戸娘たちが反応する

そうか、三人は江戸時代に居たんだから、名くらい聞いたことあるよな


「へぇ…中は漢文なのね」


「あ、あぁ…訳されたヤツをあっちから持ってきたんだ」


「そうなの…っ!?」


表紙を捲って、華琳は手を止めた


「ど、どうした?」


「な…」


「「「な?」」」


「鳴かぬなら…」


「「「ビク!?」」」


「殺してしまえ、時鳥?」


俺は思った…会わせてはいけない人物たちを会わせてしまったんだと

曹孟徳と織田信長…考え方が似ている二人

二人が出会ってしまえば、自然と惹かれ合い、強化され、そしてきっと最後にはこんなこと言い出すんだ


『なるほど!これは、いい考え方ね!これからは言うこと聞かないヤツはみーんな、斬首よ!一刀…嫌なら、私の言うこと聞きなさい!』


……あれ?あんまり違和感ない?


「へぇ…でも、この考えは私には合わないわね」


「「「えっ?」」」


妄想に首を捻っていた俺は、当の本人の言葉によって現実に引き戻された

どうやら、妄想してたのは俺だけじゃないようだけど


「なんで、皆してを首傾げるのよ」


「だってなぁ?」


「失礼ね!私はそんなにポンポン首をハネたりしないわよ!」


「「「え?」」」


「だからなんでそこで首を傾げるのよ!」


「それはほれ、日頃の行いじゃろ」


黄蓋…いや、祭さん…言いにくいことをそんなさらりと言わないで…


「だから、してないって言ってるでしょ!?あんまり言うなら、王への侮辱と捉えて…」


「どうすると言うんじゃ?」


「そんなの、首をハネるに……あっ…」


自分の失態に気付いた華琳は顔を真っ赤に染めて、静かに席に着くと顔を覆い隠して俯いてしまった


「はおー…華琳…可愛いなぁ…」


愛弟子の反応を見て、頬に手を当てた橋玄先生が深いため息を吐く

華琳のS性は、どうやら桜から来ているようだった


「一刀…私はいいから、続けて頂戴…」


突っ伏したまま手をヒラヒラと振る華琳に苦笑しすると、話を再開する


「天の兵法を勉強した後は色々なゲームをしてもらうつもりだ。于吉に協力してもらってね」


「私の仙術で、屍にしてやろうかー!!!」


「ビクッ!?はわわ…!?」


「ビクッ!?あわわ…!?」


「やめい!」


小動物のように身を寄せ合い、びくびくと震える孔明ちゃんと凰統ちゃんをイジメて楽しむ于吉にハリセンをぶちかます


「なかなか、痛いですね?」


「ったく、こっちも暴走したら止めるから安心してね。みんな」


未だ震える小さな軍師さんたちの頭を撫でながら、安心させるために微笑んで見せる

「わあぁーっ!」


「「ビクッ!?ビクビク…」」


俺の横から顔を出した于吉が二人を脅かす


「やめろというに!」


二人の様子を見て楽しむ于吉の顔面に、俺は再びハリセンをぶちかました


「…愛を感じますね…ガク…」


どこかの変態みたいなことほざいて、于吉は気を失った…


「朱里ちゃん!」


「うん!ご主人様×于吉さんだね!雛里ちゃん!」


「えーっと…前から言っている通り、それはないから」


「では、ご主人様×左慈さんならいいと…」


「はわわ…雛里ちゃん!?それはどっちが攻めかな!?受けかな!?」


「勿論、ご主人様攻めで!」


「ほ、ほほほ北郷…冗談はよせ…」


「左慈。なぜ、一歩下がる?まさか、本気に…」


引きつった笑いを浮かべる左慈を捕まえようと手を伸ばす


「さ、触らないでください!」


きゃ、キャラクターが…

そこまで、追い詰められていらっしゃる!?


「ま、待て!誤解だ!」


「い、いやだー!」


俺の手を持ち前の運動神経で避けると、一つの扉の中に飛び込んでしまった


「逃げましたね…外史に…」


目を覚ました于吉が、左慈の消えた扉を見つめながらポツリと呟いた


「そこまで怯えて!?」


「一刀くんの攻めは激しそうですからね…バージョンアップしてからは特に…」


「「「ごくり…激しい…?」」」


何故か、皆の視線が俺に注がる


「ま、待てって…それは…」


「ねぇ?華琳?」


「…何よ?」


突っ伏している華琳に雪蓮が耳打ちする

ていうか…まだ、突っ伏してたんだ


「一刀…激しいの?」


「知らないわよ…」


華琳は顔を上げ、俺を見ると眉を寄せる


「えー?なんで?あなたたち、想いも身体も通じ合った仲なんじゃないの?」


「一刀が帰って来てから、その…まだ…ないのよ…」


「「「え…?」」」


華琳の言葉に魏の皆が目を丸めた


「華琳様…それは、本当ですか!?」


「え…?えぇ。私はまだ、一刀とはないわよ?」

恐る恐るといった感じで春蘭が華琳に問うと、華琳は不思議そうに首を捻った


「そんな!?おい、北郷!貴様、どういうことだ!?我らの閨に来ないのは華琳様の閨に入り浸って居るからではなかったのか?」


「え?まさか、あなたたちも帰って来てからの一刀とシテいないの!?」


華琳の言葉に、魏の皆が深く強く頷いた


「…一刀?…どういうことかしら?」


震えた声の華琳が、強い視線で俺を見上げる

これは…怒りに燃えている時の目ですねー…

まずい!まずい!まずいぞ!

ここはなんとか誤魔化すしか…


「…さて!今日は色々あって疲れただろ!?疲れたよね?疲れているはずだ!じゃあ、みんな、お風呂に入ってくるといい!ここの風呂はデカいらしいぞー?ご飯や風呂といった扉はあの扉だから!それじゃあ、今日は…」


「帰さないわよ?」


「あはは…!それってアレ?"解散"と"帰さん"をかけてるのかな?いやー、面白い!さすが、華琳様!」


「ニコー…」


「あらー…素敵な笑顔ですねー…(ガクガクガク…)」


っ…なんだ、このプレッシャーは!?

膝の笑いが止まらないぞ!?

もしや、この子は三回の変身を終えていたのか!?

というか、曹操にそんな裏設定があったなんて聞いてないぞ!?


「そんな設定ないわよ」


「デスヨネー…」


「それより、一刀…。説明してくれないかしら?三年前なら、一日で全員とデキるくらいの性欲の塊の貴方が何故、今になって誰ともシテないのかしら?」


「いや、一日で全員とか…無理…グッ!?苦し…首…締まって…る…から!」


俺の襟を締め上げ、華琳が問い質してくる


「毎日、とっかえひっかえヤリまくっていた貴方が何故、今になって、誰ともシテないのかしら?」


「華琳しゃ…ん…首…首ー…」


「なんで…なんで…誰も抱いてないのよ…。家臣たちが相手ならばと諦めていた私の気持ち、分かってるの!?私がどれだけ貴方を待っていたか、分かってるの!?それを…それを貴方は…貴方は!!!」


堕ちそうになる意識の中、華琳の顔をみると、その目尻には涙が浮かんでいた


「華琳…理由は私から話すよ…」


「橋玄様…」

襟を締め上げていた華琳の手に、そっと自身の手を重ねると桜は頷いて見せた


「ごほ!ごほ…ケホ!」


「一刀はね…しなかったんじゃない。デキなかったんだよ…」


「デキなかった?」


「あっちで修行して一刀はある一線を超えた瞬間、莫大な力を手に入れた…。でも、それと引き換えに…」


「まさか…性欲が!?」


魏のみんなが、驚きの表情で俺を見る


「うんん?性欲は無事だよ?」


「「「ほっ…」」」


「た、ただね…?」


そこで、桜が頬を染めて俯いてしまう


「ただ…?」

「…ちゃったの」


「「「え?」」」


「っ…大きくなっちゃったの!」


桜が俺の息子を指差しながら、キャー!っと騒ぎだした


「お…大きくなっちゃったって…一刀!!!橋玄様まで、抱いたの!?」


「華琳…反応するとこ、そこじゃないよー…」


照れたように笑うと、桜が頬をポリポリと掻く


「はっ!ということは…私と橋玄様が…棒姉妹ならぬ、棒師弟?ふ…ふふふ…よくやったわ!一刀!」


「華琳ちゃーん!?」


ビシ!と親指を立てる華琳に、桜が叫びを上げる

見事にロングポニーテールが逆立ったな今…


「で?一刀…先生は良かった?凄かった?」


「え?な、なんで…?」


「だって…先生よ?私の師よ?しかも、あの身長であの胸!不思議よね…」


「か、華琳…あなた、私をどういう目で見てたのよ…」


桜の豊かな胸を指差し、華琳が熱弁する

対する桜は、思わず地がでるほど同様していた

そうか…華琳の口調は桜譲りなんだな…

なんて、場違いなことを考えていると桜が俺の後ろに回り込んでしまった


「さ、桜?」


「一刀…あの子…まさか…」


「逃げようたって…もう、手遅れですよ?橋玄様は一刀の物になってしまったんですから」


「そ、それはどういう意味かしら…?」


「一刀は私の物です」


「っ!?や、やっぱり…」


ぷるぷると震え、華琳を見つめる桜…

そこに…師弟関係など…存在していなかった


「一刀の物は…私の物です!さぁ、橋玄様!私と閨に行きましょう!」


「行くわけないでしょ!?私にそっちの気はないのよ!」


逃げ出す桜!しかし…数歩走ったところで派手にすっころんだ


「だ、大丈夫か?桜…」


「いたた…私としたことが…それより何?何か足に絡み…ついた…よう…な…」


足を見た桜の顔から一気に血の気が引いていく

そこにはロープが巻きついていた


「こ、これは…悪夢の…再臨か!?」


俺は思わず、尻餅をついてしまう

そう、これは…あの時と同じ光景…

俺と蓮と左慈のトラウマでもある、あの展開だ…


「ま、まさか…そんな…くっ!取れない!」


必死にロープからの脱出を試みる桜

それを嘲笑うかのようにロープがゆっくりと引かれる

そう、絶望への誘い人によって


「ふふふ…」


「っ!?」


「これは…私が幼い頃、悪さをして逃げ出す度に受けた技。そう。橋玄様お得意の捕縛術です」


「なぜ、あなたがこの技を!?」


「何度も受けていれば、覚えますよ…ただ、今までは使う機会がなかっただけです」


「くっ!隠してたわね!」


「そんな…嫌ですね。使う機会がなかっただけですよ」


ニコニコと微笑みながら、ロープを手繰り寄せる華琳


「い、いやー!!一刀!かじゅとー!助けて!助けてよ!」

「ふっ…無理…」


だって、凄いこっちを睨んでますもん


「くーっ!蓮ちゃん!た、助け…」


「ひ!?ガタガタ…!」


「そ、そんな…」


トラウマスイッチの入った蓮を見て、桜が遠いあの日を思い出す

一刀に手を出そうとした蓮に同じ技を使い、オシオキした

まさか、それが後に自分の運命を左右しようとは


「天命…か…」


ズルズルと引きずられながら、諦めたようにそう呟くと一つの扉に飲み込まれていった


「「「ごくり…」」」


皆が固唾を飲んで二人の消えた扉を見守る

耳を澄ますと中から二人の声が聞こえてきた


『ほら、先生…逃げないで』


『や!止めなさい!師に対して…そんな…んん!?』


『っちゅ…ずっと…先生とこう…したかった…』


『っちゅ…か、華琳…』



「おっと…これ以上は本人たちの尊厳のために自重してくれ!」


皆の背を押して扉から離れさせる


「それじゃ、皆は二人を待つ間に、風呂に入ってしまおう」


皆は気まずそうに頷くと、三国の閨とは反対の扉の中に入っていった

それを見送った男性軍は、深いため息をついて、居間で待機することにした


「少し休憩しましょうか、一刀くん」


「あぁ…そうしよう」


于吉が手を叩くと机と椅子が消える


「リクライニングソファー。あと…テーブル」


変わりに出てきたソファーに腰掛け、ゆったりと寛ぐ


「ふぅー…」


「御主人様、飲み物とお菓子があるわよ?」


「ありがとう…貂蝉…」


珈琲を飲みながら、チョコレートに手を伸ばす


「でもさ、ここって本当に何でもあるよな…」


「"起点の北郷一刀"の計らいですよ…日用大工を好んだ彼は、老いてからもこの"子供部屋"を改築工事していました。三国の将が入っても余裕のある巨大風呂。大衆食堂に、武道館。そして見渡す限り何もない平地。もしかすると…彼は見越していたのかも知れませんね。彼女たちがここに訪れる日が来ることを」


「…凄いな。俺にはとても無理だ」


「ふふ…今の貴方なら出来ますよ…」


「そうかな?」

「今の貴方は…起点の北郷一刀と能力は変わりません。…まぁ、軍略や政は王をしていた分、彼の方が上ですがね」


「ははは…そこは、三国の皆に任せるよ。なんたって…」


「物語の主人公は彼女たちだから…ですか?」


「ん?よくわかったね」


「あの人の口癖でしたから」


紅茶を飲むとクスリと微笑み、于吉は立ち上がる


「さて、世話のかかる兄弟を連れ戻して来るとしましょうか。貂蝉、手伝ってください」


「えぇ…分かったわ」


二人は微笑むと、外史の扉へと飛び込んでいった


「じゃあ…俺は少し休むか…。ふあぁー…眠い…」


色々あって今日は疲れた…

少し休んで、皆の帰りを待つと…しよう…か…な…


俺はゆっくり目を瞑り、深い眠りへと落ちていった

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