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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
75/121

旅立ちの理由

「はぁ…ふぅ…それでは、会議を再開するわよ…」


まだ、ほんのり赤い顔の華琳が静かに周りを見渡す


「はは…」


「っ!…ぷい!」


一瞬、目が合ったので手を振ると、華琳は真っ赤になりそっぽを向いてしまった


「おやおや…フラれたようじゃな」


「はは…そうみたいだね」


かけられた声に振り返ると、黄蓋さんが隣に腰を下ろしたところだった


「さっきは、馳走になった。大変に美味い菓子じゃったぞ」


「はは…お粗末様でした」


「先の大会といい、此度の菓子といい、お主には驚かされる」


「まだまだだよ」


俺は首を振り、目を閉じる


「ほう…まだ、上を目指すのか」


「華琳が言ってたんだ。曹孟徳に終わりはないって」


「言うのう…あの小娘は…」


「でも、そのとおりだと思う。限界を決めるのは、自分自身なんだ。諦めなければ、自分の枠はいくらでも超えて行けるよ。きっと…」


「…そうじゃの」


黄蓋さんは微笑むと、深く頷き自分の手を見つめる


「黄蓋さんも同じだよ」


「…あぁ、そのとおり。今の儂は年甲斐もなく日々、限界に挑んでおるわ」


カラカラと笑った黄蓋さんは、弓を引く真似をする


「今の限界は矢を握ることじゃ」


「怪我の影響?」


「うむ。大戦の折り、受けた矢の影響がの。手が痺れて適わん。じゃが、少しずつ回復はしておるよ、安心せい」

「確か、戦場近くにいた名医に救われたんだよね」


「おう。最近になって、やっと病室を出られるようになっての…曹操の気遣いで、大会にも登録はされていたのじゃが…負けた姿を見せるのは…のう?」


「正しい判断だよ」


彼女の傷は名誉の証だ

大会で負ければ、それが地に落ちる

言い訳に成り下がってしまうのだ


だから、棄権した黄蓋さんの判断は正しい


「じゃがな…儂は…今、後悔しておるよ」


「…?」


「お主と闘えなかったことが口惜しい」


「俺?」


「うむ。お主の武を見て、疼いたのじゃ…儂のここが」


「こ、黄蓋さん!?」


俺の手を取り、黄蓋さんは自身の胸に当てる


「ふふ…残念だが、胸ではない。疼かされたのは儂の心。武人の心じゃ。お主の武には、見るものを惹き付けてやまぬ力がある。怪我で諦めていた戦線復帰を後押ししたのじゃ。感謝しておるよ、小僧。いや、北郷一刀殿…。ありがとう」


「いや、そんな…」


「何も言うな、儂が勝手に感謝しておるだけ。じゃから、その印も勝手に渡すだけ。わかるの?」


黄蓋さんは真っ直ぐこちらを見つめ、笑顔で微笑む


「姓は黄、名は蓋、字は公覆。真名を祭という。宜しく頼むぞ、小僧」


「…うん。宜しくお願いします、祭さん!」


「うむ!」

俺は頷き、祭さんと固く握手を交わした


「あら、先を越されちゃったわね」


「全く、呉の武鋒中郎将殿は油断も隙もありませんな」


「別に、抜け駆けしたのではないぞ?機会があったから渡しただけじゃ。そんなに言うなら、お主らも渡せば良かろう」


祭さんは二人に譲るように移動すると、俺の後ろに腰を下ろす

背中に僅かな重みと暖かさが広がった

祭さんが俺の背に、もたれ掛かったようだ


それを見て苦笑しながら、黄忠さんと厳顔さんが横に腰を下ろした


「おやおや、お館様を取られて御機嫌斜めのようですな、祭殿」


「ふん…」


「ふふ…。姓は黄、名は忠、字は漢升。真名は紫苑と申します」


「姓は厳、名は顔。真名は桔梗と申す」


「あはは…ありがとう、二人とも。これから宜しくね」


笑顔で手を差し出すと、二人も握り返してくれた


「そういえば、ご主人様は弓を使われるのですか?」


「弓か…。俺が使うのは…いや、やめおこう」


俺は苦笑すると、首を振る

あれは…弓とは言えないよ


「なんじゃ?気になるの?」


「はは…いつか見せるよ」


出来れば封印しておきたいけど…


「ふむ。楽しみにしておくとしましょう」


「何を楽しみにしておくの?」


桔梗さんが頷くと、その後ろから孫家の末女、孫尚香ちゃんがひょっこり顔を出す


「おぉ、尚香殿。なに、小僧の腕前をな」


「腕前?…あぁ、弓の?」


俺の顔を見つめた尚香ちゃんは納得したように頷くと、桔梗さんの横をすり抜けて俺の前までやってきた


「尚香ちゃん?」


「一刀、シャオのことは小蓮シャオレン、シャオって呼んでいいよ」


胡座をかいた俺の膝上に座りながらそんなことを呟く


「え?いいの?」


「うん、いいよ!」


俺の腕を取り、自分を包むようにお腹に乗せると、満足そうに一息吐いた

もう完全に、抱っこ状態


「ふふ…まるで親子みたいね」


「違うわよ!私は一刀の妃になるの!」


「えぇ!?妃!?」


紫苑の言葉に、シャオは顔を真っ赤にして反発する

誰より驚いたのは当の本人である俺だった


「シャオは一刀のこと大好きだよ?一刀はシャオのこと嫌い?」


「え?あ…えぇ?」


「おやおや、妬けますな」


「き、桔梗さーん…」


「ふふ…でも、シャオちゃん。この三国には好敵手が多いわよ?」


「大丈夫だもん。一刀…シャオを選んでくれるよね?」


首に手を回し、顔を近付けてくる


「え、えぇ?…」


「ね…?一刀…」


「え?あー…えぇーっと…」


シャオの攻めにしどろもどろになってしまう

相手は、まだ幼さも残る少女だぞ!

いや、一刀、見てみろ。

少女はあの蓮の娘であり、雪蓮と蓮華の妹だ

ほ~ら、その色香は半端ないぞ!


「あのー…そのー…」


「何を負けそうになってるのよ!ばか!」


「か、華琳!?って…いだだ…!」


突如、現れた華琳に耳を引っ張られる

千切れる!千切れちゃうよ!


「あなた、私の夫でしょう!?」


「も、勿論ですとも!」


指輪を見せながら、華琳が頬を膨らませる


「だったら、言う台詞は決まっているでしょう!?」


「お、おぅ!」


俺は頷くと、シャオに向き直る


「シャオ、結婚、してもいいぞ」


「「「え!?」」」


「ま、当然よね!私は孫家の姫なんだから!」


戸惑いながらも、胸を張るシャオ…


「でも、今のままじゃ…無理かな」


俺は首を振ると立ち上がる


「皆にも言っておくよ。今、夢がある者、願いがある者、守りたいものがある者」


そこで言葉を止め、じっくりとこちらを見つめる人々を見つめ返す


「諦めろ…。君たちには、それを守りきる力はない!」


「「「っ!?」」」


「今の俺なら、楽に君たちの命を刈り取れるよ」


「う、自惚れるなよ!貴様!」


「へぇ、否定するんだ…面白いね。じゃ、俺を倒して見せてよ…魏延さん」


「っ!…上等だ!はああぁぁ…!!!」



魏延が走り殴り掛かってくる

俺は小さく笑うと、無言で受け入れた


「また、一刀ったら…悪い癖を…」


華琳は眉間に皺を寄せると、静かに見つめてくる

黙って見守ることに決めたようだ

ありがとう、華琳…


「はっ!やっ!おらー!」


嵐の如き暴力。俺は目を瞑り、ただ耐え続けた


「はぁ、はぁ、はぁ…」


「ふっ…」


俺は微笑むと、静かに魏延さんの肩に手を置くと耳元に口を近付ける


「終わりかい…?」


「な!?」


小さく呟いた俺を、驚愕の表情で魏延さんが見上げる


「じゃ…お返しだ。俺の感じた痛みの十倍で返してあげる」


「くっ!?」


拳を振り上げると、魏延さんは目を瞑り、身構えた


「てい」


「た!?」


俺はニンマリ微笑むと魏延さんの鼻先にデコピンをかます

キョトンとした顔で魏延さんが見上げてくる


「全然、効かなかったよ。魏延さん」


「くっ…はぁ…やっぱりか…」


「気付いてた?」


「あぁ、始めの一発目からな」


魏延さんは首を振ると、手を見せる

拳が赤くなっていた


「まるで、大地を殴っている気分だったぞ」


「悪い、腫れちゃったね」


「大丈夫だ、明日には治る。それより、お館…私はやはり…」


「うん。このままだと間違いなく、開戦と共に倒れるだろうね」


「そうか」


「これから、修行すれば大丈夫だよ」


「え?」


「修行だよ。三国合同で修行。華琳たちから聞いてない?」


「…?」首を傾げる魏延さんの様子を見て、華琳に振り返る


「まだ、話してないわよ。私たちも、詳しい話は聞いてなかったから」


「そうか。じゃあ、詳しい話は俺たちがするよ」


その言葉に応えるように、左慈と于吉が音もなく隣りに立つ


「少なくとも、敵は俺に似た絡繰りをタイマンで倒せるくらいの実力はあるはずだ。奴らを倒すつもりなら、こちらもタイマンで絡繰りを倒せるくらいになって貰うしかない」


「「「えぇ!?」」」


「おいおい、何を驚いてるんだよ」


俺の言葉に皆は顔を見合わせる

まぁ、皆が驚く気持ちは分かるよ?

三国の武将が全員で挑んだにもかかわらず、停止まで追い込めなかったあの絡繰りをタイマンで破壊出来るようにならなくてはいけないと言ってるんだからさ

でも…三国の未来のため、やって貰わなくちゃね


「アイツらには出来たんだ。なら、魏の武将は皆、出来るはずだろ?なら…大戦を生き抜いた君たちなら必ず出来るはずだ」


「あんたが強いのは分かったわよ。でも、あんたがそれだけの力を得るのに何年掛かったの!?私たちに残された時間は、半年しかないのよ!?分かってるの!?」


「うん、桂花の言いたいことは分かるよ。勿論、そのための助っ人も用意してある」


俺は頷くと、隣に立つ于吉と左慈を見る


「北郷が今の形に至るまでには紆余曲折があり、六年掛かっている」


「内一年は、天の世界の都の統治に力を注いだ為、さほど力の開花は見られませんでした」


「実質、修行を行ったのは五年。武、知、術、の三つの才の開花と強化を行った」


「ですが、注意が必要です。皆さんがやるのは武将は武のみ、軍師は知のみですので、実質は五年を三等分します」


「約一年半強だ。だが、ここで忘れてはいけないのは、北郷が全くの素人から始めたことだ。皆はある程度、能力が確立されている。現に、大戦を生き延びた猛者なんだからな」


「ですから、それらを考慮して割り出された期間は八ヶ月弱です」


「た、足りないじゃない!さっきも言ったように、私たちには…」


「まぁ、落ち着けよ。ネコミミ」


「ネコミミ、言うな!」


「そのために、外史の監視者である私たちが居るんですよ」


左慈と于吉は小さく微笑むと、小気味よい音を響かせて手を叩いた

突如、二人の間に『天』と書かれた扉が現れる


「この扉の向こう側は、こちらの時間とズレが生じています」


「「「?」」」


于吉の言葉に皆、首を傾げた

まぁ、当然の反応だよな


「見て貰った方が早い。桂花、孔明ちゃん、周瑜さん。中に入ってよ」


「い、嫌よ!」


顔を引きつらせながら、桂花が後退る


「華琳のためになるよ」


「よし、いくわ!」


変わり身早いなー…

ていうか、その背負っている大きなリュックサックはどこから出したんだよ


「それと、はい、孔明ちゃん」


「砂時計ですか?」


孔明ちゃんと凰統ちゃんの手の上に砂時計を乗せる

二人が小首を傾げて見上げてきた

そんな可愛らしい姿が微笑ましくて二人の頭を撫でる


「同じ時間の砂時計だよ」


「なるほど、中に入って時間を確かめるんですね!」


「そう。孔明ちゃんは砂時計が全て落ちたら、出ておいで」


「はい!」


「じゃあ、行っておいで。左慈、丁重にな」


「分かっている」


左慈の案内で、孔明と周瑜、桂花が開け放たれた扉の前に立つ


「雛里ちゃん!いくよ!」


「うん。いいよ!朱里ちゃん!」


「「せーの!」」


二人が声を合わせ、砂時計をひっくり返した


「さぁ、いくぞ!」


左慈に促され、三人は扉の中へ飛び込んだ


「行ってらっしゃい…雛里ちゃん…」


轟音と共に閉じられていく扉を、三国の皆は静かに見つめていた


砂時計を握りしめ、凰統ちゃんが閉じられた砂時計を見つめる


「大丈夫だよ」


「ご主人様?…はい!」


「さて、今のうちに皆にも説明しておこうか」


凰統ちゃんを安心させるため、ゆっくり頭を撫でながら周りを見渡す


「今、四人が入ったのは、ちょっと変わった部屋でね。ここの時間の二倍の時間が流れている」


「二倍なのだ?」

「うん。例えば、扉の向こうで一日を過ごしても、こちらでは半日しか経っていないんだ」


首を傾げる張飛ちゃんを呼び寄せ、地面に絵を書いたりして、懇切丁寧に教える


「ふーん…よくわからないのだ!」


笑顔で言って除けた!

くっ、手強い!

しかし、これならどうだ!


「つまり、あの中で修行すれば、強くなれるってことだ!」


「おぉ!強くなれるのだ!」


「なれるんだ!」


二人でおーっ!っと、拳を天に突き上げる

張飛ちゃんの後ろで愛紗がペコペコと頭を下げていた


「ははは…愛紗。張飛ちゃんは素直でいい子だ。きっと、伸びるぞ」


「そうでしょうか?」


「あぁ、強くなる」


馬超さんと盛り上がる張飛ちゃんを見つめながら、強く頷く


「ご、ご主人様…私は…」


「はは…勿論だよ。愛紗も強くなる。だって…ん?あ、そろそろ帰ってくるな」


隣りに立つ凰統ちゃんの持つ砂時計を見た俺は、扉に目を向ける


「え…でも…」


「うん。分かってる」


皆も、話しを止め扉に目を向けた


予想どおり轟音と共に扉が開かれ、中から三人が現れる


「朱里ちゃん!」


「ただいま、雛里ちゃん!」


二人は駆け寄り、手を合わせてくるくる回る


「おかえり、孔明ちゃん。早速だけど二人とも砂時計を貰えるかな」


「「はい!ご主人様」」


二人から砂時計を受け取ると、皆の前で見比べる


孔明ちゃんの砂時計は完全に砂が落ちてしまっていたが、凰統ちゃんから受け取った砂時計は半分程残った砂を、未だ落とし続けていた


「このように、向こうとこちらでは時間の差があるんです。ここで修行すれば、期限まで余裕で間に合いますよ」


于吉は砂時計を手に取ると、懐にしまいこむ


「というわけで、全員、あちらの世界に行ってもらうよ。修行も普通にやっていては意味がないから、魏、呉、蜀、軍師それぞれに担当をつける。悪いけど、これらに関しては三国の王の意思は無視させてもらう」


「な、何ですって!?あろうことか、華琳様の意思を」


「桂花!いいのよ。今の状況を考えれば当然のことだわ」


「そうね。今は王とか将とか言っている場合じゃないわ」


「うん。みんなで協力して、敵を倒すための力を手に入れないと!」


「分かってくれて嬉しいよ」


「一刀。これより、三国の意思はあなたに委ねる。皆もいいわね?一刀には、王以上の権限があると思いなさい。そして、一刀!あなたもそれを理解した上で、発言、行動すること。分かった?」


「あぁ。分かった。三国に勝利をもたらす。そのためだけに、権限を行使することを誓うよ。もしも、暴君と成り果てたら…橋玄、廬植、孫堅、左慈、于吉、貂蝉…頼む」


「うん…」


「お任せください」


「誓うわ」


「仕方ない」


「分かりました」


「ええ…監視者としての責務は果たすわ」


五人をしっかりと見つめ、互いにその意思と覚悟を確認する

三国を導く者として、俺は今、それだけの大きな責任を背負おうとしているのだ

栄光か、破滅か

俺の手に託されたものは計り知れない


「まぁ、明らかに間違っていたら、私たちが警告くらいはするわよ」


「華琳…」


「でも、その必要はないと思っているわ。期待しているわよ、一刀」


自信満々に言い切る彼女に俺は感嘆する。やはり、華琳には適わない


「あぁ、任せてくれ」


笑顔で頷き、みんなを見渡す

必ず、皆を導いてみせよう

栄光への道へ


「そうと決まれば早速、行動に移るわよ!一刀!必要な物は?」


「あっちは、食住は完備されてるよ。衣類だけ、持って来てくれば大丈夫」


「みんな聞いたわね?準備を始めてちょうだい」


「それと、個人的に持って行きたい物があったら持ってきて。娯楽もありだよ。一年という長期間だからね。我慢をして士気をを落とすようなことは避けたい」


皆は頷くと、それぞれも準備に取り掛かった


「ふむ、そうね。私も本くらいは持っていこうかしら」


読み残しがあるのだろうか、指折り数えながら華琳は楽しそうに、ほくそ笑む


「そうしてもらった方が助かるよ。それと…雪蓮、星、祭さん、桔梗、紫苑。それは置いて行ってもらおうか」


「「「ギクッ!?」」」


不自然に並んで立っている五人を指差し、苦笑する


「な、何のことか、我らには分かりかねますなー?なぁ、紫苑?」


「せ、星ちゃん!?…お、おほほ…私にも何のことか…ねぇ、桔梗?」


「わ、私か!?こ、ここは…そう!祭殿!任せました!」


「うむ…北郷…頼む、見逃してくれ…これがないと儂、頑張れんのじゃもん」


「…駄目」


手を合わせ、可愛らしくおねだりする黄蓋殿を一刀両断

俺は首を振ると、北郷隊を呼びつける


「あれ、倉庫に返しておいて」


「御意!」


「「「あぁ…酒が…」」」


俺に見られているため手出しができない五人は、兵により運ばれていく酒樽たちを涙目で見つめていた


「ひ、ひどいわよ!一刀!祭が無理して、可愛い子ぶってお願いしたのに!女のプライドまで、ぶち壊して頑張ったのよ!?」


「さ、策殿?そ、それはどういう…」


雪蓮の言葉に、祭さんが複雑な表情を浮かべて立ち尽くす


「祭殿はどうでもいい!そんなことより、お館様!我らの楽しみを奪って、どうされるおつもりですかな?」


「どうでもよいものか…儂だって…儂だって…ぐすん…」


終いには、膝を抱えて沈んでしまった

まぁ、紫苑が慰めてくれてるから大丈夫だよな?


「ははは…!奪ったんじゃないよ。言っただろ?あっちの食住は充実してるんだ。お酒もたんまりとあるんだよ。だから、必要ないの」


「「「なんと!?」」」


三人は驚愕すると、互いに顔を見合わせる

祭さん、帰っておいで…


「そういうわけだから、他にも酒を持っていこうとする人が居たら止めてね?無駄な出費になるから。お酒も民の血税から出ていることを、努々忘れないこと。それが、分からない人に振る舞う酒はないよ。いい?」


「「「応っ!」」」


三人はビシッ!と姿勢を正すとコクコクと頷いた


祭さん…


「お兄さーん!」


「一刀殿!」


「ん?」


未だ膝を抱えている祭さんを見つめていると、魏の三軍師が近付いてくる


「お兄さんにお聞きしたいことが、あったのですよ」


「武将を鍛える方法は分かるのですが、我ら、軍師を鍛える方法については如何なさるおつもりですか?」


「見たとこ、あんたの連れて来た人間に軍師はいないみたいじゃない?先生方から習ったことは、私たちが経験していたことと変わりないんじゃない?」


「ちゃんと、先生は用意してあるよ。安心してくれ。俺が知る中で最高の先生さ。きっと、みんなも納得するよ」


俺は傍らに立つ風の頭を撫でながら、微笑む


「まだ、隠してることがあるっていうの?まさか、また女じゃないでしょうね?誰彼構わず、手を出しまくって、本当に変態ね。死ねばいいのに!」


「違うよ」

俺は久々の桂花の悪口に、苦笑する

そういえば、桂花とこうして話すのは久々だな


「違うの!?じゃあ、男?もう!そこまでの変態に成り上がったの!?」


「もっと、違う!」


「いやああぁぁ!!!寄るな!喋るな!視界に入るな!この、全身白濁孕ませ男!!!」


「……お前、何しに来たんだよ?」


「はぁ、バカじゃない?あんたにちゃんと考えがあるのか、確認しに来たのよ?」


「じゃあ、喋らず、寄らず、視界に入らず会話する方法を教えてくださいよ…」


「死ねばいいのよ!」


「絶対、会話出来ませんよね!?…ん?」


「…どうしたのよ?」


二人でギャーギャー騒いでいると背中を叩かれる感触


「ご、御主人様。すみません、お話中に」


「よ!アニキ!」


振り返ると、袁紹さん家の家臣たちが立っていた


向かって右、幸薄そうで大人しそうな少女が袁紹軍の巨大ハンマー使い、顔良さん


向かって左、元気の塊、無鉄砲、向こう見ずを体現したよな少女が袁紹軍のバスターブレード使い、文醜さん


こうして、二人と話すのは初めてかな

桃香から袁紹軍は今、蜀の傘下に入っていることは聞いていた

ってことは…一応、今は味方でいいのか?


「お兄さん、風たちも準備に向かいます。また、後でー」


「あぁ、ごめんね」


風たちを見送り、ゆっくりと二人に振り返る


「お待たせ。二人とも、どうしたの?」


「なぁ、アニキ。あたいたちも行っていいんだよな?」


「行っていいって、あっちに?」


「あ、あの。ご迷惑でなければ私たちも連れ行って頂けませんか?」


「んー…」


俺は腕を組むと頭を悩ませる

この二人を連れて行くとなると…


「おーっほっほっほー!」


当然、コレも着いて来るんだよな?


「れ、麗羽様!?なんで来ちゃったんですか!?」


「何でも何も、二人の帰りが遅いからに決まってますわ!」


「遅いって…麗羽様に言われてここまで来るのに、一刻も経ってませんけど…」


「そんな細かいこと気にしてたらハゲますわよ、猪々子さん。そんなことより、あなた!わざわざ、ワタクシが!遠路遥々、この私が!出向いてあげたんですのよ?うん!っと、いつもやっているように、さっさと答えたらいいですわ」


「れ、麗羽様!」


「…はぁ。相変わらずね、麗羽」


「華琳?」


「あら、誰かと思えば、どこぞの華琳さんじゃありませんの…相変わらず、お化けのように現れますわね」


お化け…確かに、言い得て妙だ…

なんて思っていると、華琳にわき腹を小突かれた

思いっきり、ジト目だ


「失礼ね。私はちゃんと生きているわよ。最近は、生きた心地もしないけれど」

と、俺を見上げて深いため息を吐く

それは、あちらの曹操さんに言ってくれ…


「それより、袁紹さん」


「何ですの?」


「袁紹さんは何で向こうに行きたいの?」

「そんなの、面白そうだからに決まってますわ!」


「はぁ…却下ね。話にならないわ。一刀、行きましょう。時間が勿体ないわ」


「「れ、麗羽様一!」」


「まぁ、待った。袁紹さん、あっちに向かう目的は分かってる?」


「そんなの、みんなでどんちゃん騒ぎをするために決まっているでしょう?ねぇ?猪々子さん?」


「なぁ、斗詩。あたい、そんなこと言ったっけ?」


「さ、さぁ、言ってなかったと思うよ?」


「あら?違うんですの?」


「どんちゃん騒ぎね…ふむ。いや…合ってるよ?」


「か、一刀!?」


「アニキ!?」


「ご、御主人様!?」


「ほら、やっぱり!私を置いてけぼりにして、皆さんだけ楽しい思いをしようなんて、天が許しても私が許しませんわよ!」


「あぁ、悪かった。迎えのための遣いをやったのだけど、それより先にそちらの耳に入ってしまったようだ。入れ違いになってしまったようだね、すまない。でも流石、袁本初。情報網は伊達じゃないね」


「と、当然ですわ!情報は戦の要。この、袁本初を侮って貰っては困りますわ!(まぁ、本当は女官たちの噂話を立ち聞きしただけですけど…)…でも、そうでしたの。私も招待するつもりだったと、歓迎すると、そう仰るのね?」


「あぁ。是非、来てくれ。袁紹さん」


手を握りしめ、深く頷く


「っ!?ま、まぁ…そこまで、仰るのなら無碍には断れませんわね。いいでしょう。この、袁本初、此度の祭りに参加致しますわ!斗詩さん、猪々子さん。あなた達も分かっていますわね?」


「「…はい」」


「そうだ。言い忘れてたけど、主催者は俺、北郷一刀。で、今回の祭りは趣向を変えてね。団体で分かれて、敵の絡繰り兵を何体倒せるかを競うものなんだ。優勝者には金一封と栄誉の盾が贈られるよ。頑張ってね」


「金一封と栄誉が…まさに!まさに!この袁本初に相応しいものですわね!そうと決まれば、準備に入りますわよ!二人とも!優勝して、袁家の名を再び大陸全土に広めてみせますわ!おーっほほほ!」


「ま、待ってくださいよ!麗羽様!あたい、まだ、アニキに聞きたいことがー!」


「ちょっと二人とも!?ご、御主人様、ありがとうございます!必ず、お役に立てるよう、頑張りますから!それでは、失礼します!」


「はい。また、あとでね」


華麗に優雅に前進していく袁紹さんたちに手を振りながら、俺はニコニコと微笑む

その隣で、華琳が苦笑していた


「全く…悪知恵が働くわね」


「さぁ?何のことやら」


俺は素知らぬ顔で踵を返すと、次のグループに向かう

魏軍、呉軍、蜀軍はやる気満々だ

加えて、先の袁紹軍もエンジンはかかった

あとは…南蛮軍と…公孫賛さん…

そして…超問題児と超問題軍師か…


「…うん。孟獲のとこに行こう」


「美以たちも参加させる気なの?」


「南蛮軍は数が多い。おまけに、象使いもいるとくれば、実に頼もしいと思わない?」


「そうね。戦力は多いに越したことがないもの。でも、あの子たちは…」


「そう。強さや金一封、栄誉やらには興味はないだろうね」


「それじゃあ、どうするつもりなの?」


「簡単さ」


俺は小さく微笑むと華琳の手を取り、孟獲の元に向かった

いつもは姿の見えない孟獲も、今日はみんなが集まっているせいかすんなり見つかる

孟獲は木箱の上で誰かに貰ったであろう(そうであってほしい)林檎をかじりながら孟獲は鼻歌を歌っていた


「やぁ、孟獲」


「おぉ!にぃ!曹操!」


「久しぶりだね」


「うむ!蜀での祭り以来にゃ。元気にしてたにゃ?」


「あぁ。このとおり、ぴんぴんしてるよ」


「それは良かったにゃ。あの時は、見るからに死にそうな顔していたから、遊びに誘えなくて残念だったにゃ」


「心配かけたね。ありがとう。孟獲は気遣いができて優しい子だね」


感謝を込めて頭を撫でると、気持ち良さそうに孟獲は目を細めた


む!?この猫耳、本物か!


ピクピクと動く耳を見つめながら驚愕していると、孟獲が顔を上げて見つめてくる


「別に、美以の頭を撫でに来たわけじゃにゃかろう?」


「うん。君にお願いがあって来たんだ」


「…す、少しだけだじょ?」


かじりかけの林檎を差し出しながら、孟獲が口を尖らせた


「ははは…違うよ。俺と友達になって欲しいんだ」


「なんにゃ、そんなことにゃ。いいじょー。美以が友達になってやるにゃ!」


ホッと胸を撫で下ろすと、シャクリと林檎をかじり立ち上がる


「ありがとう、孟獲」


「美以でいいにゃ」


「いいの?」


「いいにゃ!ほれ、友の証だじょ!」

半分ほどの林檎を差し出してくる

…食えと?


「あ、ありがとう…あ、そうだ!えーっと…んー、あ、あった。これを上げるよ」


「にゃ!?さ、魚にゃ!?凄いにゃ!凄いにゃ!美味しそうにゃ!」


「ど、どこに入れてたのよ…」


懐を探り、中から魚の干物を取り出すと美以に手渡す

華琳、呆れ顔…

いやね?猫の餌付け用にって、風に貰ったヤツがあったわけだよ

まぁ、決して口には出さないけど


「でね?美以、これは友達からのお願いなんだけど、俺の大切な人たちが大変な目に合うかも知れないんだ。力を貸してくれないか?」


「それは、あれにゃ?絡繰りとかいう、無礼者のことにゃ?」


早速、干物に被りつきながら美以は微妙な顔をする


「あぁ、そのとおりだ。アイツらを倒したい。頼む、南蛮の力を貸してくれ」


「任せるにゃ!アイツらには、美以のご飯を滅茶苦茶にされた恨みがあるのにゃ!この借りは、いつか返してやろうと思っていたにゃ!」


「やっつけるにゃー!」


「ご飯の恨みは恐ろしいのにゃー!」


「眠りを邪魔された恨みも恐ろしいのにゃー…!」


干物を握りしめ、目に闘志の色を浮かべながら美以は叫ぶ

それに伴い、家臣のミケ、トラ、シャムも立ち上がり叫んだ

絡繰りには南蛮もご立腹のようだった


「でも、奴らは強いよ?」


「うむむ…それが悩みなのにゃ…」


「ねぇ、美以」


「なんにゃ?曹操」


「一刀が強さは知ってるわよね?」


「にゃ!そうにゃ!にぃ、美以を強くするにゃ!尻尾を踏まれた犬っころのように、アイツらにギャフンと言わせてやるにゃ!」


「ははは…分かったよ。頑張ろう、美以」


「はむ!もぐもぐ…!うむ!頑張るにゃ!」


手を差し出すと、口に干物を放り込み俺の手を握り返してくる


「それじゃ、服を準備しておいで。ご飯はたんまり用意してあるから、安心してね」


「ご飯たんまりにゃ!?」


「あぁ。楽しみにしてるといい」


「分かったにゃ!行くじょ!ミケ、トラ、シャム」


「「「応にゃー!」」」


ドタバタと土埃を上げながら、南蛮軍が進行していった


「南蛮はこれで一安心ね。次は…あぁ、ちょうどいいところに居たわね」


「そうだね」


二人が目線を移せば、何やらそこには沈んだ様子の公孫賛さんが座っていた


「なんだ、北郷か…私は今、沈んでるんだ。話ならあとにしてくれ…」

「どうしたの?みんな、準備始めてるよ?」


「私が言ったところで、足手まといになるだけなんだよ。三国の宴にも武道大会にも出ていたのに、全く出番なしの私に何ができるというんだ」


「できることならあるよ」


「でも、私には目立った力なんて…」


「力なんて関係ない。大切なのは君が仲間だってことだよ」


「北郷…」


「正直な話をすれば、公孫賛さんの存在はありがたいんだ」


「え?」


「公孫賛さんは昔、一国一城の主だっただろ?」


「でも、麗羽に攻め落とされた…」


「弱肉強食の乱世の時代だ、仕方ないよ。大切なのは、一国一城の主をやっていた経験さ。君のように武、知、徳を備えた人はいない」


「で、でも能力は普通で…」


「なら、その力を底上げすればいい」


「…で、できるのか?」


公孫賛が目を丸め、見上げてくる


「楽な道じゃないよ。でも、きっとできる。決して、諦めなければ、ね?」


「諦めなければ、か。そうだな!頑張ってみるよ、北郷!」


「あぁ、協力するよ、公孫賛さん」


俺は頷くと手を差し出す


「白蓮だ。呼び捨てで呼んでくれ」


「分かった。頑張ろうね、白蓮」


「あぁ。よーし!そうと決まれば、準備するぞー!」


握手を交わすと、白蓮は手を振り上げ歩きだした


「ふふ…これで、白蓮は大丈夫ね」


「あぁ。きっと、大丈夫だ」


元気に立ち直った背中を見つめながら、俺たちは小さく微笑んだ


「それじゃ、最後は…」


「えぇ。一番、厄介な二人組みね」


「ていうか、姿が見えないんだけど?」


「はぁ…。置いて行きましょう」


「いや、それは困る。あの二人には大切な役目があるからね」


「役目?」


「あぁ」


俺は頷くと、周りを見渡す

…いるな


「ふふふ…隠れても無駄だぜ」


「えっ?突然、どうしたのよ?」


首を傾げる華琳を脇に置いて、俺は懐を探る


「えーっと…あ、あった、あった」


出て来たのは、長い釣り竿だった


「どこに入れてたのよ!?」


「主人公には生き抜くために色々なスキルがあるんだよ。っと…餌はー…あった」


一刀特製、ハチミツドリンクEX!!!


彼の者が大好きなハチミツ水に秘伝の薬草と香料を加え、ハチミツの香りを数百倍まで高めた恐怖の飲み物である


効果は、お肌に張りと潤いを与え、傷を癒やし、スタミナをも全回復してしまう!

といいなー…って思う


「うわ…なんて甘ったるい香り…」


「これが、効果抜群なんだよ。そぉーれ!」


「何に対して…」


茂みを見渡し、気配のある付近に餌を投げ入れる

隣では何をしているか分からず、華琳が更に首を傾げた


茂みに意識を集中すると、気配が伝わってくる


「(ん…?何やら、甘い香りが…)」


「(み、美羽様!それ、触っちゃいけませんよ!)」


「(と言われると、触りたくなるのが人間なのじゃー!)」


「(きゃー!その後先考えない無鉄砲なところ素敵ですー!美羽様ー!よ!憎いね!このお先真っ暗無計画君主!)」


「うはは…!ほーれ!捕まえたのじゃ!七乃、もーっと誉めてたもー!」


はい…大変、よくできましたーっと!


「フィ――ッシュ!!!」


「な、なんじゃとー!!?」


「あぁ…。やっぱり、罠でしたか…」


反応を感じた瞬間、一気に竿を引き上げた!

糸の心配?不要だね。なんたって、葉々と同じ特製ワイヤーだからな!


「召し捕ったど――!!!」


「捕られたのじゃー…」


ぷらーんとぶら下がる少女を掲げ、高らかと宣った


「美羽…あなた、なにやってるのよ」


「曹操…主様は恐ろしい男じゃのー…」


「こんな見え透いた罠に引っ掛かる美羽様が、一番恐ろしいですよー」

袁術が釣れた茂みを掻き分け、袁術の側近にして軍師の張勲が現れた


「うはは…!そんなに誉めても何も出んのじゃ!」


「誉めてないわよね?」


「いえ?誉めてますよ?」


「ま、まぁ。誉めてるって言ってるなら、誉めてるんじゃない?それより、二人にお願いがあるんだよ」


「むむ?主様がお願いとな?」


「まさか、一刀さん…私たちを雌奴隷にするつもりじゃ…」


「一刀。ちょっと、話があるわ。あっちで話しましょうか?大丈夫。すぐに終わるわよ。すぐに、ね…」


「違う!絶対、違うから!華琳も本気にしないで!」


「…冗談よ」


武器を後ろ手に隠しながら、華琳が微笑む

本気だ…本気でやる気だったよ、この人


「雌奴隷じゃないとすれば、なんですか?」


「今、三国の状況は分かっているだろ?」


「そうですねー。新たな敵の発生で混乱しているというところでしょうか」


「そう。王や将ではなく、三国の民の中で不安が広がっているんだ。そこで、二人にこの混乱を沈める手伝いをしてほしい」


「話はだいたい聞いていました。軍師は強化とやらで出払ってしまうから、面倒事は手の空いている私たちに任せてしまおう!ってことですよね?厄介な種馬さんですねー、全く…。まぁ、武器を取って戦えと言われなかっただけマシですが」

「うむ。妾たちに武の才はないからの」


「お漏らしも治っていない、お子様ですし♪」


「な、七乃!それは、言わぬ約束じゃろう!?」


「あら、美羽。まだ治ってないの?」


「ななな、何を言うておる!おねしょなら、妾はとうの昔に治っておるわ!」


「美羽様ったら、もう、お忘れですか?今朝も見事な三国の地図を作ったじゃないですかー」


「七乃ー!?」

「あら、そうなの?見てみたいわね」


「治ったのじゃ!今朝を最後に治ったのじゃ!明日の朝はきっと」


「見事な大陸の地図を御披露目できると思います♪」


「七乃ー!!?」


「そう。ふふ…楽しみにしておくわね」


「しないのじゃー!!!」


「大陸地図はさて置き、返事を聞きたいんだけど」


地団駄を踏む袁術の頭を撫でながら、二人に問いかける


「仕方ありませんね。三国が傾けば、私たちの安全も危ぶまれますし」


「頼むよ。張勲」


「別に頼まれる筋合いはありません。全てはお嬢様のためですから♪」


「ははは…!分かりやすくていいね。よく分からない正義感を振りかざす人間より、幾分か信頼出来るよ」

「分かりませんよー?国家転覆を狙って、逆に民を煽るかもしれません」


張勲が悪巧みをする子悪党のように黒い笑みを浮かべる

しかしそんな素振りを見ても、俺の心に疑心が生まれることはなかった

それを証明するように、袁術を見つめ微笑みかける


「袁術ちゃん。乱世で雪蓮たちに敗北した後、野党となった君たちは三国に保護されたけど、今、何か不便や不満はあるかな?」


「妾かえ?むー…。確かに、保護されてからというもの不便なことも多いが、野党の頃より目立った不満はないのじゃ」


「そうか。良かった…」


「何より、主様!聞いてたも!妾には友ができたのじゃ!」



袁術は目を輝かせて、俺を見上げた

確かにその瞳は喜びに満ちている


「ふふ…そう、友ができたのね…」


華琳は目を細め小さく微笑むと、自分のことのように喜んだ


そうか…華琳も…


「…美羽。玉座に就いていた頃と比べてどうかしら」


「あの頃も良かったぞよ?玉座に座って周りに指示を出せば、皆が妾に平伏し、何でも聞いてくれたのじゃから」


袁術は自慢げに胸を張るも、何故か先ほどのような笑顔は見せなかった

袁術…もしかして、君も…


「しかしの、誰も妾と喧嘩をする者はいなかったのじゃ。本気で妾を怒ってくれる者も、本気で妾と笑ってくれる者がいなかったのじゃ」


「…そうね」


華琳は昔の自分を思い出したのだろう。下を向いて、小さく頷いた

決して軽くない、王だけが知る悲しい一面。それを華琳と袁術は共感したのだ


「それも…昔の話なのじゃ!今は本気で笑ってくれる者も、本気で怒ってくれる者も、本気で喧嘩をしてくれる者がおる。そうじゃろ?」


「えぇ、そうね!」


華琳は強く頷き、俺を見上げながら手を強く握り締める

彼女の瞳が…強く…それは俺だと伝えてくれていた


「じゃからの…妾は全力で協力するのじゃ!大切な友が、大切な想いを胸に戦うのならば、妾は支えるのが妾の役目であろう!袁家ではなく、友として!」


「ふふ…よく言ったわ!袁術」


「お嬢様が仰るのなら仕方ありません。国家転覆は諦めましょうか」


苦笑しながら、それでも主君の成長に喜びを感じているかのように張勲が頷く


「ありがとう。袁術、張勲」


「任せるのじゃ、主様!」


「お嬢様の『幸せ』のためですから。それでは、お嬢様。私たちも準備を始めましょうか」


「うむ!見事、役目を果たしてみせるぞよ!」


手を高く掲げる袁術を引き連れながら、張勲が踵を返して歩き出した


「あ、そうじゃ。主様!」


「え?何?」


「妾のことは美羽と呼ぶとよい。聞けば、主様は天の御遣い様。天下太平の立て役であるのじゃろう?ならば、真名で呼ぶのじゃ。妾に何よりも大切な者たちと出会うきっかけをくれた主様ならば、喜んで真名を預けるぞよ」


「…ふふ。ありがとう、美羽」


「では、私も七乃と呼んでくださいな。一刀さん」


「あぁ。ありがとう、七乃」


二人と握手を交わし、準備に向かう二人を見送った


「大切な者たち…か。確かに、民だけではないのよね。友を守る、それも立ち上がる立派な理由だわ」


華琳は強く頷くと、再び俺を見上げる


「大切な人をもう二度と、手放さために強くなるわ。必ず」


「…華琳」


「ふふ…なんて、顔しているのよ。さぁ、私たちも準備を始めるわよ!一刀!」


歩き出す華琳の背中を見つめる

あの別れの日とは違う…決意に満ちた背中


改めて思う。華琳…君は最高の王だ

そんな君の側に居れる俺は最高の幸せ者だ


「期待しているよ…」


俺は微笑みを携え、我が王の背中を追って歩き出した

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