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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
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希望の光

晴天の下、中庭の一角に三国の重鎮たちが集まっていた

三つの大きなシートを広げ、皆、思い思いの場所に座っている

端から見れば、ピクニックに来た集団のようにも見えるが、その表情は決して明るくはなかった


「ごめんなさい。こんな場所で」


「城が全壊しているのなら仕方ないわよ」


「でも、こうして青い大きな空の下で会議ができるなんて、なんだか新鮮だね。私は好きだよ♪こういうの」


桃香の言葉に、場の空気が少し和む

やはり、徳の王と言われる少女

場の空気を作る才に関して、右に出る者はいないようだ


「魏軍、華琳様!全員、揃いました!」


「ありがとう、桂花」


「雪蓮、呉軍も全員、揃ったぞ」


「ありがとう♪冥琳」


「桃香様、蜀軍も全員、揃いました」


「うんうん!お疲れ様、朱里ちゃん」


「それでは、会議を始める。まずは、現状を整理するわね?桂花、お願い」


「御意。武道大会に乱入してきた『外史の魏』と名乗る集団の足取りについてです。集団は兵糧を受け取った後、魏を出て行きました。今は、偵察部隊に後を追わせています。ヤツらは長蛇の列を成していますので、拠点の発見は簡単かと思われます」


「長蛇の列を成して悠々と御帰還とは…ヤツら、我らを馬鹿にしているのか?」


魏焔が拳を握り締め、歯痒そうに毒づく


「そのとおりじゃろうな。兵の話によれば、ヤツらは突然、場内に現れたそうじゃ。妖術の類か分からぬが、そんな技を持っているヤツらがゆったり帰るわけはない」


「つまり、ワザと見せつけている。ということですな?祭殿」


「うむ、挑発じゃよ。我らは逃げも隠れもせぬ。いや、その必要もない、という自信の現れじゃな」


厳顔の言葉に黄蓋は頷くと、苦笑しながら華琳を見る


「そうね。現に私は敵の拠点を発見したところで、手出しはできないもの」


「強かったものね~、彼方の魏軍は。正直、無策で勝てる自信はないわ」


黄忠は膝で眠る娘の頭を撫でながら、目を閉じる


皆も目を閉じ、想像するが自分たちが勝ち鬨をあげる姿は欠片も浮かんで来なかった


「どうするんだ?このままでは、三国はただ滅びを待つのみだぞ?」


「そうですね。さらに、嫌な噂も広まっているようですし」


周瑜と孔明の言葉に、場の空気がより重くなる

一人、首を傾げた馬岱は姉の馬超の袖をクイクイと引いた


「ねぇねぇ、お姉さま。嫌な噂ってなに?」


「なんだ、蒲公英。知らないのか?今、街では『五胡』が彼奴らの仲間になったって噂が流れてるんだよ」


「えぇ!?それヤバいじゃん!」


「落ち着けよ。あくまで、噂だ。本当かどうかは、まだ、分からないさ。ヤツらが流した、デマかもしれないだろ?」


「あわわ…そ、それが、翠さん」


「え…?ひ、雛里…ま、まさか…」


「はい…。斥候の話では、ほぼ、間違いないかと」


「そ、そんな…」

雛里こと鳳統の言葉に、馬超は無論、三国の皆は頭を垂れてうなだれてしまった


「つまり、ヤツら『外史の魏』は絡繰りだけではなく、五胡まで手駒にしているのね。厄介なことだわ」


華琳はため息を吐くと、寂しく空いた隣を見る

その席は、一刀のために空けられては席だった


「で…彼らは何をしているのかしら?」


華琳の視線の先には、シートの隅っこの方で、ヒソヒソ話をしている一刀たちの姿だった


頷いたり、首を振ったり、一刀が左慈を正座させたりと、何やら和気相合いと話し込んでいる


「じゃ、そういうことで頼むな。…散!」


「「「!?」」」

一刀が手を上げると、一瞬にして六人の姿は忽然と消えた


「わっ!ご、ご主人様たち、消えちゃったよ!?」


「ぜ、全然、見えなかった…母さんの動き…。より、強くなってるの?それってもう…手に負えないじゃない!どこまで、化け物になれば気が済むのよ…」


「落ち着け雪蓮、あんまり言うと帰って来られるぞ」


「お、脅かさないでよ、冥琳…」


「まぁ、手遅れだけどね。雪蓮!愛する母に向かって、化け物はあんまりじゃないかしら?」


「いっ!?いや゛ああぁぁ――!!」


雪蓮の顔を鷲掴みにした母、孫文台はニコニコ微笑みながら力を入れる


「ね、姉さん…大丈夫かしら」


「お、お姉ちゃんが異常にお母様を恐れる理由…分かったかも」


二人の肉親はぷるぷると震えながら、その惨劇を見つめていた


「蓮ちゃん!遊んでないで、早く行こうよ!一刀に怒られちゃう!」


「ちっ…命拾いしたわね、バカ娘…」


「くはっ!?…ピクピク…」


蓮が手を離すと、雪蓮は力無く地に倒れ伏した

蓮はそれを一瞥し、深いため息を吐くと桜に続いて姿を消すのだった


「む、酷い…」


星はポツリと呟くと、物言わぬ屍に手を合わせた


「でも、ご主人様たちどこに行ったんだろ?」


「ふむ…たぶん、何か用があるのでしょうね。私たちは、このまま会議を続けましょう」


「うむ。そうしよう。うちの王も、しばらくは目を覚ましそうにないしな」


華琳の言葉に周瑜は頷くと、ぐったりとしている雪蓮を膝枕しながら会議用の書簡を手に取る


「…いいなー。愛紗ちゃん、私も!」


「ダメです」


「えー…?ダメ?」


「当然です。孫策殿は体調不良により、ああしているのですから。元気な桃香様は、もっと会議に励んでください!」


「あたた…急に頭が腹痛になってきたかも…」


「頭が腹痛とは一体、どういう病気ですか!?」


「何でも、蜀の王にだけかかる難病らしいわよ?」


「そ、曹操!悪ノリはやめないか」


「ふふ…ごめんなさいね…。それじゃ、桃香。愛紗はどうしても駄目のようだから、私の膝で良ければ貸すわよ?」


自分の膝をポンポンと叩きながら、華琳が微笑む


「え!?いいの!?」


「いいわよ。別に膝くらい」


「そ、曹操!うちの王を甘やかすんじゃない!」


「ふふ…、まるで母親ね。でも、このままじゃ、会議が進まないわよ?どうするの?愛紗」


「ぐっ…」


華琳の言葉に愛紗は黙ると、うるうる眼の王を見つめる

深いため息を吐くと、姿勢を正して膝を叩いた


「ちょ、ちょっとだけですよ?」


「やった!愛紗ちゃん、大好き!」


桃香は満面の笑みで頷くと、愛紗の膝に飛び込んだ

それを、横目に華琳は小さく微笑むと手にしていた書簡を置く

しばらく、会議は難しそうだ


「(それにしても、一刀はどこに行ったのかしら…)」


華琳は自分の膝を見つめながら、一刀の行方に思いを馳せるのだった…



そのころ、一刀たちは市に来ていた


「いやー!大漁!大漁!沢山、手に入ったな!」


「そうねぇ~!これで、みんなに満足してもらえるわ!」


貂蝉の両手には沢山の素材が

一刀の発案で三国の皆に料理を振る舞うことになったのだ


「一刀~!こっちの準備は終わったよ!」


「すぐにでも、始めるわよ」

調理場組の桜たちが、手を振りながら二人を出迎える


「あれ?空は?」


「裏で薪割りしてるよ♪」


見ると、調理場の裏から薪の割れる小気味よい音と共に、女のすすり泣く声が聞こえる


「空!」


「…ぐすん…何ですか…?一刀様も料理の出来ない私を嘲笑うんですか…?」


「桜…彼女に何を言った?」


「…別に?ただ、私の可愛い愛弟子の命を守るために、二三、質問しただけよ」


シリアスモードの桜が、鳴きながら薪を割る少女を見据えて、微笑んだ


「質問?」


「料理のさしすせそ、よ。気になるなら、本人に聞いてみなさい」


「…空、問題。料理のさしすせそ。まずは…さ」


「さぁ、やるぞ!」


「うん、料理に気合いは必要だよね。…し」


「しっかり準備!」


「うん、準備は忘れちゃいけない。ていうか、それは最初にくるよ?普通」


「…日本語って、変ですね~?」


「…そ、そうだねー?それじゃ…す」


「素晴らしい!見よ!この腕前を!」


「…あ、完成しちゃったんだ。ていうか…自画自賛だね。…せ」


「せ…せー…責任?」


「「ぷっ!」」


こら、蓮、桜、笑うな

空はこれでも、一生懸命なんだぞ


「うん、料理をするからには、責任を持たなくちゃな。んじゃー…そ」


「掃除!」


「うん、後片付けは大切だよ。使った後はより綺麗に。使う前より美しく、だね」


満面の笑顔の空に俺は頷くと、優しく微笑みかける。何故か…一筋の涙が零れた

もう…どうしようもない…


「さぁ、調理を始めよう!空も『一』から教えるから、手伝ってくれ。人手がほしいからね」


「はい!喜んで!」


「一刀、大丈夫?」


「まぁ、大丈夫だろ?今回の料理は、さほど難しくないし。何より、空の間違いを正すいい機会だと思うんだ」


「…そうだね。なら、私も出来る限り援護するよ。華琳の命を守るために」


「私も、大事な家族を守るために頑張ろうかしらね」


「頼むよ、二人とも」


二人は頷くと、空の手を引いて調理場へと入っていった


「左慈と于吉は?」


「二人は街のお菓子屋に機材を取りに行ってるわ。すぐ、帰ってくるでしょう」


「そうか。んじゃ、二人が帰ってくるまでに仕込みを終わらせておくか。貂蝉も料理出来るんだろ?」


「勿論よん!料理は漢女の嗜みよん!」


「それじゃ、三国の皆のため、少しばかり頑張ろうか!」


ぐっと親指を突き出してきた貂蝉に、頷くとエプロンを着けて戦場に向かって歩き出した




「…というわけで、しばらくは各々、能力強化に専念してもらうわよ」


「ふむー。武官は武を、軍師は知を磨くわけですかー」


華琳の言葉に魏の軍師、程リツは頷くとペロペロキャンディを口に含んで目を細める


『でもよー。武の強化は、あの節操なしでも出来るが、軍師はどうすんだ?とてもじゃねぇが、あれに俺たちを納得させるだけの技量はないと思うぜ?』


「言ってくれるじゃねぇか、宝慧ホウケイ


『あでっ!?』


俺は程リツこと、風の背後に忍び寄り頭の上にいる人形にデコピンをかました


『おうおう、誰かと思えば愛弟子じゃねぇか』


「自分に自信の無さそうな師匠は持った覚えはないよ」


『俺だって、手じゅ…む!?』


「はいはい…む!?意外と旨い」


風の口からキャンディを奪うと口に含む

キャンディの甘さが口全体に広がった


「お兄さんったら、大胆ですね~。風はそのお口に、目が釘付けになってしまうのですよ。これでは、会議に支障出まくりなのです」


「はは、ごめんごめん。ほら、風。これあげる」


「む!?むむむ…これは…?」


「天の国のお菓子。ショートケーキさ。是非、食べてみてくれ」


「しょーとけーき…」


さらに乗ったケーキを見つめ、風が固まる


「「「ごくり…」」」


皆も興味があるのか、皿の上に視線を集中させていた


「そんな、怖いものじゃないって…ほら、あーん」


「あ、あーん………おぉ!?」


「どう?」


「ん~!美味しいですね~!」


「よかった。さぁ!みんなの分も沢山あるよ!」


満面の笑顔で食べる風の姿に、俺は満面の笑顔で頷くと、手を打つ

桜たちが、簡易ワゴンに乗せて色とりどりのケーキを持って来た


「北郷プレゼンツ、ケーキバイキングだ!皆、沢山食べて、英気を養ってくれ」


「「「おぉ!?」」」


皆は目を丸め、ワゴンの上のケーキを見つめる


「食べてもいいの?ご主人様」


「いいよ!はい、桃香、華琳、雪蓮」


それぞれの王に手渡すと、皆も顔を見合わせ、ワゴンからケーキを思い思いに取っていく


「それじゃ、一刀や先生方の心遣いに感謝して頂くわよ!手を合わせなさい!」


「「「応!」」」


「頂きます!」


「「「頂きまーす!」」」


皆、一口食べると、次々と口に運んでいく

ゆっくりと食べる者、次から次に食べる者

一緒に食べる者、独占する者

色んな人たちが居たが、皆の顔には例外なく幸せが見て取れた


「一刀…やるじゃない」


「ん?」


「あなたが、お菓子を持って来てくれたお陰で三国の士気は小さいながらも回復したわ。ありがとう」


「まぁ、まだまだ微量だけどね」


「いいのよ。きっとこれが、前に踏み出すきっかけになるから」


「そうかな?」


「そうよ」


華琳は頷くと、ケーキを頬張った


「でも、驚いたわ。いつの間に、腕を上げたの?」


「向こうで、色んな知識と経験を蓄えたからね」


「なるほど、『バージョンアップ』とやらは伊達じゃ無さそうね」


「おっ。よく知ってるな」


「ふふ…私も日々、バージョンアップしているのよ」


「完璧超人が何を仰いますやら…」


「ふふ…曹孟徳に完成はないの」


クスクスと微笑むと、最後の一口を食べ終え、皿を手渡してくる


「美味しかったわ…本当にありがとう、一刀」


「光栄の極み」


「なにそれ…」


恭しくかしずいて見せると、華琳はクスクスと微笑んだ


「っと…クリームがついてる」


「え?」


華琳の口端についたクリームを指で掬い取る


「ん…美味い」


「っ!?ば、ばか!ななな、何で舐めるのよ!」


「え?指についたから」


「だ、だったら、ハンカチで拭けばいいじゃない!」


「勿体ないじゃん」


「も、勿体ない…?それは…あの…その」


もじもじと華琳が頬を染めて俯く

どうしたんだろ?


「どうした?」


「な、何でもないわよ!ばかー!」


真っ赤になって叫んだ華琳は、そのまま走り去ってしまった


「どこ行くんだよ…」


俺は小さくなっていく背中を見つめながら苦笑する


「まぁ、喜んでくれたからいいか…」


華琳の幸せそうな笑顔を思い出し、撤収作業を始めた

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