表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
73/121

始まりは終わり、終わりは始まり

舞台に降りると、めそめそと泣く空が居た


「そ、空?」


「ぐすん…うわあぁん!一刀様ー!」


「お?おぅ、よしよし…」


泣きじゃくる空の頭を撫でながら、傍らでマイクを掲げる雪蓮を見上げる


「何してんの?」


『暇だから、来ちゃった♪』


「本当、親子だな…。マイク、強奪されたの?」


「ぐすん…はい…裏にご飯が…いつの間にか…雪蓮さんが…マイクを…マイクをー!うわあぁん!」


「えーっと?裏にご飯が用意してあったから、食べていたら、いつの間にか雪蓮が居て、その隙にマイクを強奪されたってこと?」


「(コクコク!!!)」


『失礼ねー。私は、ちゃんと交換したのよ?ご飯と交換ね?って言ったら、はい!って言ったじゃない』


「嘘です!ご飯の罠です!あんな、質問責めにされたら、流れではい!って言っちゃいますよ!」


たぶん、質問は全て、はい!で答える内容だったんだろう

で、最後に『司会とご飯を交換ね?』

とか、言ったんだろうな


「まぁ、今回は空の負けかな…」


「しょ、しょんなー…」


『廬植様、廬植様…』


「桃香ちゃん?」


ずーんと沈んだ空の肩に、笑顔の桃香が手を置く

待て。何で、桃香までマイクを持ってるんだ?


『廬植様。ここは、私たちに譲ってくれませんか?』


「と、桃香ちゃん?桃香ちゃんまで、私を虐めるんですか!?」


「ふふ…違いますよー、廬植様…ちょっと…こっちに」


「へ?え?えぇ?」


空を連れて桃香は舞台裏に消える


「ちょっ…桃香ちゃん?…何?…何して…桃香ちゃん!?」


「ふふ…」


「と、桃香ちゃ…いにゃ――!!?」


「「「っ!?」」」


舞台裏から空の叫びが聞こえる


「ふふ…」


「ブツブツ…」


やがて、ニコニコ笑顔の素敵な桃香と足取りの覚束ない空が現れる


「そ、空?」


「ひゃい!だだPー!ダイジョウブ!?だSuヨ!?」


「そら…?」


「わた!waたし!?ガクガク!私は!じじ、自体、事態、時代?Gじじ…辞退しま、します!」


「そら――!?」


『だって♪』


『え、えぇ…し、仕方ないわよね…(廬植様、壊れちゃったし。でも…己の目的のために師を洗脳するなんて…桃香…恐ろしい子!)」


「空…空ー…!」


「らーららら…ららー…あはははは…!」


完全に壊れた空を抱きしめながら、一刀が涙を流す…

その後ろで、着々と舞台準備は進められていった


『さぁ、みんな!決勝戦!始まるわよー!ここからは、"諸事情"により、廬植様に変わって私たち、三国の王が勤めることになったのよー!華琳、説明はめんどいからパス♪』


「もぅ…仕方ないわね。今、行くから待ってなさい」


華琳は雪蓮の呼びかけに苦笑すると、ゆっくりと王様ブースを降りて来る


『それじゃ♪華琳さんが来るまで、決勝に駒を進めた選手の紹介をするよー!前回大会優勝者にして、三国の癒し系、ご飯をくれるみんなが大好き!呂布将軍!』


「ん…ご飯…?」


『ご飯』という単語に反応した恋が、きょろきょろと周りを見渡しご飯を探し回る


『あはは…恋ちゃん、ご飯はないよ』


「ない…?」


『ご主人様に勝ったら、いっぱいご馳走してあげる!』


「…頑張る!」


『ふふ…いいね!燃えてきたね!』


『えぇ!燃えて来たわ!対するは我らが魏代表の隠し玉にして天の御遣い、そして、私の夫である、北郷一刀よ!』


「「「ええぇぇ!!?」」」


三国の将は知っていたが、民や兵からすれば初耳のことだった

会場がざわめきに満ちる


『さぁ、一刀!皆に言葉を…って、一刀?』


「ぐすん…空…どうしちゃったんだよー…」


「ふふふ…ららーらーららら…」


わーぉ…何?この状況…


『……桃香。…廬植様を元に戻しなさい。今すぐ』


『え?元に戻すも何も、廬植様は今が絶好調だよ?』


『ふふ…桃香…今すぐ、私の閨に強制収監するわよ?』


『わ、分かったよ…ちぇー。ご主人様、廬植様を借りるね?』


「え?あ、あぁ…」

ずるずると舞台裏に引きずり込むと再び、空の叫びが上がった


『はぁ…終わったよー』


「…信じられません。まさか、師に対して禁断の洗脳術を使うなんて…こんなことのために、術を教えたワケじゃないんですよ?」


『ごめんなさーい。まさか、出来るとは思わなかったから』


「だからって、師で実験しないでください!」


『どう?廬植様は帰って来たんだから、これで心置きなく戦えるでしょ?』


「あ、あぁ。空…大丈夫か?」


「ご心配をお掛けしました。もう、大丈夫なので。どうぞ、頑張ってください。一刀様」


「そうか…良かった」


ほっと胸を撫で下ろすと、恋に向き直る


「恋…待たせたね」


「ん…ご主人様…鎧はいらない?」


「あぁ。大丈夫。恋を相手に鎧を着けるほど傲ってはいないつもりだよ」


「…ご主人様…恋を知らない…」


「恋?」


『はぁ…やっと始められるわね。一刀、いつもの、やるんでしょ?』


「え?あー…うんー…」


「…大丈夫…悩まなくていい…恋は…恋の得意な得物で行く…だから、ご主人様も…得意な得物で来るといい」


「そうだな。じゃあ、俺の得意分野で行かせてもらうよ。いい?」


「ん…遠慮しなくていい…」


「ありがとう、恋」


恋の言葉に頷くと、俺は今日、初御目見得シリーズ第五弾を抜き放った


『葉々、篭手、刀、堰月刀…まだ、武器があったのね…』


「ふふ…愛すべき…姉妹劍だよ」


握り締めると、答えるように双劍は震えた


『姉妹劍?』


「さぁ、やろうか…」


「ん…やる…」


華琳の疑問を黙殺して、武器を構える

言葉はいらない。見せる…否、魅せることでこの双劍が何か教えよう

対する恋も愛槍・方天画戟を担ぎ静かに俺を見据える

飛将軍…その闘氣に偽りなし

皮膚が焦げ付かんばかりの闘氣が全身に叩き付けられた

急所など無意味、彼女の一撃には必殺の力があると、体が、魂が、警鐘を鳴らす

故に三万の黄巾党も大地へと帰されたのだろう


『さぁ!己の全てを出し切りなさい!』


「ふ…ふふ…」


「…………」

自然と笑いが込み上げてくる

そうか…こんなにも…彼女は…


『初め!!!』


華琳が手を下ろすと、同時に二人は駆け出す


「そこ…」


「ふっ…」


先制したのは恋。担いでいた方天画戟を軽く振り下ろしてくる

それを右で受け止め、左で突くが恋は身体を捻ることで難なく避けて見せた


「よっ…」


「おぉ!?」


恋が体制を立て直す流れで、槍を引き戻す

防いでいた右手の武器が方天画戟の刃に引っかかり、絡め取られてしまった


「「「おおぉ…!?」」」


「…貰った」


おまけに付いてきた武器を手に取る

何回か振ると、恋は眉を寄せて俺を見た


「ご主人様…」


「なに?」


「これ…重い…」


「はは…レディにそんなこと言うと怒られるよ?」


「?」


姉妹劍。同じ素材から生まれ、同じ経験を積み、同じ想いを持った劍

俺の持っている武器からジワジワと怒りを感じる

重いと言われたことがショックだったようだ

まぁ、元の持ち主はファッションや流行、体重にうるさい沙和だからなー

性格も似ているのだろう


『ブルブルブル…!』


「(分かった、分かった…返して欲しいんだろ。でも…なぁ…)」


恋から目を離さず、奪われた武器を視界の隅に入れながら、くるくると片割れを回し考えていた


『(もし、恋が武器を場外に捨てれば…一刀は拾いに行くことが出来なくなるわね。それだけで、恋の勝ち目はぐんっと上がるでしょう…まぁ…強くなったといっても、流石に恋以上ではないでしょうし、恋がそんなことする必要はないわよね)』



最初は驚いていた華琳も、冷静に状況を分析すると苦笑する


春蘭が魏武の、雪蓮が呉武の、愛紗が蜀武の象徴と称えられる存在ならば、恋は…呂布奉先は三国の武の象徴と謳われる者なのだ


そんな彼女が相手から武器を奪い、捨てるなどするわけがない

恐らく、始めてみた一刀の武器が偶然手に入ったから、眺めているに違いない


飽きたら、すぐに返すはずだ


「いらない…」


『えっ!?』


華琳がそう当たりを付けた矢先、恋が劍を場外に投げ捨ててしまう


「だよなー…」


俺は苦笑すると、悲しげに突き刺さる武器を一瞥した


「恋は…勝つ…!」


俺が武器を失ったことに勝機を見いだしたのか、恋は駆け出す


「んー…それはどうかな?っと!」


向かってくる恋に片割れを投げつけると、俺も猛然と駆け出す


「無駄…!」


恋は軽く避けると、頭を狙って槍を突き出す

手元に武器のない俺は、篭手で頭を守ると後ろに大きく下がる


「っ…読まれた…」


案の定、恋が方天画戟を引き寄せることもなく、そのまま凪払う

目の前を切っ先が通り過ぎていった


方天画戟の恐ろしいところはその特性だ

構造上、切る、突く、たたく、薙ぎはらう、などの槍型の武器の動作を一振りでできてしまう

切った後に突く、払いのあとに切るなど複数の動作を一度にこなせるこの武器に防御は無意味なのだ


「ふっ!」


さらに、切っ先は方向を変え、脳天気から俺を斬り伏せようと振り下ろされる

紙一重で避けると、次は再び突きが襲い来る


「は…やぁ…そこ…」


「六、五、四」


対する俺は攻撃を避けながら、カウントを始めていた


「?…はっ…終わり…」


「三、二、一!」

瞬間、突き出された方天画戟を踏み台に飛び上がると、飛んできた姉妹劍を握り締める


「っ!?」


「お帰り、二天」


『キィン…』


僅かに反応が遅れた恋に、俺はそのまま、双劍を振り下ろした…


二人の間に静寂が訪れる

俺の右手の劍は恋の首筋に添えられ、左手の劍は、恋の方天画戟を完全に抑えていた


「……何で…?」


「捨てたはずの武器が、手元にあることが不思議?」


「ん…」


恋は小さく頷くと、方天画戟を下ろす


「簡単に説明するなら、恋に投げた武器が、くるくる回って、場外に刺さっていた片方を弾き飛ばしたんだよ」


「…?」


「この武器は俺の手から離れても、ある条件を満たしていれば必ず帰って来るんだ」

「条件…」


「空中を飛んでいることさ」


「…すごい…」


相変わらず、表情は変わらないが、声色には明らかな驚きが見て取れる

俺もこの条件に気付いた時には驚いたものだ


「武器を信じれば、恋もできるようになる。今以上に強くなれるよ、きっと…」


「…強くなれる?」


「あぁ。なれる」


恋は方天画戟を見つめると、静かに目を閉じる


「…やっぱり…ご主人様は知ってた…」


「俺も、通過した道だよ。強さを求める者はある時、強さの限界に辿り着く。いくらもがいても、肉体的に、精神的に越えられない壁に直面するんだ。大抵の者は、そこで諦めてしまう。いや、これ以上、上は無いと思い込んでしまうんだ。でも、恋は違うね。ずっと頑張ってたんだろ?」


「ん…でも、分からなかった…」


「肉体的にも精神的にも完成されてる。あとは友である武器と対話するんだ。武器は想いを持って君を支えている。その想いをきき届けるんだ。方法は…いや、きっかけは教えるよ」


「…うん…」


『話は済んだかしら?済んだのなら判定にいくわよ』


静観していた華琳が、苦笑しながら近付いてくる


「いや」


「…うん…終わってない…」


俺と恋は、小さく微笑むと首を振り武器を構えた


「はいは~い!ここは危ないから、先生と一緒にあっちに行こう、華琳!」

『え?橋玄様!?』


「ほら、あんたも行くのよ、雪蓮!」

『へ?ちょっ!母さん!?』


「はい、おやすみなさ~い♪」

『ゴフッ!?』


瞬間、桜たちの手により華琳たちは安全な場所まで運ばれる

…空。別に鳩尾に一発入れる必要はないんじゃない?

あ、なるほど。洗脳されたこと、根に持ってたわけね…


そ、それはさておき、俺と恋は背後に立つ二人の女に振り返る


「いらっしゃい。遅かったね?」


「真打ちとは、遅れて登場するものだ。だろ?北郷一刀」


「ふふ…そうだぞ!北郷一刀!その、何だ…残り物には福があるのだぞ!」


「……そ、そうだな」


一瞬、意味が分からず言葉が詰まってしまった


「姉さん…それは、この場で使うには不適切だよ」


「なんと!?」


うん、今ので分かった。たぶん…この二人…


「なぁ、お前…前に俺と闘ったことがあるヤツだろ?そして、君は毒入り菓子を持って来たヤツだね?」


それぞれを指差しながら、俺は苦笑する


「そうだ!」


「姉さん…そこは知らぬフリをしておくべきだ」


妹(仮)は頭痛を覚えたのだろう、頭を押さえ深いため息を吐く


「ははは…、何か、夏侯姉妹みたいだな」


二人の関係が秋蘭と春蘭の関係に見え、微笑ましく感じる


「「い、一緒にするな!」」


思わず口走った言葉に、二人は声を荒げる

どうやら、お気に召さなかったらしい


「いいじゃん。ウチの姉妹は可愛いぞ?」


「「(ー!?~!!…!ー…!)」」


魏のブースで見ていた姉妹が顔を真っ赤にして叫んでいる

とりあえず、右から左へ聞き流した


「そ、そうか?」


「ね、姉さん…」


何故か、フードの二人もオドオドとしている


「と、とにかく、今日は偵察だ。お前の強さをはかりにきたのだ!」


「う、うむ!」


二人はいそいそと武器を取り出す…

かなり、もたついているな、大丈夫か?


「な、なぁ」


「「お、おぅ!?」」


心配になり、声をかけると二人は武器を取りこぼしてしまう

姉は太刀で、妹は弓を使うんだ…

本当に、ウチの姉妹とそっくり

俺は苦笑すると武器を拾い上げ、二人に手渡す


「…大丈夫?」


「す、すまん…」


「だ、大丈夫だ」


顔を隠すためだろう、フードを深く被り、俯きながら武器を受け取る

敵ながら、親しみやすいヤツらだ


「よ、よし!」


「お、いけるかな?」


「こほん…い、いいぞ、大丈夫だ」


二人は照れを隠すように咳払いすると、武器を構える


「おう!じゃあ、やろ…『はい、待ってくださいねー、一刀くん』…于吉?左慈?」


武器を構えようとする俺と恋の前に、左慈と于吉が立ちはだかる


「悪いですが…ここは、私たちに譲ってもらえますか?」


「お前ら、俺たちが相手してやる。存分に挑んでこい」


「ふむ。そう簡単に北郷一刀とは、やらせてはくれんか」


「なに。問題ないさ、姉さん。ずっと見てきた限り、コイツらは、大して脅威ではない。むしろ、私たちより劣るよ」


姉が太刀を構え、前に出る

妹は弓を構え、後方に陣取った


「おや?私たちを知っているような口振りですよ?左慈」


「ふん。だから、どうした」


「ですよね~」


左慈は拳を構え、前に出る

于吉が後方に下がり、水晶を取り出した


「お!出たな!外史監視者の十八番!」



俺は二人の動きに、嬉々とした反応をすると、恋を連れて舞台を降りる


「ご主人様…あの二人…強い?」


「あぁ、強いぞ!特にあの戦闘体系になると、俺でも手が出しにくくなるんだ」


「…恋も…挑んでみたい…」


「いつか、機会があったら挑んでみるといいよ。あの二人なら、喜んで相手してくれるだろうからさ」


「…うん」


俺はそのまま、恋を王様ブースに続く廊下へ連れていく


「恋。三国の王たちを頼むよ?」


「…うん…ご主人様は…?」


「ご指名を受けたんだ。四人の側で成り行きを見守るよ」


「ん…気をつけて…」


「あぁ」


恋を送り出すと、再び舞台に上がる


「さて、今は武道大会だ。言いたいことはわかるね?四人とも」


「…なるほど、勝敗は武道大会の規則に則るっというわけですね?」


「そういうこと。ここには、無関係な民も大勢いるんだ。被害を出すわけにはいかない。分かってくれるかな?」


フードの二人を見ると、二人は口に手を当て笑い出す


「くくく…安心しろ、北郷一刀。我らとて、無益な殺生は好まん」


姉は太刀を下ろし、ヒラヒラと手を振る


「そうだ。我らは崇高な目的のために集まり、行動している。それを汚すような真似はしないさ」


妹はぐるりと民を見回し、強く頷く

こいつら…ただの悪人じゃないな

ちゃんと、民の大切さを分かっている


「そうか、安心したよ。それじゃ、勝敗は大会の規則に則らせてもらうな。説明はいるか?」


「いらん」


「大丈夫さ。ずっと、見ていたのだ。把握は出来ている」


フードの二人は頷くと、各々武器を構え始める


「左慈、于吉…お前らも大丈夫だな?」


「えぇ。殺生は無し。私たちとしてもデータが欲しいだけですので、ご安心を」


「まぁ、事故は仕方ないがな」


「左慈?」


笑顔で左慈を見つめる


「ちゅ、注意はするとも」


コクコクと左慈は頷くと、拳を構える


「本当に頼むよ?それじゃ、今回は二対二の試合な。審判は北郷一刀、貂蝉、橋玄が行う」


「あら~ん♪ご主人様の御指名?なら、頑張るしかないわねん!」


「まぁ、華琳たちの護衛は蓮と空がいるから大丈夫かな?いいよ♪」


舞台の周りに貂蝉と桜が降り立つ

舞台で何が起きても、対応できるように俺を含め、審判は皆、武器を携えていた


『それでは、両者、準備せよ!』


マイクを握りしめ、俺は手を振り挙げる


「撲殺に処す…その六銭、無用と思え」


「さぁ、開幕といきましょ!」


「はぁ…何だ、こいつらは」


「姉さん、相手にするな。色々、うつるぞ」


『初め!』


「破っ!」


「ふっ!」


俺が手を下ろすと、前衛二名は一足でぶつかり合った

後衛二名は、動き回り互いを牽制しながら前衛の隙を窺っている


「ふっ!は!そらっ!」


「くっ!ちっ!次から次へと!」


拳と脚を多彩に織り交ぜた体術で、じりじりと左慈が相手を追い詰めていく


「しかし、お前もよく防ぐな。最早、こちら攻撃を見抜けているのは、この会場でも数名だけだというのに」


「ふん。私をそこらの雑兵と一緒にするな」


「雑兵、か…。ふ…そんなことを言えば、三国の将たちも黙ってはいないだろう」


「雑兵だ。昔は無理だったが、今の我らなら、三国の将など恐るに足りん」


「昔?」


「北郷一刀が天に帰ってすぐの頃だ。そこで、あの方と出会い、我らは変わった」


「あの方?…っと!」


左慈が首を傾げた瞬間、交戦していた二人の間に矢が刺さる


「姉さん、喋り過ぎだ」


「ふふ…すまない。案外、コイツがやるのでな。闘いに集中するあまり、そちらまで気が回らなかった」


「そんなに遠慮なさらず、全てを話してくれて構いませんよ」


于吉は薄ら笑いを浮かべ、水晶を撫でた


「そんなに聞きたければ、私たちを倒すことだな」


矢を引き絞り、于吉に放つ


「それは勿論ですとも」


于吉はくるりと回ると、飛んできた矢を服の袖で叩き落とす


「ちっ…矢が見切られている」


「昔から目だけは良いもので」


眼鏡を拭きながら、しれっと答える


「ふん。そのくせに眼鏡は手放さないんだな」


「お洒落ですよ。お洒落。紳士たるもの、常に身嗜みには拘らなければなりません」


「俺にはさっぱり分からん」


左慈は苦笑すると、拳を構え直し前を見つめる


「見た目も大切だぞ?お前も、着飾ったらどうだ?」


姉も苦笑すると、太刀を構える


「ふん。興味ないな」


「さて、お喋りはそこまでにしましょうか」


于吉の周りに風が巻き起こる

小さな石ころが浮き上がり、風に乗って于吉の周りを飛び交う


「ふ…そうだな。姉さん!」


「おう!本気でいくぞ!」


「ふん!御託はいらん、来い!」


「後ろは任せてください」


再び、前衛に火花が飛び散る

左慈が太刀を避けて拳を打ち込めば、妹の矢がそれを妨害するように放たれる

左慈が矢を避ければ、その隙をついて姉が太刀を浴びせに掛かる

しかし、それを于吉は良しとせず、小石を飛ばす

気付いた姉が身体を捻って避けると、小石が石畳を貫いた


「はっ!」


「とっ!」


その後も、四人の一進一退の攻防は続く


「ねぇねぇ一刀…」


「ん?」


四人の試合を静観していると、袖をクイクイと引っ張られる


「一刀が左慈と于吉を相手に戦った時ってどれくらい続いたっけ?」


「確か…丸一日だったね」


「どっちが勝ったっけ?」


「ドローゲーム。引き分けだったよ」


「確か…于吉が暴走したんだよね」


「あぁ、興奮し過ぎた于吉が水晶に魔力を注ぎ込み過ぎて、暴発したんだ」


「で、木々が吹っ飛んだ跡地に、あの街を眺められる高台を立てたんだよねー?」


「そう。吹っ飛ばされた木々が勿体無いから櫓を作ったんだ」


「てことは…あの時は一刀は…」


「うん。まだ、人の枠を超えてなかったよ」


「えー、今やったら?」


「瞬殺だよ」


「へー…」


冗談交じりに答えると、桜は声だけを残して消えてしまった


「さ、桜?」


慌てて見渡すと、桜は舞台の対面で四人を見上げていた


「じょ、冗談なんだけどなー…」


「あら?でも、可能なのよね?ご主人様」


「まぁ、不可能ではないかな?…って、貂蝉!?」


突如、背後から掛かった声に振り返る

声の主はいない。もしやと思い見渡してみれば、案の定、桜の隣で貂蝉は四人を見上げていた


「あぁ…どんどん周りから人がいなくなる」


「言い様ね。でも、安心なさい。最後は結局、私のものになるのよ。北郷一刀」


「か、華琳?」


振り返ると、華琳が口元に手を当てクツクツと笑う


「な、何で降りてきたんだ!?あ、危ないだろ!?君は狙われてるんだぞ!?」


「大丈夫よ…だって、私は『狙う側』ですもの」


肩に置いた手を払い除けると華琳はスタスタと舞台に上がっていく


「か、華琳!?」


「すーっ……双方!武器を収めなさい!!!」


「「「「なっ!?」」」」


試合っていた四人はピタリと動きを止め、突然の乱入者に目を向ける


「そ、曹操!どういうつもりだ!」


「そうですよ!これからが本番だというのに」


「本番?ふふ…笑わせないで。あなたたち如きが私の可愛い子たちをどうこう出来るわけないでしょ?」


華琳はクスクス笑うと、不用意にフードの女たちの前に歩み寄る


「私の…だと?」


「えぇ…私のよ」


左慈の問いに華琳は口元を吊り上げ微笑んだ

醜悪な、それでいて妖美な、まるで全てを知っているかのように少女は微笑む


「か、華琳様…?よろしいのですか?素性を明かして…」


「大丈夫よ。いずれ、正体はバレるのだし、何より我々の準備は等に出来ているのですもの。さぁ、フードを取りなさい、二人共」


クスクスと笑うと、華琳は手を小さく挙げフードの二人に頷いた


「「…御意」」


フードを取り去った二人の姿に、一刀は…いや…三国の皆は…驚愕した


「え…?なに…?なに、何してんだよ…そんなとこで…なにしてんだよ!!?」


舞台の上…左慈と于吉を相手に、大立ち回りを演じていたのは他の誰でもない、俺の愛する人たちだった


太刀を振り、左慈と一進一退の攻防を繰り広げていた少女

姓を夏侯、名を惇、字を元壌


弓を操り、的確な状況で二人を翻弄した少女

姓を夏侯、名を淵、字を妙才


俺の愛する人たち

真名を春蘭、秋蘭といった


「勘違いするな。北郷一刀。お前の知る、夏侯姉妹なら、あそこだ」


夏侯淵が指差す方を見ると、驚愕の色に染まった表情で舞台を見つめる春蘭と秋蘭がいた


「我らは、あいつらと似て非なる者。真の魏軍。この世界を、終わらせるために外史から来た者よ。以後、覚えて置きなさい」


華琳?はクツクツと笑うと、王座を見上げる


「曹操…まずは、大陸平定おめでとう、とでも言っておくべきかしらね?」


「不要よ…私に牙を剥く輩から受け取る言葉なんてないわ」


「ふふ…つれないわね。この世界の曹操は。私なら、有り難く頂戴した上、ノシ付けて返すのに」


「ふふ…あなた、面白いこと言うわね…今すぐ、殺してあげたいくらい」


「あら?私に挑むの?ふふ…それは無理よ。私の春蘭に勝てないようじゃ、ね」


「くっ…」


「まぁ、精々、北郷一刀の前に出ないように気を付けなさい。死期が早まるわよ?まぁ、結局?私の鎌で真っ二つにしちゃうけど!アハハ…!」


華琳?の笑い声が会場に響き渡る

誰も、何も言えなかった

それだけの自信が見て取れたのだ

外史から来たという、この子は…強い

この世界の華琳では適わないくらい

それこそ、一瞬で死神鎌『絶』の餌食になるくらい

同時に、少女の横から感じるプレッシャー

あの姉妹も、今までとは比べ物にならないほどの殺気を放っている

やはり、コイツらも本気ではなかったようだ


「さて、挨拶も済んだことだし。帰るとするわよ、春蘭、秋蘭」


「「御意!」」


踵を返すと、少女は二人の家臣を従えて歩き出す

誰も動けないことを嘲笑うかのように悠々と、背筋を伸ばして


「待てよ」


「ん?」


その背中に語りかける者が一人

北郷一刀だ


「お前たちは、俺を狙ってるんだろ?何故、今、殺さない?」


「今はまだ時ではないの。あなたなら、そこの『か弱い』乙女たちを成長させられるでしょ?」


「それは、君たちの不利にならないか?」


「私は曹孟徳よ?闘いで疲弊した者を、力のない者をいたぶる趣味はないの。それに力を持った連中を叩き潰せば、それから先の政もやりやすくなる。そのための布石よ」


「ふん。毒を送った卑怯者が真っ当なことを言うじゃないか」


左慈が苦笑しながら、それは嘘だと手を振り否定する


「北郷一刀を試したのよ。素性も分からない者から貰った物を口にするほど平和呆けしていないか、ね。そこで死ぬようなら、必要ないわ。そんな、馬鹿を待つほど私は暇じゃないのよ」


「なるほどな…でも、夏侯惇を送ってきた説明はどうつける?」


「あれは、謝るわ。この子、私の言葉を勘違いして先走ってしまったのよ」


「うむ。姉さん…いや、もういいのか…。姉者は華琳様がいずれ北郷一刀を抹殺するという言葉を、今すぐと勘違いして単身乗り込んだのだ」


「本当…どっかの誰かさんと一緒だな」


「ふふ…否定はせんよ。世界は違えど、基盤は同じなのだから」


「外史の魏軍か…。でも、何でこの世界に?」


「ふふ…敵である貴方に話すつもりはないわ」


小さく呟くと、一刀を見て微笑む


「そりゃそうか…でも、譲るわけにはいかない。この世界の誰一人として」


「ふふ…守り抜いてみせなさい。あなたの活躍、期待しているわよ、北郷一刀」


クスクスと微笑むと、華琳は手を上げる

瞬間、地を天に持ち上げんばかりの激しい爆発音が魏全体に響き渡る


「これは、宣戦布告よ!曹孟徳!しかとを受け取りなさい!」


「宣戦布告ですって?」


「そ、曹操様!!」


訝しげに華琳は自分と同じ顔の少女を睨みつけた

そこへ、慌てたようすの魏の兵士が転がり込んでくる


「…言いなさい」


「城が…魏の城が!何者かの襲撃により全壊しました!」


「ぜ、全壊ですって!?負傷者はいるの!?」


「幸いにも兵は皆、軽傷です。周辺の住民への被害はありません!」


「そう…よかった…」


ほっと胸を撫で下ろすと、舞台上で含み笑う少女を睨み付ける


「どう?喜んでくれたかしら?」


「えぇ…それもう。あなたを手足を引きちぎって、裏の山の野犬に生きたまま喰わせてあげたい衝動にかられるくらいにね…」


「ふふ…恐ろしいわね。想像したら、思わず身震いしてしまうほどに。でも、それは叶わぬ夢ね。今の貴方じゃ…いいえ、今の三国じゃ、私たちを止めることは出来ないわ」


舞台上の華琳は口元を吊り上げると、手を叩く

瞬間、会場の一角が吹き飛び、瓦礫の山と化した

その山を乗り越え、有象無象の絡繰り兵たちが雪崩込んでくる

侵略してきた絡繰り兵たちは、三国の各ブースを囲い込み、更には観客席の民を囲んでしまった


下手に抵抗すれば…無関係な血が多量に流される状況が、瞬く間に出来上がってしまったのだ


「くっ!」


華琳を含め、三国の将は苦虫を噛み潰したような表情で武器を構え、目の前の絡繰り兵を睨み付ける


「数は最大の暴力よね。更にこれは、絡繰り兵。死を恐れない兵。つまり、死兵」


「死兵…ね…厄介な物を作ったものだわ」


華琳は首を振ると、手を挙げる

それに従い、兵や将は皆、抵抗をやめた


「賢明な判断ね。あなたの判断で、民は救われたわ。そんな、聡明なあなたに更なる絶望をあげる」


「「「っ!?」」」


再び、曹操が手を叩くと絡繰り兵が道を空ける


その間を、悠々と九人の武将、知将が歩いてくる

九人の将は舞台に上がり華琳たちの後ろに立つと、対面する一刀を静かに見つめた


「…やっぱり居たんだな、みんな」


中央に立つのは全てを統べる存在

『曹孟徳』


王を挟んで立つのは、王から絶大なる信頼を得る二人

『夏侯惇』

『夏侯淵』


王を守るように、前に立つのは二人の親衛隊

『許緒』

『典韋』


王の後ろには、魏の頭脳とも呼べる三人

『荀イク』

『程リツ』

『郭嘉』


軍師の後ろに立つのは、三羽烏と謳われる者たち

『楽進』

『于禁』

『李典』


そして、その横には三国屈指の槍と馬の使い手

『張遼』


今ここに、三国の敵であり、この世界を崩壊させるための使者が出揃ったのだった


「姿形は同じでも、その能力は違う。武力も知力も全てが上を行くわよ。どう?絶望的でしょ?」


勝ちを確信しクツクツと笑う少女

その言葉に誰も何も言い返せなかった


「そうか。なら、俺も頑張るかな」


「へぇ。諦めないのね、北郷一刀」


「弱い者をいたぶるのは、嫌いなんだろ?なら、この子たちを強くしてみせるよ。俺の全てをかけて」


「ふふ…いいわ。前向きな子は好きよ。それじゃ、時間をあげる。期間は…そうね、半年よ。それ以上は待たないわ」


「半年か…」


「ただし!これは私が譲歩するの。当然、タダではないわよ?対価を貰うわ」


「ふむ。対価ね…」


腕を組んだ一刀は、ぐるりと周りを見渡し、ある一点で視線を止める


「じゃあ…貂せ『いらないわ』…なんで?貂蝉は見掛けによらず、気配りの出来る優しい『乙女』だよ?」


「その見掛けに問題があるのよ!何よ!?あの筋肉達磨ハゲ!しかも、乙女ですって!?それが本当なら、世界の全員が乙女になれるわよ!」


「だーれが見たもの全てに精神的被害を与える歩く、環境問題ですって!?しどい、しどいわ!そこまで言わなくてもいいじゃない!」


「そこまで、言ってないわよ!って…いや!寄るな!寄らないでよ!」


「貴様ー!華琳様に近付くなー!この妖怪め!」


…あーぁ…夏侯惇…言っちゃった…


「ぶらああぁぁ…!!!だーれが、ヘンテコ奇天烈な化け物の皮を被った妖怪筋肉達磨ハゲですってー!?グヌヌ…もーぅダメ!…許せない!!!この踊りを観ても同じことが言えるかしら!?」


『へぅ…お、お久しぶりです。月です。只今より、何やら貂蝉さんがやるようですが、皆様にはお見せ出来ません。皆様の健康と将来を考えての判断です。ご了承くださいね♪』


『…ねぇ。月~、誰に話しかけてるの?ていうか、前が見えないんだけど。ボクの眼鏡、どこにいったか知らない?』


『それなら、私がかけてるよ?』


『え?何で!?月も前が見えないでしょ!?』


『うん♪でも…これでいいんだよ、詠ちゃん』


『これでいいって…返してくれないの?』


『駄目だよ?今、眼鏡をかけたら、二度と目が見えなくなっちゃうよ…』


『眼鏡をかけたら見えなくなるって…何の謎かけよ…』


『ふふ…こうして、私たちは難を逃れました。一方、真っ正直に直視し続けた三国の皆さんと、無関係な民の皆さん、華琳さんたちにそっくりな方々はというと』


「くっ!…酷い…酷すぎるわ…何なのこれは…私の絡繰り兵が暴走した上…互いに破壊し合っているじゃない!」


「くっ!絡繰り兵が自滅し、今が好機だというのに、反撃する気も起きない…三国の将も…皆、戦意を喪失している…いや…自我を喪失しているの!?」


「どぅふふ…どうだったかしらん?私の踊りは!?」


「「最悪よ!」」


同じ顔の王の叫びが、絶妙なタイミングでハモる


「あらん?アンコールが聞こえるわ!仕方わね…」


「ふむ。貂蝉…ちょっと、眠ろうか?」


「ゴぶはッ!?」


貂蝉の後頭部に一刀は、おもいっきりオロチを叩きつけた


「ふぅ…大丈夫か?曹操」


「…な、なんで、あんたは何ともないのよ?」


「慣れてるからな…」


遠い目をして、一刀は青い空を見上げる


「精神的にも…逞しくなったわね…一刀」


「え?」


「な、なんでもないわよ!取り敢えず、それはいらないわ。今ので害にしかならないことがよ~く!分かったから。高望みはしない。ちょっとの利益が出ればそれでいいのよ」


「なら…」


再び、ぐるりと周りを見渡す

そして再び、ある一点で目が止まった


「じゃ…桜をあげる」


「え?橋玄様を?え、えぇ。でも、いいのかしら?」


「あぁ。構わん。持ってけ」


「ちょっ!?えぇ!?なんで!?どうして!?」


「桜…胸に手を当てよく考えろ」


「…………ふっ」


胸に手を当てた桜は、ニヒルに微笑んだ

心当たりが有りすぎて、自分でもどうしようもないようだ


「一刀さん家の家計簿、見たことあるか?」


「…ぴ~♪ぷ~♪ぴゅ~♪」


桜は目線を逸らし、下手ぴな口笛を吹き始める


「おいコラ、目を見ろ、目を」


「やだよー!一刀と離れるなんてやだよー!お願い!取り消してー!一刀のこと、愛してるのー!」


「きょ、橋玄様…?」


近くで見ていた曹操が明らかに引いている

誰だって、自分の敬愛する師のこんな姿…見たくなよな


「ね、ねぇ、北郷一刀。この契約は無しにしましょう?私たちも兵糧は多いほうじゃないし。ね?」


「だって…。桜、ご飯は腹八分目にしないと盥回しに合うって、分かった?」


「う、うん!分かった!すごく、分かったよ!」


桜は何度も頷くと、拾われた子猫のように瞳を潤ませながら俺の腰に頬擦りした


「そうなるとー…」


「いいわ…こちらが指定するから。兵糧を頂戴。待つ間の半年分の兵糧よ。兵は絡繰りだから、将の分だけでいい。大事な民の血税だもの、全て寄越せなんて言わないわ。桂花!見積もりを出しなさい。真桜、凪、沙和は絡繰り兵を使って運ばせなさい」


「御意!」


「了解です!」


「分かったの~!」


「任しとき!」


曹操は苦笑すると、話は終わりだと手を振って舞台を降り始める


「半年後、楽しみにしてるわよ…北郷一刀」


「あぁ、期待は裏切らないさ」


「ふふ…」


曹操は微笑を残し、ちょっと数の減った絡繰り兵と魏の猛将たちに守られながら、会場を後にする

会場に溢れかえっていた絡繰り兵も徐々にその数を減らし、一刻後には破壊された会場だけが残された


「曹操の目的は偵察ではなかったようね」


「華琳?もう大丈夫なの?」


「あら?簡単に真名を呼んでしまっていいのかしら?私がこちらの世界の曹孟徳とは限らないわよ?」


「大切な人を見間違うわけないだろ?」


「あら?確証もないのに、よく断言できるわね?」


「全てにおいて違うからね。顔つきも、体格も、雰囲気も」


「…違うかしら?」


自分の身体を見回しながら、華琳は首を捻る


「違うよ。全然…」


苦笑すると華琳の頭を撫で、周りを見渡す

民は返され、今は兵たちが


「やられたな…」


「えぇ…この大会で三国の強さを見せ付けてやるつもりだったけど、逆に民へ不安を与えてしまったわね」


「何より、衝撃を受けたのは」


「ウチの将たちでしょうね。まさか、三国同盟を脅かす存在が自分たちだなんて…今でも、信じられないわ」


「違いない…」


魏ブースを見ると、意気消沈した将たちが静かにこちらを見つめていた


「…あの子たちの気持ち、よく分かるわ。でも、だからこそ私がやらなければならないのよね…一刀」


「君にしか、やれないことだよ、覇王曹操」


「…そうね…我は曹孟徳…魏の王にして…この大陸の王、なのよね」


胸に手を当て、目を閉じると小さく呟く

自身へ確認をするような小さい声

強く頷いた少女の瞳から不安や恐れが消える

少女は舞台に上がり、ゆっくりと三国を見回す


「我、曹孟徳が今、ここに非常事態を宣告する!三国同盟に危機が訪れた!先にも見たとおり、敵は別世界の魏なる集団!その戦力は未知数だけど、これだけは分かる。敵は圧倒的に強いわ。それでも、共に闘ってくれる者はいるかしら?」


敵の正体がはっきりとしたこの日


魏を始めとする三国の運命が、それぞれの想いを胸に新たな章へと、向かい始めた


それはきっと険しくも厳しい道のりになる


それを分かっていながら、乙女たちは武器を取り、少女の元へ歩き出した


何故なら、乙女たちには譲れない想いと守り抜きたい者たちがいるから


そして…何より


「よく集まってくれたわね…みんな」


「それは当然だよ♪華琳さん!」


「だって、私たち、親友でしょ?」


「っ…えぇ…そうね。私たちは親友であり大切な仲間よ!」


どんなに最悪な状態にあっても見捨てない、心から信頼できる仲間たちがいるのだから


「さぁ!三国会議を始めるわよ!」


「「「「応っ!!!」」」」


乙女たちは今、奪い去られようとする未来を再びその手に取り戻すため歩き始めた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ