三国武道大会 前編
「えー?私ですかー?」
于吉が口を尖らせながら
俺の布団に寝ていた
…い、いや!みんな、勘違いするなよ!?
あいつは朝方、俺の部屋に遊びに
来ただけだからな!?
そんな、誰かが望むような展開なんか
なかったからな!?
一刀×于吉とかなかったからな!?
華琳さん家にBL要素なんてありません!
『ちっ…』
今、舌打ちしたの誰だ――――!!?
「一刀、壁に話しかけて何をしてるのよ」
「そうですよ?精神科に
連れていかれますよ?」
「精神科?」
華琳が小首を傾げ、俺を見つめる
大丈夫!俺には必要ありませんから!
「えぇ、未来では身体の病だけではなく
心の病もあるんです。それを治療する
のが、精神科医やカウンセラーですよ」
「へぇ。未来も大変なのね
でも、一刀は大丈夫よ
毎晩、毎晩、毎晩、閨に女の子を
連れ込んでは元気に武道大会を
開いているもの。本当、いつになったら
私と闘ってくれるのかしら…ねぇ?」
明らかに怒りを含んだ声色で俺に微笑む
「はは…!何なら、今からでもいいよ?」
「ふふ…今すぐ、あなたの武器を
切り落として上げようかしら」
「ごめんなさい!!!
それだけはご勘弁ください!!!」
見よ!これが日本文化!土下座だ!!!
この年で息子とGood-byeなんて
あんまりじゃないか!真剣にもなる!
「ふぅ…まぁ、いいわ。それがないと
私も困るし。それよりも、于吉」
「武道大会に仙術を
使いたいんですよね?」
「えぇ。演出と装飾、あと、声が遠くに
届くような仕掛けと。出来れば
闘いの様子を別の場所で写すような
仕掛けが欲しいわね」
「ふぅ…料理店ですか?」
『注文の多い』と言いたいんだろな
よく、知ってるな、于吉
「?…武道大会よ?」
「何でもありませんよ。分かりました
それくらい容易いことです
ただ、条件があります」
「何かしら?」
「1日、一刀くんを貸してください」
「いいわよ」
「え?」
これは…腐ラグなのかな?
止めた方が良くないかな?
「ま、まっ!」
「それでは、よろしくね!」
「えぇ、よろしくされましょう!」
気付いた時には、既に遅かった
無情にも二人の手が結ばれてしまう
「(ま、間に合わなかった…)」
俺はその光景を見つめながら、膝をついた
『よし!』
だから、誰だよ――――!!?
それから数日後…
「うわ…ピーカン」
一刀が空を眺め、呟いた
「ぴいかん?」
横を歩く、華琳が首を傾げて見上げてきた
「お日様ギンギラ」
「ぎんぎら…」
顎に手を当て深く考えている
うちの華琳さんは本当に小さなことでも
真剣に考えるから、見ていて飽きない
「それより、華琳。今回の参加者
一般人からも募集をかけたって本当?」
「え?えぇ…優秀な成績を残した者に
部隊への勧誘を期待しているの
合わせて、敵を誘い出す餌でもあるわね
ほら、天の世界で私たちを襲ったヤツよ
アイツ、絶対に好戦的よ?」
「あぁ、猪っぽかったもんな」
「まぁ、正直、そちらはあまり
期待してないわ。こんな敵地に
ノコノコ現れる馬鹿はいないもの
春蘭でも、しないわよ」
苦笑しながら、華琳は顔を上げた
「当然だよな。何たって、三国の武将が
一同に会してしるんだ」
魏の城の中庭に来た俺たちの前には
魏呉蜀の武将たちが揃い
準備万端な様子でこちらを見ていた
「それじゃ、開会式に行くわよ
皆も準備して会場に向かいなさい」
今日は武道大会本戦
本戦というのは、一般募集を行い
予選を行ったからだ
三国の武将は本戦からの参加となる
ちなみに、どんな人が予選を通過したかは
本戦の対戦表が出るまで分からない
魏の武将(8名)
呉の武将(6名)
蜀の武将(8名)
その他(金ピカくるくる軍の2名+普通1名)
一般公募(3名)
天の御遣い(1名)
前回優勝者(1名)
???(2名)
計32名
というまぁ、ドデカい大会となった
武器は刃を潰した、真桜作の
『完全忠実型武器』を使用
場外、降伏宣言、泣いた場合は失格
急所(目潰し、金的)を狙った場合は失格
この試合は1対1を原則としているため
複数で襲いかかった場合、失格
「ていうか、華琳?」
「何?」
「天の御遣いって?」
「一刀のことに決まってるでしょ?」
「あぁー、やっぱり、俺も出るの?」
「当然♪骨は拾ってあげるから
思いっきり、逝きなさい」
「…いや、まだ逝きたくないッスよ?
でさ、もう一つ気になったんだけど…」
「ほら、もう着くわ。皆、並びなさい」
「………」
いつの間にやら、会場に到着
華琳に促され、皆が勢力ごとに別れて並ぶ
右から魏、呉、蜀、その他、一般、俺
そして、その横には
「あ…」
飛将軍呂布さんが、いらっしゃいました
「(う、うわー…)」
「じー…」
開会式の間、ずっと
俺を呂布が見上げていた
「ど、どうしたの?呂布さん」
「…恋でいい…」
「それって真名だろ?」
「(こくん…)」
「で、でも。流石に会ってすぐだと…」
「すぐ、じゃない。前に会ったことある
祭りの時。恋に食べ物くれた」
真っ赤になり、もじもじと呂布が俯いた
「えっと。三国が同盟を結んだ日かな」
流琉や季衣に沢山、ご飯を貰ったけど
体調が悪くて、食べきれなかった
(世界から消える数刻前の話だ)
そしたら、後ろでモリモリ食べてる
可愛い子が目に入ったんだ
「お礼、言いたかったけど…
いつの間にか…居なくなってた」
しょんぼりと呂布は俯いてしまった
「やっと、会えた」
キュッと服の袖を掴み笑顔で見上げてくる
「そ、そうか。待っててくれたんだね
(くっ~可愛いじゃないですか!)」
「(こくん…)」
呂布(恋)ファンの皆さん
一刀は今日、悟りました
この子は可愛い。俺もファンになったよ
「ありがとう…ご主人様」
「いいよ。って…ご主人様?」
「桃香がそう呼べって言ってた」
「はぁ…桃香、何を考えてるんだ?」
上から見下ろすように設置された
王様専用ブースにいる桃香を見る
勿論、席は三つ。雪蓮があそこに
居ることあるのかな?
「まぁ、ありがたく、真名は貰うよ
よろしくな、恋」
「うん、貰うといい」
二人が握手を交わしたところで
開会式は終わった
「恋。対戦表、見に行かないか?」
「うん。行く」
服の袖を掴んだままの恋を引き連れ
対戦表を確認しに行く
「おや、主
主も対戦相手の確認ですかな?」
趙雲さんが、服を掴んだ恋に苦笑しながら
問いかけてくる
「やぁ、趙雲さん。当たりは引けた?」
「いやいや、クジ運は昔から悪いせいか
主とは当たりませんした
誠、残念でなりませぬ」
本当に悔しそうに対戦表を睨みつけていた
つられて俺も対戦表に目向けた
へぇー、ブロックごとに別れてるのか
何か甲子園みないだな
「私の相手は秋蘭殿でした」
対戦表を指差しながら、趙雲が唸る
もう、戦略を考えているのだろう
「俺の相手はー…げっ!?」
「ご主人様?」
「おやおや、主は当たりクジですな」
「いやいや…ハズレでしょ?」
「恋は…流琉と」
流琉ー!頑張れよー!
『皆さーん♪準備お願いします♪』
「さて、それでは主。また、後で」
「また、ご主人様」
「あぁ、またな」
二人の背中を見送り
魏の観覧席に向かった
「必ず、勝つのだ!」
「「「応!」」」
「兄ちゃん!仇は、ボクが取るから!」
「き、季衣!兄様はまだ生きてるよー!」
「一刀に近付く悪い虫は
ウチが払ったるで!」
「ふふ…まるで姑のような文句だな」
観覧席に入って目にしたのは
燃え上がる少女たちの姿だった
「すごい熱気だな…みんな」
「あ、兄ちゃーん!」
「兄様ー!」
中に入ると皆の雰囲気が
少し和らいだ気がした
「この大会で、最高の武を見せれば
民の皆にも安心感を与えられるからな
本気にもなるさ」
秋蘭に促され、席に案内される
「まぁ、確かにね。でも何か
それだけじゃなさそうだけど」
「ふふ…鋭いな、北郷
実は今回、魏は絶対に負けるわけには
いかない理由があるんだ」
「理由?」
「恥ずかしながら、前回の武道大会で
魏は悲惨な結果を出してしまってな
全員が予選敗退。皆、早々に決着が
ついてしまい、茫然と他国の試合を
見ていたんだ」
「ぜ、全員…」
「だが、今回は何もかもが違う」
春蘭の言葉に皆が頷くと俺を見つめる
「格好付けたい相手がおんのと
おらんとでは、大違いやねん」
霞が笑いながら俺の肩を叩く
「そうです。私たちは隊長に
全てを見ていてほしい
貴方に誉めてもらいたいんです」
凪が顔を真っ赤にして拳を握りしめた
「沙和も、隊長に良いとこ見せるために
沢山、春蘭様と修行したのー!」
春蘭と!?沙和、どうしたんだ!?
「隊長が帰って来て、落ち着いたら
本当の自分っちゅうヤツに気付いてん
自分の闘い方を一から見直したウチらに
敗北の文字はないで!」
ニヤリと真桜は笑うと螺旋槍を担いで
舞台へと続く扉の前に立つ
その扉が開けば、リングは目の前だ
「ウチの本気…見といてな、隊長…」
「あぁ、分かった!見といてやるよ!
だから、負けるな!真桜!」
「にしし…!本当…気合いの
入り方が全然、違うわ!」
真桜は螺旋槍を高々と振り上げて
開け放たれた扉をくぐると
リングを目指して歩き始めた
「「「おおおおぉぉ!!!」」」
二人がリングに上がると大歓声が上がる
「第一試合は李典選手、馬超選手です♪」
くるりとリングの中央でメイドさんが回る
マイクを握りしめ、決めポ~ズ☆
素晴らしい!まるでアイドルだよ!空!
一刀が空を見て、小さくガッツポーズを
している頃。王様席ではというと
「ねぇ、桃香」
「な、何かな?華琳さん」
「櫨植様は昔から、あの様な方なの?」
「え、えーっと…恋する乙女は
いくらでも変われちゃうんだよね!」
「つまり、全然違うワケね…」
二人は、金髪メイドさんに
思いっきり戸惑っていた
「Are you ready?」
メイドさんが二人の間に立ち
手を振り上げて、盛大に叫ぶ
「意味は分かんないけど
準備なら、とっくに出来てるぜ!」
馬超が槍を構え、敵を見据える
「こっちもO.K.やー!」
二人の緊張が高まっていく
「FIGHT!!!」
メイドさんの手が振り下ろされた
"ガキン!"
と同時に互いの武器が交錯するも
"カン!キン!シュ!ヒュン!"
「くっ!やっぱ、早いなー!」
馬超の槍は迅速。真桜は何とか
防ぐことが、やっとのようだ
「へへん!これぐらいで、弱音吐くなよ!
私の槍はこんなもんじゃないぜ!」
さらに、馬超の繰り出す槍が速さを増した
「ま、まだ上がんの!?しゃあないな!」
真桜は軽く出された槍を
思いっきり弾くと、一旦離れる
「逃がすかよ!おおぉら―――!」
「ま、待ちぃな!」
"ガキン!"
「は!降参するなら今のうちだ!」
"ヒュン"
「わわ!こら、たまらん!」
"キン!"
「どうした、真桜。あの、男が帰って
来ても何も変わんないじゃないか
ま、それだけの男だったってワケだ」
"カン!キン!ガ!キン!"
「くっ!」
「はは!反論もなしかよ!
期待して損したぜ!」
"キン!ガ!キン!キン!"
真桜は反撃することもなく
ただ、防ぎ、飛び回り、時に転がりながら
相手の攻撃を避けていく
真桜が肩で息をし始める
限界も近いと見た、馬超は一旦
攻撃の手を休め、ため息をついた
「はぁ、終わりにするか…
あまりに力が違いすぎだし
恨むなら自分の力の無さと
くじ運の無さ。あと、そうだな…
男の見る目が無かったことを恨みな」
槍を構えた馬超がトドメとばかりに
一足で真桜を目掛けて飛んだ
「ふふ…勝ったな」
「あぁ」
「えぇ」
「うん」
秋蘭が呟くと皆が頷いた
それもそうだよ。なぜなら
「これで、終わりだー!」
馬超が低い体制で突っ込んでくる
「くふふ♪」
真桜は斜め前に転がって
それを軽々と避ける
「くっ!」
馬超はその様子を目で追いながら反転
瞬間、カウンターとばかりに
真桜が螺旋槍を突き出した
「ほ!は!そりゃ!もういっちょ!」
馬超は何とか、それを防ぐも
真桜の突きの雨は止まない
「く~っ!」
追い詰めていた敵からの
予想外の反撃に一旦、退くことを
選択した馬超は後ろに飛んだ
しかし…
「へ?うわ!わわわわ…!?」
"ドサッ!"
馬超は派手に転んでしまった
それもそのはず、真桜たちが
闘っていたのはリングの端っこだったのだ
『馬超選手、場外!真桜選手の勝利です♪』
「「「おおおぉぉー…」」」
「えぇ!?これ、あたしの負け!?」
「そーです!ほら」
真桜が手を出して、馬超を起こす
「ちぇー。まんまと、真桜の策に
嵌められたってワケか」
「生憎と、ウチらには挑発は通じまへん
認めてくれる人が、見ていてくれる人が
今回は、ちゃーんと居てくれはるから」
真桜が魏の観覧席を見ると
一刀が笑顔で手を振っていた
真桜も笑顔で手を振り返す
「…本当…すまなかった。挑発とはいえ
ひどいことを言ったよ、ごめん」
馬超が謝罪すると
真桜は笑顔で首を振った
「隊長と話してみてください
きっと、翠はんも惚れてまうから♪」
真桜は螺旋槍を担ぐと
意気揚々と魏のブースに戻っていった
「惚れる…か」
歓喜しながら真桜を抱きしめる一刀の姿を
一度だけ見ると、小さく微笑み
蜀ブースに戻っていった
その後も、魏は無難に勝ち進んだ
「やったー!あの、ちびっこに勝ったよ!
兄ちゃ――――ん!」
「待て!季衣!宿敵の張飛ちゃんに
勝って嬉しいのはわかるけど
鉄球!鉄球も一緒に着いてきてるから!
走っちゃだめ――――!!!」
「あ」
"ドカ――――ン!!!"
「はぁ…何をやってるのかしら
あの子たちは」
「あはは…華琳さんも
行ったらどうですか?」
「ふふ…そうね」
だが、当然、脱落もあった
「ごめんなさい…兄様」
「いや、よく頑張ったよ!
判定まで持ち込んだんだ
上出来じゃないか!」
「そうだぞ!流琉!
お前の成長を見れて、私は…
私は嬉しい…(ホロリ)」
「うわ!秋蘭が!
クールビューティ秋蘭が泣いたぞ!」
「「「うそ!?」」」
「何だ?私だって、涙くらい流すぞ?」
「春蘭、見たことある?」
「ない」
「………」
そんな中、いよいよ、俺の番が来た
「さてと、孫権さんと黄忠さんの
試合が終われば…俺か」
「準備はいらないのか?北郷
あの、黒い鎧とかは」
春蘭が季衣を膝に乗せながら振り返る
「そうだなー。着けとくか」
「着替えるなら、後ろの控え室で
着替えるといい。だが、あまり
時間を掛けるなよ?この試合
そう長くは…」
『完~了☆』
"キョピィ――――ン!"
「「「早っ!?」」」
『え?普通だろ?』
「いやいや、いくらウチの絡繰りでも
そんな、不思議は起こせませんて」
「最早、人の域ではないぞ」
『ひ、ひどいなー。人外扱いかよ
(確かに人、辞めて来たけどさ)』
「そうこうしている間に決着です!」
流琉がリングに向かって指を差す
皆で見ると、孫権さんが地面に
矢で貼り付けにされているところだった
寸分の狂いなく、黄忠さんが服の余りに
矢を打ち込んでいく
それも、かなりの至近距離から
『……黄忠さん、えらく怒ってない?』
いや、顔は笑ってるよ?顔はね?
「お、恐らく、年の話題に
触れてしまったんだろう」
秋蘭がヒクついた笑顔で
その光景を見ていた
「「「あぁ……」」」
"ド!ド!ド!"
「いや―っ!ごめんなさ―い!」
「ふふ…女は年を増すごとに
美しくなるのよ~?蓮華ちゃん?」
"ド!ド!ド!ド!ド!ド!"
うん。桜、蓮、空に加えて
黄忠さんも年の話はNG…っと
尊い犠牲を胸に、俺は前に進むよ
ありがとう、孫権さん……
「いいから、誰か助けてよー!」
『流石、五虎大将軍の一人
容赦がありませんでしたね
それでは次の試合に行きましょう!
次の試合は、注目です!』
リング上でメイドさんがくるりと回る
正面のディスプレイに
対戦カードが表示される
魏代表 呉代表
【 北郷 】VS【 甘寧 】
「「「おおおぉぉー…!!!」」」
その瞬間、凄まじい声が会場を包んだ
『す、凄いなー…』
「ほら、北郷!行ってこい!
皆をあっ!と言わせるのだ!」
「えぇ、頑張ってください!隊長!」
「「「頑張れ!」」」
ぐっ!と皆が拳を作って、頷いた
『あぁ、行ってくる!』
俺は、頷くと先に甘寧が待っている
リングに向かって歩きだした
「いよいよ、来たわね。一刀」
「でも、ご主人様って、本当のところ
どれくらい強いんですか?」
「そうね。あの絡繰り騒動で見せた
強さでは、正直、力量は見れないのよ
一刀がトドメを差した絡繰りは
皆でかなり、痛めつけていたし
絡繰り兵の集団を相手にした時も
周りには左慈や貂蝉がいたしね」
「そうですねー。ご主人様、単体の力は
まだ、誰も見たことないんですよね」
「まぁ、知っている人は居ると思うわよ?
この世界で6人くらいでしょうけど」
「あぁ!先生たちですね!」
「えぇ!話によれば、武の師匠は
先生たちらしいわよ」
「そういえば、ご主人様…
素手で闘うんですかね?」
「さぁ?」
二人はワクワクしながら、リングを眺めた
「あの黒い鎧、失敗でしょー」
雪蓮がカラカラ笑いながら
一刀を指差していた
「そうですね。あんな、重そうな物を
つけていては、思春殿の動きについて
行けず、翻弄されて終わるでしょう」
周泰が勝利は貰ったと確信して笑う
「北郷…面白い人だと思ったのだけど
ここまでなのかしら。少し残念だわ」
「あら、大丈夫よ?蓮華は十分に
面白い子だって、一刀には伝わってると
思うわよ?だって、会う度に恥ずかしい
格好にされてるんですもの」
「ね、姉さん!?」
「ま、呉の勝利は決定だよね~!
一刀が負けたら、可哀想だから
私の家来くらいにはしてあげる♪」
尚香の言葉に皆、笑うと
リングに目を向ける
「ふふ…はてさて
本当にそう、うまくいくかの?」
ただ一人だけ皆と違う者がいた
後ろで一人、酒を飲んでいた黄蓋だ
彼女だけは一刀を興味深げに見つめていた
「ふむ。ご主人様か…」
蜀ブースでは、関羽が顎に手を当て
深く考えこんでいた
「ねぇ、ねぇ、愛紗。何でお兄ちゃんの
こと、ご主人様って呼ぶのだ?」
張飛が首を傾げて見上げている
「ご主人様は、天の御遣い様と呼ばれ
三国の平和の象徴となっている御方だ
立場的に、桃香様より上の御方らしい」
「お姉ちゃんより上なのだ!?」
「まぁ、主はそんなこと気にせぬ御方
鈴々もいつものように
接するのが良かろう」
二人の会話を聞いていた趙雲が
苦笑しながら近づいてくる
「何だ、星。ご主人様とお話したのか?」
「あぁ。まるで桃香様のように
気の置ける、優男であった
そんなに悪い男ではないと思う
その証拠に…おーい!恋!」
控え室でご飯を食べていた恋を呼び出した
「ん…ご主人様?」
「お主、主に真名を預けたよな?」
「(こくん)」
リングに登った一刀を見つめながら
恋は頷いた
「そうか…恋のヤツ、真名を預けたんだ」
「おや、翠?お主も興味があるのか?」
ポツリと呟いた馬超に趙雲は振り返る
「ば、バカ言うなよ!あ、アタシは別に」
「別に恥ずかしがる事でもあるまい
私たちは生粋の武人なのだ
武人なら、より強者を求めるが定め
それが男なら尚更だろう?
だから、ほら、あの者の力
皆で見極めようじゃないか」
と杯を傾けつつ趙雲は実に楽しげに笑った
「そうだな、星。取り敢えず
裏に酒を置いてこい」
関羽も笑顔で頷くと
趙雲を引きずって控え室へ向かう
「やめろー!愛紗ー!
よい肴が目の前にあるのだ!
飲まねば、失礼に値するぞー!」
「酒を飲みながら観戦するほうが
ご主人様に失礼だろうが!」
"バタン!"
「いっちゃったのだ…」
張飛が二人を目で追いながら笑った
そこへ、試合を終えた黄忠が戻ってきた
「きっと、すぐに帰ってくるわよ
あの子たちだって、この試合は
見逃したくはないでしょうから」
「おか~さん!おかえりなさ~い!」
「ただいまー。璃々
いい子にしてたかしら?」
「うん♪」
黄忠が娘の璃々を膝に乗せながら
舞台に目を向ける
「さぁ、璃々…この試合、しっかり
見ておくのよ~。いずれ、
璃々のお父さんになる方の
晴れ舞台なんだから~」
「「「な!?」」」
「あの人が、璃々のおとーさん?」
璃々が舞台の上を指差し目を輝かせる
「えぇ♪璃々に弟か妹を
頂けるかもしれないわね~」
「「「なー!?」」」
蜀の皆も注目しているぞ!北郷一刀!
『さぁ、三国も大注目の一戦!
今日は皆さんにとって
忘れられない日になるんでしょう!
休憩はお済みですか?
いよいよ開始ですよ―――!』
「「「おおおぉぉー…!!!」」」
凄まじい歓声の中、『呉』の扉が開かれ
中から甘寧が現れた
「ふ…。とんだ余興だな
一瞬で地に沈めてやる」
そう呟きながら、音もなく歩くと
空の横に並んで『魏』の扉を睨みつけた
『おっと!甘寧将軍から、瞬殺宣言です!
それを受け、今、魏の扉が開かれる!』
"ギイィ―――…"
『………』
"ガシャ!ガシャ!ガシャ!"
扉が開かれ、ゆっくりと黒騎士が現れる
「「「(ごくり…)」」」
その見たこともない、異様な雰囲気の鎧に
威圧された観客たちは静まり返る
「ふん。威圧感だけは一丁前だな
しかし、実力とはまた、別の話」
"チリン…"
甘寧は武器を握りしめる。その拍子に
武器に付いた鈴が鳴った
『……始めようか』
甘寧の前に立った黒騎士は、そう呟く
『はい♪お二人とも気合いは十分の
ご様子ですね!それでは…』
「待て!」
腕を振り上げようとしたメイドさんに
甘寧が手で制止をかける
『『?』』
「貴様、武器はどうした?
まさか、拳とは言わないだろう?」
『何だ…武器を所望するのか?
ふむ、なら選ぶといい』
"パチン!"
頷いた一刀が指を鳴らすと
黒騎士の横に爆音と共に何かが降ってきた
「っ!?」
『太刀、弓、槍、双剣、鉄球
何でもござれだ…何がいい?』
黒騎士は『†』に手を置くと
問いかけてくる
「くっ!好きにしろ!」
『そうか。なら、コレだ』
黒騎士は頷くと奇妙な丸い物体を
六つ取り出した
「な、なんだそれは…」
訝しげに甘寧は黒騎士の手元を見る
『これは、立派な武器だよ。葉々さ
流琉の武器と同じ物だよ』
「しかし、小さい…」
『ふふ…なら試してみよう』
"ギュルン!…バギ!"
「っ!?」
試しに葉々を石畳に打ちつけて見せると
石畳は軽く割れてしまった
「「「おぉー…!?」」」
「え、えぐいわねー…あの武器…」
雪蓮が身を乗り出して
割れた石畳を観察する
「しかも、あれが六つとは。甘寧も
心してかからねば、危うかろうな」
黄蓋も、興味深いげに黒騎士の
武器を見つめた
「まぁ、でも…。思春の速さの上を
行っているようには見えないわ」
孫権が首を振り、苦笑する
皆も頷き、リングに目を向けた
『それでは♪武器も揃ったことですし!
行きますよ!Are you ready?』
「ふ…。どのような戦い方をするのか
楽しみだな…行くぞ!北郷!」
『 OK 』
互いに、武器を構える
『FIGHT!』
先に動いたのは黒騎士!
葉々を右から甘寧の顔に目掛けて放つ
「ふっ」
甘寧はしゃがみ、それを避けると
間合いをつめるために走り出す
"シャー!"
「ちっ!」
その出鼻を左から葉々が掠める
一歩下がると、また右から襲いくる葉々を
弾き、そちらから周り込み走りだす
その後を追うように葉々が襲い来る
それを、難なく避けながら
間合いを詰めていく
「(あの葉々、弾くと手が痺れるな
幸い、速さは私が上…ならば
避けることだけに集中するか)」
"シャー!ヒュン!"
『そう簡単には当たらないか…』
「(当たらないことに、焦り始めたか?
ふ…やはり経験が浅いな)」
「どうした?当たらないぞ?」
『みたいだな…ならば、増やそうか』
""シャー!""
葉々の数が二個から四個に増える
「っ…そうだったな…」
左右上下から葉々が襲い来る
「だが!」
一つ、二つと葉々を避け
三つ、四つと流していく
『これも駄目か…』
「のようだな…遠慮はいらん
六つ全て、使うといい」
『そうさせて貰おう』
"""シャー!"""
「ふ!は!」
甘寧は交わしながら、前に踏み出す
その足下に黒騎士は葉々を打ち出した
「ふ!甘い!」
"メリ!"
地面にめり込んだ、葉々を
更に力強く踏み込む
『む?』
黒騎士は引き戻そうとするが
葉々はピクリとも動かない
「一つ!」
引き戻すことを諦めたのか
黒騎士は更に葉々が放つ
右から一つ、それを流し
左から足を狙う葉々を避ける
"メリ!"
めり込んだ葉々を踏みしめ前に飛んだ!
「二つ!」
『……』
黒騎士は飽きることなく
葉々を真っ直ぐに投げ出し腹を狙う
それを軽く避け、更に前に進む
引き戻された葉々が足を狙い
後ろから襲い来る
甘寧はそれを飛んで避けた
着地と同時に葉々が襲い来る
「ふ…単調になってきてるぞ?」
"メリ!"
これで残り三つ
最早、甘寧の速さの敵ではなく
「四つ!五つ!」
次々と甘寧により葉々が
地面に消えていく
"シャー!"
「最後だ!」
"メリ!"
ついに全ての葉々が
地面に消されてしまった
「…終わりだな」
『ふぅ…』
黒騎士は肩を竦めて、ため息を吐いた
「武器を変えてもいいぞ?」
甘寧はクスリと笑い、待ってやると呟いた
―呉―
「あぁーあー…終わりかー
もうちょっと、楽しめると
思ったんだけどなー」
孫尚香が、口を尖らせながら苦笑する
「そうねー、もうちょっと
楽しめると思ったんだけど」
雪蓮も椅子に凭れかかり、ため息を吐いた
―蜀―
「なんじゃ、もう終わりか?
お館様も存外、普通の人間だった
ということか」
厳顔が杯を揺らしながら、心底
つまらなそうに呟いた
「そのようね。はぁ、あの方ならばと
思ったのだけど。残念ねー」
黄忠が杯の口をなぞり、ため息を吐く
「しかし、ご主人様はよくやったほうだ
相手は三国でも随一の速さを誇る甘興覇
暗殺を得意とする彼女を
近づけなかっただけで御の字だろう」
関羽も頷き、黒騎士を見つめた
「ん?」
ふと、関羽は違和感に気づく
―魏―
「くっ!北郷――!」
「「春蘭様ー!ダメー!」」
太刀を握りしめた春蘭を
季衣と流琉が必死に押さえていた
「落ち着け姉者。いくら、思春でも
北郷の命までは取りはしないさ」
「し、しかしだな。秋蘭」
「大丈夫さ。北郷は諦めていないからな」
「「「えっ?」」」
腕を組んだ秋蘭は、リングの上で
仁王立ちしている一刀を
面白そうに見つめていた
―玉座―
「うぅ…ご主人様…」
「あら、どうしたの?桃香」
「どうしたって…ご主人様
負けちゃいましたよ?」
「あら、あなたにはそう見えるのね」
「そうにしか見えませよ!
武器も完全に役割を終えてますし!」
「あら。一刀は、まだヤル気みたいよ?」
「本当に?」
「ふふ…えぇ♪」
華琳は小さく笑うと、一刀を見つめた
「ほら、待っててやる。武器を変えろ」
甘寧が小さく笑い、横にある†を見た
『…必要ない』
黒騎士はそちらを見ることもなく
静かに首を振った
黒騎士の両指から、悲しく垂れ下がる
葉々の糸を一瞥した、甘寧は苦笑すると
武器を構え直すと、冷たい目で
黒騎士を見つめた
「いいだろう。楽しませてくれた礼だ
一撃で意識を削り取ってやる
鈴の音と共に眠れ!北郷!」
"シュ…"
風を切る音と共に甘寧が消える
「終わったわね…」
雪蓮が口元をつり上げ微笑むと同時に
甘寧が一刀の目の前に現れた
"チリン…"
甘寧が一刀の頭目掛け
曲刀を振り下ろした瞬間
『 THE WORLD!時は止まる! 』
両手を広げた黒騎士が盛大に叫んだ!
"ガキン!"
「な!?」
曲刀を振り下ろした、そのままの姿で
甘寧が停止した。しかも空中で
「「「ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…」」」
「くっ!?妖術か!?」
『………』
黒騎士は肩を竦めて首を振った
「な、なに?」
ここ、と黒騎士は甘寧の目の前を指差す
「こ、これは、"糸"!?」
『正解だ』
黒騎士は手を叩き、賞賛する
「まさか、戦闘中に張り巡らせていたのか
では、葉々を地面に埋めさせたのも!」
『そう。葉々を甘寧さんを囲うように
糸を伸ばし、ワザと甘い場所に葉々を
誘導する。地面に埋めれば
甘寧さんが固定してくれる
あとは、その大きな糸の輪の中に
甘寧さんが来るように俺が立てば完成』
「くっ…私がお前を斬るために目の前に
立つことも、計算していたのか?」
『それは、甘寧さんを信じていたんだ
真っ直ぐで優しい甘寧さんなら
きっと、一撃で眠らせるために
目の前から斬り込んでくるだろうって』
「な…///」
真っ赤になった甘寧が目をそらした
『信じてたよ、甘寧さん』
「……し、思春だ」
ポツリと甘寧が呟く
『え?』
「お前の強さはよく分かった
私を倒した、唯一の男だ
敬意を払い真名を預ける…」
『あ、あぁ…ありがとう、思春』
「ふ、ふん///」
『あ、あのー…勝敗は?』
メイドさんが苦笑しながら近づいてくる
「この通り、私は動けん」
いくら力を入れても、糸が解けることは
なかった。当然だ。これはただの糸では
ない。鋼を何重にも編んで作られた
ワイヤーなのだ
『分かりました♪甘寧将軍は戦闘不可能!
よって!北郷様の勝利です!』
「「「おおおぉぉ――――…!!!」」」
歓声を聞きながら、甘寧に話しかける
『今、解くから』
「あ、あぁ」
葉々の起点は俺自身
俺が近づけば、自然と糸も弛む
"スタッ"
複雑に絡む糸を脱して、思春が一息つく
「ん?ということは…お前も私に
攻撃出来なかったわけか?」
糸の痕をさすりながら、見上げてくる
『いいや…出来たよ。ただ…』
俺は首を振り、苦笑する
『その疑問!私がお答えしましょう!』
人ぐらいの大きさの丸太を肩に担いだ
我らがメイドさん、登場☆
「櫨植様?」
思春が不思議そうに丸太を
担いだメイドさんを見つめる
『よっいしょ♪さぁ!危ないので
甘寧さんは、こちらに!』
「は?ま、待ってください!」
思春が先ほどまで立っていた場所に
丸太を立てると、メイドさんは
思春の手を引っ張りリングを降りる
『思いっきり、ヤっちゃってください☆』
メイドさんが親指を立て微笑んだ
『ははは…そういうこと…
自分が作った葉々の性能を
披露したいわけね』
俺は苦笑すると丸太に向き直る
「な、なにが始まるんです?」
『ふふ、甘寧将軍も見ておいてください
降伏して正解だったと
心の底から思いますよ?』
「は?」
俺は二人の会話に苦笑しながら
一歩ほど下がると両手を広げ叫んだ
『 THE WORLD!時は止まる! 』
"ギュン!"
丸太が締め上げられ、少し宙に浮く
「「「(ごくり…)」」」
観客も、三国の将も、玉座の二人も
皆がリングに視線を注ぐ
"カ…カカカ…"
「「「?」」」
突如、聞こえ始めた音に皆が首を傾げる
"カッ!カッ!カッ!カッ!"
「「「!?」」」
皆が聞いていた音
それは複数の笑い声だった
笑い声は、地中から響いている
『THE†END』
黒騎士の声が会場に木霊した
"ボコッ!"
瞬間、地中から六つの葉々が抜け
凄まじい勢いで糸を辿り始める
"カカカカカ…!!!"
「葉々が笑ってる…」
動けない丸太の周りを
嘲笑うかのように葉々が飛び回る
やがて、一つの葉々が丸太を掠った
"バキ!"
丸太の表皮が剥がされる
"バキ!メリ!パキ!メキ!"
次第にその数が、速度が、増していき
丸太の身を削り取っていく
"カカカカカ…!!!"
"バキ!メリ!バキ!バキ!メキ!"
あっという間に棒切れと
化してしまった丸太はついに
"バキ!!!…からん…からん…"
真っ二つになり、地面に落ちた
葉々は次第に減速し、やがて
すっぽりと黒騎士の手に収まる
『ふぅ……アレ?』
周りを見渡すと会場が静まり返っていた
取り敢えず、観客席を見る
「ひぃ!?…ガタガタ…ブルブル…」
『アレ?』
気を取り直し、蜀ブース
「ひぃ!?」
『アレレ?』
呉ブースは!?
「ガタガタブルブル…!!!」
『アレー?』
魏ならどうだ!
「し――ん(もぬけのから)」
『はは……誰もいないや…(ほろり)』
そうだね。きっとこれから、俺は
『封印指定』とか『超危険人物指定』に
されて一生、日を拝めなくなるんだ
はぁ、力って何だろ
『なんてな……』
手の中の葉々を見て、微笑む
答えなんて、分かりきってるさ
"パチ!パチ!パチ!……"
そんなことを考えていると
上から拍手が聞こえてきた
玉座席から身を乗り出している彼女は
『……華琳?』
「初戦通過、おめでとう一刀!
強くなったわね!あなたの力
恐ろしいまでに成長したわ
そこで、問いたいの
あなたは、その力で何を
成そうというのかしら」
華琳の真剣な眼差しに、俺は兜を取る
周りをゆっくりと見渡し
真っ直ぐに華琳を見て答えた
「…そんなの決まってる!
民も!兵も!将も!王も!
この大陸全ての人々を守るために
俺は力を振るうんだ!」
「「「 !!! 」」」
「ふふ…だそうよ?桃香、雪蓮」
「うん♪ご主人様なら間違いよ!
安心して、守ってもらえるもん!」
「そうね。これだけの力を持ってしても
揺るがない信念…傷み入るわ」
「他の者も、心せよ!力は恐ろしいもの
それをどう使うかは、心次第よ!
この男のように、信念を持って
力を振るいなさい!」
「「「おおおぉぉぉ……!!!」」」
皆が、盛大な歓声と拍手を贈る中
俺は深く頷いて、リングを降りた
「うふん~ご主人様。完全に
曹操ちゃんに助けられたわね~」
「あぁ。完全に北郷のヤツ
アウェイだったもんな」
「ヤケになって、三国を
滅ぼさなくてよかったですよ」
「流石は、私の愛弟子だよ♪
あとで、なでなでしてあげなくちゃ♪」
「しっかし、空もエグいの作ったわね
丸太が棒切れって…普通にヒクわよ」
「何でも、葉々には糸を巻き取る装置が
組み込まれいるようですよ」
「あら~、未来でいう
超モーターみたいな物かしらん?」
「どれだけ、オーバーテクノロジー
なんだ、この世界は」
「おや、左慈の医術だって、この世界では
かなりオーバーしてますけどね?」
「それを言うなら、お前の作った
ステレオ、マイク、プラズマテレビ
最悪なのは『立体ホログラム』
完全に有り得ないだろ、これは」
「あー、これは全部『仙術』の一言で
片付きますから!ははは…」
「本当…都合いいな『仙術』って」
「いや~!(テレテレ)」
「誉めてないぞ」
「ちなみに、一刀くんの葉々、アレも
"気"で動いているですよ
モーターの動力は"気"なんです
流す"気"の大きさでモーターの回転数を
調整していたんですねー
だから、大木をぶっ飛ばす威力の葉々も
一刀くんの手には、大人しく収まった
というわけなんです」
「本当!『仙術』って都合いいな!」
「いや~!(テレテレ)」
「だから!誉めてない!」
「あ…そういえば、甘寧ちゃん
一刀に真名、許しちゃったね」
「あぁ…あの子?少し、一刀に惹かれた
みたいね。でも、これはこれで一波乱
起きる気がするわね」
「何で?」
「考えても見なさい。興覇は蓮華の
懐刀よ?蓮華から見て、家臣が
良くも知らない男に取られたら
悔しいじゃない。しかも、雪蓮も
一刀を認めたみたいだし
さて、蓮華はどう動くかしらね」
「う~ん。どう、動いても結果的に」
「まぁ、食べられるでしょうね♪」
「違いないですね」
「だろうな」
「よね~」
と、白い目で噂の人物である俺を見る
「どうでもいいけど、そういう話は
本人がいないところで
やってくれないかなー?」
「北郷」
「何だよ」
「暇だ。腹も減ってる」
「だから?」
「外に屋台が並んでるんだ」
「だから?」
「しかし、お金がない」
「だから?」
「くれ」
「ダメ」
「…この世界の親父は冷たい」
「お前、本当に黙れ」
「ひゃっほー!お前ら!
今日は俺の奢りだ!
屋台を食べ尽くすぞ!」
「「「おぉー…!」」」
バカ息子が俺の財布を握りしめ
選手控え室を出て行く
それに続いて、桜たちも出て行った
「はぁー…」
どんどん、左慈のキャラが
崩壊していっている気がするよ
外史起点の北郷一刀さん
「ふふ…お父さんも大変ね」
バカ息子共と入れ違いに
華琳が控え室に入ってくる
「俺がお父さんなら
華琳がお母さんだろ?
アイツら、どうにかしてくれよ」
「ふふ…いいじゃない。子供は元気に
限るもの。左慈も今を思いっきり
楽しんでいるのでしょ。だからこそ
ああした、笑顔が出て来るのよ」
「そんなものか」
「そんなものよ」
華琳は微笑むと、椅子に座っていた俺の
背中に覆い被さった
「華琳」
「ん?」
「ありがとう」
「何が?」
「華琳があそこで助けてくれたから
今、こうして落ち着いていられる」
でなきゃ、力を持ったことに
不安が生まれていたところだ
「正直、私も怖かったわ」
"キュッ"
華琳の腕に力が入る
「でも、一刀の答えを聞いて安心した
真剣に真っ直ぐ見る目に安心した」
「よかった」
「一刀…信じていいわよね?
私、一刀に背を任せてもいいのよね?」
俺は立ち上がると、振り返り
華琳の前に立つ
「一刀…?」
振り返って気付く。彼女の瞳は濡れていた
「あぁ…任せてくれよ
華琳の守りたいもの全て」
涙を指で拭い、顔を寄せる
「一刀…」
華琳も目を閉じる
俺は彼女の顎を上げさせ
口付けを
「「じー…」」
「「……」」
「「じー…」」
「何をしてるのよ…あなた達」
控え室の入り口でこちらを見る人々
三国の皆さん方ですねー
「わ!バレちゃったよ!雪蓮さん!」
「お、落ち着きなさい、桃香!
ほら、二人も私たちのことは
通りがかりの虎だと思って
気にせず…」
「やれないわよ!通りがかりの虎って
どれだけ、周りが見えてないのよ
そいつは!逆に見て見たいわ!」
「え?しないの?」
肩を置いた華琳の目を見つめる
「ま、まさか、目の前に居たとはね…」
華琳が頭を押さえ、何かに耐える
「ははは…冗談だよ」
「もう…。それで二人は『五人』…え?」
「五人だよ。思春と関羽さん
それに孫権さんが来てる」
「す、すみません…」
「じゃ、邪魔をしたわね、北郷」
「ふむ」
俺が名前を呼ぶと、三人が姿を現した
「…へぇ。蓮華や愛紗は兎も角
気配を消した思春に気付くなんて
凄いじゃない」
目を細め、こちらを品定めするように
ゆっくりと見てくる
「ははは…先生たちに鍛えられたからな」
「母さん達か…確かに、あの人達なら
何でもアリな気がしてくるわ
そう考えれば、彗星を受け止めたー
なんてハッタリも本当に聞こえるから
不思議よねー」
「ははは…」
言えない…本当のことだ、なんて言えない
だって、さっきので、あの反応だもん
今度こそ、ドン引きされるに決まってる!
「北郷」
冷や汗を拭うと、蓮華が前に出てくる
「御用でしょうか?お嬢様」
「「「!?」」」
自然と口から流れた言葉
「ば、バカにしているの!?」
「滅相も御座いません、お嬢様
私は至って真面目で御座います」
恭しく、頭を垂れる
「っ…そ、そうなの?ごめんなさい」
「こーら、一刀。ウチの可愛い妹を
虐めないでくれるかしらー?」
「はは…悪い。孫権さんが見事に
眉間に皺を寄せてるからさ
折角、可愛い顔なのに
勿体ないと思ってね」
「か、かわ!?」
「華琳もそう思うだろ?」
「ふふ…えぇ、同感ね
そんなに怖い顔をしていては
折角の良い素材が勿体ないわよ」
華琳は微笑み、孫権の頬を撫でる
「っ!」
「華琳も悪るノリしないの」
「ふふ…ごめんなさい」
チロッと舌を出して、悪戯っぽく
微笑むと手を引いて下がった
「で?本当のところ、どうしたんだ?」
「えぇ!?あ、えっと…そうだったな!
私と勝負をしてくれ、北郷」
「勝負?」
「あぁ。1対1の真剣勝負。武器は太刀
時間は休憩時間が終わるまでだ」
「本気なの?蓮華」
華琳が肩を竦め苦笑する
「本気だ」
孫権の真っ直ぐな瞳が俺を見つめる
「ふむ…」
「私からもお願いするわ、一刀
別に、この子は一刀を認めていない
ワケではないの。ただ、機会がなくて
このままだと、踏ん切りが
着けられないだけのよ。お願い
この子が踏み出すきっかけを
与えてくれないかしら」
雪蓮が頭を下げようとする
「雪蓮」
「っ…」
俺は雪蓮の横に並び
下げられようとする上体を片手で支えた
「王が簡単に頭を下げちゃいけないよ
たとえ、大切な姉妹の為であってもね」
「一刀…」
「任せろ」
雪蓮に笑顔で頷くと、孫権に向き直る
「勝負だ。孫権」
「あぁ、勝負だ。北郷」
二人は頷き合うと裏庭へ向かい歩き出した
「準備はいいかしら?二人とも」
『あぁ』
「えぇ」
裏庭にはも実戦用の鎧を
身に付けた二人が立っていた
二人の横には華琳が立っており
更に遠巻きに、雪蓮、思春、桃香、関羽が
邪魔にならぬようにと見守っていた
「それでは、立ち会いは誰にしようしら
蓮華、希望はある?」
「覇王曹操に願いたい」
「"華琳"ではなく"覇王"を示すか…
"友"ではなく"大陸の王"の目で
立ち会いを行ってほしいと…
本気なのね?孫権仲謀」
「私はいつだって本気よ」
「ふふ…その意気やよし!
北郷一刀!貴方も覇王の立ち会いを
希望するのかしら」
『異論ない』
大蛇から太刀を抜き、前に出る
「いいでしょう。曹操孟徳が
この試合、見届ける
両者、己が名に恥じぬよう
命を賭して闘いなさい」
二人は頷き、華琳の前で対峙する
「北郷、感謝するわ
私の願いを聞き入れてくれて
ありがとう」
『ふ…気が早いな。礼なら、勝利を
勝ち取ってからにしたまえ
今は、目の前の敵を倒すことだけに
集中する時だ。孫権仲謀』
太刀の切っ先を突き付け
冷たい目で睨みつける
「っ!…そうね…そうだったわ
ごめんなさい。今は貴方に勝つこと
だけを考えるべきだった」
目を閉じ、深呼吸する
次に開かれた孫権の目は
血に餓えた虎と同じ目をしていた
「覚悟は決まったようね
では、両者、構えなさい」
『命を懸けろ。あるいは
この身に届くかも知れん』
一刀が重力に任せるように、ダラリと
太刀をぶら下げた
漆黒の瞳が孫権を見据える
「断末魔すら、上げさせない
その喉笛、私が噛み千切ってあげる」
対する孫権は
太刀を握り締め、正眼に構える
虎の視線が敵を食い尽くさんと
あらゆる急所に注がれていった
「……始め!!!」
華琳の声と同時に、両者は飛び出した
「っ…いたた…北郷、少しは手加減
してくれてもよかったんじゃない?」
腕を押さえた孫権が恨めしげに
こちらを見つめた
「したよ、十分」
俺は兜を取り、苦笑した
「嘘よ!太刀の速さなんて、戦場で
壊れた姉さんと変わりなかった!」
化け物よ!と孫権が叫ぶ
「ちょっ!誰が化け物よ!誰が!
私は戦狂いかもしれないけど
一刀みたいに無茶苦茶やってる
つもりはないわよ!?」
ムキー!と両手を振り回した雪蓮が
俺を指差した
「やってないっけ?」
「(……サッ)」
華琳を見ると目をそらされる
話を振るなってことか
「なぁ」
「「「(サッ)」」」
みんな一緒だった
「何よ!みんなして!私は一刀より
マシなハズよ!慈悲もあるし
無謀もしない。何よりあんな
有り得ない動きしないわよ」
何?この鎧!?皮か何かで
出来てるんじゃないの!?
と俺の鎧を叩く
"コン!コン!"
「あはは…確かに、速さも動きも雪蓮殿と
変わりありませんでしたね
私でも、勝てるかどうか」
苦笑しながら、関羽さんが頷く
「………」
と視線を感じて、そちらを見る
思春が不思議そうにこちらを見つめていた
「どうかした?」
「北郷。手加減をしたと言ったが
この立ち合い何割くらいで闘った?」
「一割八分(18%)くらい」
「一割八分…」
ズ――ンと孫権が頭を垂れた
「わ、私の時はどうだった?」
真剣な表情で、思春が詰め寄る
「んー、二割五分七厘?(25.7%)
でも、あの広い会場だからだよ?
戦場や、屋内、森の中になれば
隠密部隊の思春だと
四割くらいになるだろうね」
「そ、そうか!」
少し、嬉しそうなのは何故?思春さん
「じゃあじゃあ
私ならどれくらいかな?」
桃香が自分を指差し、目を輝かせる
「……さ、三厘?」
「愛紗ちゃん!ご主人様がイジメるよ!」
「…いえ、私も同感です」
「そんな~…!」
しくしくと泣きながら、雪蓮に抱きついた
「よしよ~し。悪い、種馬さんは
私が懲らしめてやるわね~」
"コン!"
雪蓮が軽く、鎧を叩く
あんまり、叩かないでくれよ
凹んだら"カーコンビ二"を
探さなきゃならなくなるだろ
ていうか、鎧も修理してくれるのかな?
「一刀。覚悟しておきなさい♪」
「ん?」
「一刀の次の相手、私だから♪」
雪蓮は自分を指差し、不適に笑った
『さぁ!休憩も終わりまして
いよいよ午後の部、開始となります』
「行くぞ!真桜!」
「ま、待ってや!春蘭様!」
「待たん!」
「ひょえぇー!!」
試合も進むごとに
同勢力でつぶし合いが起き始める
今回、勝ち残った面子には
魏が多いから、仕方ないわけだけど
「行きます!隊長!」
「凪が相手か!んじゃ、俺も
今回は武器は止めよう」
「ええぇ!?隊長もですか!?
隊長は武道の心得もあったのですね!
って……、隊長。それは?」
「ん?闘魂タオル」
「隊長。意味が分かりません…
隊長!?何で服を脱いでるんですか?
そんなパンツ一丁で何する気ですか!
タオル?え、えぇ、お似合いですよ?
そうじゃなくて!そ、そのマイク…
い、今、パンツの中から…」
「元気ですかー!」
「…隊長?」
「元気があれば、何でもできる…」
「隊長!?」
「いくぞー!イー!アー!サーン!」
「「「「 ダ――――!! 」」」」
「隊長――――!?」
そうして、大盛り上がりのまま
試合は着々と進んでいく
「さっきの試合は盛り上がったわねー」
「雪蓮殿、今は私との試合ですぞ?」
「あら、ごめんなさい。星
お詫びに 少し、本気でやってあげる」
「いいえ!手を抜いて頂いて結構
楽に勝ち上がれるなら
それに越したことはないので」
「ふふ…いうわねー。でも、ダメよ
この先に戦いたい相手がいるの」
「おや、奇遇ですな!実は私もどうしても
手合わせしたい者がおりましてな」
「へぇ…趙雲将軍が気になる相手か
是非とも私も見てみたいわねー」
「江東の小覇王、孫策殿が気になる相手
というのも気になりますなー」
「「ふふ…ふふふふ……」」
それぞれの思惑を胸に
「ふ!やるのう…黄忠殿!」
「いえいえ…先達者のあなた様には
遠くおよびませんわ、黄蓋様」
「待て。儂とお主はそう年は
変わらぬじゃろ?」
「ふ、ふふふ……」
「あ、あれ…儂、やってしもうた?」
「行きますよ?」
「待て!話せば分かる!」
「分かりません♪」
それぞれの信念を胸に
試合は進んでいく!
次はいよいよ準々決勝、準決勝
そして……決勝戦だ!
『それでは準々決勝戦を始めます!』
【第一試合場】
夏侯惇 ― 恋
孫策 ― 一刀
【第二試合場】
関羽 ― ???
張遼 ― ???
「なぁ、一刀」
対戦表を見ていると
張遼が話しかけてきた
「ん?霞か」
「この、"???"って誰なんや?」
「いや、俺も華琳に聞いたんだけど
教えてくれないんだよね」
「てことはー、華琳は知人っちゅうことか
なんや、華琳の招待かいな」
「さぁ?でも、実力は本物だろうね
何たって、三国の将が次々、倒されてる
注意は必要じゃないかな?」
白いローブを身に纏った二人の女性
一人は身長が小さいのだが
その動きは恐ろしく速い
一人はゆったりとした物腰の女性
その技のキレは恐ろしく鮮麗されている
「まぁ、強いヤツと闘えるなら
誰でもええわ。んじゃ、一刀
また、あとでなー」
「あぁ!」
「「一刀~~!」」
かけられた声に振り返ると
桜と蓮が何やら抱えて歩いて来ていた
「んー!ここの屋台は最高だね!」
はーい♪と、たこ焼きを差して
桜が食べさせてくれる
「んぐっもぐ…うん。確かに」
「でしょー♪」
ニコニコと桜が笑う
うん、小さい身体に幸せが一杯だね、桜
「一刀、次は娘と試合なんでしょ?」
リンゴ飴をかじりながら
蓮が小首を傾げる
うむ、蓮に浴衣着せたら
きっと、綺麗なお姉さんになるよ
「ああ、雪蓮とな
強そうで、ワクワクしてるよ」
「お願いだから、熱くなりすぎて
試合会場を壊さないでよ?」
「気をつける」
「それじゃ、桜、行きましょ♪」
「うん!」
二人はあっという間に食べ終えると
白いローブを着て、人混みに消えていった
「………」
霞、関羽さん、気を付けるんだ…
相手は恐ろしく強いぞ…
「一刀~♪なに、ぼーっとしてるの?」
「しぇ、雪蓮?」
腕にたわわな感触を受け振り返る
腕に手を絡め、身を寄せてきた犯人は
孫策さんでした
「ほら、早くしないと試合が
始まっちゃうでしょ?」
「あ、あぁ。あの、とりあえず
離れてくれない?」
「やだ」
「何で?」
「華琳の視線に怯える
一刀が楽しいから♪」
「……周瑜さーん」
「す、すまん、北郷。ほら、雪蓮!
呉の控え室に帰るんだ!」
「やーだー!離してよー!冥琳!」
「黙れ!バカ娘!」
「いったーい!グーはないでしょ!?」
「ほう。…なら、パーだ」
「いったーい!」
ギャーギャー騒ぐ二人を見送り
俺も魏の控え室に向かった
ドンドコ!ドンドコ!ドンドコドン!
パーフー!パーフー!パッパッパッー!
魏のブース…そこはカオスと化していた
「あーっははは!」
「頑張れー!春蘭様ー!」
「ヤレ!勝てー!ソレ!勝てー!」
太刀を掲げた春蘭を中心に
季衣と流琉が太鼓を叩き
ラッパを吹き鳴らしながら
ヘンテコな舞いを踊り、ぐるぐる回っていた
「な、なんだこれは…」
「あ!兄様!」
「兄ちゃん!」
「おぉ!北郷!」
「何だよコレ…」
「これはですね!私たちの村に伝わる
必勝の舞『テンテコの舞』です!」
テンテコの舞?…てんてこ舞い?
「中心に立った者の気持ちを荒ぶらせ
極限の力を引き出すことができる
最強のおまじないなんだよ!
兄ちゃんもやろうよ!」
荒ぶらせ?極限の力?
それって、テンパって枷が
外れるってこと?
確かに、火事場の馬鹿力とかいうけど…
「い、いや…いいよ…」
なんか、暴走しそうだからいい
「なんだ!北郷!お前もするといいだろ
これで、極限の力が手に入れられれば
易いものではないか!あははは!」
「春蘭こそ、必要ないだろ?
もう、春蘭はそんなの必要ないくらいの
力を手に入れてるじゃないか」
そう、君は常時、枷なんて外れてる
だって君は、バカじゃないか!
「あははは!そうだな!私はもう
これ以上ないくらい最強だ!」
ふふ…素敵だよ!春蘭!
そんな"単細胞"なところ
お兄さん、大好きだぞ☆
「それはそうと、春蘭
次の相手は大変な相手が来たな」
魏武の大剣 夏侯惇
対するは、飛将軍 呂布
最強のカードがここで揃ったワケだが
何やら観客以上に春蘭の気迫が熱いな
何か因縁でもあるのか?
「ふむ。恋だろ?前回は奇しくも、初戦で
魏は全滅だった。やっと…やっとだ!
やっと、三国最強と謳われる者に
挑むことができるのだ!」
「あぁ、だからか。強い者と闘いたい!
ライバルを超えてより高みへ!って
気持ちは、どの世界でも同じだな」
『週刊・ホップ!ステップ!』には
沢山、そんな人たち出てきてたね~
「おぉ!北郷も分かるか!」
「当然だ!!!」
龍の玉は、世代を越えて愛される名作さ!
孫ゴクウにはドキドキしっぱなしだった
あれ……?その子孫が呉の"孫家"?
孫家はサイヤ人だったのか!?
なら、雪蓮が戦狂いなのも…
戦闘部族の血だからか!?
ヤバい!何か勝てる気がしない!
「なワケないって!」
孫家がサイヤ人?ないない!
強制自己完結。嫌な予感を拭い去れ!
と春蘭に向きなおる
「でも、三国最強の武人か」
三国がまだ争っていた頃に
呂布が残した伝説を思い出す
黄巾党の軍勢が突如、現れた
その数三万
悠々と軍勢は都周辺の村々を襲い
その力を蓄えながら都へ向かっていた
もう少しで都、というところで
二人の少女が軍勢の前に立ちはだかる
一人は真紅の旗を掲げ
一人が槍を担いで、その前に出た
力を蓄え、志気も上がっていた黄巾党は
少女たちを蹂躙せんと、多勢で襲いかかる
三万 対 二
少女たちに勝ち目などあるはずない
黄巾党の誰もが、そう思っていた
しかし、数刻後
真っ赤に染まった大地に立っていたのは
二人の少女だけだったという
『真紅の呂旗』という少女の強さを
世に知らしめた事件であった
一騎三万を果たした少女『呂布』
その戦を支えた軍師『陳宮』
それを御する『董卓』の名は瞬く間に
大陸中に広まったのだった
「春蘭、相手は三国最強の猛者だぞ?
なんか、秘策でもあるのか?」
「今更、何を言っているんだ?
そんなの決まっているだろうが」
「お!?秘策があるのか!」
「勿論だ!こう、ばー!とやって
がー!とやって、最後に、ずばーっ!
これで勝ったも同然だ!」
と自慢気に春蘭が胸をはる
「うん!さすが、春蘭!
よく分かったよ!」
君が三国一の残念な子だってことが!
そんな愛する君に微笑みをプレゼント☆
心して受け取れよ…
「そうか!分かるか!あははは…!」
「ふふ…」
「北郷」
春蘭のバカ笑いを見つめながら
虚無の瞳で微笑んでいると
春蘭の妹、秋蘭が話しかけてくる
「北郷、姉者は可愛いだろ…」
「あぁ…」
とりあえず、鼻血を止めよう秋蘭
姉バカな妹に、ちり紙を渡し
もうすぐ始まる試合会場に目を移した
試合会場を飛び回る鳥を見つめ
「うん、頑張ろう」
と一言、呟いた
『夏侯惇将軍!呂布将軍!前へ!』
「ふふ…この時をどれほど
待ちわびたことか…」
「恋も…一緒…」
「そ、そうか?天下の飛将軍に
そういってもらえると嬉しいものだな
ならば、その期待に応えてやろう!」
「うん」
『ふふ…お二人とも気迫十分ですね♪
それでは!Are you ready?』
「ふふ…行くぞ!恋!」
「来い…」
『 FIGHT!』
「おおぉぉー!」
春蘭が先手必勝とばかりに
太刀を振り上げ切りかかる
「っ…やる…」
受け止めた恋が一歩後退しながらも
押し返し、反撃とばかりに
横凪の一閃を放つ
「ふ、まだまだ!」
「くっ…まだ…」
太刀と槍の攻防は次第に激化していき
最早、動きを捉えられるのは
数人だけとなっていった
「やはり、強いな!三国一と
謳われることだけはある!」
「春蘭も強い…愛紗と同じくらい」
「そうか…愛紗と同じか
ならば、これならどうだ!」
「っ!?」
突き出された槍を
しゃがんで避けると
一気に跳躍し、槍を跳ね上げた
「はっ!」
そのまま、兜割りのように
恋の頭目掛けて振り下ろす
「それは無理…」
跳ね上げられた槍を横に寝かせ、頭を守る
「ふふ…」
しかし、春蘭もそれを読んでいた
軽く当てるくらいで済ませ
恋が押し返す力を利用して
下段から切り込んだのだ
「くっ!?」
恋は後ろに飛び、何とかこれを避ける
「どうだ、恋!」
「ん…訂正…愛紗より少し強くなった」
「あははは!そうだろう!
私だって、日々、学び
力を付けているのだ!」
「ああ、春蘭は言ってるけど?」
「あぁ。姉者は政務が出来ないからな
兵の調練も今は次世代への引き継ぎ
ということで、三羽烏や親衛隊に任され
華琳様からの命令がない日は
日がな一日中、自主警邏か
自主鍛練をするしかないのだ
残念ながら、皆、最近は忙しく
姉者の鍛練に付き合えないでいる」
裏庭で1人、黙々と太刀を振る
春蘭の姿を想像する
朝から晩まで…黙々と…
誰かと闘える日を願って…
雨の日も…風の日も…猛暑の日も…
ただ、誰かを待って…黙々と…
「…春蘭」
「「「「春蘭(様)…」」」」
魏ブースが深い悲しみに包まれていった
舞台の上の春蘭がこちらを鬼の形相で見る
「誰だー!?今、政務が出来ないせいで
時代に爪弾きされた、不憫な子とか
言ったヤツはー!?べ、別に私は
悲しくなんかないぞ!?
きっと、私にも何かできることがある!
そう信じて、剣を握り
毎日、鍛練しているのだ!
悲しんでいる暇など私にはないのだ!」
がっ!と拳を握りしめ周りを見渡す
何かできる、そんな何かを
信じ、夢みて…毎日…黙々と…
「「「ぅう…不憫だ(ホロリ)」」」
次第に会場が悲しみに包まれていく
「だ、だから!私は悲しんでなど
いないと言っているだろうが!」
『ぅう…寂しかったんですね…
だから…この大会を楽しみに…グスン』
空が舞台の影で嗚咽を漏らす
「わ、私は!悲しんでなど…ましてや…
寂しくなど…ない…のだ…ぅう…」
ぽろぽろと涙が頬を伝い零れ落ちる
春蘭はそれを隠すように
舞台に伏してしまった
「ぅ…ぅう…ヒク…ヒク…」
「「「ぅう…うう…」」」
「………」
"なでなで…"
恋が伏した春蘭に近づき
しゃがむと優しく頭を撫でる
"ひしっ"
「っ…ぅ…うわああぁ――ん!」
頭を撫でる恋に抱きつき
春蘭が、むせび泣き始めた
「……大丈夫…春蘭は…一人じゃない…
…みんな…春蘭の仲間…恋も仲間…」
「っ…ほんとか…?ヒク…皆…私を…
置いて…ぅう…どこかに…行ったり…
しないか?…私も…一緒に…居て
いい…のか?」
「うん…だから…無理にやること
探さなくていい…焦らなくていい
みんな…仲間だから…春蘭を…
見捨てたりしない…」
「ほんとうか…?ほんとうに皆は
私を見捨てたりしないのか?」
「「「「「 しない!!! 」」」」」
「!?」
「ほら…みんなも…ああ、言ってる」
舞台の前には、魏、呉、蜀の皆が
真剣な表情で立っていた
もちろん、三国の王も
「春蘭。あなたは私の大事な将
いえ、大事な友であり、大事な家族
だから、あなたを失ったりなんて
考えたくもないわ!私の側にずっと
ずっと居なさい!命尽きるその日まで」
「か、華琳さま…」
「分かったら、返事!」
「は、はっ!この夏侯惇元壌!
華琳様の剣として、魏を守る大剣として
命尽きるその日まで、ずっとお側に!」
「ふふ…よろしい!」
華琳は微笑むと手を広げる
「っ…華琳様!」
春蘭が舞台を降り、華琳に抱きつくと
華琳も愛おしげに春蘭の頭を撫でた
「「「おおおぉぉぉ――――!!!」」」
その日、一番の歓声が会場に響き渡る
春蘭の悲しみを皆で吹き飛ばすように
皆で声を張り上げた
君は一人じゃないんだよ
君はそのままでいいだよ
君の努力は無駄じゃないよ
君はきっと見つけられるよ
大切な何か…信じて止まない何か…
だって君の側にはさ
俺たちが、私たちが、僕たちが
みんながついているんだから
その日、一番の歓声が湧き起こり
その日、少しだけ、世界が優しくなった
そして
『はい♪夏侯惇将軍は場外により失格
勝者、呂布将軍!』
「「「……のおおおぉぉぉ――!」」」
そしてその日、現実の厳しさを
世界の人々は知った
「申し訳ありません!華琳様ー!」
「し、仕方ないのではなくて
え、えぇ…春蘭は頑張ったわよ?」
泣きつく春蘭の頭を撫でながら
華琳は目を細める、俄かに冷や汗が
流れているのが見て取れる
「あぁー、華琳」
俺は目を細め苦笑しながら
華琳を見つめる
「な、何よ…」
あそこで、華琳が手を広げず
渇を入れ直せば今とは違った未来が
あったかもしれないのだ
「まぁ…春蘭は救われたってことで
いいんじゃないか?」
俺は微笑みながらも
春蘭の頭をぽんぽんと撫でた
恋と春蘭の会場が沸き立っていた頃
第二試合場では大変なことが起きていた
「くっ!」
「あはは…!どうしたの?関羽ちゃん?
動きが鈍ってるんじゃない?」
"ガ!キーン!カ!カン!"
雨のように襲いくる斬撃をなんとか凌ぎ
関羽が切り返しの一撃を放つ。しかし…
「ん~、ムダムダ~」
「っ!浅かった…」
目を細めて微笑んだ桜は、軽く身体を捻ると
堰月刀による突きを避けてしまう
そのまま、桜は間合いから離れ
模造刀で肩を叩きながら首を傾げた
「んー、関羽ちゃん。どうしたの?
全然、覇気がないよ?お腹痛いの?」
「い、いや…大丈夫です、僑玄様」
「全然、大丈夫に見えないから
聞いてるの!体調悪いなら
休まないとツラいだけだよ!?」
「いえ…本当に大丈夫ですから」
関羽の言うとおり、体調は万全だった
寧ろ、これまでで良い方に入るくらいだ
そんな彼女の前に現れた相手は
白いフードの小柄な女性
正直、初めて見たとき
ふざけたものだと思った
相手の試合は見ていた
目の前の女性は一度も
フードを取ることもなく
何人もの将を倒してきた
その実力は認めよう
しかし、そのフードが目障りだった
仮にも試合をする相手の前だ
礼儀も何もあったものではない
『失礼だが、その身に纏っている物
取っては貰えないか?
顔も見えぬ相手と試合っても
本気を出せそうにないのでな』
だから、お互いが舞台に上がったとき
女性にフードを取るように言った
『え?いいの?これ取ると
貴女、戦えなくなっちゃうよ?』
そのとき、それは挑発に思えた
今思えばそれは違った
フードは彼女なりの気配りだったのだ
『いいから、取りなさい
顔を見せないなんて失礼でしょう?』
『えぇ?でも、いいのかな…』
『クドいですよ』
『はぁ。もう、知らないからね?』
"パサ…"
『……え?』
そう、萎縮して動きが
鈍ってしまわないように
彼女なりの配慮だったのだ
なんたって相手はあの
『僑玄様』だったのだから
「はぁ…もしかしなくても
関羽ちゃん、萎縮しちゃてるでしょ?」
「い、いえ、そんなことは!」
「うそだよー。全然、動き固いもん
いいんだよ?ほら~もっと力を抜いて」
「十分に抜いています!」
うそだ。今にも、堰月刀を
握りしめた手は汗で滑ってしまいそうだし
正直、震えを抑えながら
立っているだけでもやっとの状態だった
「(はぁ…。悪いことしちゃったな…)」
内心、桜は申し訳ない気持ちで一杯だった
目の前の少女は三国でも
指折りの強者だからと高を括って
正体を明かしたのが失敗だった
確かに関羽は三国で強者に入ってはいるが
なにせ、真面目な子だ。きっと、色々
余計なことを考えているに違いない
私が華琳や一刀の師であることや
劉備の師である廬植の友であることやら
きっと、私に気を使うが故に
手も足も出ないのだろう
正直、今の彼女は一般兵より劣る
そうしてしまったのは自分なのだ
「(仕方ないかな…)」
桜は頷くと刀を収め、背を向けた
「な!?僑玄様!?」
「はぁ、興が削がれたわ
貴女の勝ちで良いわよ」
ひらひらと手を振って歩き出す
「お、お待ちください!僑玄様!
気分を害されたのでしたら
謝ります。どうか、私と試合を!」
「謝る?何を?」
「えっ…それは、力及ばず」
「本気でそれを言っているのだとすれば
悪いけど、私はこの大会を
華琳に言って中止させる必要が
出てくるわね」
「ぇ?」
「当然でしょ?ここまで勝ち上がって
来た者が、一般兵並みだなんて
これでは民に示しがつかないわ
そんな大会は無意味よ」
「くっ」
「貴女に負けた人たちも
大したことなかったようね
思い返してみなさい
大差で勝った者いれば
接戦で勝った者いる
みんな、一般兵並みなのでしょ?
無意味よ、無意味」
「ち、ちが…」
「これじゃあ、三国の終わりも近いわね
敵が攻めて来たらどうするのかしら
あぁ、みんな、一般兵と変わりが
ないのだから、みんな仲良く
戦場で死んでいくわけね」
「ちがう…」
「はぁ。五虎将…ね。これを決めたのは
誰なの?やっぱり、劉備?
戦場のいろはも知らないから
そんな大層な名前も付けられるのね
はぁ、恥ずかしくないのかしら
蜀の王がそんなんじゃ…」
「違うっ!!!」
"ゴオオオオォォォ……!!!"
凄まじい怒気が二人を
舞台を、会場を包んでいった
「(予想以上…やっぱり、この子凄く強い
ふふ…一刀、きっとこの子
もっと、もっと強くなれるわよ)」
表情には出さないまでも
内心では関羽の変貌に微笑む
しかし…これで終わっては意味がない
「違う?何が違うというの?」
桜はわざと小馬鹿にするように振り返る
「…何もかも!違う!」
堰月刀を構え、関羽は桜を睨みつけた
「何もかもが違う…ねぇ…何が違うのか
ふふ…全然分からないわ」
肩を竦め首を振る
これが、とどめとなった
「ならば!あなたに勝って
それを証明してみせるまで!」
「ふふ…面白いじゃない。来なさい
軽く、その妄想、打ち砕いてあげる」
「「はああぁぁぁ――――!!!」」
"キン!ガ!キン!シュ!ヒュン!"
武器と武器がぶつかり合い
互いの間に火花が咲いた
「私の武は三国屈指の
実力だと自負している!」
「っ…それで!?」
"ガ!キン!ヒュン!ヒュン!キン!"
「故に桃香様は五虎将の席に
私を置いてくださったのだ!」
「くっ…それで!?」
"キン!キン!ガ!キンン!"
「桃香様は私を信じてくださったのだ!
だからこそ負けは許されない!
だからこそ強者が集うこの大会で
桃香様は正しかったのだと
証明しなくてはならないのだ!」
「っ!…それで!?」
"キン!ガ!ガ!ヒュン!キン!ガ!"
「この大会に出た者は皆、強い!
あの戦乱を生き抜いた力は本物だ!
だが、私は負けない!
負けるわけにはいかない!」
"ガ!キン!ヒュン!シュ!"
「ぐっ…なぜ!?」
「なぜなら……!」
"シュ!ヒュン!キン!キン!ガ!キン!"
「私は!関羽雲長!蜀の武の象徴!
五虎将の総大将だからだ!!!」
「くっ!?」
"ガキン!ヒュン!ヒュン!……ドッ!"
桜の太刀が宙を舞い、舞台外に突き刺さる
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「お見事…」
気が付けば、関羽の堰月刀が
桜の首筋に当てられていた
『勝者!蜀代表!関羽雲長!』
「「「オオオォォォ……!!!」」」
歓声の中、無言で太刀を拾いに行った桜は
ゆっくりと関羽の前を通り過ぎる
「それでいいのよ、関羽」
「…僑玄様?」
「あなたは上に昇るごとに
力を示さなければならないの
弱者であろうと強者であろうと
知らぬ者でも、恩人でもね
それが、あなたに信頼を寄せる人々を
守ることに繋がるのよ
そして、それは同時に今まで
倒してきた者たちへの礼儀でもあるの
そのことを努々忘れぬようにしなさい
五虎将の総大将、関羽雲長」
「っ…!!!」
そのとき、関羽は全てに気付いた
自分の不甲斐なさと、僑玄の優しさに
唇を噛み締めた関羽は
舞台を降りる桜の背中に向かって
深く深く頭を下げ続けた
「ふぅ…」
私は1人、先ほどの試合を
思い出しながら廊下を歩く…
「さすがに…」
さすがにやり過ぎた
挑発の為とはいえ
我ながら酷いことを言った
きっと、関羽には嫌われた
民にも悪い印象を与えたと思う
最悪、華琳の顔に泥を塗りかねない
「最悪」
そう…最悪だ
「いや、俺はそうは思わない」
「一刀?」
顔を上げると壁にもたれて
腕を組んだ一刀が立っていた
「あれで正しかったよ。桜」
「でも、きっと…関羽ちゃんに嫌われた
民にも不快な思いをさせた
華琳の顔にだって泥を
塗ったかもしれない」
トボトボと歩き一刀の前に立つ
こんな、ふざけたことをしてしまったのだ
誰でもいい、ひっぱたいて欲しかった
「ふむ」
"スッ"
「っ…」
一刀が動く気配。自然と体が強張った
「桜は優しいな。本当に」
"なでなで"
「……一刀?」
「大丈夫。関羽さんにも、民のみんなにも
きっと、桜の想いは伝わってるよ」
"なでなで"
「でも…」
「少なくとも、見ていた俺には
伝わってきた。あそこでああしなければ
関羽さんは、そこで終わってたと思う
周りを気にして、相手を気にして
目の色を伺ってちゃ、武神とは言えない
関羽さんはもっと強くなる
そのきっかけを、桜は与えたんだ
それとも、関羽さんはそんなことにも
気付けない人間だって桜は思うの?」
「そんなことない!関羽ちゃんは
もっともっと強くなれる!
それこそ、呂布ちゃんに
追いついちゃうくらいに!」
「あぁ、俺もそう思う」
「一刀…。そうだよね…
関羽ちゃんが強く、周りに左右されずに
真っ直ぐに信念を貫けるように
なればいいんだよね
それを嫌われたとか…小さいな…私…
嫌われてもいいんだよ、うん
それでも、あの子が成長してくれれば
私はそれで、嬉しい」
深く頷くと気持ちに折り合いをつけられた
顔を上げると一刀の優しい顔がある
私もつられて、笑顔がこぼれた
「でもね、それは間違い」
「え…?」
一刀が笑顔で、そんなことをいうから
不安が再び鎌首をもたげ始める
「だって、ほら」
と一刀が指を差す方を見ると
廊下の向こうから関羽ちゃんが
こちらに向かって走ってきていた
「桜…いっておいで」
"とん…"
「え…?一刀?」
軽く一刀に背中を押される。振り返ると
もうそこには、一刀の姿はなかった
「遅かったじゃない、一刀」
「いや~悪い、悪い」
魏ブースに戻ると、華琳が出迎えてくれた
「隊長~もうそろそろ、始まるの
準備はできた?なの」
沙和が飲み物を手渡してくれたので
ありがたく頂く
「ん。準備は万端だよ」
「隊長、鎧はどうしますか?」
兜を持った凪が首を傾げて立っている
「勿論、着けるよ」
「でも、隊長?相手は呉の姉さんやで?
こんな重いも着けてたら
動けんようなると思うけど?」
「真桜も、そう思うか?隊長、だいたい
この鎧は全部でどれくらいあるんです?
この兜だけでも、かなりの重さに
感じますが…」
「そんなに重いの?凪、ちょっと
貸してちょうだい…」
と華琳が手を差し出す
「止めとけ、華琳」
「何よ。凪は良くて、私はダメなの?」
「いや、危ないから」
「いいから…貸しなさ…きゃ!?」
"ガッ!"
華琳が凪から奪い取った瞬間
兜は重力に任せて落下した
「か、華琳!大丈夫か!?」
「え、えぇ…大丈夫よ。ごめんなさい
傷が出来てなければいいけど」
と、兜を再度、持ち上げようとするが
「?…あら?動かないわね…」
必死に持ち上げようとするが
兜はビクともしなかった
「華琳様…私もよろしいですか?」
「ボクも!」
「私も…いいのかな…?」
春蘭、季衣、流琉もチャレンジ
「「「いける!」」」
と三人は持ち上げて見せる
「ボクの武器より少し軽いくらいだね」
「そういえば、岩駄無反魔って
どれくらいの重さなのかしら?」
「さぁ?山のような岩が一撃で
壊れるくらいだからなー
季衣、分かる?」
「あはは…。ごめん、兄ちゃん」
「流琉の葉々も重そうだよなー」
「あはは…」
「ふむ。この小さい体のどこに
そんな秘密があるのか分からん」
「に、兄様!?」
苦笑する流琉をお姫様抱っこする
やっぱり、凄く軽い
普通…あんな武器を振り回したら
使ってる本人が吹っ飛ぶもんだろうに
「流琉、軽いな~。ご飯、食べてる?」
「えぇ?あ、はい…というか!
兄様!下ろしてください~!」
「あ、あぁ。悪い悪い」
「はぁ…もう、兄様」
「ごめん、ごめん」
"なでなで"
頭を撫でると兜を手に取り
ちゃっちゃと甲冑を着けていく
「「「…………」」」
全てを着け終え、最後に兜を
被ったところで皆の視線に気付く
『な、なに?』
「「「異常」」」
『えぇ―…!?』
白い目を背中に受けながら
俺は会場に出て行く
『さぁ!呉の扉から出て来たのは
前大会で三位という優秀な成績を
収めた、あの方です!
今日も、楽しく、バッサリ♪
ザックリ♪料理しちゃうぞ!
お祭り娘!孫策ちゃん!』
「どうも~♪戦狂いの孫策で~す♪」
『対して!魏の扉から出てきたのは
今大会、数々の手段で対戦相手を
悶絶させてきた、脅威の黒騎士
今日も、軽くイカせてやるぜ!
天下の種馬!北郷様!』
『なんの恨みがあんだよ、空』
『両者、お揃いですね』
「ふふ…一刀♪覚悟はいい?」
『あぁ。雪蓮、武器は何がいい?』
「そうね~それじゃあ…蓮華に勝った
『太刀』で、お願いしようかしら♪」
品を作りながら、雪蓮が頬を染める
相変わらず、緊張感ないな~
『分かった』
スラリと刀を抜いて軽く振る
「へぇ。さっきも思ったけど綺麗な刀ね~
でもコレ、細くない?
私の幅広の太刀と戦うと折れちゃいそ」
にんまり笑い、雪蓮が
『南海覇王レプリカ』をチロリと舐める
『安心しろよ。折れるのは
そのレプリカの方だから』
軽く振って肩に刀を担ぐと
見下ろすように、立ち尽くす
「ふふ…あはは…アーハハハハ!!!
面白い!面白いわ!一刀!
いいわ!その刀も鎧も、その身も!
私がぜーんぶ、切り刻んであげる!」
『戦狂い…か。なるほど…"江東の虎"の
娘なだけはある。困ったお嬢さんだ…』
『両者、気合い十分!
若干、殺気も混ざってる気がしますが
えぇい~♪逝っちゃえ~☆
Are you ready!?』
「ぺろっ…ふふ…!」
『ペットの躾、承りました!』
『FIGHT!』
「ふふ…」
先に掛け出したのは雪蓮
地を滑るように走りながら
間合いを詰めると一気に切り込んできた
"ヒュン!シュ!ブン!"
「ほら!ほら!ほら!」
流れるような連撃
それらは全て、急所ではなく
一撃で死に至らない場所に
向けられている
どうやら、じわじわと
いたぶるのが好きらしい
『ヤらしい性格だな』
対する俺は、刀をダラリと下げて
ノラリくらりと攻撃を避けていく
攻撃を避けては、避けた際の力を
利用して一気に斬り込む
「蓮華の時と同じね…木の葉のように
ひらりひらりと避けて
突然、風が吹いたように襲い来る
正直…やりに、くっ!?」
『喋りすぎだ、舌噛むぞ?子猫ちゃん』
「ふふ…」
瞬間、がらりと雪蓮の雰囲気が変わった
「バカにしてるの?」
『いや、可愛い子猫に
ちょいと躾しただけ』
「くく…ペット?…私が?
江東の虎の娘にして
江東の小覇王と言われた
この私をペット呼ばわり?
それじゃ、何?あなたには
私は足元にじゃれつく猫にしか
見えないってわけ?」
『だから、子猫だって』
「っ…くくく…アハハハハ!
そう。なら、ご主人様!?
もっと!沢山!遊んでよ!
子猫がじゃれついても壊れないで
たとえ、グチャグチャになっても
子猫の私と遊んでよ!」
―呉―
「…キレてるな、雪蓮のやつ」
「ええ…キレてるわね、姉さん」
「……これまでにないくらいにの」
「しかし、北郷は何故
あのような真似をしているのだ?」
「まさか、一刀ってバカなんじゃいの?
怒らせてもいいことないじゃん!」
「雪蓮の場合、挑発すれば
隙が生まれる…なんてことはない
むしろ、燃え上がり…無差別に
暴れ回る、猛虎になるだけだろう」
「もしかして…一刀はそれが狙いなの?」
「だとすれば…あの小僧
底知れぬ、大バカもんじゃの
猛虎を飼い慣らす気か
くくく!これは面白い!」
「本当…」
「「「異常よね(だな)」」」
―観客席―
「あはは!一刀、やる気だねー」
たこ焼きをパクつきながら
桜は試合会場に目を向ける
「ご主人様は何が狙いなんです?」
隣には関羽が座って
事の成り行きを見守っていた
「多分、挑発して、怒らせて
雪蓮ちゃんの本気を
引き出したがってるんだと思う」
「そ、そんなことをしなくても
雪蓮殿は十分、本気だと思うんですが」
「愛紗ちゃんは甘いね~
雪蓮ちゃんは簡単に本気なんか
見せるような子じゃないよ
だから、ああして
怒りを引き出して本気にさせるの
理性を消して内なる獣を呼び起こす為に
雪蓮ちゃんの本気を叩き潰してこそ
この戦いには意味があるんだよ♪」
「はぁ、内なる獣…ですか」
一人はお気楽に、一人は神妙な面持ちで
舞台上の二人を見つめた
『何だ?ご主人様って呼んでくれるのか
それじゃ…これがいるな!』
一刀は甲冑の隙間から手を入れると
中から何やら取り出した
"ジャラジャラ…"
「なによ?それ…」
『首輪と鎖』
「殺すー!今すぐ殺してやるー!」
"ヒュン!シュ!ビュン!"
『おっと、危ないなー
爪とぎなら、あっちでやってくれよ』
会場の柱を指差した
「くっ!ふざけないで!」
『いいや、いたって真面目さ
俺は本気の君と戦いたいんだ
そして、叩き潰したい』
「私はいつも本気よ!」
『本気?前回の大会三位が本気?
ウソつくなよ。君は手加減していた
戦場であんなに喜々としていた君が
大会三位なんて有り得ない
殺さないように、怪我をさせないように
手加減していたから負けたんだ
でもな、俺を侮るなよ?
俺は壊れないし、逃げたりもしない
飲み込んでやるよ、お前の全てを』
一刀は静かに雪蓮を見下ろして
両手を広げてみせた
それを見た雪蓮が喜々とした表情で
一刀を見上げる
「はぁ…はぁ…一刀…本当に…?」
『あぁ…食い合おうぜ…』
「ぁ…ぁあ…アアアァァァ――…!!!」
雪蓮が頭を押さえて、地に伏してしまう
『雪蓮ちゃん!?っ……一刀…様?』
雪蓮の異変に気付き、慌てて舞台に
上がろうとする空を俺は手で制する
『今、上がれば死ぬぞ?下がれ、空』
「は、はい…」
空はコクコクと頷くと
いつもより遠くに離れて行った
俺はそれを見送ると、雪蓮に目を移す
『起きたか…』
「………」
伏していた雪蓮がゆらりと立ち上がる
こちらを無言で見つめる瞳は
さっきまでとは別人のようだった
『いい目だ…飢えた獣の目…
これは飼い慣らし甲斐がある』
俺は首輪と鎖をしまうと
半身になり刀を構える
「(ピクッ…)」
首輪を鎖を見た虎は小さく反応した
あれを付けられてはいけない
あれを付けられれば、最後
王者の誇りも、尊厳も全てが
奪われてしまう。それだけは許せない
"こんな、弱そうなヤツに
奪われるなんて、それだけは許せない"
だから決めた…私を起こした
命知らずの獲物を喰らい尽くしてやる
牙はある、このナマクラでも十分
これを獲物の首に突き刺すだけ
それで、お終い
そしたらまた眠りに就こう…
長い長い眠りに就こう…
私を満足させてくれる敵が現れるまで
だから…"ハヤク、タベテシマオウ…"
"ゴオオオォォォ……"
そのとき、会場を凄まじい殺気が包んだ
『(ふぅ…やっと出てきたか…)』
俺は内心、ホッとしていた
これで何もなければ
ただの虐めで終わるところだったのだ
それでは、あとで何を言われるか
分かったもんじゃない
『(しかし…凄いな…これが
孫策伯符の本気か…)』
俺はワクワクしながら
虎の周りを回る
虎は目を離すことなく
ゆっくりと体制を整えながら
こちらを観察していた
『(まずは…お手並み拝見!)』
後ろを歩いたところで
刀を振り上げる
"ブオン!"
『くっ!?』
しかし、それよりも早く
虎の太刀が横凪ぎに払われた
俺は手甲でそれを防ぐと
後ろに跳んで間合いを離す
『(くっ~!腕が痺れる!げっ!
手甲が凹んでんじゃん!)』
綺麗に太刀のラインで凹んでいた
『速さ、力、共に良好!
凄いな、虎っていうのは!』
「………」
『(無視かよ…まぁ、理性なんてないんだ
期待はしてないさ。それより…)』
ちらりと虎の太刀を見る
南海覇王レプリカは少しばかり
曲がっているようだった
『はぁ…考えなしにもほどがある
でも、楽しいなぁ…俺もつい我を
忘れそうだ、ぜ!』
虎が振り下ろす太刀を防ぎ
押し返すと、切り返して肩を狙う
「ぐっ!」
虎はそれを防ぐと更に切り返して
首を飛ばさんと横凪の一線を放つ
『ふはは…楽しいな!』
それを流して胴を凪ぐ
「ふっ!」
身体を捻った虎はそのまま回転して
頭を目掛け太刀を振り下ろした
『く―っ!面白い!』
刀を上げそれを受けると
肩口から体当たりをかます
「ぐっ!」
虎は吹っ飛び、場外ギリギリで止まった
まぁ、理性がないんだ
場外しても、突っ込んできそうだけど
『それじゃあ…虎よ…時間もない
そろそろ決めようや』
「っ!?」
気を練る、練る、練る
ひたすらに練り、身体の隅々まで
行き渡らせていく
全身を包む気が膨らむ、膨らむ、膨らむ
「くっ!」
見誤っていた。こいつは強い
私と同じくらい強い
コイツも私と同じ獣なんだ
だから、私と対等に戦えた
一撃で決めるはずだったのに
二合、三合、と競って見せた
認めよう、コイツは強い
だけど、負けるわけにはいかない
同じ強さなら、私がより、上をゆくだけ!
虎が駆け出す、己が牙で喉を裂かんと
太刀を振り上げた
『喰らえ…』
"ゾクッ!!!"
間合いに入り、大きく振り下ろす瞬間
とてつもない何かを感じ、萎縮してしまう
それが虎の最後の記憶となった…
「雪蓮…起きな…」
「ん…んん…一刀?…もう朝?」
「あぁ、とっくに昼過ぎだ」
まだ意識のはっきりしない中
目をこすりながら
周りを見渡すと観客が目に入った
続いて、心配そうに見つめる廬植様と
驚愕の表情に染まった三国の武将たちの顔
「あ、試合…」
ぼーっとする頭で順を
追って思い出していく
と、行き当たったのは最後の瞬間…
とてつもない何かを感じた私は
その何かに恐怖し身を丸めた。その瞬間
腹に凄まじい衝撃を受けて意識を手放した
「なんだ…結局…負けたんだ…」
「あぁ…ボロ負けだ」
私を抱いた一刀がにこにこ笑って
そんなことを口にした
「なによー。ボロボロにしたのは
一刀でしょ?私、本気まで出したのに
そんな、隠し玉があるなんて
ズルいわよ…本当…ズルい…
分かる?私の中の虎が今
どんなになってるか…」
「ははは…再起不能に
なってないことを祈るよ」
「本当に子猫になっちゃって
ぷるぷる震えてるわよ」
「あらら…そりゃ、悪いことをしたな」
"なでなで"
「っ…」
「とても楽しかった。また戦いたい、と
そう、子猫ちゃんに伝えといてくれよ」
「そうね。私も…楽しかった
凄く楽しかったよ、一刀
ありがとね。勝負の相手に
本気の私を選んでくれて
元気になったら、鍛錬しようね?」
「人外になるけどいいか?」
「ほ、ほどほどがいいかなー…」
「分かった。恋くらいには
強くなれるように鍛えてやるよ」
「ふふ…期待してる」
「あぁ、期待しとけ
さぁ…立てるか…?」
「ん。っ~~~」
腹を押さえて、雪蓮が丸まる
「無理そうだな」
「あはは…ごめん…」
「仕方ないさ。よっ!
うわぁ、軽いな…雪蓮」
雪蓮の背中と、足の下に
手を入れて持ち上げる
「えっ!?ちょっと!」
「お姫さま抱っこ。初めて?」
「されるのは…///」
「ははは…雪蓮の初めて頂きだな」
「バカね、もう…///」
「それじゃ、呉のブースでいいかな?」
「うーん。一刀の閨でもいいよ?」
「バカ…まだ、だめだよ」
「"まだ"…ねぇ…」
「怪我が治って、俺から一本取れて
華琳の許可が出たなら考えるよ」
「条件、多いし!難しいし!」
「んじゃ、譲歩。本気で俺を
愛してくれたら、考えるよ」
悪戯ぽく微笑むと一刀は周瑜に
雪蓮を託して踵を返して歩き出した
周瑜に肩を借りながらも
雪蓮は一刀の背中を見つめ続ける
「ごめん、冥琳…私…恋しちゃった」
「ふふ…そうか…
なら孫呉の名にかけて
手に入れないとな」
「いいの?冥琳以外の子だよ?」
「私も、興味が湧いてな
北郷一刀か。なかなか面白い」
「冥琳公認か…なら!」
「大丈夫か?」
「勝負に出るわよ!冥琳」
「ふふ…やってやれ…雪蓮…」
冥琳の手を離れると
雪蓮は少し、前に出て
大きく息を吸い込んだ
「一刀――!!!」
「え?な、なに?」
魏ブースに入ろとした一刀が
振り返り、こちらを見つめた
「一刀!これなーんだ!」
「な!?それは!」
雪蓮が掲げたのは首輪だった
一刀は慌てて懐を探るが見当たらない
出てきたのは鎖のみだった
「いつの間に…」
「一刀!私!一刀が大ー好き!」
「「「な!?」」」
「は、ははは…なんと…熱烈な…」
動揺する、魏と蜀、観客
苦笑する一刀を余所に
雪蓮は首輪のベルトを外すと
自分の首に付けてしまった
「な!?しぇ、雪蓮!?」
「あなたのペットとしてでもいい!
私をずっと側に居させて!一刀!」
「「「な――――!?」」」
その日…一刀に公認のペットが出来ました
「「北郷~!」」
「兄ちゃ~ん!」
「兄様~!」
「「「隊長~!」」」
「ははは…ヤダナ。みんなー
怖い顔してどうしたのー?
あれはその…冗談!雪蓮の冗談だよ!」
「一刀ー!これ、本気だからー!
約束通り、絶対に閨に呼んでねー!」
「って…雪蓮は言ってるわよ?」
いつの間にやら、華琳さん!?
笑顔が素敵デスねー☆
「いや、あの…」
「約束…したのよね?」
「はい…」「どう?公認の『ペット』を
勝ち取った気持ちは?」
「…嬉しい…かなー?」
「そう。最後に言い残すことは?」
「ごめんなさーい!」
「よし!全軍!かかれー!」
「「「応――!!!」」」
そしてその日、飼い主は
公開処刑されましたとさ
「さすがは雪蓮だな…
負けたままでは終わらないか」
「当然よ♪負けたらノシつけて
返さなきゃね!」
「はぁ…北郷も大変な相手に
惚れられたものだ」
「ぶー…なによ、それ!」
「そのままの意味さ」
「もー!冥琳たら、失礼しちゃうわー」
一刀を追いかけて
魏の将が辺りを駆け回っていく
「大好きよ…一刀」
逃亡する一刀を見つめながら
首輪を一撫ですると雪蓮は小さく微笑んだ
「シクシク…ごめんなさい…」
魏ブースの入り口に吊し上げられた俺は
皆さんの視線を一心に浴びながら
謝罪の言葉を繰り返す
「一刀。他国の女性たちに手を出すな
とは言わないわ…でもね
"ペット扱い"だけはやめなさい
ちゃんと、一人の女性として扱うの
分かったかしら?」
「ペットごっこもだめでしょうか…」
「にこり☆」
"ギリギリ…!!!"
「いででで!!冗談!冗談だって!」
華琳が笑顔で縄を締めたために
激しく縄が食い込んだ
「冗談は嫌いなの」
"ギリギリ…!!!"
「千切れる!みんなの大好き北郷さんが
真ん中から真っ二つになっちゃう!」
「はぁ、自分でよく言うわね…
少しは反省したかしら?」
「ふっ…反省はしている
でも、後悔はしていない!!!」
「そう」
爽やかな笑顔で答えると
華琳も笑顔で返してくれた
"ギリギリ…!!!"
「ノオオォォ――――!!!」
「いいなー…一刀…楽しそう…」
台風娘、雪蓮ちゃんはそんなやり取りを
見つめてポツリと呟いた
「そう見えるのなら、今すぐ
眼鏡を買ってきなさい、雪蓮
大きな間違いに気付けるだろうから」
その後ろで周瑜が深いため息を吐く
「でも、一刀がいると魏のみんなが
イキイキして見えるわ。去年までは
葬式みたいな雰囲気だったのに」
「そうだな。それだけ、北郷という存在は
魏にとって大きな存在だったのだろう」
「いつか…それが三国に
広がる日がくるのよね」
「あぁ…遠からず、北郷一刀は
三国にとって大きな意味を
持つ存在になるだろうさ
勿論、私たちにとっても、な」
「あら。冥琳も?」
「私だって女だ
人並みに恋くらいするさ」
「むー…何か、複雑…」
「お前も、同じだろ?」
「まぁ、そうだけど」
「しかし、どうやら狙っているのは
私たちだけではないようだ」
「あちらさんの中にも、チラチラ
出てきたみたいね~
恋の好敵手ってやつが」
「さて、魏は…とくに大陸の王は
この事態にどうでるのやら
楽しみではあるな」
「呉の未来の為でもあるし
負けてられないわね…私たちも」
「勿論さ。孫呉の名は
恋路でも通用すること
二国にも教えてやろうじゃないか」
「ふふ…そうね♪」
二人はクスクス笑うと
華琳に吊し上げられて
真っ青になった一刀に目を向ける
「まぁ、一刀が生きていたらの話だけど」
「そうだな…」
二人は苦笑すると"彼女"の応援のため
第二会場に向かうのだった
用意された舞台の上
ひとりは堰月刀を
ひとりは偽・南海覇王を構え
静かに睨み合っていた
「華琳の隠し玉…こらまた
えらいのが出てきたなー」
「何よー。化け物が出てきたみたいに
言うの、やめてくれる?」
「違いないやろ?"江東の虎"」
「その二つ名も懐かしいわね
でも、残念。あなたのいう
江東の虎はもういないの」
蓮はひらひらと手を振ると
口に手を当て微笑んだ
「虎がおらん?どういうことや?」
「江東の虎はある人との
出会いで変わったのよ~」
品を作りながら、蓮は頬を染める
「……ふん。ウチは戦場で
あんたを見たことがある
まだ、朝廷が腐っとった頃の話や
千の盗賊を嬉々として追い回し
終いには血祭りに上げたあんたを見て
ウチは背筋に寒気を覚えた
でもな、確かに…今、見て分かったわ
"虎は死んだ"…あのころの寒気を
全く感じひん。弱なったな…自分」
「………」
つまらなさそうに口を尖らせた霞を
蓮は笑いながら見つめる
「なんや、反論もなしかい。興醒めやな
さっさと終わらせて次の試合でも
見に行くとしょうか
ほら、構えや。さっさと終わっ!?」
"シュッ"
堰月刀を構えた霞の横に何かが立つ
"チャキ"
「そうね…終わらせましょう…」
確認する間もなく首筋に
冷たい感触が押し当てられる
ゆっくりと首を動かし確認すると
嬉々とした表情の蓮がそこには立っていた
「な!?」
霞の顔がみるみる驚愕の色に染っていく
「勘違いしないで……虎は死んでない
あの人との出逢いで"成長"したのよ」
細く微笑むと蓮は太刀を引き
間合いを離すと構えなおす
「弱くなったかしら?」
「イヤイヤ!何なん、自分!?成長て!」
「成長は、成長よ~ほら♪」
とたわわな胸を寄せると蓮は微笑む
「ちゃうわ、ドアホ!胸の話やなくて」
「あ!ごめ~ん!こっちか~♪」
形のいい丸いお尻を
ふりふり振って蓮は笑った
「やから!ちゃう、言うてるやろー!」
堰月刀を振り上げ、蓮に襲いかかった
「キラーン☆」
対する蓮は不適に笑うと太刀を収めて
腰を低く落とした
「行くわよ~☆見様見真似!
あまかける…龍のときめき!」
脇に差した太刀を引き抜くと
一気に振り抜いた
風が巻き起こるほどの剣圧が襲い来る
「くっ!?」
「ん~♪惜しい!」
何とか攻撃を耐え忍んだ霞だが
堰月刀を握る手が完全に痺れていた
「なんちゅう馬鹿力……
春蘭と変わりないやん」
「それだけ頑張ったからね~
ねぇ。ところでさ?
一刀の強さって、知ってる?」
「な、何や藪から棒に
そら、十分わかっとるで
うちらと同じくらいやろ?
下手すりゃ、あんたんとこの
娘にボロ負けやない?」
「あはは!それはないわよ
天地がひっくり返ったって
雪蓮は勝てない
飼い慣らされるのがオチよ
今頃、首輪でも
着けられてるんじゃない?
な~んて♪」
蓮は苦笑しながら首を振ってみせる
「んなバカな、雪蓮は三国でも
指折りの強者やで?
一刀がどんな修行をしとったかは
知らんけど、接戦になるんとちゃう?」
「そうね~。私は一刀の実力を知ってる
あなたは知らない。仕方ないから
基準くらいは教えてあげるわ」
「な!?」
突如、微笑んでいた蓮の
殺気が膨れ上がった
「ついでに、私の本気…見せてあげる」
「(なんや、雰囲気が変わった)」
ゆらりと太刀を構えると"消えた"
"パキン!"
「へ?」
突然、小気味よい音がする
見ると堰月刀の刃が綺麗に折れていた
「見えたかしら~?」
「へ?」
停止した思考まま、声の方へ振り返ると
蓮がにっこりと微笑んでいた
「これが私の本気」
「強いとか…そんな次元やない…」
「そうね~。でも、一刀は
今の簡単に避けて見せるわよ
おまけに、私の太刀の方が
真っ二つに されちゃう
あの、重い鎧を着けた状態でね」
「鎧を取ったら…」
「…軽く人の域は超えるわね
そうなれば、私たちは到底追いつけない
でも、それって凄く寂しいと思わない?
愛する男が手の届かない場所に
行くなんて、ね
だから、私は何度も一刀に挑んだ
何度も挑んでは、地に伏した私を
一刀は見下ろして言うの
"今度は俺が守るから"って
可笑しいでしょ?教えていた者は
いつの間にか追い越され
一人の女にされたのよ
それが少しだけ嬉しくて、悔しくて
とても、とても寂しくて
だから、私は伸ばされた手を払いのけ
何度も挑み続けたのよ
気がつけば、江東の虎は成長してた
より強く、より逞しくより貪欲に
だから、私は何度も一刀に挑んだ
全ては、愛する人と一緒に居るために」
「……」
寂しそうに微笑む蓮を
霞は静かに見つめ返した
「私が師だからとか、そんな話じゃない
これは女の意地なのよ
愛する人の近くに居るための意地
あなたはどうかしら?
言っておくけど、今のあなたでは
一刀の隣には立てない
あなたが彼の戦いの邪魔をしてしまう
そして、一刀を追い詰める」
「くっ…」
「敵は強いわよ
最悪、呂布くらいの強さはあるわ
しかも、確認してるだけで
敵は三人以上はいる。これがもし
四人、五人と増えるとすれば
一刀はそれを相手にしなくては
いけなくなる。そうなれば
一刀は…確実に死ぬわよ?」
「っ…一刀が…死ぬ?」
堰月刀を握りしめていた手に力が籠もる
「えぇ…だから、あなた達はできるだけ
一刀には関わらないようにしなさい
敵は、あなた達を後ろ手に守りながら
戦わせてくれるような甘い連中じゃない
必ず、"弱い連中"を狙ってくる」
「(ピクッ)」
「分かった?分かったら、今日のところは
堰月刀を収めて観覧席に戻りなさい
皆、固まってもらっている方が
正直、私たちは守りやすいから」
蓮は太刀を収めると
霞に背を向けて歩き出す
「……待てや」
「なに?」
「ウチが弱いんはよく分かった…
弱いヤツを守りながら戦う難しさも
よう分かる。弱いヤツを固めた方が
守りやすいのも、よう分かるで」
「そう、良かった…」
「やけどな、ウチにも意地はあんねん!」
折れた堰月刀を突きつけ霞は叫んだ
「ウチにやって、大事なヤツはおんねん!
大事な想いがあんねん!
大事なヤツとした
大事な約束があんねん!」
「分かってるわよ。あなたの大事なもの
必ず、私たちが守ってあげるわ
だから、あなたは」
「冗談やない!ウチの幸せを
誰かに託すなんてするわけないやろ!
ウチの想いはウチが守るねん!
あんたが守るもんは
あんたの想いだけで十分や!」
堰月刀を構えて、霞は腰を落とす
「そうや…ウチは守る
ウチの大事なもんを守ってみせる
弱いなら、強うなる
誰よりも強うなってみせるんや…」
目を閉じ、深呼吸すると
気を落ち着かせていく
荒ぶる気を抑えて、目を開き敵を見据える
「(ぼんやりとしか見えとらんかったけど
今なら、孫堅の強さが分かる
慢心やったな…こんな、強い相手に
弱くなったやて、自分、何様や
ウチは弱い。遥かに弱い。せやけど
弱いなら、弱いなりの戦い方が
あったはずや…思い出せ、自分
遠い昔、駆け出しの頃の不格好な
自分の姿を思い出すんや…)」
「(……変わったわね)」
蓮は刀を抜いて、霞を見つめ返す
「いくで」
「…来なさい」
「「はああぁぁ…!!!」」
瞬間、二人の影が交差する
甲高い音をあげて
何かが舞台に突き刺さった
「…不格好な大振りね
でも…とても、真っ直ぐで力強い」
蓮は小さく笑うと自分の太刀を見る
しっかりと握られた太刀の刀身は
根元からポッキリと折れていた
「ウチは弱いからな…
何も考えず、"力"だけに
ただ、全力をかけたんや」
「あなたはもっと強くなれる
弱さを認めたあなたは
まだまだ、成長してゆける
一緒に、一刀の隣に並べる日を
楽しみにしてるわよ。張僚文遠」
「あぁ、待っときや
あんたの背中、ウチが守ったるから」
「ふふ…期待しているわね!」
蓮は満面の笑みを浮かべる
折れて使い物にならなくなった太刀を
空に手渡すと踵を返して舞台を降りた
『見事に折れていますね
刀の声も聞こえませんし
打ち直しも不可能でしょう
武器の完全破壊により
孫堅は戦闘不能と判断します!
勝者、魏代表、張僚文遠!』
「「「オオォォォ……!!!」」」
「すぅー…はぁー…」
霞は大きく深呼吸をすると
握りしめていた飛龍堰月刀を見つめる
刀身は半分から折れており
飾りの龍の角も数本折れていた
馬鹿力で思いっきり振り上げた際に
折れたのだろう
「…これ、修理できるやろか」
「大事ですよ?」
「うわ!?」
隣から堰月刀を覗き込むように
空が身を乗り出してきた
「この子、まだ闘えるって言ってますから
李典さんに渡せば綺麗になって
帰ってくると思いますよ?」
「言ってる?」
「はい♪言ってますね」
「そっか。なら、早よ
真桜に頼みに行かな」
綺麗に折れた破片を拾いあげて
霞は舞台を後にする
「しっかし、刀の声が聞こえるやなんて
一刀の周りには変なヤツが
仰山、増えてきたなー
ウチも、うかうかしてられへんかな?
なら、久しぶりに頑張ってみよか!」
おー!と堰月刀を掲げて
ケラケラ笑いながら霞は廊下を歩き出した




