今明かされる、真実
「さて、どうしたものかしら」
送られてきた手紙を手にした桜は
複雑な表情をして頭を悩ませていた
「有能な人材を集めるのは良いけれど
私にまで声をかけてくるとは
思わなかったわね」
苦笑しながら手紙を読み返す
内容は愛弟子からの勧誘
まぁ、愛弟子に頼りにされるのは
先生冥利に尽きるのだけど
「それでは意味がないし。
あの子が自分の力で困難を
乗り越えなければ
世を治めるなど夢のまた夢よね」
この勧誘は断るべきなのだが
さて、どうやって断るか
下手に断っても、簡単には
諦めないでしょうし
「……そうね。流行り病で
死んだことにでもしましょうか
誰か!誰かある!」
「は!先生、どうしました?」
「先生は病で死にました!」
「は?な、何を言って…ボケました?」
「っ…ボケてなどいません
"先生は病で死にました"と
手紙に書いて、この子に送りなさい」
「は、はぁ。そういうことですか
では、すぐに。しかしながら、先生
姉様は真偽を確かめるために
ここにいらっしゃるのでは?」
「……そうね。なら墓も造りましょう
棺桶には人形でも入れときなさい
あと、大陸平定まで私は姿を消すわね」
「な!?やはり、ボケてるでしょ!
生徒はどうなさるおつもりです!?」
「知り合いに紹介状を送るから大丈夫よ
私が認める最高の先生よ、どう?」
不満かしら?と生徒を見る
生徒は口を噤み、俯いてしまう
「はぁ、本気ですか…分かりましたよ
それでは、そのように致しましょう」
「よろしくね」
生徒が出て行く姿を見届けると
紹介状やらの手続きを済ませる
しっかりと身支度を整え
桜と桜の私塾は歴史上から姿を消した
「随分と思い切りましたね」
「えぇ、これぐらいのことをしないと
あの子ったら諦めないのですもの」
「諦めの悪さは桜さん譲りですね」
「嫌なところまで、似ちゃったわね」
苦笑する桜に空が茶を差し出す
桜は方々を周り人助けをしながら
旅をしていた。その途中で
昔からの知り合いである
空の私塾を訪れたのだ
「私も、そろそろ私塾を休止しようと
考えていました。方々を周り、生徒達の
様子を陰ながら見守ろうと思いまして。
私も、旅にご一緒していいですか?」
「あら?でも、生徒はどうするのよ」
「知り合いに紹介状を送ります
私の認める最高の先生ですから
大丈夫だと思いますよ」
こうして、空の私塾は休止となった
「なんだ、二人ともあっちでは
先生をしてたんだね」
「恥ずかしながら」
「結構人気あったんだよ!」
二人は照れながらも自慢気に胸を張る
「二人の言う、最高の先生って?」
「水鏡先生だよー」
まぁ、何とも軽ーく発言したけど
二人はあの孔明や鳳統を育てた
『水鏡大先生』と知り合いらしい
「元気にしてらっしゃるでしょうか?」
「早く、会いたいねー」
二人は顔を見合せて笑う
「蓮は向こうで何をしていたんだ?」
「ん?私?一国一城の主」
自分を指しながらこちらも軽ーく
言ってのけた
「「「え?」」」
思わぬ言葉に皆、驚く
「蓮ちゃんはね~スゴいよ~」
桜は含み笑いを浮かべると話を再開した
「空の教え子は良い子ね。あの歳で
一国一城の主とは期待も
大きいのではなくて?」
「…あの子は残念だけど難しいですよ
群雄割拠の時代を乗り切るには
余りに普通過ぎますから」
苦笑しながら、空は俯く
「い、言うわね…」
「仕方ないんです。本当に
普通の子ですから」
「…あ、ははは…」
「それよりも。もう直ぐ、着きますよ」
空は顔を上げ、城を指差す
「それよりって…自分の愛弟子でしょうに
ん?誰か来るわね…あれは、軍?」
「隠れましょう!桜さん!」
「こんな平原の真ん中のどこに
隠れるっていうのよ…」
頭を押さえ、ため息を吐きながら
迫り来る、五十程度の軍馬を出迎える
一人の女性が警戒する兵を下がらせ
桜と空の前に現れた
「貴女たちは、何者かしら?」
「私たちは私塾を開いていた者よ
愛弟子の様子を見ながら
世の行く末を見守ろうと旅をしているの
貴女の国に害を為すつもりはないわ」
「そう」
女性は呟き、桜と空を見る
しばらく、三人は睨み合っていたが
女性がふいに、苦笑しながら背を向ける
「私にも、子が居いるの
子は幾つになっても子
心配で仕方ないものよ」
背を向けた女性の視線の先には
女性が治める城があった
きっとあそこに、子がいるのだろう
「あはは…余計な話が過ぎたわね
このあたりはまだ、治安が悪いの
治めたばかりでね。盗賊紛いの残党も出る
気をつけなさい」
「ええ、分かったわ」
「さぁ、皆の者!引き上げるわよ!」
「「「応!」」」
これが三人の初めての出会いであった
この後、しばらく縁が絡むことは
なかったのだが、ある日のこと
桜たちの元に一つの噂が流れてきた
『あの女性が、残党一掃に乗り出した』
噂を聞いた桜は胸騒ぎを覚え、空を連れて
再び、女性の元へ向かうことにしたのだ
「桜さーん、別に大丈夫じゃないですか?
たかが、残党の一掃でしょう?
あの方もなかなかの実力者のようですし
何事もなく、終わるのではー?」
急いで向かっているために体力も気力も
削られ、へろへろの空が桜に話しかける
「……貴女、本当にそう思うの?
ただ地方を点々としていた私たちでさえ
この噂を知っているのよ?
あの女性はかなりの実力者だけど
結構、無茶をしているみたいだし
その分、反抗勢力も多いと聞くわ
この噂を聞いた奴らや、残党と盗賊が
ただ、黙って一掃されるなんて
考えられないわ
何か、仕掛けてくるわよ」
「窮鼠は猫も噛みますしねー」
「それなら、まだ安心よ。鼠は所詮、鼠
噛みついてきたのなら、頭から
丸呑みにしてやればいいのだもの」
「あの方の軍は、大変多いですものね」
「でも、それは残党と盗賊だけの話よ
反抗勢力が加われば、一つの軍と
変わりない。反抗勢力には軍師も
いるでしょうからね」
「知恵を付けた鼠は厄介ですね」
「反抗勢力は、あの女性が邪魔なんだから
狙いは一つに絞られてくるわよ」
「数や武で勝てなければ、指揮官を叩き
軍を瓦解させるのが上策
つまりは、彼女の暗殺ですか?」
「えぇ、間違いなく
何にしても急ぐわよ!ほら!」
空の乗っていた馬の尻を叩く
「へ!?ふ、ふえぇ~~~~……」
馬は驚き、嘶きながら全力で駆け出した
「あはは!早いわね――!」
その様子を見て、桜は満足げに頷くと
表情を引き締めて馬を走らせた
しばらく、馬を走らせると
前方に砂塵が見えてくる
「どうやら、もう交戦中のようね」
馬を止めて、状況を確認する
彼女の軍は数と武で、敵を圧倒しており
着々と敵の数を削っているところだった
やはり、二人の予想通りだ
そんな中、敵の後方、彼女たちから死角に
なっている場所で別働隊が動き始める
別働隊は後方の林へと消えていった
皆、弓を持っていたことから
あれで、彼女を暗殺するつもりなのだろう
「林に誘い込み、彼女を蔭から…」
そこまで呟いた桜の目には
怒りの色しか灯っていなかった
「桜さん」
空が真剣な表情で手を重ねてきた
「私、こういうやり口、大嫌いなのよね」
怒りを隠そうともせず
奴らの消えていった
林を睨み付ける
「ふふ…気が合いますね、私もなんです」
空は微笑むと、細身の刀を抜いて軽く振る
「…そう、貴女もなの」
桜も太刀を抜いて、空に笑いかけた
「えぇ。ああいう悪い子には
教示が必要だと思うんです
桜先生はどう思います?」
「同感ね。きつい、お灸が必要でしょう」
「「ふふ、ふふふ…」」
二人は仮初めの笑顔を貼り付けながら
ゆっくりと馬を歩かせる
そのまま、ゆらりゆらりと
二人は林に入っていった
二人が林に消えると、林の彼方此方から
恐怖に染まった声があがる
林から最後の叫びが上がった、その頃
敵本隊が撤退を開始していた
彼女の軍も逃がすまいと交戦を挑むが
敵はそれを軽く去なして
林へと入っていった
あとは林を抜けるだけ
殿に張り付いた女を
伏兵が毒矢で打ち取る手筈
敵本隊は悠々と林を抜けて部隊を展開し
伏兵が持ってくるだろう女の首を待つ
「全軍、我に続け!愚かな賊共に
我らの恐ろしさ、刻みつけてやろうぞ!
全軍、突撃――――!」
「「「オオォォ――――!!!」」」
しかし、現れたのは五体満足の女の姿
その褐色の肌にはかすり傷、一つない
「ど、どういうことだ!?」
当然、敵軍に動揺が広がる
そのまま両軍は交戦状態となった
只でさえ数も武も劣る軍である
動揺まで広がってしまっては
どうしようもなかった
呆気ないほど簡単に戦線は瓦解
いとも簡単に殲滅は完了した
「よし!私も旅に出るわ!」
「「は?」」
戦も終わってすぐのこと
残党狩りをするために
林を散策していていると
蓮がそんなことを呟いた
「いや、ね?そろそろ、長女に
後を譲りたいと思ってるのよ」
「そういえば、子が居るのだったわね」
「娘が三人。親の私から見ても長女には
天武の才があるのよ。これから訪れる
戦乱を生き残るためには、あの子が
王になる必要があるのよ
時期としても、そろそろ譲って
経験を積ませたいのよね」
「天武の才って……政はどうするのよ
武だけで国を治められるなんて
思ってないのでしょ?」
「当然よ!私だって王ですもの
それくらい、百も承知ですー
政は次女に任せたいの!あの子は人を
惹き付けて離さない魅力があるから
きっと、落ち着いた世を
纏めていけると思うわよ」
親バカかしらね?と蓮は苦笑する
対する二人は何も言えなかった
自分たちも愛弟子の話となれば
きっと同じようなものなのだから
「親子で天下を取りに行くつもりなのね」
「えぇ!」
桜の問いに、躊躇することなく
蓮は笑顔で頷いた
「だから、世代交代しなくちゃね
私の時代は終わり。子供たちの
時代がやってくるわ
そ、こ、で!二人にお願いがあるの!」
「いやよ」
「いやです」
二人は蓮の顔を見ることなく、歩き始めた
「ちょっ!ま、待ちなさいよ!
まだ、何も言ってないじゃない!」
「言われなくても分かるわよ
どうせ、ろくでもないこと
考えているんでしょ?」
「失礼しちゃうわねー
私の考えた完璧な作戦を
ろくでもないなんてー」
口を尖らせ、ブーブーと抗議の声を上げる
「はぁ…分かったわよ。聞いてみましょ?
貴女の考えた完璧な作戦とやらを」
「ふふ…聞きたい?」
「空、行くわよ。次は私の愛弟子を
見に行きたいの。すぐに会いたいわ」
「あー!待って!ごめんなさい!
話す!すぐ、話すから!」
林を出ようとする二人を必死に引き止める
桜は座った目で蓮を見返し続きを促した
「私が今の戦で死んだ
ことにしてほしいの」
「…は?」
「ほら、そうなれば、仕方ないながらも
娘たちが継ぐことになるじゃない?」
「……本音は?」
「引き継ぎの作業や儀式が面倒くさい」
「行くわよ、空」
「あーん!待って!待っててばー!」
再び、蓮は二人に取り縋った
「いや~本当に死ぬかと思ったわ」
蓮はカラカラと笑いながら
二人の後をついて歩く
結局、蓮に押し負けた二人は
『王の死去』を偽造した
城へ帰ろうした、その時
伏兵により毒矢を受け
蓮は倒れ伏した、という設定だ
将や子に伝えたいことがあるというので
自室で息を引き取る、ということにした
蓮の入った棺を後で掘り返して作戦完了
予定通り、三人の迫真の演技に兵の皆が
そして、将や子供たちが騙され
国全体が悲しみ暮れた
「バカね。息の出来る仕掛けくらい
作っておきなさいよ」
凝った肩をもみほぐしながら
桜はため息を吐くと
馬に跨り駆け出す
忙しなく見えるのは気のせいではない
出来るだけ早くこの地を
離れたかったからだ
「でも、これで完璧に蓮さんの死は
皆さんに印象付けられと思います」
「いや~本当にありがとね!二人とも!」
空と蓮も馬に跨ると、桜の後に続いた
「で?これから、どこに行くの?」
初めての旅に興奮気味な蓮が
桜に問いかける
「先も言った通り
私の愛弟子のところよ」
「桜の愛弟子か。私も会いたいなー
空は会ったことあるの?」
「いえ、それがまだなんですよ」
「会うといっても、遠くから様子を
見るだけよ。私も"死んだこと"に
なっている人間だから」
「そうなんだー。残念だなー
色々と噂は聞いてたから
話でも、と思ってたのに」
「貴女も死んだことになってる
人間なんだから、会っちゃダメでしょ」
「あ!ということは、会えるのは
私だけなんですか!?」
空が自分を指差して驚く
「そうなるわね。腑抜けているようなら
貴女に活を入れて貰うかもしれないわ」
桜は笑いながら、空に向かって頷く
「はい!お任せを」
「まぁ、太平の世になれば、いくらでも
会えるんだから。それまで、気長に
待とうかしらね」
「ええ、あの子も喜ぶわよ。きっと」
そうして、ゆったりと馬を進める三人
道中、様々な事件や楽しみ、誘惑などを
堪能した三人はいよいよ
桜の愛弟子のいる場所に
たどり着こうとしていた
「長かったけど、楽しかったわねー」
満足げに微笑みを浮かべた蓮が
伸びをしながら、緩やかに馬を進める
「貴女があっちこっちから騒動を
持ち込んで来るから苦労しっぱなしで
私はくたくたよ」
黒髪を揺らしながら桜は
馬にもたれかかった
「あはは…確かに、予定はかなり
ズレてしまいましたが
無事に到着できそうで、一安心ですね」
空も笑っているがどこか疲れが見える
「そうそう!もうすぐ、愛弟子に
会えるだから元気出して行くわ…よ
……ん?ん―?ん――――?」
と突然、蓮が首を傾げて天を仰いだ
「どうしたのよ?」
訝しげに蓮の視線先を追うと
昼間だというのに大空には星が一つ
眩い光を放ちながら煌々と輝いていた
「わー!綺麗な星ですねー!」
空が手を広げながら興奮気味に
天を見上げる
「本当ねぇ…」
桜も星を見上げ感慨深げに頷く
「んー…」
しかし、蓮だけは首を捻るのを止めない
「ねぇ…私の気のせいかしら
何か、あの星、大きくなってない?」
白昼の星を見上げる二人に蓮は問いかける
「言われてみれば、そうね…」
「確かに光も一段と眩くなってますね…」
「ていうか!あれ、星じゃないわよ!
彗星じゃないの!真っ直ぐ、こっちに
堕ちて来てるのよ!」
「あぁ、そういうこと…」
「なるほどですね~…」
そこまで呟いて、三人は馬を転回
一目散に駆け出した
「なななな!何で彗星なんか
堕ちてくるのよ!?」
「うわ~ん!蓮さん!
また何かしたんですか~!?」
「失礼ね!お天道さんに顔向け出来ない
ことなんかしてないわよ!
彗星はあれよ!"天の御使い"でしょ!」
「はた迷惑な御使いね!よりによって
何で、ここに堕ちてくるのよ!」
「これは天罰に違いありませ~ん!
やっぱり、蓮さん
何かしたんですね~!」
「してないわよ!って、きた!きた!
すぐ後ろまで来てるーー!」
必死に馬を急かしスピードを上げるも
流石に彗星には勝てるわけもなく
みるみるうちに距離は縮まっていった
「うわ~ん!桜さ~ん!愛弟子のこと
よろしくお願いします~!」
「その私も巻き込まれそうなのだけど!」
とうとう、彗星に追いつかれ
三人はその眩い光に巻き込まれてしまった
「「「きゃ――――――!!!」」」
「って言うわけよ。御使いさん」
蓮がにこやかに笑いながら
一刀を見つめる
「……本当、すみません」
一刀本人には三国に降り立つ間の記憶は
ないのだが、自分の出現に
三人が巻き込まれたことは事実なので
とりあえず、謝るしかなかった
「ふふ…でも、こうして私たちも
世界を渡り、様々な物を見て
考えさせられたのは貴重な体験でした」
「こうして生きているわけだし
気にしなくていいよー」
桜と空が微笑みながら頷いた
「何より、一刀に会えたしね!」
蓮はこれが一番の光明だと笑った
「……偶然じゃなかったのね」
話を聞いて驚愕していた貂蝉が静かに呟く
「あぁ、恐らく。三人が事故に巻き込まれ
生まれた道筋を通って北郷も
この地を訪れたに違いない」
左慈も貂蝉の言葉に賛同するように頷いた
「でも、何で江戸だったんだ?」
普通なら三人とも、俺の世界に
降りてもおかしくないはずだった
「ご主人様の例で行きましょう
転送の際、ご主人様は時代を遡るの
ずっとずっと昔、神々の時代の更に
向こう側よ。誰も知らない
誰も語れない時代まで遡るの
そこは、真偽があやふやで
正史と外史が入り混じる世界
当然、国の境もなく、人種の区別もない
そこからあの外史へとまた順に時代を
渡って行くの。そうして、あの時代の
あの場所にたどり着くのよ」
「彗星は転送のエネルギーを
圧縮した物なんだ。三人はそれに
直撃してもろに浴びてしまった
しかし、エネルギーが大半
使われており、尚且つ対象が三人
だったために、この時代に
堕ちてしまったんだろう」
「むしろ、救われたわね。ご主人様の
時代だったら、三人は今頃
社会に適用出来ず、都会で
孤独死していたわよ」
規律も警戒も緩く、人々の繋がりを
大切にするこの時代だからこそ
三人は何とか生き抜いてこれたのだと
そして、一刀の時代がいかに恐ろしいかを
語り聞かせた
「ごくり…鉄の塊が走り回る道」
「ごくり…刀を持って出歩けば、牢獄」
「ごくり…他人に無関心な人々」
「「「お、恐ろし―!!!」」」
三人は体を抱えて、震え上がった
「……」
俺の世界について、またも妙な
誤解が生まれた気がする
「一刀…あなた、よく生きて来れたわね」
「流石、御使いなだけはあるよー」
「一刀様が何をされても、笑って
いられる理由がよく分かりました」
いや、流石にそれはないかな~?
それ、生粋の変態だよね
「良いところも沢山あるから!」
「でね…では…で…」
「「「えぇ!!?」」」
結局、必死の訴えも三人には届かず
誤解は膨れ上がるばかりであった
光の柱を前に六人は立っていた
「さぁて、みんな、思い残すことは
ないかしらん?」
鎧を纏った貂蝉の号令に皆、頷くと
持てるだけの荷物を持って前に出る
因みに皆の格好は今から戦争に
向かうかのような鎧の集団だった
向こうは落ち着いたとは言っても
降りたところで敵が待ち構えているかも
しれないからだ
用心に用心を重ねての格好だった
「いざ、お別れとなると
寂しいものねー」
蓮が江戸街を眺めながらぽつりと呟いた
「そうだねーこの世界に来て
随分、経ったもん。でもさ」
「思い残すことなら沢山ありますが
それを投げ打ってでも
私たちは行かなければならない
理由が出来てしまいましたから」
と、三人が俺を見て笑いかける
「あぁ、江戸から連れ去ってでも
一緒に居たい人たちができたからな
離れたくない。一緒に行こう、みんな」
俺も三人に笑いかける
「「「……はい///」」」
三人は無言で一刀の横に並ぶ
「ふふ…良かったわね~三人とも」
その光景を楽しそうに見つめ、貂蝉が呟く
「貂蝉、君もだ」
「……ぇ?」
俺の言葉に貂蝉は目を丸めて固まる
そんな貂蝉を見て俺は苦笑すると頷いた
「君も大事な人の一人だよ
契りは交わせないが
共に酒を酌み交わした仲だ
大切な"友"だよ、君は」
「っ!ぅ…うぅ…!!」
貂蝉は頷くと両目から溢れる涙を
堪えることもせず、蓮の隣に並んだ
「左慈」
左慈を見ると、左慈は近寄って微笑む
「俺たちに言葉は不要だろう
お前は俺の父で、俺はお前の息子だ
親孝行は子の本懐なんだ
どこまでも共に歩もうじゃないか」
「はは。言うじゃないか…バカ息子」
「くっ」
頭をくしゃりと撫でると
真っ赤になった左慈はトン!と胸を叩く
そのまま、無言で空の隣に並んだ
「グスン、あー…もう大丈夫よ
ありがとう、蓮ちゃん」
そうこうしていると涙を
拭い貂蝉が復活する
「それじゃ、ご主人様!」
「あぁ、帰ろう。俺たちの故郷に」
「「「「「応!」」」」」
皆は互いに頷き合うと光の中へ踏み出した




