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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
58/121

別れ

「ご主人様」

「北郷」


広場で夜襲の練習を終えた俺たち


貂蝉と左慈が真剣な顔で

俺を呼び止めたのは

その帰宅途中でのことだった


「どうしたんだ?2人とも」


「「「?」」」


一緒に歩いていた三人娘も

首を傾げて二人を見つめる


「ちょっと、話があるのよ~」


「重要な話だ」


左慈は一瞬、空に目配せをする


「…先に戻ります。桜さんも蓮さんも

 行きましょう!ほら、ほら」


「え?か、一刀~!」


「へ?ちょっと待ってよ、空~!」


それに気付いた空は、二人を促して

先に戻って行った


「三人が居たらマズい話なのか?」


「えぇ」


「北郷。あと一カ月でここを発つぞ」


「発つって…魏に戻るってことか?」


「あぁ、実は于吉を三国に潜入させ

 敵の動向を探らせていたんだが

 どうも不穏な動きを見せ始めたらしい」


なるほど。最近、于吉の姿を

見ないと思ったら、あっちに行ってたのか


「敵が動き始めたってこと?」


「あぁ、于吉の強力な結界で

 北郷に手出しが出来なく

 なったからだろう」


「ご主人様の暗殺は諦めて

 三国に対象を絞ってきたみたいよ」


「敵も動くには準備がいるだろう

 余裕を見て、一カ月といったところだ」


「ご主人様の修行も仕上げ段階だし

 一カ月というのはこちら側としても

 ちょうど良かったわ」


「いいか?北郷。この一ヶ月で修行を終え

 彼女たちと別れを済ませるんだ」


「…桜たちを連れて

 行くことは出来ないのか?」


「残念ながら、それは無理よ

 あっちの世界とこっちの世界を

 行き来するにはパスが必要なの

 ご主人様は外史の発端だから

 持っているのは当前だけど

 この時代の人間である桜ちゃんたちは

 パスを持っていないのよ」


貂蝉は首を振り、俺の甘い考えを否定した


「どうしても、無理なのか?」


「そんなに連れて行きたければ…

 その手にかけるといい」


「命を奪えってことか?」


「妖術でいう"転生"というやつだ

 この時代の型にハマっている器を

 一旦、破壊し魂のみを取り出す

 それを向こうの世界に用意した

 器に移すんだ。凄まじい苦痛を伴うから

 大概は魂が壊れるけどな」


「それ以前に、三人を手にかけるなんて

 ご主人様はできないでしょ?」


「当たり前だ!!」


「なら諦めろ。お前は、魏を救うために

 ここで、修行してきたんだ

 それを忘れるな」


「…そうだな」


口ではそう呟きながらも

心は波打つばかりであった


「はぁ。三人には話せないワケだ」


込み上げくる感情を抑えるように

天を仰ぐと、満天の星空が目に映る


「…つらいかも知れないけど

 しっかり決断して、ご主人様

 ご主人様がしっかりしないと

 彼女たちにも迷いが生まれてしまうわ

 迷いの結果、彼女たちはきっと

 一つの未来を望むでしょう

 でも、それは叶わない願い

 彼女たちの悲しみを軽減させるために

 別れを告げられるのは、ご主人様だけ」


「だからといって焦るな。彼女たちに

 お前と出会って良かったという

 想いを残せるのもお前だけだ

 共に過ごす時間を増やし、深くして

 彼女たちに最後の思い出を残して

 やるといい。そのためにも、残された

 時間を無駄にするな、北郷」


「あぁ」


彼女たちを連れて行くことはできない

俺たちの未来には"別れ"の文字が

無情にも横たわっているんだ


その最後を如何に終わらせるか

それは俺の決断と行動次第


「分かったよ」


夜空を見上げ、目を瞑った俺の頬を

一筋の雫が伝い落ちた




気持ちを落ち着かせ帰宅すると明らかに

ギクシャクした三人が俺たちを出迎えた


「お、おかえりー!」


「お、遅かったわね?」


「か、一刀様!ご飯出来てますよ

 さぁ、どうぞこちらへ」


こんな調子で始まり


「一刀、あーん!」


「あ、ずるい!一刀?

 これも美味しいわよー?」


「一刀様!こちらもどうぞ!」


さらに輪をかけたようにベッタリな三人

しかし俺が期限の話をしようとすると


「あのさ、実は…」


「あ、大変だ!お風呂、忘れてたよ!」


「一刀?空いた皿、片付けるわよー」


「あ!私、手伝いますよ!蓮さん!」


という風に結構、無理やりな感じで

話をはぐらかされる始末だ


「これは、感づかれてるわね~

 乙女の感は鋭いから~」


「ふむ。これは骨が折れるな

 大丈夫か?北郷」


二人によれば彼女たちにも

葛藤があるのだろうとのこと


「頑張るさ」


三人が座って居た場所を見つめ呟いた



時間を置いて、気持ちを整理すると家に戻る

居間には片付けも、風呂の準備も済んだ桜たちが寛いでいた


「桜、蓮、空」


"ビクン!"


「れれれ、蓮!お風呂の準備

 出来てるから入ってきなよ!」


「そそそ、そうね!」


「今、左慈が入ってる」


「「「っ…!?」」」


「てなわけで、話しを聞いてくれるな?」


「(……こくり)」


真剣な眼差しを向けると

三人は俯きながらも頷いた


「1ヶ月後、俺は魏に帰ることになった」


「やっぱり…」


それは誰の呟きだったのだろうか

俺の言葉にぽつりと重い声が零れた


「三人も気付いてたみたいだな」


「いつか、この日が来ると

 覚悟はしていたわ」


蓮が苦笑しながら、見上げてくる


「そうか…」


「でも、期限が分かっただけ良かったー

 頑張って、修行を仕上げようね」


桜が顔を上げて微笑む


「そうですね…アレの完成も

 間に合いそうで良かったです

 私も頑張らなくてはいけませね」


「アレって?」


「おっと、それは秘密ですよ♪」


首を捻ると空は悪戯ぽく微笑んだ


「気になるなー」


「ふふ…」


「そうだ、一刀。こっちを発つ前に

 街の民に別れを済ませてきなさいよ?」


「明日にでも行ってくるといいよ~

 こういうのは、早い方がいいから♪」


「そうだな…空!付き合ってくれるか?」


「えぇ!?わ、わたしですか?」


「あぁ。頼むよ」


「わ、分かりました」


「ありがとう」


「ご指名なんて、ヤケるわね~」


「そんな!私なんて…」


空の脇腹を小突きながら蓮が笑うと

空は真っ赤になって首を振った


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