怒らせたら怖い人っているよね…
"キン!"
"チャキ!"
どうやら、4人の決着もついたようだ
「うっ……降参よ、蓮」
「くうぅ~悔しいわぁ~ん!」
刀を弾き飛ばされ固まる桜に
蓮が太刀を突きつけ、反対の試合場では
尻餅を吐いた貂蝉に空が巨大ハンマーを
寸止めしていた。どうやら試合は大逆転
蓮と空の勝利で終わったようだ
「ふぅ…一刀との修練で私も現役の頃を
思い出してきたわ。今ならアイツにも
負ける気がしないわね」
"ヒュン!ヒュン!"と蓮は
刀を軽く振って鞘に収めた
「えぇ…いつまでも経っても現役の頃は
忘れません。それより、桜さん
病み上がりとはいえ、腕が
落ちていませんか?」
「…悪いわね、途中から本気では
あったのだけど。やはり、歳には
勝てないのかしら…」
桜は苦笑すると刀をしまい服の埃を払う
「流石、年長…言葉の重みが違うわ」
蓮がクスクスと笑う
「何を言ってるのよ、一、二歳でしょ?」
「年長には変わりないわよ~?」
「くっ!」
その光景を見ていた男二人は
「「年長…?」」
思わぬ言葉に首を捻った
「…なぁ、北郷」
「…ん?」
「桜は…年長なのか?」
「いや、俺も初めて知った」
「蓮の一、二歳上だと言っていたが
だいたい、蓮は何歳なんだ?」
「…知らない、空も知らないよ」
「そうか。乙女には秘密が多いのだな」
「あぁ、多いな」
"ズズズー…"
二人は茶を飲むと何事も
なかったように晴天を眺めた
「茶が旨いな、北郷」
「全くだな、左慈」
関わったら負け。それを本能で知る二人は
関わることを全面的に回避したのだ
しかし
「一刀、左慈」
逃れられるわけがない
それがこの世界で生きる男の定め
「「……」」
二人の前には笑顔の桜が立っていた
「一つ、聞いてもいいかしら?」
「「ごくり…な、なんでしょう?」」
二人も懸命に笑顔で答えるが
背中では大量の冷や汗が流れていた
「私の、年齢についてなんだけど…」
「左慈。あと頼んだ!」
「あ!お前!!」
" "
一刀は桜が何か言う前に湯のみを置くと
左慈に全てを任せ、その姿を消してしまう
「無駄だよ…一刀」
左慈を見つめたまま満面の笑顔で桜が呟く
"ビイィンッ!ドサッ!"
「げふっ!?」
直後、 中庭の中央で一刀が倒れる
一刀の左足にはロープが巻きついていた
「いつっ!はっ!?これは!」
一刀にはこの光景に覚えがあった
蓮と初めて出会った日
俺に手を出しかけた蓮は桜に見つかり逃亡
しかし、なぜか派手にすっころび
その足を見ればロープが巻きついていて
"ぐいぐい"と、こんなふうに引っ張られ
ロープの先を目で辿ってみれば
我が愛する桜さんがいるわけですよ
「一刀…何で逃げるの?」
あはは!その笑顔とても素敵だよ!
それじゃ、俺はこれで…
くっ!?紐が解けないだと!?
「ははは…逃げてなんかないよ?
俺たち、恋人だろ?たとえ離れていても
心は繋がってる。それを急に
証明したくなってね!
たとえ、桜が年長でも俺はああぁ!!?
しまった!地雷踏んだああぁぁー!!」
笑顔(偽)で桜は紐を手繰り寄せる
俺は引っ張られて、地に涙と爪痕を
残しながら絶叫を上げて、ズルズルと
鬼のもとに引き寄せられていく
「……ホラー映画だ…」
桜の後ろで左慈がガタガタと震えながら
二人の様子を見ていた
逃げたらヤバいと本能が
警鐘を鳴らしているようだ
「れーん!蓮!元はと言えば
お前が原因だろ!?助けろよー!」
「ガタガタ…いや!ごめんなさい!桜!
暗い部屋恐い!いや!許してよ!」
どうやら、蓮もトラウマスイッチが
いつの間にか入っていたようだ
蓮が泣き叫ぶ中…
俺はそのまま、千葉家の奥間へと
引きずられていった
「っ…へへ…くくく…」
着実に近付く恐怖に俺は半ば壊れ始めた
途中で左慈の足を掴み道連れにし
「くくく…あははは…!」
「いやだ!止めろ!北郷おぉぉ!」
俺たちは襖の奥へと消えていった
"パタン"
『『ギャアアアァァァ!!!』』
残された三人の話によれば
その後、二人の絶叫が
二刻(30分)ほど続いたらしかった
その後、二人が消えて3時間
襖が開かれることはなかった
"ガラガラ……"
「あ、桜さん!」
障子を開けて出てきた桜を
三人は中庭から出迎える
待っている間、恐ろしすぎて
誰も近付けなかったのだ
「ご、ご主人様はどうしたの!?」
「さ、左慈も一緒に
連れていったんでしょ?
二人をどうしたのよ!桜!」
「…ふふ、少し、戯れてあげたのよ
大丈夫。命までは取ってないわ」
桜は大きく伸びをすると
さぁ、お風呂入ろう~と呟き
風呂場に向かってしまった
三人はそれを無言で見送ると
視線を少し開いた障子へ目を向ける
「「「ごくり………」」」
三人は目を細めるが障子の奥は
深い闇に包まれ全く見えない
そのまま、静かに見つめていると
空が小さく悲鳴をあげた
「ひっ!?」
「空?…きゃぁ!?」
「な!!ご主人様!?左慈ちゃん!?」
深い闇の中に煌々と光る
二対の眼を三人は見た
やがてその持ち主たちの輪郭が
現れたことで三人は更なる驚愕に襲われる
「「………」」
服はボロボロ、顔や身体は生傷だらけの
二人が障子を開けて出てくる
しかし、その眼光は鋭く、まるで
餓えた獣。生に貪欲な存在だけが
持つ特有の光を帯びていたのだ
「か、一刀…?」
「さ、左慈さん…?」
「「はっ!?」」
二人の声に意識を取り戻した
一刀と左慈は互いを見る
「…左慈?俺、生きてるのか?」
「…あ、あぁ。生きてる。北郷。俺は?」
「…あぁ、生きてるぞ」
「「そうか。あは…あははは…!!」」
二人はしばらく、互いの
生を祝し讃え合った
「それで…何があったの?」
落ち着いた二人に貂蝉が茶を出し
あの部屋で何が起きたのか聞いてきた
脇では蓮と空が傷の治療に励んでいる
「「三つ巴バトルロワイヤル」」
二人は口を揃えて呟いた
「桜が提案したのは以下の通り
最後の一人になるまで闘い続けること
制限時間は十二刻(三時間)
一刻ごとに対象を変更すること
協力は不可。武器は拳のみ
敗北は戦闘不能、降参宣言、退出とする
尚、如何なる敗北でも地獄が待つ」
「最初の二刻はただ、逃げ回ることしか
できなかったんだけどさ」
「三時間という長丁場だ。体力や戦力
戦略や心理と様々なことを考慮して
あの狭い部屋を駆け回った」
「生への貪欲さを学んだ時間だったな」
「あぁ」
ため息を吐くと遠い目をして
二人は沈む夕日を眺めた




