忘れ物の行方
「ん…んん…んー!」
顔を上げ、伸びをする
ポキポキと骨が鳴るが
それがまた心地よかった
「はぁ…」
ぼーっと周り見渡す
あぁ。この場所は、よく知っている
私の戦場、政務室だ
「あ、お目覚めですか?」
声のする方を見ると、書簡の山の向こうで
ネコミミ頭巾が見え隠れしている
「ふぁ…はむ……んー…」
あくびを噛みころしながら
まだはっきりしない頭で
状況を確認していく
書簡の山は私の机の上にある
どうやら、私は政務中に眠って
しまったようだ
覇王ともあろう者が
何をしているのかしらね、全く
自身の失態に気付き、心で毒づく
「華琳さま?」
私を心配してか
ネコミミ頭巾を被った少女が
私の横にやってくる
「んー!…大丈夫よ、起きたわ!
さて、私はどれくらい
眠ってしまったのかしら」
「私が気付いたのは
一刻ほど前(約15分)です」
「次からは起こしてくれて構わないわ」
一刻とは…本当に弛んでるわね
「…華琳さまは働き過ぎです
少しはお休みに成られないと
お身体に障ります」
「大丈夫よ。私はこれくらいで
弱ったりしないわ
さぁ、再開しましょう!
遅れを取り戻さなくてはいけないわ」
筆を握り、書きかけの書簡を
手繰り寄せる
「………はい。あ、あの、華琳さま
その前にお伺いしたいことが…」
「?…どうしたの桂花?」
「あの…華琳さまの着ていらっしゃる
その服はもしや…北郷の…」
桂花が、私の肩を指差す
あまりに自然にかけられていたので
気付かなかったが、これは間違いなく
一刀の上着だった
「あ……」
肩にかけられた上着を取り
目の前に広げる
「……北郷に会われたのですか?」
桂花は隣でそれを眺めている
「えぇ、夢でね…元気そうだったわよ」
夢の内容を思い出していく
久しぶりに再開した彼はとても逞しくなり
そして、相変わらず優しかった
「…その、いつ戻るか
という話はでましたか?」
「いいえ。ただ、約束はしたわ
一刀は必ず魏に戻ってくるわよ」
「そうですか…」
桂花は小さく呟くと
自分の机に戻っていった
「ふふ…桂花、何だか待ち遠しそうね」
「っ!そ、そんなことありません!
誰があんな!…あんな…男…」
机に戻った桂花は俯く
その姿は寂しさや苦しさを我慢する
子供の姿を連想させた
「…ふふ、無くして気づくものもあるか
安心なさい、桂花。次に、一刀が
帰って来たときは絶対に離さないわよ
だから、今は帰って来たときのことを
思い、待ちましょう」
「あの、左慈という男が
言うようにですか
ですが、本当にあの男が言うことは
信用に足るのでしょうか」
桂花は眉間に雛を寄せる
何かを思い出したようだ
「………あの男、今度会ったら
絶対に首をハネるわ」
華琳もこめかみを押さえ
溢れそうになる何かを抑えているようだ
「器物破損、誘拐未遂、公務執行妨害
さらに、王宮への不法侵入
あろうことか、華琳様への暴言と
上げればキリがありません」
と指折り数えて、桂花は苦笑する
「それでも、天の御使いなのだそうだから
無茶苦茶なところは一刀にそっくりね
まるで兄弟か親子のようだったわ」
華琳も制服を上から羽織ると
椅子に深く腰掛け、苦笑した
二人はしばらく外の白鷺を眺め
少し元気になった二人は
作業を再開するのだった
一方、その頃、一刀たちはというと
小休止のため居間や縁側で茶を飲んでいた
于吉は簡単に侵入を許したことに憤怒し
『ふふ…この私を本気にさせましたね』
とより厳重で強固な結界
そしてトラップを仕掛けにいった
左慈は呆れながらも止めたが、于吉は
『いえ、熊でも侵入を許さない結界を
破った敵の顔を拝みたくなりましてね
生きて捉えて、骨の一辺まで
調べたいんですよ』
と狂気に満ちた笑みを浮かべた于吉に
誰も何も言えなくなってしまったのだ
ふらふらと林に消えていく于吉を
皆は無言で見送った
「どうやら、雛○沢症候群は時と物語を
越え、この江戸にもやって来たようだ」
振り返った左慈が"ふっ"とニヒルに笑う
「ダメだ!早く何とかしないと!
このままじゃ、魏に帰る前に
土に還ってしまいそうだ!」
「やめとけ、北郷。下手に刺激すれば幻覚症状がでる」
「…くそ!」
とりあえず、様子を見ようと言うことに
于吉は放置の方向で決定した
その日の午後
何者かによる過剰トラップに引っ掛かり
無惨な姿となった于吉が発見された
「…ふっ」
左慈はニヒルに笑うと于吉を
引き連って千葉家に持ち帰ってきた
「北郷、こんなの拾った」
ブランと于吉を掲げて見せる
「家では飼えません!賃貸なんだから
大家さんが何を言うか分からない
その子には可哀想だけど
元居た場所に返して来なさい」
「わかった」
左慈は頷くと裏の川に于吉を投げ入れた
「ふ…元居た場所」




