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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
52/121

教えて!于吉センセー!

「では、気を練り、満たしていきますよ」


「おう。……すぅー…はぁー…」


丹田に重心を置き

深呼吸を繰り返し内気と

外気を混ぜ合わせる

十分に練り、満たされたのを感じたら

次は気を全身に行き渡らせる


丹田から気功(気が通る道)を通して

頭の天辺から爪先まで気で満たしていく


手や足先、顔と、全身が

ぽかぽかしてくるのを感じる


「うん、早いですね。では"硬"を」


于吉の言葉で岩をイメージする

イメージは気に変化を及ぼしていく


「はい、いきますよ」


于吉は石を拾うと

俺の頭目掛けて投げつけてくる


"カッ!"


石は頭に当たるが

痛みを感じることはない


「うんうん、良いですね

 では、"剛"いきますよ」


イメージは火に切り替える


「…行きますよ」


葉を10枚取り出すと

于吉はソレに命を吹き込む

葉は式となり

俺に向かって攻撃を仕掛ける


「ふ!」


"パン!パン!パン!…"


短く息を吐くと葉を

拳で撃ち落としていく


「ふぅー!はぁ…」


足元を見れば、粉々になった

葉っぱが散らばっていた


「"剛"は筋肉、神経伝達の強化

 つまり、攻撃の速さを上げ

 攻撃力も引き上げる

 素晴らしい、剛ですね」


「一番、始めに覚えた術だもんな

 鍛える期間が一番、長かったから

 身にもよく馴染んでるよ」


「得意技というものですね

 確かにモノにしているようです

 では、"気功波"にいきましょうか」


葉を一枚、取り出すと

命を吹き込む


それはヒラヒラと距離を取りながら

俺の周りを舞う、不規則な上に

距離もある


「すぅ…はぁ…」


全身の気を拳に集める

拳が光を帯び、光輝く


狙いを定め、放った!


"パン!"


「お見事です!ふふふ…

 響が乗りました!」


風が吹き于吉の周りを取り巻く


「おいおい、またでたよ…悪い癖が」


俺は苦笑しながら構えを取る


于吉の悪いクセ

それは"探求心"をくすぐられると

とことん対象を研究し尽くす

全てを解明するか

対象が壊れてしまうまで

ここまで来るのに

何度、解剖されかけたことか…


「ひどいですね~私は純粋に

 万物の真理を知りたいだけですよ…」


風に巻き込まれた落ち葉が

于吉の気を受けて式へと早変わり


何十という式神が于吉の周りを

浮遊している

今回はまた、数が多いな…


「探求心は結構だけど、自制心も

 大切だと俺は思うな…」


気を練り上げ、全身を巡らせる

あの数だ。気を抜けば

少しの隙から瓦解される


「ははは…自制心は探求心の敵ですよ!

 NO!自制心!YES!探求心!」


"ビシ!"と指を俺に向けると

数十の式神が俺に向かって襲いかかる


「ははは…君の辞書に『自制心』という

 言葉を書き込んであげよう」


"パン!パン!パン!パン!"


俺に飛びかかった数枚が

粉々になり地に落ちる


「む?それは"鞭"ですか?」


于吉が目を細めて

俺の手に握られている物体を見つめる


「あぁ、武器に気を吹き込むより

 数段、攻撃力は落ちるが

 複数の敵に囲まれては

 気功波も追いつかない

 身一つにも限界はあるからな」


"ヒュン!"

"パン!パン!"


「気孔波に少しの"硬の気"を混ぜ

 引き延ばして作り上げたようですね

 全く。応用力はピカイチですね

 では、その選択が正解だったと

 証明して頂きましょうか」


于吉が拳を握ると

俺を囲んでいた葉が一斉に襲いかかる


「ふ、簡単さ」


"ヒュ!シュ!ビッ!ヒュン!"


鞭を唸らせ、葉を落としていく


"チッ!チッ!チッ!ヂッ!ボッ!"


「む!?炎!?」


葉と大気との摩擦により鞭は

静電気を帯び始める

それは膨らみ続け

葉を焼き切るほどの電気を

帯びて、鞭の通る軌道の葉を

焼いていく、もう跡形もない


「…こ、これは」


于吉は信じられないものを

見るように驚愕し数歩、後退る


"チリ!ビリ!ビリ!バチ!"


「そう、まるで"雷公鞭"みたいだろ?」


"バチ!"


最後の葉が燃え尽きる


―雷公鞭―


『封神演義』にて

太公望が使う、宝貝を打神鞭という

これに並び代表される宝貝の一つ


随意に雷を起こし

形あるものを焼き尽くし粉砕できる

それは、影や魂まで溶かすという


「雷公鞭…」


于吉は苦笑し切り株に腰掛ける


「どうだ?俺の選択は

 間違いじゃなかったろ?」


俺は腰に手を当てため息を吐く


「えぇ…完璧です。しかし

 "宝貝の再現"とは。もはやそれは

 具現化と変わりありませんよ」


頭に手を当て于吉は笑う


「いや、これは違うよ

 力と気を合わせて似せたに過ぎない」


鞭に電気を纏わせたに過ぎないんだから


「十分、合格ですよ

 『具現化』を教示しましょう」


于吉は立ち上がると

俺に武器を取るように勧めた



「具現化とは"物"や"思想"に"夢"

 己を構築する根源といわれるものを

 僅かばかり掬いとり、この空間を

 染めあげることをいいます

 そうですね。白紙の紙を広げたとして

 これを"空間"とします。そこに墨汁を

 垂らしていくようなイメージですよ

 じわじわと世界を侵食し

 己の想うままに描くように」


俺たちは対面して胡座をかき

胸の前で手を合わせると目を閉じる


それぞれの前には

『明鏡』(水晶)

『大蛇』(八矛一楯)

と、二つの神器が置かれている


今、二人は互いの神器に己の気を流し

具現化のための気を充填している

途中であった


「では、行きますよ

 まずは私が手本を見せましょう」


"パン!"


そう言うと于吉は手を打つ

澄んだ音が辺りに響き

空気が呼応するように震える


「どうぞ…目を開けください」


言われ目を開けると、そこにはもう

別の世界が広がっていた


「…ここは…」


身体は全く重力を感じていない

視界に広がるのは漆黒の闇と

点々と輝く光


"生命の根源"


「そう、宇宙です」


于吉は笑うと軽く握った拳を

俺の前に見せる


「ここは宇宙であり

 ここは私の根源

 私は、ここでは人であり

 神でもあります

 ようこそ、私の箱庭へ」


手を開くと中から、輝く星が現れる


「星を…創ったのか」


俺は目の前で浮かぶ星を見つめる


「具現化するのは

 あなたの"夢"や"理想"

 あなたの"心象風景"

 あなたの"根源"といわれるものです

 あなたは主人公にも、脇役にも

 いいえ、それどころか

 背景や形無いものにすらなれる

 全てはあなたが思い描くままになります

 この世界の主はあなたなのですから」


"パン!"


そう言って于吉は手を再び叩く


音の反響と共に世界は在るべき姿へ還った


「では、一刀くん。あなたの番です

 期待していますよ」


と、于吉は微笑んだ


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