一矢報いるのこと
「ご主人様は今日もやってるかしらん?」
両サイドのおさげを揺らし、山道を
ルンルン♪とスキップしながら登っていく
山道を少し逸れ、獣道に入っていくと
開けた場所に出る
そこでは、周作と一刀が立ち合っていた
「声をかけられる雰囲気じゃないわねぇ。
様子を見ましょうか…」
貂蝉は"スッ"と木陰に身を隠す
来訪者の視線の先で
一人は薙刀を下段に
一人は刀を正眼に構えている
薙刀の切っ先がユラユラと揺れる
一刀は"ピクッ"と一瞬、反応するも
すぐに平静を取り戻したようだ
なおも周作の陽動は続く
ユラユラ…ユラユラ…
一刀が痺れを切らし
"ぐっ"と足に力を込めた瞬間
首を狙った突きが一刀を襲った
「くっ!?」
大勢を崩さぬために
寸でのところを首の動きだけでかわす
周作は突き出した薙刀を
引き寄せることなく
そのまま、首を狙った凪払いに移る
しかし、攻撃の勢いは皆無。
斬撃を刀で押し返すと同時に
懐に飛び込もうとするが
一刀は悪寒を感じて、後ろに跳び去った
その鼻先を薙刀の柄が通り過ぎていった
周作は弾き返された反動で
刀身を引き寄せ、懐に入ろうとする一刀の
こめかみへ柄によるカウンターを
放ったのだった
「………」
周作は外れたことも意に介さず
薙刀を再度、下段に構える
ユラユラ…ユラユラ…
強引に間合いを詰めようとするが
相手は足を、胴を、小手を、
首を、面を、巧みに狙い
あと一歩を許してくれず
刀の間合いに入ることができない
心身共に追い込まれ、ついには
見事な胴をもらい片膝をつく
「はい、一刀。君は、死んだよ」
腹を押さえて苦悶する一刀の首筋に
薙刀の刃を押し当て
冷徹な視線を向ける
「く…まだだ…」
苦虫をかみ潰したような表情で
一刀は立ち上がり、刀を構える
「………へー☆」
目をキラキラさせて周作は
薙刀を構えなおす
「一刀!次はこっちからいくね!」
にこにこと死神は薙刀を一刀に突き出す
先程より、精度、速さともに
上がった一撃
「しっ!」
刀の刃を寝かせて薙刀を流す
「あれ?流された…んじゃ、はい♪」
笑顔で腕への切り返し
一刀はしゃがみながら刀を寝かせて流す
「すご~い☆でも、もう終わりかな!!」
そのままの勢いを殺さず
薙刀を振り上げ、真っ直ぐに叩きつける
それは地面が陥没するほどの威力
しかし…そこに一刀の姿はなかった
「くっ、どこに!?」
ざっと、見回すが一刀の姿はない
"ヒタ"
「っ!?…はは………凄いね、一刀」
冷たい感触を首に感じ
自分が置かれている状況を理解した
姿を消した一刀は、周作の後ろから
首筋に刀を押し当てている
周作の上段切りをサイドステップで
かわした一刀はそのまま後ろに回り込み
周作の死角に消えたのだった
「はい、周作。これで君は死んだよ。」
さっきのお返しというばかりに
笑顔で同じ台詞を周作に向ける
「面白い…、面白いよ…一刀!」
"キン!"
一刀の刀を弾き返し反撃に出た周作
それからは周作の一方的な猛攻撃
で立ち合いは幕を下ろした
後に残ったのは、穴だらけの広場
倒れた巨木、曲がりきった刀
そして、ボロ雑巾と化した一刀であった
「それじゃ、一刀♪私の圧勝だったから
お風呂の準備、お願いね~☆」
ひらひらと手を振って
周作は家に帰っていく
「っ!?……お、鬼ぃー!!!」
昼下がりの山に一刀の声が虚しく響いた