一刀、新たな力を手に入れる
「いいですか?一刀くん」
于吉は指を立てて説明を始める
仙術を語る上で先ず欠かせないのが
『気』である。気は二つに分けられる
一つが生まれながらに体内で
精製蓄積される『内気』である
これは陰と陽に分かれ
人それぞれにその割合も
精製蓄積される量も千差万別である
だが、共通として
内気が多い人ほど身体が丈夫である
という特徴がある
また、自然界にも気は溢れている
火、水、土、木、金
が代表的でありこれらも更に
陰と陽の二つに分けられる
呼吸や摂取、接触などで
体外から僅かながらに
取り込むことができる
これの『気』を使用して
行うのが、仙術や道術、陰陽道や
果ては魔法というものである
まぁ、魔法はまた別次元ではあるが
―体術―
『気』は訓練することで
自在に大きさや密度を変えることが
できるようになる
これを『気を練る』という
仙術と違って、『気』を持つ者になら
誰でも使えるのが特徴
桜や蓮はこれを長年の修練から体得し
無意識に使っているという
また、あの世界の恋姫達も
何人かいるらしい
練り上げた気は硬く丈夫で
相手の攻撃を防ぐことも
あるいは攻撃の威力を
増加させることもできる
また、『気』を断ち
気配を消すことができる
『絶』といい、これも立派な体術である
于吉の得意な体術であり
これで人の後ろに立ち脅かすのが
快感とか。性格がよく出ることが分かる
呉にズバ抜けて得意とする人物がいるが
彼女たちは意識的に出来るので
相当の修練を積んだに違いないとのことだ
―仙術―
仙術が体術と大きく異なる所は
気のエネルギーを変換して
利用する点だ
普通の人間には到底できる
芸等ではないが、「神器」という
道具を用いて気のエネルギーを
変換することで可能となる
于吉の持つ水晶『明鏡』も神器であり
これを媒体に彼は様々な仙術を
駆使している
一刀の場合、あの武器『大蛇』が
十分に神器に値するので
それを使えば仙術は可能とのこと
「なるほどな」
と俺は部屋の片隅に
立てかけてある『大蛇』を見る
「面白いことに、あの神器は
『内気』を精製蓄積できるようですね
もう『魂』と言いますか
どちらにせよ"生きている"と言えるます
あの『気』と一刀くんの『気』を
混ぜ合わせれば、『具現化』も
夢ではないでしょう」
于吉も俺の武器を見つめ頷く
「ずずず…まぁ、あれは
喋るくらいだからな
生きていると言っても
過言じゃないだろ」
先日の『牡丹鍋事件』や
『クレイジーポンド砲』を思い出す
春蘭の愛刀は分かるとしてだ
性格はそのまま、春蘭だったし
問題は秋蘭の愛弓だ
『ダム!デストロイ!』
『ビッグバン…』
コレらの言葉はどこから出てくるのか
今更ながらに仕組みが気になってきた
作った本人、空を見ると
ちょうど、ご飯を食べ終わったのか
お茶を飲んでいた
金糸の髪を今日は下ろしている
珍しい
「……?……ぽ///」
まぁ、聞いたところであの調子だから
のらりくらりと
かわされるに決まっているだろう
「珍しいな、髪を下ろすなんて」
取りあえず、気になったことを聞いてみる
メイト喫茶で初めて会った時は
髪を下ろしていたが
こっちに住むようになってからは
髪をツインテールにするようになったのだ
「え?あ、コレですか?」
綺麗に落ちた髪を空は撫でる
「髪留めが切れてしまって
新しい物を探しているんですが
良いものがなくて…変ですよね」
と空は少しシュンとしてしまう
「いや、髪を下ろした姿も
よく似合っているよ
うん、可愛い」
俺は素直な気持ちを述べる
「あ、ありがとう…ございます///」
ふにゃ…と空はテレた笑顔を見せる
それの笑顔も可愛い
しばらく見ていたいな
「うん…やっぱり…可愛いな…」
「あ、あの…は、はぅ…あぅ~…」
空は見つめられて落ち着かないのか
モジモジとしたり、指先で髪を
いじったり、お茶を飲んで誤魔化したり
忙しなく動く。はぁ、癒される
そういえば、空とは遊びに
行ったりしてないな
うん…よし!機を見て誘ってみよう
「一刀く~ん、帰ってきてくださ~い」
于吉が目の前で手を振る
「ん?あぁ!悪い。仙術の話だったな
『気』っていうけど
俺に『気』なんてあるのか?」
と于吉に問いかけると
「え?一刀…それ本気で言ってるの?」
「かなり笑えない冗談よ?一刀」
「嘘ですよね…一刀様」
「ご主人様…」
「北郷…お前…」
「おやおや…」
何故か周りの皆さんが
信じられないものを見るように
俺を見つめた
「えっ…あれ?…みんな…どうした?」
俺は何のことか分からず
ただ、皆さんの視線を一身に浴びて
オロオロするしかなかった
「一刀、街で民を奮い立たせた
日のこと覚えてるかな?」
桜と蓮が俺を見つめる
恐らく、民の願いを叶えるために
初めて動き始めた、あの時のことだろう
「え?ああ、勿論」
「では、初めて武器を手にした時を
覚えてらっしゃいますか?」
次は空が俺を見つめる
あれは俺の中でも大きい
今でも鮮明に覚えている
「あぁ、勿論だとも」
「じゃあ、私との熱い初夜のことは」
貂蝉が頬を染めて、品をつくる
「知らない」
俺は顔も見ることなく即答する
「しょんな…ご主人さ『知らない』……」
全てを言い終える前に即答され
シクシクと部屋の隅で泣き始めた
「私たちも、あなたがこの地に
降りた日から監視はしていましたが
あの街での出来事には『父』の
片鱗を見ましたよ」
と于吉は真剣な顔付きで見つめる
「お前は三国の中で並ぶ者がいないほど
強く、大きく、純粋な『気』を
持っている」
左慈は珍しく身を乗り出して笑った
「でも、凪…、楽進と『気』の話になった
けど、そんな話は出なかったし
俺の『気』は微弱とまで言われたんだ
それに、みんなの言うほどの『気』なら
武の達人である彼女が気付かない
わけはないだろ?」
凪は『気』の使い手だ
元から鍛えて高めた身体能力へ
さらに『気』を上乗せして戦うスタンス
『気』のプロに微弱とまで言わせ
武将たちからはへっぽこ呼ばわり
とてもじゃないが信じられない
「ちゃんと理由はあります
あちらで過ごした一年
本当に『気』は無かったんですよ」
と于吉はニヤリと笑った
「妙な言い方だな。まるで、その時は
なかったような言い方だ」
俺は訝しげに、聞き返す
「ええ、そのとおりですとも」
発端の"北郷一刀"は大陸を統べながら
皆から反感を買うことはなかった
彼の纏う、強く、大きな『気』に
『天の御使い』という名前を
信じさせるだけの力があったためである
「奴は新しい外史が生まれた時
その『気』を分け与えた
彼女たちを守るために」
「守るため?」
「外史は常に『正史の力』に晒されていた
歴史を正そうという力だ
その影響を可能な限り防ぐため
あの世界の重要人物に『気』を
分け与えたんだ」
「その相手と言うのが
曹操、劉備、孫策の三人です
彼女たちが外史の影響を受けなければ
臣下の者たちも影響を受けることは
ありませんから」
そうか…あれ?でも
「三国は滅んだんだろ?」
そう、三国は滅んだ。そしてそれから
辿った運命は今の正史と何ら変わりはない
「正史の影響は弱くなった
だから、直接、手を下せる人物を
正史は送り込んで来たんだ
外史にパスを持ち、外史の影響を
受けない人物」
「ええ、『北郷一刀』を」
「「「「!?」」」」
桜と蓮、空が俺を見つめ困惑する
でも、残念ながら等の本人の
俺だって困惑している
「つまり、"俺"が三国を滅ぼしたのか」
頭が真っ白になる
二人の言うことが信じられなかった
「敵は別の外史の"あなた自身"です」
「くっ…くくく…ははは!」
笑いが込み上げくる
「か、一刀?」
「一刀様?」
「ちょ、どうしたのよ?」
本当にふざけたことをしてくれる…
まぁ、いい。敵は分かった
それだけでも僥倖だな
「くくく…いや、悪いな…くく…
そうか"天の御使い"が三国を滅ぼすのか
まさに天命というやつか
なら、俺も道を選ばないとな
于吉、頼む。仙術を教えてくれ
最高クラスの仙術使いに
俺を鍛えてくれ」
俺は于吉に向き直ると
深く頭を下げた
力が欲しい、運命をねじ曲げ
輪廻を断ち切るだけの力が
「えぇ、お任せを…仙人史上最高の
使い手にしてみせますよ」
と于吉も深く頷いた
「でもどうするか
肝心の『気』は空っ欠なんだろ?」
三国の王に気を分け与え
今の俺は気が微弱にしか残っていない
仙術を学ぼうにも
これではどうしようもない
「それが、今のあなたは気が十分に
満ちているんですよ。監視は
行っていましたが、急激に『気』が
膨らみ始めたのはあの日からですね」
と于吉は蓮を見る
「へ?わ、私?」
蓮は急に話を振られキョトンとしている
どうやら、蓮自身に思い当たる節は
ないようだ
「蓮と、その、あ、逢い引きをした日だ」
と左慈が照れながら苦笑する
「あぁ、あの日か」
俺はポン!と手を打ち頷く
思い出した。蓮と初めて結ばれた日だな
「なに?蓮ちゃんも私
みたいな体質なの?」
と桜が首を傾げる
福マンのことだろうか
「バカねぇ~そんなワケないでしょ
だったら、元旦那が天下取ってるわよ」
と蓮は手を振り笑うが
そこでふと、動きが止まった
「あ、元旦那か…んー」
そのまま腕を組み考えこんでしまう
「蓮の旦那さんか…
クレイジーな人だったな」
と思わず、呟いてしまう
白髪に褐色の肌、蓮と同じ青色瞳
そして、お手軽で良心的で安全安心の…
やめよう…今晩、出てきそうだ
『伝説の剣は安全安心の品質
¥1980~♪今すぐ、ヤホーで検索☆』
頼む…消えてくれ
「あれ?一刀、旦那にあったことあるの?
あの人、本当にやることなすこと
無茶苦茶で参るわよね~」
まぁ、それが楽しかったんだけど、と笑う
「あぁ、あの日。夢枕にな
化けて出たんだよ」
苦笑混じりに頷いた
まぁ、退屈はしなかったな
「あぁ、あの人ならやりかねないわね
何かされなかった?」
「いや、"蓮を頼む"と言われたよ」
「そう。本当…あの人は…」
蓮は真っ赤になって微笑んだ
「あ、待てよ?確か…」
俺は腕を組み考える
確かあの時、引導とか言って…
「あ―――!そういえば、何かされた!」
旦那の手が光を帯びたかと思えば
腹に強烈な打撃
そのあとは、何かが身体を駆け巡り
全てを造り直されていく感覚が
全身を襲った
身体が熱くなり溢れるようなあの感じは
「気功の強制開放でしょうね」
「内気の生産を活性化させ
さらに外気を取り込む量も
増加させたようだ」
左慈と于吉は合点がいったのか
確認のように呟くと大きく頷いた
「ということは…『気』は問題ない?」
「えぇ、問題ありません
十分すぎるくらいの量ですよ
時間もありません
今日から初めて行きましょう
空さん予定の組み直しを
お願いしますね」
「はい♪桜さんも帰って来ましたし
『天上天下無双計画』再始動です♪」
空の言葉に皆、大きく頷いた




