接触!謎の女
早朝、釣りから戻る
桜の前に女は突然、現れた
『もし。北郷一刀殿の側近の方かな?』
桜の前に立ちふさがった
彼女は問いかける
声は若いようだが
フードを被り顔が見えないために
正確な年齢はわからない
しかし、背は蓮と変わらず
スレンダーのようだ
『はぃ、そうですが』
立ち振る舞いから
強さは民と変わらないようだ
警戒は最低限のものでいいだろう
『私は主の命で此方に伺いました
北郷殿には大変に世話になったので
"御礼"を持って行くようにと』
そう言って女は小さな箱を取り出す
『茶菓子です』
箱を開けると中にはドーナッツ
少しお腹の空いていた私は
目が釘付けになっていた
『うわぁ、これはご丁寧に…じゅるり』
『あ、あの…数が少ないので
北郷殿にお渡しください
いいですか?絶対に北郷一刀に
食べさせてくださいね?』
女の言うとおり箱の中には
ドーナッツが2つ
『分かりました♪』
一つは一刀の分として
残りは?蓮と空と貂蝉と私…
『ほ、本当に、頼んだぞ!?』
うん、奪われる確率大!
『はい、絶対に渡しますよ♪』
よって…出る答えは一つ!
『やっといなくなったか…
ふ、ふふふ…それでは…頂きまーす♪』
「頂きまーす♪じゃないわー!!!」
"スパ―――ン!!!"
状況を説明していた桜の頭を
蓮がハリセンで叩く
おぉ!レアな光景だ!
「いた―い!虐めだ!病人虐めだ!」
桜は"わーん!"と泣きながら
俺に駆け寄り抱きついた
「あんたねぇ!そんな怪しい女が
渡した物を普通、口にする!?」
腰に手を当て明らかにご立腹のようだ
まぁ、当然だよな
「俺も同感だ、桜。今回は桜が悪い」
今回、運良くこれだけの人が
居たから助かったけど
次はないだろう
「…返す言葉も御座いません」
桜はシュンとなる
「まぁまぁ…お二人とも
それでは、周作さん。女に目立った
特徴は無かったんですね?」
「特徴…あ!指輪してたよ」
「……どんな指輪でしょう?」
「んと…白金の指輪で…」
と桜は紙と筆を取り出して
書いていく
そこには
『夏』の文字が彫り込まれた
指輪があった
「夏?」
俺は首を捻る
「夏ですか、春とか秋、冬なんかも
あるんですかね?」
于吉は皆目見当がつかないのか
眉を寄せて唸る
「だとすれば、北郷一刀の命を狙う者が
最低でも4人は居ることになるな」
左慈は紙を手に取り
椅子に深く腰掛ける
「あ。あと、夏の横に何かもう何文字か
書いてあった気がするんだよね」
一瞬だったし指の間に隠れちゃってて
分からなかった、と桜は謝る
「まぁ、注意するに越したことは
ないでしょう。特に周作さん
せっかく助かった命です
私たちの努力を無駄にしないよう
心掛けてくださいね」
と于吉は苦笑した
「はぃ、以後、気を付けます…」
これから、一月はみんなに
言われ続けると思えよ、桜
「あとは貂蝉の情報ですね」
于吉は庭を見て呟いた
帰ってきた貂蝉はお土産にと
ケーキを買ってきた
勿論、俺の金で
「だめね…めぼしい話は
聞けなかったわ
やっぱり、顔を隠して
行動しているようよ」
ケーキをみんなで食べながら話を聞く
疲れた頭と身体に糖が染み渡る…
「うぅ…一刀~」
「だめ」
「うぅ…蓮ちゃん~空ちゃん~」
「だめよ」
「ふふ☆」
「ううぅ…左慈ちゃん~于吉ちゃん~」「だめだ」
「いや~無理です」
「うううぅ…貂蝉ちゃん~」
「だめよん♪」
「うぅ!何なの!みんな意地悪だよ!」
「当然」
「「「「「罰!!!」」」」」
「あうぅ~~~~!!!」
桜は1人、ケーキを食べさせては貰えず
へなへなと布団に突っ伏した
「まだ、体調は万全じゃない
胃腸が弱っているんだ
当分は、果物で我慢しろ」
と左慈が剥いた林檎と
スポーツドリンクを
桜の前に置く
「ぅう…はーい…センセー」
桜は布団に入ってうつ伏せになりながら
『チュー』とストローでドリンクを飲む
なかなか、面白い
「買いに来たヤツはどんな
格好のだったんだ?」
と貂蝉に聞いてみる
「何でも子供のようだったって
店の人は言ってたわね」
「子供?」
おかしいな…桜の話と違うようだ
「あと、高価そうな指輪を
していたそうよ」
「仲間かな?」
俺は于吉に問いかける
「恐らくは、その子供が買って
女に渡したんでしょうね」
于吉はコクコクと頷いて
ケーキを食べ続ける
「貂蝉、指輪に文字はあったか?」
「えぇ、『韋』の文字があったらしいわ」
「はぁ!"韋"って何だ!分からん!」
俺はケーキを食べ終えると
ごろんと横になる
その頭の上には桜が布団で寝ている
桜に向かって手を伸ばすと
桜も手を伸ばしてじゃれついてくる
少し、くすぐったい
「そうよ。分からないなら考えない」
また、何か情報が入るわよ~と
蓮も隣に寝転ぶ
「そうですね。果報は寝て待て、です」
空も反対側に、ころんと横になる
「確かにそれは真理かもしれませんね」
于吉は桜の隣に寝転ぶ
「まぁ、何より眠い」
左慈も桜を挟んで対面に寝転ぶ
「私も…少し…休むわ…」
貂蝉は左慈と蓮の間に垂直に寝転がった
「それじゃ、みんなお疲れさん」
俺がみんな労いの言葉をかけると
口々に互いを労う言葉が出てくる
「みんな、本当にありがとう
私がこうしてみんなと居られるのも
みんなのお陰だよ。本当にありがとう」
感謝の言葉を口にし最後に
「おやすみなさい」
と桜は呟いた
みんなの顔は見えなかったが
確信して言える。みんなは笑顔だろう
「「「「「「おやすみなさい」」」」」」
だって、みんな同じ思いで
今ここに一緒にいるのだから
本当に、今日はいい夢が見られそうだ




