夢
『せんせい?』
声が聞こえる
あぁ、この声は私の弟子だ
可愛い私の弟子
私が少女の頭を撫でると
気持ちよさそうに
目を細め、うーと唸る
まるで猫のようだ、と思った
『…先生?どうしたの?何だか寂しそう』
青い瞳を潤ませ、母を気遣う子のように
少女は私を見つめる
本当に愛おしい子
『ふふ、大丈夫よ…何でもないわ』
流石ね。全てにおいてこの子は
素晴らしい成績を残す
人を観る力は私の弟子の中でも随一
きっとこの子は人の上に立つことができる
身内贔屓、はたまた親バカか
でも私は親ではなく
この子は私の子供でもない
この子は私の大切な弟子。愛おしい子
『むー、嘘だー。先生、今
寂しそうな顔したもん』
少女は口を尖らせ拗ねる
誤魔化しきれないな、と思った
『ふふ、そうね。バレちゃった、流石ね
私はね、少し憂いでいたのよ
この先の未来を』
また、少女の頭を撫でる
えへへーと少女は、はにかんだ
『未来…?』
『ええ、きっと世は荒れる
民は苦しみ、救いを求めるわ』
だから、あなたは民を守るために
ここを出て行くでしょう
『なら、私が民を救わなきゃ』
あなたはとても優しく
人の痛みが分かる人だから
『えぇ、民の笑顔を取り戻し
守り抜きなさい。、あなたは
覇王になるべき人間なのよ』
『うん♪必ず、民を救うよ!』
私はあなたが愛しい
『任せるわ!小さな覇王さん!』
だから寂しいの
あなたが行ってしまうことが
あなたが踏み出せば側に
居てあげられないことが
あなたが旅立つ前の晩、あなたは
私に抱きついて離れなかった
気付けば、身体もこんなに大きくなって
私と変わらないくらいになった
きっとこれからこの子は多くを学び
もっと成長することでしょう
『うぅ…せん…せい…』
あなたは涙もろく、寂しいがりやさん
やっぱり泣いてしまうのね
だから私は
『泣くな!!!振り向かず行きなさい!
あなたは覇王になる人間なのです!
簡単に感情など見せるな!!』
最後の教えを与えた
あなたは涙を拭い歩き出す
あなたの姿が峠を越えて見えなくなる
そこで私は崩れ落ちるように泣いた
私の愛する弟子…愛しい子…
どうかあの子に天が微笑みますように




