子供部屋-始まりの場所-
自身を包んでいた光が消え去る
身体の感覚を確認して異常がないかを
確かめ、ゆっくりと目を開ける…
「なぜ…」
そこは『真っ白な部屋』だった
ただ真っ白な部屋…
あるのは今、自分が座っている椅子のみ
あとは…
「おやおや?これは…また
懐かしい場所に来ましたね…
ただいま…とでも言うべきでしょうか」
同じように椅子に深く座る于吉と
「あら!ここは…徹子の…
『違う!(います!)』
もう!冗談じゃないのよ!
そうね…ここは始まりの部屋…
私たちが初めて己の役割を
与えられた場所」
明らかにサイズがおかしい椅子に
座る貂蝉
「思い出しますね…左慈は『悪役』
に納得できず、何度も貂蝉に
掴みかかっていましたね
『俺が正義の味方なんだ!』と」
「…于吉。短い付き合いだったな…」
左慈は立ち上がると
ファイティングポーズをとる
僅かに顔が赤い
「ふふ…左慈……いいじゃないですか!
目覚めたばかりの頃の話です
自我も覚醒したばかりで
不安定だったんですから
ちなみにその時の様子は
私の胸に深く刻まれています」
于吉は立ち上がると
懐から水晶を取り出すと
手をかざしメモリを再生する
そこには左慈の赤裸々が…
「うわぁ♪懐かしいわね~!」
貂蝉も思い出したのか
懐かしむように水晶を見る
「よくわかった…この部屋も気になるが
まずはお前たちを片付ける!!」
左慈はトーン…トーン…と独自のステップを刻み…そして…消えた
「いいでしょう!私が勝って
更に"どきどき左慈の成長日記"の
ページを追加し…っ!?どきメモ!?」
謎の奇声を発して于吉は倒れた
「あらら~ん?面白いわね!
わたしも行くわよ~ん!」
貂蝉もノリはいい方である
ただ前に拳を振った
「やはり、"正義の味方"のスペックは
高いな…だが…負けん!」
「あなたも『悪』としてスペックは
高いわ。力を武術と仙術に分け
左慈ちゃんと于吉ちゃんでそれぞれ
極めていった結果、遂に力は限界を
超えたようね。今では私と同等よ?」
まさに"武"は互角…隙のない2人は
ただ、互いに殴り合うしかない
勿論、2人も本気ではない
これ単なる遊び、じゃれ合いだ
そんなとき
―よくやった。お前たち―
突如、声が聞こえた
3人は目の前のドアを見る
部屋にドアは一つしかない
声は確かに、そこから聞こえたのだ
「……誰だ?」
―お前たちが役目を
果たしてくれたことで―
ドアの前に立った3人は
互いの顔を合せて意志を確認する
―この外史は救われた―
相手は正体を明かす気はないようだ
でなければ、とっくに俺たちの前に
姿を現してもいいことだろう
―彼女たちは救われ―
未だ、男はドアの向こうから
語りかけてくる
―新たな外史が生まれた―
何故そんな真似をするのか
それを確かめるためにも
まずは相手の正体を突き止める必要
俺たちは意志を確認し合い頷くと
取っ手に手をかけ一気に開け放った
「は!?」
「いやはや。何とも」
「いやん♪ハムスターじゃないの!」
扉を開いた三人の前には籠が一つ
中ではハムスターが元気に回し車を
回していた
「こいつが話しかけていたのか?」
左慈は恐る恐る、籠の様子を伺う
「わっ!」
「のわっ!!?」
突然の大声に心底驚き左慈は飛び上がった
完全に驚かすための大声
こんなことをするのは
「于吉!お前!洒落になってないぞ!
ふざけるなよ!」
左慈は未だに落ち着かない心臓を
押さえながら殺気立って振り向く
「いえ!私じゃありませんよ!」
むしろ自分も驚いたのだ!被害者だ!と
必死に訴えてくる
「じゃあ、誰が…」
貂蝉が犯人かと一瞬、思ったが違う
ヤツはハムスターにご執心で
今も籠を見つめていたのだ
「わっはっはっ!見事に驚いてくれたな!
期待どおりで儂は本当に嬉しいぞ!
左慈に于吉よ!」
「な!?」
「おぉ!?」
盛大な笑い声にまたもや虚を突かれ
不覚にも飛び上がってしまった
胸を押さえ二人は後ろを振り返る
そこには白髪に見事な髭を生やした
老人が立っていたのだ
「誰だお前は!?」
「っ、不覚ですね」
左慈と于吉は慌てて間合いを離す
二人の実力は『達人以上』
その背後を容易く取り
尚且つ老人が話しかけるまで
気づけなかったとは
この老人、侮れない
「おいおい、せっかく会えたのに
寂しいじゃないか!」
目は離さなかった、ヤツがどんな動きを
見せるか分からないからだ
だが見失った
ヤツは俺たちの着地点に先回りして
俺たちをまとめて捕まえたのだ
「ぐっ!?バカな!」
「あなた!本当に何者ですか!」
逃げようにも、それ以上の力で
捕らえているのかビクともしない
「わっはっは!うむ!大きくなったな!
二人とも!儂は嬉しいぞ!」
…おじいちゃん?
この反応、おじいちゃんだ
久々に帰郷した孫を迎える
おじいちゃんだ
「だから!お前は誰なんだ!」
「私たちに家族などない!
ましてや祖父などいません!」
そう、俺たちは気がつけば
自我を持たされた存在だ
世界により創られた存在
「この、ばかもんが!!!」
バチーン!バチーン!
「ぶっ!」
「ばっ!」
突如、老人は左慈と于吉を張り倒す
「まだ、分からんか!儂がお前たちの
祖父にして、父!母にして家族!
お前たちを生んだのはこの儂だ!」
腕を組んで見下ろす
恐ろしき重圧が二人にのし掛かる
「なに!?」
「そんな!?」
目の前に立つ、この老人が
俺たちの『父』だというのか?
「信じれんのも無理はないか」
だが、と未だにハムスターとじゃれる
貂蝉に老人は目を向ける
この状況でもガン無視とは
流石、化け物は違うな
「おい、貂蝉」
「あら?話は終わったのかしらん?」
籠を抱えてこちらに歩いてくる
「終わるもなにも、息子たちが
信じてくれんのだ」
どうにかしてくれと、半泣き
改めて思うがこの爺さん、ウザイ
「あら!あら!左慈ちゃん、于吉ちゃん
お父さんを泣かせちゃダメじゃない」
頬を押さえて倒れ込んだ俺たちに
メッ!とお叱りを浴びせる
忘れてたけど、こいつもウザイんだよな
まぁ、今はそれよりも
「おい、貂蝉。本当にこの老人が俺たちの
『父』に当たる人物なのか?」
俺は老人を指差して真相を探る
「親に向かって指を差すな!!!」
老人は俺の腕を取りそのまま押さえこむ!
「いででででで!ギブ!ギブ!ギブー!」
必死でタップ!タップ!ターップ!
「言うことがあるだろう!?左慈!」
更に力が込められる予感!
こいつ本気だ!
「ごめん!ごめんなさい!
ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「ふん!バカ息子め。
父の偉大さ、骨身に染みたか!」
「痛っっ…ざけんな!」
俺はやっと解放された
腕をさすりながらヤツを睨みつける
「貂蝉!?左慈は反抗期か!!!?」
「違うわー!この、呆け老人が!」
俺は渾身の力で叫ぶ。さっきは油断したが
次はそうはいかんぞ!
「っ!?親に向かって呆けとは何だ!」
爺さんも地団駄を踏み癇癪を起こす
ガキか!
「呆けた行動ばかりするから
呆けと言ったんだ!呆け老人!」
"ぷっちーん"
途端、老人の雰囲気が変わった
「っ!?」
「こんなダンディーでイケてる男を
捕まえて"呆け老人"を連呼…だと?」
許さん…
と老人は呟いた
来る!
俺は身構えカウンターを狙う、が
" "
次の瞬間ヤツは消え
突然の視界の変化に俺は驚愕するのだった
何が起きたのかも分からぬまま『青天』
俺は倒され、気づけば天井を見ていた
「がはっ!?…一体、何が!?」
起き上がろとするが動けない
「ふっふーん!我が108奥義!
特と味わえ、息子よ!」
気づけば左腕をガッチリと固められていた
「108!?それ、煩悩の間違いだろ!
ていうか!コレは本当にやめろ!
って!イダダダダダダダダ!!」
完璧な"十字固め"炸裂!!!
「どうだ!降参か!?降参するのか!?
なら今すぐ"パパ大好き☆"と
言うんだ!バカ息子め!」
「くっ!誰が言うか!呆け老『処する!』 な!?イダダダダ!!!ギブ!ギブ!」
タップ!タップ!ひたすらタップ!
「左慈、言ってあげなさい
その方は私たちの『父』で
間違いありませんよ…でなければ
2度もギブアップを宣言させられる
ハズがありません
私たちの上を行く存在は
『神』か『父』くらいなものですから」
あまりの光景にズレてしまった眼鏡を
直しながら于吉は苦笑する
「おぉ!于吉!認めてくれるか!」
左慈を固めながらも老人はキラキラと
目を輝かせて喜ぶ
「何より貂蝉と面識があるようですし」
「えぇ♪お父様とは古くからの
付き合いよ!お父様が現役の頃から
サポートしているもの♪ね!」
老人に向かって"ぐっ"と親指を突き出す
「あぁ!貂蝉には何度も助けられた
本当に感謝しとるぞ!」
老人も片手で左慈の腕を押さえながら
親指を"ぐっ"突き出した
「お父様。いえ、"ご主人様!"
お元気そうで何よりだわ♪」
貂蝉は頬を染めくねくねと品をつくる
「ご主人様!?ではアナタは!!!」
于吉は老人の正体に気づくと
半歩引いてしまう。まさか!この老人は!
「ふふふ…やっと気付いたか」
左慈から手を話すとユラリと立ち上がる
そのまま腰に両手をあてると胸を張り
大きな声で己が正体を明かした
「そうだ!!儂の名は"北郷一刀"!!
この外史と、恋姫たち…
そして、お前たちの起点である!!」
「なに!?」
「北郷…一刀!?」
老人の正体に2人はただただ
驚愕するしかなかった




