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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
40/121

『悪』

「…終わった…か…」


左慈は光が消えていく銅鏡を

見つめ小さく呟く


「左慈。こちらも片付きました」


于吉が遺体を綺麗に並べていた

僅かに開かれた眼に優しく手を

当て眠らせる


一人ひとりの身だしなみを整え

武器を彼女たちの側に置き

最後に手を合わせて

左慈の元に歩み寄った


屍は5つ

張飛、孔明、馬超、趙雲、黄忠

彼女たちは北郷一刀にとって

掛け替えのない仲間であり

愛しき人達であった


屍になった彼女たちは

"愛する主"を守りきれた思いから

皆、安らかにそれでいて

満足そうな微笑みを浮かべていた


左慈の横に立った于吉は

懐から水晶玉を取り出し

何処かの光景を映しだす


「外の連合軍も終えました

 曹操軍、孫権軍…共に壊滅

 両大将の首も捕り終えたようです

 我が軍は命を持たない土塊人形

 土があれば無尽蔵に

 湧き出す軍隊です

 無策に飛び込んだ彼女らには

 "今回も"成す術はなかったようですね

 残念です…本当に…」


水晶を一撫ですると

水晶に映っていたいた蠢く土塊兵たちは

砂へと返り…あとに残ったのは

二国の兵と将による屍の山であった


「っ…本当にな…"何度やっても"

 結果は同じだってのに」


左慈は俯き、歯を食いしばる

握りしめた拳には僅かに血が滲んでいた


何度、何度こうして来ただろう…


俺たちは何度も何度も

北郷一刀を招き入れ、何度も何度も

北郷一刀を世界からはじき出して来た


世界が納得する終焉を迎え

この外史が終わりを迎えるために

何度も何度も何度も…


だが…未だにそれは訪れない

今回も世界はこの終焉に納得しないのか…


「…何でだろうな…何で俺たちには

 記憶が残るんだろうな

 皆と同じように綺麗さっぱり

 忘れることができれば

 こんな思いもしなくていいのに」


落ちた銅鏡を手に取ると銅鏡は

僅かに光が灯っている


もう、消えるのも時間の問題だろう

そうなれば、また時は遡り

"北郷一刀"と"左慈"が初めて出会う

あの晩に戻る


この銅鏡は不思議な力がある

"持つ者の心象の具現化"

北郷一刀がこれに触れたことで

この外史が生まれたのだ


それが恋姫たちの世界

北郷一刀の記憶と知識

想いと願いから生まれた世界


ここで倒れている彼女たちも

北郷一刀から生まれた存在


そして…俺たち…『悪役』も同じであった


私たちは世にいう『悪役』を

押し付けられた者たち

『正義』を倒すための存在


だからこそこうして

降りかかる『正義』という名の

火の粉を振り払っている

だが何度やっても『悪』に光は訪れない


悪は滅びるもの…だが、この物語の悪は

滅びることができなかった


この話には『悪』が消える話が無いのだ


そして彼らは悪役でありながら

唯一、世界の中心、物語の確信部分を

知る者たちのために

記憶を消されることを

良しとされなかったのだ


『外史の監視者』


それが私たちのもう一つの

存在理由だった


「左慈…それは私も同じですよ

 感情も記憶もなければ…そう…

 ただ、機械のようであれば

 どんなに楽だったでしょうね…」


于吉は水晶を仕舞って

眼鏡に付いた血を拭き取った


「私たちに、救いはあるのでしょうかね」


眼鏡をかけ直すと于吉は自傷気味に笑う


「さぁな、それ以前に"救い"とは何だ?

 世界は俺たちが消えることを良しと

 せず、ただ悪であれというが…

 それを倒す者も現れず…

 "北郷一刀"はこの世界で一番愛した者と

 新たな平行世界に飛んでいく」


そこで銅鏡を見つめ、左慈は

今し方、消えた2人を思い出す


俺たちはずっと見ていた

お前がどんな選択をして

どんな結末を迎えるのか

ただ静かに……

今回、その女と結ばれたのは

正しかったのか……

それは分からないが

俺は『悪』であろうと何故だか

それを祝福したいと思っているんだ


お前たちに愛着が湧いたのは

いつからだろうか……

相手を想う真っ直ぐな心に心震えたのは

いつからだろうか……


左慈は並んだ遺体に歩み寄ると

痛かっただろうか…

苦しくなかっただろうか…と

彼女たちの最後を想い

一人ひとり、その頬を撫でていく


「主人公を失ったこの物語は偽りの終焉を

 迎え、また再生を繰り返す

 そして新たな平行世界から"北郷一刀"を

 連れてきては同じことをさせ終焉を…

 それを何十、何百、何千と見守って

 今…俺たちは未だにここに居る

 世界よ!お前は俺たちに

 何をさせたいんだ!!

 どんな結末を望んでいるんだ!!」


『悪』故に彼女たちを

見逃すことはできない

ここで会ってしまったら

殺さなくてはいけない


だから手加減はせず

どうか苦しまないようにと

一撃で命を奪うしかない

たとえ…どんなに愛着があろうとも

俺たちは『悪』なのだから


「いつも…そうして泣いてくれるのよねん あなたは………」


後ろから声がかかる


『正義』を背負う監視者 "貂蝉"


「『悪』と呼ばれてもやっぱり人の子ね

 いつも…ありがとうね…左慈ちゃん」


貂蝉は左慈の肩をポンと叩く

左慈は振り返ると貂蝉に銅鏡を渡した


「…貂蝉…本当に救いはあるのか?

 いや、本当は俺たちなんて

 どうでもいいんだ…

 『悪』に救いはないものだと

 覚悟しているからな

 だが、ここで倒れている彼女たち…

 外で倒れている彼女たちに

 救いはないのか?このままじゃ…」


あまりに可哀想じゃないか…と

彼女たちを見つめる

込み上げる悲しみを抑えることが

できない。


左慈の頬を温かい雫が流れ落ちる


「あるわ…絶対に…ご主人様…

 "北郷一刀"が必ず成してくれる

 私たちは己の役割を果たすしか

 道はないのよ。もしそれを放棄すれば」


「バランスは崩れ…この世界は

 崩壊するでしょう。そうなれば

 彼女たちに救いなど訪れない

 私たちが果たし続けるしかないんです」

于吉は左慈の隣に並び

その肩に手を置いた


「そうだな…彼女たちのために…」


左慈がそう呟いたところで

銅鏡が光始める


「あぁ、時間が来たのね」


貂蝉が銅鏡を覗き込むと

そこには事の発端である

"聖フランチェスカ学園"が映っていた


「"再生"の時間か

 迎えに行くか…新たな"北郷一刀"を」


「では、貂蝉…また後で…

 左慈?あんまり心に波が起きると

 連れてくる前の一悶着で

 殺してしまいますよ?冷静に冷静に」


気分を変えようと于吉が茶化してくる


「バカが!そんなヘマするか!」


左慈は最後に横たわる彼女たちを見つめ


「"北郷一刀"は俺たちの

 "唯一の希望"なんだからな」


と呟き、銅鏡の光に飲み込まれていった


「ふ、そうですね」


銅鏡の光は大きくなり、次に于吉


「そうね…次こそ

 真なる終焉に期待しましょ♪」


最後に貂蝉を飲み込み


世界を飲み込んでいき終焉と再生を迎えた



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