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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
39/121

新たな出会い

私の名前は斎藤弥九郎!

真名を『蓮』っていうのよ☆

綺麗な名でしょ!

綺麗なのは名前だけじゃないわよ♪

この流れるような桃色の髪♪

褐色のお肌♪すらりと伸びた肢体♪

そこには男心を掴んで離さない

豊満な胸♪

優しくも大きく輝く蒼色の瞳♪

キスしたくなるほど艶と張りのある唇♪


そんな私、蓮ちゃんは今…


"ちーん"


千葉家の玄関先で伸びていました


「何でだろ…?最近…私の扱いが

 酷い気がする…私はただ…

 一刀と可笑しく楽しく艶やかに

 暮らしていければいいのに…

 私、本当にヒロイン?

 ていうか…ヒロイン、多すぎない?

 魏の皆でしょ?桜、空、貂蝉、私…」


一刀…手を出し過ぎだって思うのよ、私


いつか私の娘にまで手を出しそうで

怖いわ…まぁ、それはそれで面白いから

いいんだけど♪


「はぁ…一刀…私のこと嫌いに

 なっちゃたの?」


最後にしたの、いつだっけ…

指折り数えて…い…ある…さん…半年!?

頑張ったなー!私!


でも、桜とはよくシテるのは

知ってるんだよ?あはは…


「一刀ぉ…」


…なんか泣けてきた…


"なでなでなで"


頭を撫でられる感触…この感触…

一刀…じゃないわね…


「……誰かしら?」


態勢はそのまま、相手に

殺気のみを飛ばす

態勢が突っ伏した状態なので

相手の顔は見えない


「ふふ…さぁ、誰だと思いますか?」


男の声…貂蝉じゃないわね…まだ若い…


「分からないから、聞いてるんでしょ?」


マズいわね…よりによって頭を

くっ…私としたことが!


「えぇ。今なら十分に殺せますよ」


でも…今は殺しません

そう呟き、頭を撫でる


"なでなで"


「今は…ね」


いつかは殺しに来るってことじゃないの…


「落ち着きましたか?」


男は笑う、全くそんなこと

思ってないだろうに


「なわけないでしょ…で…何の用?」


「伝言を頼みたいのですよ…"彼に"」


「彼…?どっちの彼?」


「貂蝉はアレでいて漢女ですから

 北郷一刀の方ですよ」


「知り合いみたいね」


「えぇ。古くからの…。

 ですが彼であって、彼ではありません」


「平行世界。あんた…監視者ね?」


「おや?知っているんですか?」


「乙女の秘密。ていうか

 撫でるの止めなさい

 男で私の髪に触れていいのは

 旦那と一刀だけよ」


「ふふ…それはすみません

 では彼に伝えてください」


男から滲み出てくる殺気が

これは頼みなんかじゃない…命令だ、と

告げていた


「その必要はない」


「「!?」」


"ヒュン!"


男は殺気を感じ咄嗟に横に回避すると

男の居た場所には包丁が刺さっていた


「はは…危ないですね~北郷一刀」


男が離れたことでやっと

蓮は動けるようになった


「はは…お宅どちらさん?

 住居不法侵入で島に流すぞ?」


懐から二本目の包丁を取り出す

本当に変なところが桜に似てくる


「北郷一刀…恐ろしく性格が歪みましたね

 でも、私はそういうの大好きですよ」


ふふ…とズレた眼鏡を直す


男は一刀と似た白い服を着ていた

だけど、こちらの方が布は多いようだ

ところどころ金の刺繍が施され

どこかの貴族のようにも見える

しかし真ん中で分けた長髪から覗く目は

貴族ではなくかなりの強者であると

主張していた


「一刀!」


蓮は一刀に走りよる

一刀は蓮を迎え入れ後ろ手に庇った


「大丈夫か?」


「えぇ。少し油断しただけよ」


キュッと一刀の服を掴む


「おやおや、別に捕って食べようなんて

 思ってませんよ?」


女に興味はありません♪とにこり


「お前!貂蝉と同じか!」


一刀は半歩引いてしまう


「いやいや!アレと一緒に

 しないでください!」


冗談ですよ?と引きつった笑顔で

一歩近づく


「何だ…冗談か…はは!」


「と言いながらも半歩下がるのは

 止めませか?正直、傷付きます…」


「いや!近づかないでくれますかね!

 …そっちは貂蝉で間に合ってるから

 どうか速やかに帰ってください!」


お願いします!と一刀は本気で頭を下げる


だってもうこれ以上ホの字の人が増えても

困るだけだもん!


「違います!断じて違います!

 話しを聞いてください!

 北郷一刀!お願いしますから!」


うひぃ!?詰め寄ってきた!!

男の包容をひらりと避け

後ろを取る


「いや!本当に結構ですから!」


男の背中を押して玄関から

追い出しにかかる


「蓮!お帰りだそうです!」

「へ?あ…あぁ!はい、只今!」


"がらがら…"


蓮が玄関を開ける


「ま!待って!待ってください!

 話を!私の話を聞いて

 『さようなら!』 っ!痛っ!」


何か言っていたが聞く耳持たずに

男を玄関の外に放り投げる


"がらがら…ぴしゃ!…カチリ"


急いで玄関を閉め、合わせて施錠した


「ふぅ…ご飯にしようか…蓮」

「ぇ…ええ…」


刺さった包丁を懐にしまうと

空が待っている居間へと向かった


空が待っている居間に行くと


「やぁ、一刀くん!さっきはどうも♪」


ヤツがいた…


「空…なぜコイツが居る」


「え?一刀様のお友達と仰るので」


コイツ…裏から回って

縁側から空に話しかけたらしい


「違うぞ?空…コイツは泥棒さんだ」


「ええ!!?そうなんですか?」


「違います」


男はメガネを拭きながら

爽やかな笑顔で空に向き直る


「違います」


何で二回、言ったんだよ


「一刀くん!君に話があったので

 今日はお伺いしました」


「話があったという割には

 お前は人の女にちょっかい出して

 遊んでたじゃないか」


「いや~人をからかうのが趣味なので」


あはは~と男は笑う


「最悪だな」


まぁいい、と蓮を促し食卓につく


「で?」


「おや~?美味しいですね~

 このハンバーグは、一刀くんが

 作ったのかな~?」


ハンバーグを頬張りながら

ニコニコと笑う


「あぁ、そうだよ。だから話を…」


「う~ん♪美味ですね~♪

 おやおや、パンプキンスープ

 じゃないですか!江戸時代に

 洋食とは先取りにも程がありますよ?」


とスープを飲みながら舌鼓をうった


「何故かカボチャが手に入ったんだ

 せっかくだし使いたいじゃないか」


「煮物でも良かったんじゃないですか?」

「あ~それも考えたけど

 ハンバーグもあったからな~」


「あぁ~ありますよね~食べたいものが

 ある時に限って違う食材にも

 目が行っちゃうこと」


「だな~やっぱり台所を預かる者としては

 食べる人のことも考えるし」


「ですね~考えすぎて

 ついつい作り過ぎて

 しまうこともあります」


「お?相手がいるだ。彼女?」


「ふふ…残念ながら…男ですよ

 ずっと一緒に過ごしてきた兄弟…

 いや…大切な人です…」


向こうはそう思ってはいないでしょうが…と少し寂しそうに小さく笑う


「そうか…料理は喜んでくれるかい?」


「いやいや…いつも、料理に

 彼の嫌いな物を入れますから

 文句だらけですよ」


「好き嫌い激しいと困るよな~」


と蓮を見る


「ぅぐ!?…サッ!」


「ふふ…好き嫌いは、いけませね~?」

「あぁ…好き嫌いは、いけないな~?」


二人で蓮を見つめ…ニヤリと笑う

蓮は見つめられ、冷や汗


「でもまぁ…文句をいいながらも…さ」

「えぇ…ちゃんと食べてくれるんです…」

だからまた作りたいと思えるんだ、と

二人で笑った



「ご馳走様でした。一刀くん

 本当に美味しかったですよ」


男はちゃんと手を合わせ感謝を示した


「お粗末様。残さず綺麗に

 食べてくれてありがとうな」


一刀は食器を片付けながら問いかける

やっぱり作った物を残さず食べてくれると作った甲斐もある


「空、片すから手伝ってくれるか?」

「はい!喜んで☆」


二人で台所に行き

食器を洗って帰ってくると

居間では男がにこやかに笑い

蓮が頭を抱えて突っ伏していた


何があったのやら…


「そうだ…話があるんだったな

 どんな話か聞こうか」


と食後のデザートを差し出しながら

男に問いかける

今日のデザートは桜にも太鼓判を貰った

"蜜柑とミルクのひんやり寒天ゼリー"


「えぇ…先ずは私のことについて

 話ましょう。私は今回、敵ではない」


デザートを受け取った男は

食べていいですか!?いいんですね!?

と犬のようにキラキラとした瞳で

小鉢を見つめていた


「今回?」


どうぞと手で示すと満面の笑顔で

デザートを口にした


「えぇ。前回、他の外史で

 私、そしてさっき言った仲間が

 "あなた"の前に立ちはだかりました

 貂蝉もそこで"あなた"に

 出会ったんです。貂蝉は味方

 私たちは敵という役割を

 与えられていました」


一口入れた男は『おぉ!』と感嘆すると

続けてパクついていく


外史…仲間…役割…敵味方…ね…

一つずつ潰して行くか…


「先ずは外史について聞いておこうか」


「分かりました」


―外史―

我々の知る歴史とは別の道筋を

辿った歴史のこと

パラレルワールド


"三国時代で英雄英傑が

 一部例外を除いて女性"

"三国を制したのは魏"

何よりこの俺"天の御使い"

も外史ゆえの存在であった


「あなたが天より降り三国を治める

 これは絶対であり決定です

 三国のどこに降りるのか

 それこそ天命というものですがね」


と男は苦笑した


「そうか…他の俺なんてイメージ

 出来ないけど、蜀や呉に降りた

 俺もいたのか。それなら蜀に降りた

 俺は幸せだったろうな」


蜀は正史でも大戦を治めた国だ

その分、ズレも少ないから

"俺の消失"なんて起こることもないだろう

魏と呉の俺は難しいだろうが


「いえ。呉の"あなた"も今でも

 幸せに暮らしていますよ

 立派なお父さんです」


口に手を当て男は笑う


「は!?なぜだ!!」


驚きを隠せない

呉の俺は何故消えていない?


『呉の"俺"は消えない』


思わぬ言葉に俺は驚愕していた


蜀の俺は消えない

何故なら大乱を治めたのは

蜀であるからだ


でも呉の俺も消えていない

何故?


「それはですね…"犠牲を買った者たち"

 がいるからですよ」


男は少し悲しそうに呟いた


「犠牲を買った者たち?」


「ええ…あなたが消えるのを良しとせず

 真にあなたを大切に思った2人が

 その身を犠牲にして世界から

 消えたのです。2人は知っていました

 自分たちが戦半ばで倒れることを

 それをあなたに黙って受け取った

 1人は毒矢で命を落とし

 1人は病で命を落としました

 だからこそ、呉のあなたは正史による

 影響を受けず今でも幸せに

 暮らすことが出来ているのです」


男は最後の一口を食べ終え茶を啜った


「"俺"を消さないためにその身を

 犠牲にした?」


俺は目眩を覚え頭を押さえる

それが本当だとすれば、なんと残酷な話か

呉で毒矢により命を

落としたのは1人しかいない

病は多いが恐らくあの人だろう


『断金の交わり』


「孫策さんと周瑜さんだな」


彼女たちの犠牲が今の呉に居る

俺の礎になっていると言われ

何ともし難い感情が心を埋める


「っ……あー。私、少し席を外すわね♪」

突っ伏していた彼女が急に立ち上がる

そのまま、ひらひらと手を振り

居間を出ようとしていた


「え?急にどうしたんだ?」


俺は訳が解らず彼女に問いかけた


「…もー、一刀てば野暮ねー

 食後の運動よ♪最近、気にしてるのよ」

と振り返ることなく出て行ってしまった

"チリン"と髪飾りの音だけを残して


「追わないくて正解ですよ」


男は小さく笑うと話を戻した


「これはあなたにも言えることですね」


と男は真っ直ぐに見つめてきた


「それは夏侯淵のことか?」


俺は定軍山でのことを思い出す


「えぇ…彼女が消えれば

 あなたはあの世界に残ることができた

 更に確固たるものにしたければ

 曹操の息の根を止めて

 魏を敗北に導けば良かったんです」


と低い声で呟く


彼女たちを犠牲にすれば

消えずに済んだんだ、と男は言ったのだ


しかし


「俺は誰かを犠牲に

 してまで残りたくない」


俺は首を振る

彼女たちを犠牲に

するなど考えたくもなかった


「でしょうね」


男は小さく笑い、直ぐに表現を戻すと

しかし…と続けた



「あなたもまた彼女たちに同じ思いを

 遺してしまったんですよ」


そう、俺は自身を犠牲にして

彼女たちを生かそうと決めた

結果自身がどうなろうと知らぬと

戦乱を駆け抜け皆の前から消えたのだ

大切な者のために命掛けて戦いそして散る

"漢"としては合格だが

残された彼女たちには深い悲しみを

遺したことだろう


呉の俺も彼女たちが犠牲になった時は

閻魔も打ち倒さんばかりの悲しみを

抱いたに違いない


「あぁ、だからこそ俺は戻らなくちゃ

 いけないんだ。彼女たちの元に」


「えぇ…即、処刑され兼ねませんがね」


爽やかな笑顔でとんでも無いことを言う


「え?処刑!?」


予想外の言葉に冷や汗が吹き出す


「当然ですよ。国の将が王の許可もなく

 勝手に離れることは罪以外の何でも

 ありませんからね。ノコノコ戻っても

 良くて鞭打ち…最悪、斬首でしょう」


男は笑顔で手を首筋に当て

横に引いて見せる


「ちょんぱ!?ま、待ってくれ!

 それじゃあ、俺は死にに帰るような

 ものじゃないか!」


帰って一番に案内されるのが

処刑台なんて冗談じゃないぞ!


「えぇ。ですから"彼"があなたの

 延命のための布石を打ちに向かって

 います。もう帰って来る頃だとは

 思いますが…あ、来ましたね」


男が庭を見て、何かを見つけ

嬉しそうに手を振った


「彼…?」


男の視線を追って庭を見ると

突如、石の扉が現れる

扉には『天』の文字


白い衣に身を包んだ白髪の男が

扉を開けて出てきた


「終わったようですね"左慈"」


左慈?


「お前はそこで何をしている」


何かに耐えるように頭を押さえた

『左慈』と呼ばれた男はため息を吐く


「いやー♪ご馳走になってしまいまして

 美味しいかったですよ」


空いた小鉢を掲げて見せる


「ほぉ、"仙人"が認めるほどとは

 北郷一刀…大したもんだな」


男は小さく笑い、ふぅ…と縁側に腰掛ける

かなり疲れているようだ


「空。お客様にお茶と菓子を」


「はい☆」


目配せをすると空がすぐさま

用意をしてくれる


余分に作っておいて正解だった


「あぁ、すまないな…」


男は茶を口にすると、ほっと息を吐いた



茶を置いてふと、左慈と呼ばれた男は

居間でくつろぐ男を横目で睨む


「おい。お前、名を明かしてないだろ

 前回は敵同士とはいえ、今は味方だ

 "あの方"の意志に反するような

 真似はするな

 すまないな、北郷一刀

 こいつが迷惑をかけたようだな

 本当にすまない

 俺は『左慈』という

 今回、お前のサポート役になった」


左慈は立ち上がり

よろしく頼む、と礼をする


「あぁ、忘れていましたよ!私は『于吉』

 左慈と同じであなたのサポート役を

 仰せつかり、ここに来ました」


于吉も左慈の横に並び礼をした


「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ

 でもサポートって?」


2人の意図が解らず俺は首を傾げてしまう


「お前があの世界へ帰り、生きるための

 サポートだ。そのために必要な知識と

 力を与えるために俺たちはここにいる」

自己紹介を終えた左慈と于吉は縁側に座り

庭の景色を眺め始める


「待て、2人とも。そもそも何で

 君たちが協力してくれる?

 前回とはいえ敵同士だったんだろ?

 納得いかないとか

 嫌だとか思わないのか?」


俺の疑問をに2人は振り返ると

同時に苦笑して

そうだよな(ですね)…と呟いた


「少し、昔話をしましょう。一刀くん」


美味しい料理の礼です、と于吉は笑うと

ポツリポツリと語り始めた

これは"2人"と"北郷一刀"が敵対し

光と闇のどちらの物語も

終焉を迎えたときの話


全ての終わりにして

全ての始まりの話である


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