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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
38/121

桜、散る

あれから更に半年が過ぎた


あんな地獄メニューが次の日も続き

今に至る。よくもまぁ、生きているもんだ

それもこれも桜のお陰だな


ある日の深夜

久しぶりに桜が布団に

忍び込んで甘えてきたので

なし崩しに行為に及んでしまった


その次の日

桜の"福まん"効果により

完全回復を果たした俺は

いつも以上に奮励努力し、皆を驚かせた


その後も

本当に体力的にヤバい時…

眠れなくて次の日に響きそうな時…

精神が擦り切れそうな時…

必ず桜が布団に忍び込んでくれたのだ


本当に桜には助けられていた


そんなある日


「今日は桜さんの修練はお休みです♪」


空が恒例になった

朝一番のメニュー確認で

そんなことを告げたのだ


「あら?桜ちゃん、どうかしたの?」


と貂蝉が心配そうに尋ねる


「最近、調子が優れないとは

 言ってたけど…まさか風邪?」


そんなことを蓮が言う

そうか、最近の修練で桜の

動きが鈍っていたのはそれか


「それがどうも、風邪じゃない

 みたいなんですよ。本人は

 風邪だと言ってるんですが…」


空が急に眉をひそめる


「……ご主人様、今日の練習は

 無しにしましょう。私、知り合いの

 医師を連れてくるから」


貂蝉は真剣な顔で見つめてくる

「医師?それは有り難いが…

 あの世界の知り合いか?」


それじゃ、時間がかかるんじゃ…


「いいえ…日本の名医よ♪」


「まさか…ブラック…」


「その人は、まだ生まれてないわよ」


「ですよね~」


「まぁ、休みも必要ですしね

 今日は1日休みにしましょう♪

 一刀様も修行に身が

 入らないでしょうし」


「すまない、そのとおりだ」


大事な人が床に伏しているのに

集中なんてできるはずもない


「じゃあ私は街に栄養の

 ある物でも買いに行くわ♪」


蓮がひらひらと手を振って

街へ続く門へと向かう


「あ、私も行きます♪」


空も続いて蓮の後を追いかけた


「じゃあ私も行くわね♪ご主人様

 今日の夜には必ず連れてくるから

 桜ちゃんのことよろしくね♪」


声だけを残して貂蝉は消えてしまう

あいつ…今、塀を軽々越えて行ったな

半年の修練で"目"がよくなり

ある程度の動きは

見えるように成っていた

修練、恐るべし…


「さて…俺は…とりあえず桜の様子を

 見に行くとするか…大丈夫かな?」


桜の部屋を目指し家に入って行った


気配を消して"スーッ"と襖を開けて

桜の部屋に入る


やっぱ、寝てたら悪いからな


「んー…原因は何だろ…

 拾い食いなんかしないし…」


いつもは結ってある綺麗な黒髪を

下ろした桜が布団の上に

ペタンと座っていた


「………」


俺は桜の死角に偶然にも入っているのか

気づかれていないようだった

そのまま俺も桜の背中を見つめて座る


「…どうしよう…一刀との修行…

 今日の休みで…遅れが出たら…」


本当…桜は優しい子だな…

いつも自分は二の次なんだ…この子は


「…う!ぉぉ…うぅ…気持ち悪ぃ…」


口に手を当て咽せる


"さすり…さすり…"


「!!!!?」


心配になって背中をさすると

桜は心底驚いたのか飛び上がって

間合いを離した


「あ、わるい…驚かせたな」


「っ…一刀か…刺客かと思ったよぉ…」


いつの間にか握られた刀を脇に置いて

桜は床に戻ってくる

いつも思うんだが…その刀は

いったいどこから出てくるんだ?

○次元ポケットでもついているのだろうか


「もぅ…女の子の部屋に入る時は

 声くらい掛けてよ…ばかぁ…」


"とん"


桜は胸を撫でおろし

俺の前に座ると胸を軽く叩いた


「わるい…寝てたらいけないと思ってさ

 桜、気分が悪いのか?」


「うん、少し前から胸が気持ち悪くて…」

「ご飯も残してたもんな…」

「ごめんね…食べ物を見ると

 吐き気がくるんだよぉ…

 思い出すとまた…ぅう…」


"さすり…さすり…"


「ありがとう…一刀…」


んー、ご飯がダメか…でも軽くでも

食べないと身体に悪いし…


「ん、果物とかどうだ?」


「果物か…柑橘系なら大丈夫かも?」


んー、と頬に指を当て小首を傾げる


「…よし、待ってろ…桜」


桜の頭を少し撫でて…部屋を出る


目指すは HOME GROUND ザ☆キッチン!


台所から戻ると部屋の真ん中には

桜が入っているだろう布団がこんもりと

していた…寝てるのかな?…と思い

近づくと、ひょこり布団から顔を出した


それがあまりに可愛らしくて

自然と頭を撫でてしまう


「ただいま…桜」

「うー…///おかえりぃ…一刀」


「大丈夫か?」

「うん…今のところは…」


「作ってみたんだ…食べてみない?」


と器を掲げてみる


「何かいい匂い…食べる~♪」


上半身を起こすのを手伝う


「ありがとう♪これ…蜜柑?」


「あぁ…蜜柑の汁を絞って

 一度加熱処理したあと寒天で

 固めたものだよ…粒もたっぷり」


「へぇ~!頂きます!はむ…

 ん~!ひゃっこい♪美味しい!」


「はは…良かった…これは

 水に砂糖と塩を加えたものだよ」


知る人ぞ知る現代のスポーツドリンクだ


「んー…こっちは微妙…

 でも、飲みやすいね!」


確かに慣れが必要な味だ

だが…病で一番怖いのは

身体の水分と塩分、糖の減少だ


脱水症状は身体の免疫力を低下させ

最悪、合併症を引き起こしてしまう


江戸でもこれが原因で多数の死者が

出た事件がある。俺が来る前に

起きた事件ではあるが、これが

あれば助かる人間も多かったことだろう

大変に悔やまれる話である

事件の名を『コロリ』と言った


「一刀…私、早く治すね!

 早く治して一刀と…む!?」


人差し指で"ぴっ"と桜の口を押さえる


「それ以上は言わせないよ?」


だってそれ、死亡フラグが立つから…

只でさえ冒頭から危ないのに…


「むー?」


この可愛い顔は俺の物だ

神なんぞの嫁にはやる気はない


「ちゃんと食べ終わったな

 んじゃ、寝るぞ」


「んー眠くないよ?」


お話しよう!と桜はニコニコ笑う


「黙って眠れ」


俺は桜を寝かせて

食器を下げに行く

部屋を出る時に桜から声がかかる


「一刀…私ね…夢があるん…」


「さ~く~ら~?」


皆まで言う前に名を呼び、振り返る

恐ろしいほどの作り笑顔で……


「か、一刀~?笑顔が!素敵だね!

 でも、怖いかな~!?」


「頼むから…黙って寝ろ…喋るな…

 Shut up!OK!?」


親指を立て突き付ける


「し…?ひぃ!?お、おーけー!」


布団から恐る恐る手を出して

桜も親指を立てた


「また、すぐ戻って来るからさ」


ひらひらと手を振って

部屋を後にした


"福まん"持ってる割には

簡単に死亡フラグを立てようと

するよな…あの子は


はぁ…とため息を吐いて食器と器具を洗う

洗い物が丁度終わったとき


"ガラガラ~"


と玄関が開く音と共に


「たっだいま~♪いや~女の武器は

 最強よね~」


と蓮の声が聞こえる


女の武器?


「あ、一刀様♪栄養満点、お肉と野菜を

 奪取してきました♪」


奪取?


「何したんだ…お前…」


蓮の頬をむんずと掴むと

こっちを向かせる


"ギリギリギリ…"


「にゃにもしてにゃいよぉ?

 しゃくらのはにゃしをしひゃら

 みんにゃがかってにくれたんらよー」


(何もしてません

 桜さんの話をしたら

 民の皆様が快く分けて

 くださったのです)


「ほう!で女の武器とやらわ?」


"ギリ…ギリリギリリリリ…!"


「うにゃー!」


(涙です!)


「処する…(にこ)」


"ギリギリギリ!!……メリ!…"


「うにょーらあぁぁ!!………ちーん…」


アイアンクローの餌食にとなった蓮は

最初。バタバタと騒いでいたが

最後には断末魔を上げ、動かなくなった


「ふぅ…」


"ぱっ"と手を離すと力なく蓮は倒れた


「かはっ…」


あとで街のみんなには

お金を払いに行かなきゃな…


「あ、お金は払ってありますから

 大丈夫ですよ♪一刀様」


空が"パチン"と手を合わせる


そうか…払ってあったか…


「……んじゃ、朝ご飯にしようか

 空、手伝ってくれるかい?」


「はい♪」


2人は並んで台所に向かって歩きだした




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