気を取り直して「帰ってきた絶世の美女?」
「すみません、一刀様!私まで
夕飯を頂いてしまって!」
空にご飯を手渡すと
そんな応えが帰ってくる
俺は家に入ると夕飯の準備を始め
庭に倒れている3人娘を
文字通り叩き起こし
地面に埋まった
貂蝉を掘り起こして
全員、風呂に入ってもらい
その後、夕飯を食べることにしたのだ
「いいよ、沢山作ったから
遠慮せず食べてくれ」
「一刀!人参さんだよ♪あ~ん☆」
桜が野菜炒めの人参を器用に除けて
箸に取り、俺に食べさせようとする
俺自身、人参は嫌いでもないし
好きでもない
これで救われるのは…
人参嫌いのお前だけだよな…桜…
「あんた、そうやって好き嫌いするから
発育に致命的な痛手を被るのよ?」
俺に茶碗を突き出しながら
蓮は桜に説教する
「むー!ちっちゃくないよ!
胸ならちゃんとあるもん!」
だよねー?と聞いてくるが
ここは無言を貫こうか…
「おバカ!背の話よ!私を見習って
ちゃんと食べなさい。一刀に失礼よ」
じゃあ…その皿の端に
ある茄子はなんだろうな?
「一刀…これは飾りよ?」
ほら、刺身の下にある
大根さんと一緒♪
と茄子さんの乗った皿を
ススーッと食卓の端に追いやる
なるほど。そりゃ『つま』のことかい?
「料理を作った本人に向かって
驚くべきことをサラッと言うのな…」
ご飯大盛を手渡しながら一緒に
茄子さんの入った皿も
蓮の目の前に寄せる
「ぶー…」
と言いながらもちゃんと
食べてくれるんだよな、いい子いい子
「ご主人様…そういえば
武器を持ったのね?」
貂蝉が唐揚げをつつきながら
問いかけてくる
「あぁ…持たなきゃならない
理由が出来たからな」
野菜も採れよ、とサラダを
取り皿に盛り渡す
「ありがと♪そうね…向こうで不穏な
動きがあるみたいよ?持つに越した
ことはないわね」
「なぁ、貂蝉…向こうは
どういう状態なんだ?」
「大変な時期よ。三国は統一されたけど
大戦の傷痕を埋めるために
日々の政の毎日ね」
「そうか…三国統一で2年半じゃ
まだそうだろうな。そんな時期に
側に居れないのが悔やまれるよ」
「あら、ご主人様?向こうはまだ
統一から1年目よ?」
「え?一年目?何で?」
俺の唐揚げを桜が横取りしようと
箸を伸ばすのが視界の隅に見えたので
皿ごと桜の前に置いてやる
「わわ!バレた!」
「ふふ…よかったわね、桜ちゃん♪
…それでどうも、役者が
全員揃っていないことが
影響してるみたいなのよ…」
唐揚げにパクつく桜を優しい目で
見つめながら貂蝉は食後のお茶を楽しむ
俺もご飯をかき込み、箸を置く
「一刀様、お茶をどうぞ♪」
空がお茶を淹れてくれたので
"ありがとう"と受け取り、一息吐いた
「ん…茶が美味い……
しかし…役者ねぇ…
あの世界自体が待ってる人物でも
居るってことか?」
湯のみを置いて貂蝉に
詳しい話を促した
「ええ…ご主人様をね…」
桜を見ていた貂蝉はそうポツリと呟くと
俺を一瞥して湯のみをグイッと空けた
「…勝手に放り出して…勝手に待つとか
本当に勝手な世界だな」
悪態をつくと
貂蝉は首を振って否定した
「仕方ないのよ。この後…歴史は
強制的に正史に戻されるでしょ
誰かの手によってね……
それはこの世界の古書を開けば
明確ね。ご主人様の様子を見る限り
ご主人様も知ってるでしょうけど」
貂蝉の言葉に魏の未来、この世界の過去を思い出す
大陸統一から僅か3年で魏は滅び…数年かけて残りニ国が滅びる
何者か分からぬ者に支配された暗黒時代が訪れ
その更に数年後に曹操の子と名乗る人物が現れ世を平定する
どう見ても誰かの陰謀としか思えないよな
「あの世界はそれを望んでいない
でも、世界は手を出せない
世界はただ見守り、記録するだけの
存在だから。世界の願いを
聞いた私はご主人様を世界に招き居れ
歴史を変えさせた
でも、そこで問題が生まれたの
歴史を変える者が現れたことで
同時に歴史を戻す存在が
生まれてしまったのよ
ご主人様にはそれを止める力が
残念ながらなかった
だから世界はその存在を消すために」
俺を世界から弾き出した…
と告げて空の湯のみを見つめた
「でも…その存在は消えなかった」
だろ?と俺は急須を取り
貂蝉の湯のみに茶を注いだ
「ええ…敵は大戦の時に動き出して
いたのよ。諸侯の反乱因子を
取り込み、絶対の支持を受けて
その"存在"を確立してしまったの」
あれか…イワシの頭も
信じればってヤツ
敵への信心が強すぎて
主役や神様レベルまで
存在が大きくなったから世界も
排除出来なくなっていた…と
俺自身は諦めと消える覚悟が
あったから容易く消せたが
敵はその存在理由のために
世界に食らいついてでも
離れられないんだろうな
「…俺も、それくらいの抵抗を
見せるべきだったのかもな…
いや、分かってはいるんだが
どうもさ。歯痒くて」
と苦笑すると
貂蝉もそうね…と頷いてくれた
「敵はご主人様が歴史を変えるごとに
その力を増していったわ。
ご主人様が降り立った時に存在は生まれ
定軍山の事件、赤壁を経て
力は強大になっていった
でも、それも無限に
強くなるわけじゃないの
上限があるのよ」
と茶が半分ほど入った
湯のみを指差した
「強さに上限が?」
「えぇ。敵は存在が確立されたのは
いいんだけど、型が出来たことで
上限が出来てしまったのよ」
と湯のみをスーッと前に押し出した
「ご主人様…この湯のみがもっと大きく
なったら何になるかしら」
「ん?大きく、の基準が分からんが
下手すれば茶碗とか水瓶とか
もっと大きくなるなら風呂にもなりそうだな」
「えぇ、大きくなりすぎると
湯のみという存在では
なくなってしまうのよ
これを人で言うなら
"異形"や"物の怪"更に言うなら
"神"という存在になるということ
敵は人として型にハメられたから
それらの次元には行けないのよ
人とそれらを分ける境界線に
立っているのが…"呂布奉先" よ」
あ、でも敵は呂布ちゃんじゃないわよ?
と安心して?と補足する
何を言うかね。強さで言えば
恐ろしいことに変わりはないだろうに
「少なくとも三国志最強の少女を倒せる
くらいの強さが必要ってことか?」
俺の目標が決まったのは良いことだが
正直…無理が在りすぎる
「ご主人様ならできるわ。ご主人様は
人間の枠から外れた存在ですもの」
「えぇ!?俺、人間じゃないのか?」
異形?物の怪?神はないとすると…
あぁ、カテゴリーでいうなら
『種馬』か…動物…ははは……
「くそ!なんたるハンディキャップ!」
「ご、ご主人様?違うわよ?
それはRPGでいうなら称号よ?」
「んな、称号いらんわ!」
主人公はやさぐれた!『状態異常』
隣でふんふんと聞いていた空が
そんな俺の様子を見てか
オドオドと自身の膝を指差した
空は混乱している!『状態異常』
このパーティ最悪じゃん…
桜と蓮は最後の唐揚げをめぐり
熾烈な争いを繰り広げている
完全な仲間割れ
頼りになるのは貂蝉だけ…でも変態…
俺に至っては『馬』とか…
で、世界は『馬』に命運を委ねたワケか
馬が世界を救う新感覚RPG!
『種馬三国志』
はは…本当に救えねぇな!




