華琳さん愛用・死神鎌、その名を【絶】!
「それでは髑髏を押してください
三つありますがどれでも構いませんよ」
空の言葉に頷き俺は†の前に立つ
髑髏を押すと"カチ"という音と共に
"ガシャン!"
「"死神鎌:絶"」
絶の柄を握りしめ
磨かれた刀身を見つめながら
ずっと隣で見てきた彼女の姿を思い出す
蜀の大将・劉備さんとの
一騎打ちで見せた見事な剣の冴え
俺は彼女のように君を
使いこなせるだろうか
「いや…それ以前の問題だな」
今の俺では振ることは許されない
…いや、俺自身が許せないんだ
だから
「絶よ、君に聞いてほしいことがある」
武器を手にするには理由や願い
そして誓いと覚悟が必要だ
それはこの武器たちの持ち主にも
……いや、この武器たちだからこそ
持ち主にはそれらが求められる
「一刀様…」
笑顔を絶やさなかった彼女、虎徹が
今は真剣な表情でこちらを見つめていた
「武器を手にして、あなた様は一体
これから何を成されてゆく
おつもりですか?」
全てを見透かすような視線
見栄や虚言など意味はない
俺は自身の心と言葉で彼女の問いに答え
武器を取る理由とそのための覚悟を
絶に示さなければならないのだ
俺は一度大きく深呼吸をすると目を閉じた
あの時…
寂しさを強さで隠した彼女の背中に
俺は何と答えるべきだったのだろう
『大陸が平定されたことで
俺の役割が終わったから』
役割が終わった役者は
舞台から降りるのは当然のこと
でも…本当に?終わっていたのか?
俺がやれることは
まだ沢山あったんじゃないのか?
彼女も望んでいただろう?
あの大陸全土を巻き込んだ大戦の後こそ
俺の知識は必要だと
人類の過去の過ちを一片でも知っている
俺は多くのことを変えていくことが
できたはずだったんだ
『終わりにしなければいいじゃない』
そう、終わりにしなければ良かった
『曹操の夢みた願いが叶ったんだ
それを見ていた俺も終わらないと』
そう決めたのは誰だ?問うまでもない
舞台を降りることを決めたのは
…俺自身だったんだ
『だめよ。認めないわ』
そんな俺を彼女は
見透かしていたのかもしれない
『俺だって、認めたくないよ』
認めたんだ…俺は…
大局から外れきったあの世界は
もう、俺の知らない世界だからと
この先の平和を、民の笑顔を守れないと
認めてしまったんだ
『だったら…』
だからこそ…
君の小さな背中に、振るえる肩に
君の本当の願いを見ても
俺は気付かぬフリをして…逃げたんだ
そう、俺の罪は"消えた"ことじゃない
覚悟も誓いもないままに
君の隣に立ったこと
共に覇道を歩むと"言った"ことだ
華琳…いや、大陸の王よ…
俺は…とんでもない過ちを犯してしまった
だからこそ…
俺は無言で見つめる虎徹を
真っ直ぐに見つめ返す
今こそ、償いを果たそう
虚言の誓いではなく
心からの誓いを立て
武器を取ろう
"カン!"
絶の柄の先で地を叩く
「生涯をかけて
我が愛する者たちに返してゆくために
俺は武器をとる。己の無力で後悔を
しないために…俺は力を手にする」
虎徹を含め、桜も蓮も
目を丸めて俺を見つめていた
「……」
「……」
「……」
「あ、あれ…?」
なぁ、絶…俺、何か間違えたか?
『さぁ?…ふふ』
彼女の笑い声が聞こえた気がした…
「お、おい!」
俺の前には
千葉周作、斎藤弥九郎、虎徹が
(真名:桜)(真名:蓮)(真名:空)
目を丸くして立っていた
彼女たちは互いに顔を合わせて頷き
その場に片膝をつき座した
それは何度も曹操の側で見てきた光景
"臣下の礼"であった
「何をして…『私の目に…』…空?」
俺の問いを空の声が遮る
「私の目に狂いはありませんでした」
座したまま顔を上げて空は見つめてくる
「うん、一刀…あなたにはその武器を
手にする資格があるよ」
「一刀…見てみなさい」
蓮の言葉に、皆の視線の先を追うと
「絶…?」
握りしめた絶が光を帯びていた
「絶は武器の中でも特別です」
「"王の持つべき武器"なんだよ」
「資格のない者は振ることも
斬ることも、ましてや
触れることもできないものよ」
「その絶が覇王色を纏ったということは
つまり、一刀様…あなた様は認められた
ということです」
三人はにこやかに俺を見つめている
「そうか…認めてくれたのか…
ありがとう…絶…」
この生が尽きるまで共に歩もう…と呟き
絶をなでると"キイィン…"と
澄んだ音が響いた…
本当にありがとう…
俺は絶を収め
立ち上がった三人に振り返る
「ぷ…あはは!」
すると蓮が急に笑い出した
「ん…笑うとこあったか?」
不思議で仕方なく蓮に問いかける
「ふふ…ごめんなさいね
一刀ってば天下に興味がないなんて
言うもんだから…。あなたはすでに
天下人なのよ?分かってる?」
涙を拭いながら蓮は一刀に近づく
「天下人?俺が?」
いつ俺が天下を取ったよ?
「統一して三年という短い国では
あったけど、大陸統一を果たした
魏を治めた曹操の男でしょう?
十分に天下を取ってるわ♪
国が滅び命尽きるまで
相手は居なかったと古書にも残ってるし
本当に愛されいたのね、一刀は☆」
妬けるわね~色男♪と蓮が
俺の脇腹を肘で小突く
くすぐったい…
「そうか…そう言われれば天下は取った
ことになるのか……ん?」




