託された想い
『…くん…一刀くん』
誰かに呼ばれて目を覚ます
『はい…何でしょう?』
目を開けると目の前には草原が広がる
空は青空…雲が流れ…風が頬を撫でた…
草原の真ん中には
褐色の肌で白髪の男性が立っていた
髪は短く青い瞳が優しく見つめている
白い和服に身を包み
『おはよう…一刀くん』
『あなたは…』
『私か?私は…そうだな…』
『そうだな?』
『いや、待て一刀くん!今、凄く
格好いい名前を思いつきそうなんだ!』
『今、考えるんですか…』
『これだ!オッス!オラ、悟…』
『ダメです』
『むー、何か進化しそうで格好いいのに
あれだよ?手から何か出るとか
男の夢…ロマンだよ?』
『否定はしません』
『じゃあ、これだ!碇…』
『人型兵器なんて持ってないでしょう』
『あ、今、アマズンで注文中だった』
『アレ、売ってるの!?』
『いや、知らない』
『おめぇ!』
『まぁまぁ…そうだな…千葉周』
『そのポジションには先約がいます』
『とは世を忍ぶ、仮の姿…
しかしてその正体は!華蝶…』
『その先を語れば…』
『うん。彼女が来るね……止めよう』
『賢明ですよ、斎藤弥九郎
いや、蓮の旦那さん』
『おやおや、気付いていたか』
『最初から』
『はは…!流石は一刀くんだ!
経験あるね~ヒュー♪ヒュー♪』
『奥さんも同じこと言ってましたよ』
『さて…私がこうして化けて出たのは
君にお願いがあってね』
『はい…』
『蓮を…宜しく頼む…一刀くん』
『あなたの分も…確かに…
受け取りました。必ず…
蓮を幸せにします』
『ありがとう…一刀。餞別と言っては
何だが…受け取ってほしい』
『いえ、気持ちだけで十分です、だから
さっさと成仏しやがりください』
『ははは!ツンデレかな?一刀くん!
曹操ちゃん、譲りだねぇ!』
『デレは一生…無いので』
『遠慮するな!コレを受け取り、大いに
デレたまえ!覇ああぁぁ!』
『ちょ!』
『私は亀羽目破も衛武闇気李怨も無いが
唯一特化した力がある!受け取れ!』
『ぐっ!?』
拳が腹にめり込むと何かが流れ込んで来る
それを切っ掛けに身体が
燃える様に熱くなった
っ…これは…何だ…!?
感覚がズレる…何か身体の中を暴れ回る
『ぐはっ…』
『いやぁ…惨い…誰がこんな事を…』
お前だよ!
『ははは!大丈夫!ここは魂の空間だ
肉体に損傷はないよ』
『だから…ぐっ!?…何を…』
『ははは…!苦しめ!私の蓮に
手を出した罰なのだよ!一刀くん!』
『思いっきり…悪役…』
『冗談、冗談だから♪
そんな怖い顔しちゃやだよ~』
『ぐっ…冗談に…聞こえない…』
『あ…そろそろ、時間だね?
ほら、起きっして♪蓮が待ってるよ~』
『かはっ…起きるって…どうやって…』
『この場合…通説では衝撃だね…
では遠慮なく…』
『はぁ…はぁ……待て…それは』
『ははは…!これは夢だよ!一刀くん!』
黄金に光る剣を懐から取り出す
いや、何もかもデタラメだ
しかも、奴が持っているのは
『パンパカパーン!
伝説の剣!エクスカリバー!』
『本当にデタラメだな…あんた』
『ははは…!照れるな~///』
『誉めてない!』
『んじゃ、逝くぜ♪』
『待て…因みにソレ何処で手に入れた?』
『ヤホー!で1980(イチキュッパ)♪』
『伝説の剣、安!しかも、ヤホー!って
手頃だな、オイ!』
『しかも!安全安心の
クーリングオフ対象商品♪』
『良心的だな!!!』
『安心安全で逝ってらっしゃ~い♪
エクス……カリバー!!!』
ポカリと殴られる。ただの殴りだが
疲弊した俺の意識を刈り取る
には十分な威力だった
『ていうか…殴ったら…
安心安全じゃない…ガク…───』
実に満足そうな彼の笑顔を最後に
俺は意識を手放した
『ふぅ…いったか…
蓮のこと頼んだよ、一刀くん』
『孫さ~ん!』
『ん?おや、太公望ちゃん♪』
『孫さん?今日、デートの日でしょ?』
『おお♪そうでした!そうでした!』
『もぅ……クレオとの約束は
忘れないのに、私との約束は
ルーズじゃない?』
『いや、エジプトの姫君は怒らせると
怖いの知ってるでしょうに』
『あぁ、あの犬とか鳥とかの頭の人が
"姫様泣かせたー!"って四六時中
追いかけてきたって話し?』
『そうそう。あれはたまらんよ?』
『そういうことなら私の"宝貝"も
怖いかもよ~?』
『"打神鞭"か…そりゃ確かに…
んじゃ…お詫びに"アップルパイ"を
ご馳走しましょう♪』
『やた♪"喫茶・エデン"だね!
ゴッドのアップルパイは最高だよ!』
『マスターは全知全能だもん、当たり前
あ、メイドの"サタンちゃん"に
お土産持って行こうか』
『はぁ…また…天界の種馬も大変ね?』
『ははは…!照れるな~』
『だから、誉めてないって!』
わいわい言いながら二人は
"エデンの園"を後にした
「ていうか!結局は
俺の身体に何したんだよ!」
"がば!"
布団を跳ね上げ飛び起きる
「はぁ…はぁ…夢?蓮の元旦那って
クレイジーだな…色々と…」
夢を思い出して身震いする
もう二度と会いたくない…
そういえば、あの人、何かしたよな…
今は感覚のズレも身体の中を何かが
暴れ回る感覚も起きてはいない
頭、顔を触る、異常なし
肩、腕、異常なし
首、胸、腹、異常なし
背中…羽根が有ったりしないよな?
良かった…異常なしだ
次は下半身…馬に成ってたり…して
止めよう…怖くなってきた…
見たほうが早いな
「ふぅー。よし!」
下半身にかかっていた布団を取り去る
「すー…すー…」
「………異常…大あり…」
下半身に抱き付く形で、蓮が静かな寝息を立てていた
「な、なんでこんな所に…」
「ん…、んー?」
寝息を立てている蓮に苦笑すると、その長い髪を撫でて起こしにかかる
まだ朝も早い。桜が帰ってくるまで時間はあるのだから、二度寝でもしたいところだが、今のままではさすがに無理があるだろう?
「蓮、ほら、起きて…」
「んー…桜、帰ってきた?」
蓮はムクリと起きると、キョロキョロと周りを見渡し首を捻る
「いや、まだ時間はあるよ」
「そっか…そっか…。フフ…」
二、三度、蓮は頷くと、急に笑みを浮かべて首に手を回してくる
「ねー、一刀…」
「な、なに…?」
「もう一回だけ、ね?」
「あぁ、いいよ」
子供のように、おねだりする彼女が可愛かったので、俺はすんなりと頷く
「ん、んー…!」
蓮が隣で伸びをした
時間は昼前…そろそろ…桜が帰ってくるな
「さてと…一刀?桜が帰ってくるから
お風呂入るけど…一緒に……
あぁ…ごめんなさい…先に行くわ♪」
ちゅ♪と軽い口づけを交わし
蓮は風呂場へ向かう
「くっ…流石は…神道無念流…師範
何という体力か…。これから、俺…体、持つかな…」
あとに残ったのは
もう、指一本動かぬ身体
この千葉家の絶倫美女たちを思い出し、嬉しいやら…恐ろしいやら…複雑な心境の俺であったとさ
"ガラガラ~"
「たっだいま~♪」
玄関から元気な声が聞こえる
「はぁ…頑張ろ…」
一刀はこのあとの桜の質問攻めを
想像してため息を吐くのだった
「さぁ~♪どうぞ♪」
「あ…あの…お邪魔…します」
「!?」




