見よ、己が手を
次の日…江戸へ繰り出した一刀たち
案の定…江戸は大混乱となった
民が『御利益!御利益!』と
押し寄せたのだ…
「「静まれ!!!」」
それも、千葉周作と斎藤弥九郎の
二強の闘気にあてられ、一旦、落ち着く
そこで一刀は民に無情にもこう告げた
「悪いが俺は神でも仏でもない
ただの人だ…」と
民は落胆し、嘆き、憤怒する者もいたが
それらに構わずに続けて一刀はこう言った
「しかし俺は知に長け、経験に長けている
魏に降り、大戦を収めたこともある」
その言葉に民は驚愕した
目の前にいるのが"天の御使い"であると
告げられたからである
「今、江戸は太平!しかし…
未だにこれだけの人々が
未だ苦しんでいるのもまた事実!」
頭の中に華琳の姿を思い浮かべる
あの時…あの場所で…どのように喋り
どのように動いたか…全てを真似よう…
華琳なら…何を思い…何を言うか…
ずっと側に居た俺なら絶対できる!
「皆、苦しんでいるだろう!
悩んでいるだろう!怒っているだろう!
嘆き、悲しんでいるだろう!
だからこそ神にすがり、利益を得んとし
皆は今、ここに来たのだろう!」
今の心情を言葉にされ、民は皆
自分の状況を理解する
様々な思いを胸に…目の前の御使いが
何とかしてくれる…そんな淡い期待を
抱き始める
だが…俺は…『華琳』はそんなこと許さない!
「 甘えるな!!! 」
皆は驚愕する
最初はただの優男に見えたが
今はとても尊い、そう、絶対の王や
神と対面しているような畏れを感じていた
「願いを叶えるのは神や仏じゃない!
思い願うなら己の力で奪い取るんだ!」
気づいていた…しかし…
自分には力がないと、嘆き
最後には神にすがるしかなかった
「目を開け!刮目して己が手を見よ!
己は本当に無力か?」
皆、己が手を見る
何もない手…面白みも凄みもない
こんな手に、自分に力なんかあるわけない
思わず…笑ってしまうほどに何もない手だ
でも…彼は…御使い様は…違った…
「 いいや、それは違う!!! 」
己が手を見ていた民が一斉に顔を上げた
『えぇ、違うわね…』
「皆は願いを手にする力を持っている!」
『そう、力を持っているわ
比類無きほどの大きな力
時には山を動かし、時には川をも止める
恐ろしいまでの力をね…』
『でも、今のままでは到底、無理でしょうね。だって…』
「だが、同時に欠けているものがある!
それは覚悟だ!覚悟が無い!」
『そう、覚悟が無ければ人は動けない』
「魂を燃やし!走り抜き!
掴み取るだけの覚悟を決めろ!
それができぬ者に明日など来ない!」
『えぇ、覚悟の無い者に明日は来ないわ
でもね、覚悟を決めるには
相当の勇気と根拠がいるわよ?』
「皆には力がある!それは俺が認めよう!
では、何故!皆、気づけないのか!
それは、力の使い方を知らぬからだ!」
『じゃあ、どうするのかしら…一刀?』
はは…無論…答えはこうだろ?華琳…
「その力の使い方、俺が教える!」
『ふふ…そうなると思ったわ!』
「今一度、問おう!皆の者!
力を手にし、願いを掴み取る
覚悟を決めたか!否か!」
民は希望を瞳に、覚悟を胸に宿して
「「「「オオオォォォ……!!!」」」」
一刀の言葉に力の限り応えた
『さぁ、これから忙しくなるわよ!
貴方の手腕…心から期待しているわ!』
あぁ…任せてくれ…
『ふふ……』
優しい風が頬を撫でる…
一刀は風を追うように空を見上げると
こぶしを握り締めた




