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今日の華琳さん家  作者: 黒崎黒子
13/121

愛刀

杏仁豆腐事件から数日後…



「そういえば…蓮さ…」


縁側で寝転びながら、お菓子をかじり

『月刊・色町小町』を読んでいる蓮に

一刀は素朴な疑問を投げかけた


「はむ…パリ……ん~?なに?

 …あぁ~♪わかった♪

 やっとヤル気になった~?

 女をここまで待たせるなんて…本当

 罪な男よね~?一刀は♪」


品を作り…着物をズラして胸元を見せる…

いや、口にポテチをくわえてなければ

本当に色っぽいんだよ…本当に…


「いや、別にいいんだけどさ」


「ぶー…まだ待たせるのー?

 まぁ、待つけど…キスもお預けの

 毎日って…結構、生殺しよ?」


そう言いながらポテチをパクつくなよ…


「いや、いいんだけど。今はどうしても

 気になる事が一つあってさ…

 蓮…お前…ここに何しに来たんだ?」


あの日、突然に現れ…

特に何かしてるわけでもなく

今は千葉家に居候


雑誌を読んでるか…お菓子を食べてるか

釣りしてるか…山で虫採ってるか…

酒が大好きなようで、桜と二人

晩酌に付き合わされることもある…

『自由奔放』の言葉がぴったりの女性

ていうか…誰かに似てるんだよな…


「はむ…ん~~?何ってそりゃ…」


そこで、くわえていたポテチを

ポロッと落とす


あぁ…掃除…誰がすると思ってるんだよ


「し、しまったー!」


急に立ち上がり蓮は叫ぶ


「一刀!……刀は!?」


「ん?お前の刀なら…ほら

 桜が物干し竿にしてるぞ?」


縁側の横に燦々と日の光を浴びて

蓮の愛刀は強制的に陽向ぼっこを

させられていた。


長さはイマイチだが、その頑丈さに目を

付けられたのが運の尽き

桜は『これは良いもの拾ったな~♪』

って大喜びしてたな…


「っ………色々…ツッコミたいけど…

 取り敢えず、刀は返して貰うわよ…?

 あと、私が言っているのは

 貴方の刀よ…あるでしょ?」


物干し竿変わりの棒を差し入れて

蓮は愛刀を脇に差す


「あ…そういえば…ないな…」


「はぁ…あの子は~。門下生には

 一振りでも渡しときなさいよね…

 剣術を学んでいても、刀が無ければ

 ただの人よ。…………あ…そうね…」


頭を抱えていた蓮は一転


「桜が釣りから帰って来たら

街に行きましょ♪貴方の恋人を

 見付けに行くわよ~!」


と、にこやかに宣った


「刀、か…確かに必要だね」


帰って来た桜に刀の件を伝えると

そんな答えが返ってきた


「ねぇ、桜?一刀は北辰一刀流の門を

 叩いたのよね?」


「ん?その…はずだよね…一刀?」


桜は小首を傾げて答える


「いや、合ってるから…不安になるから

 断定でお願いしますよ、周作先生」


「だそうです!」


どうだー!と胸を張る周作先生…

あのね…断定でって意味分かる?

ここ、本当に日本だよね?


「一刀は今の段階で刀は持っても

 大丈夫なの?師範の目から見て」


「ここに来て一年とちょっと…

 その間は私の持っている

 様々な刀で修行してもらって

 たけど…一言で言うなら…怖い」


キュッと自身の着物の裾を掴む


「えぇー…」


そんなに危なっかしいの?俺の太刀筋


「…あ!違うよ!何て言うか…

 "刀に愛されてる"っていうのかな?」


イミガ、ワカリマセン…


「んと、ね…」


周作曰わく


刀には魂が宿るという

素材(金)

工房(火・水)

刀匠/研ぎ(土)

鞘(木)

これらが複雑に絡み合って

生まれた刀には魂が宿る

魂は千差万別であり

一つとして同じ物はない

魂からは癖も生まれるので

同じ切り方をしても

斬れないこともざら

その癖は何度も振るって

振る者がその身に覚えさせるしかない

『よく手に馴染んだ武器』

とはその先まで到達した

達人と武器の信頼の証である


だが、一刀はそれらの段階を

全て、ぶっ飛ばしているそうだ


刀を握った瞬間

そこには既に信頼が生まれいる


『刀に愛されし者』


その言葉が相応しいと

桜は語った


「刀に愛されし者か…だからあの時

 一刀は私の刀も扱いこなせていたのね」


愛刀を撫でながら…蓮は小さく…

『妬いちゃうわ…』と呟いた


「じゃあ…街にある刀、全てが

 一刀に惚れちゃう…ってことかしら?」

と頬に手を当て笑う


おい、皮肉か?それ…


「ん~、分かんない…それは一刀にしか

 知り得ないことだから…」


「確かに…私たちには分からない世界ね」


「まぁ、取り敢えず、刀に関して

 問題がないことは分かったし

 それじゃ、桜…」


「うん、蓮ちゃん…」


「「一刀!」」


二人は腕を組んで唸る一刀に

手を差し出して


「「行こっか♪」」


満面の笑顔で街へ誘う


「あぁ」


二人の手を取って千葉家を出た


三人がやってきたのは

天下の城下町『江戸』


一刀も日用品を求めて

何度も江戸に来たことはあるのだが


鍛冶屋にはまだ顔を

出したことはなかった


「どうかしら♪両手に華の感想は♪」


手を繋いだまま山から降りてきた三人


右の蓮が笑いながら顔を覗き込んでくる


「うーん、周りの視線が痛いデスヨ…」


真ん中の一刀は目を線にして苦笑する


「みんな、今日は凄く見てくるよね~

 どうしたんだろ?」


左の桜は首を捻りながら、周りを見渡す


「ふふ…さて、一刀

 刀鍛冶の件だけど私たちが

 選ばせて貰うわよ?」


いいかしら?と蓮は一刀に問いかけた


「大丈夫♪私たちの刀を

 打ってくれた名匠だから♪」


腕は確かだよ~と桜が補足する


「俺、刀工には顔を出したことなくてさ

 助かるよ、二人とも宜しくな」


「「任せて♪任せて♪」」


二人はニコニコと答えた



しばらく歩くと2人は

一件の建物の前で足を止める

手を繋いでいるので一刀も

足を止めることになるのだが…


「こ、ここ?」


一刀は引きつった笑顔で二人に問い掛ける


出来れば間違いであってほしい…かな…


一言で言えば…派手…超が付くほど派手

竜宮城にクリスマスのイルミネーションを足したような建物が其処にはあった


「うん!そうだよ」

「まぁ、見た目はアレだけど

 腕は確かだから大丈夫…よ?」


おい、蓮…目を反らすなよ


「だ、大丈夫よ!ほらほら行くわよ!」


蓮に、ぐんぐんと引っ張られ店の中へ


店内には…刀…刀…刀…は全くない


ていうか…


「いらっしゃいませ~旦那様~☆」

「3名様ですね~☆こちらへどうぞ♪」

「お疲れ様でした~旦那様~☆

 お飲み物は何にしますか~?

 遊んでいかれますか~?

 貝合わせ…花札…将棋…囲碁…

 最近は異国の"麻雀"なんかも

 ありますよ~旦那様~☆

 あ、でもぉ、脱ぎ脱ぎはメ~です♪」


脱ぎ脱ぎ……脱衣麻雀か!!!?

目眩を覚える一刀…


「な、なぁ…此処って…さ…」


目の前を歩くメイド服を見ながら

一刀は二人に問い掛ける


「可愛いよね~ここの服~☆」


ウチの道場も練習着、コレにしようかな…

と桜はメイドさんをキラキラと見つめ


「やっぱ、美味しいわね~ここのお酒♪」


蓮は杏酒を飲みながら美味♪美味♪と

つまみにパクつく


「…何しに来たんだっけ」


一刀は一人…頭を抱えた


一刀の愛刀を手に入れるため

江戸に繰り出した一刀一行


千葉周作(真名:桜)

斎藤弥九郎(真名:蓮)に連れられ

やってきたのは…

お酒も呑める『メイドカフェ』…


「ふぅ~!呑んだ!呑んだ」


満足したわ~♪と蓮は席を立つ

目の前を歩くメイドを呼び止めて

店の隅へ…何やら話しているようだが

遠いので聞こえるはずもなく

一刀はグラスを傾けつつ

見守るしかなかった


「はは…またメイドさんが見てるよ?」


桜が一刀の膝の上で

チビチビと酒を呑みながら

メイドさんを観察していた桜が

不意にそんなことを言い出す


一刀が入店し少ししてからのこと

妙に視線を感じるので目を向けると

メイドさんがチラチラと見てくる

目が合うとキャ~と逃げるように奥へ

他のメイドさんも似たような反応だ


「また、あの世界みたいに、女たらし

 とか想われてるんだろうな…はぁ…」


なんせ、美人を2人も連れての入店だ

流石にそう思われても仕方ない


はぁ…とため息を吐いて

グラスを一気に空けると


「たっだいま~☆」


と蓮が帰ってくる


「今、刀匠を呼んできて貰ってるから

 もう少し待ってね」


『む!桜ー!くっつきすぎ!』

と桜を注意しながら席に戻る


「刀の件…忘れてなかったんだ

 良かったよ…。刀匠は今どこに?」


半ば諦めていた一刀はホッと

胸を撫で下ろす


「材料の仕入れだって

 場所も近くだから

 すぐ帰って来れるらしいわ」


「材料の仕入れを自ら…」


自分の目で素材を選ぶのか…

流石、刀匠。刀の材料から

己が目で選ぶところに本物を感じさせる

頭の中で国宝のような

人物を想像していると




"カラン♪カラン♪カラン♪"


メイドカフェの玄関が開く


「あ、来た!来た!」


蓮の言葉に、玄関を見ると


「うわ…」


一刀は思わず声をあげてしまう


開け放たれた玄関に現れたのは

両手に食材を詰めた買い物袋を

ぶら下げた、少女の姿だった



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