デザートはいかが?
「え、えぇーっと…」
目の前で少女が泣いている
俺…何かしましたか?…神様!!
嗚呼!誰かある!この危機的状況を
打開できる者はおらぬかー!!
『ここにいるぞー!』
………………誰?
どうやったら泣き止んでくれるのか
関係ない者も乱入して
一刀は思考の泥沼に嵌る
「あ…そうだ…」
はたと、自分が今"ここ"に
居た理由を思い出す
周作(真名:桜)の頭をポムポムと撫でて
後ろを振り返り
"カチャ…カチャ"と何やら始める
音が止み、"よし!"と声が聞こえる
振り返った一刀の手には器が
「ほら、桜」
一刀は器を桜にそっと手渡す
桜はゴシゴシと涙を拭い
手渡された器の中を見る
「…これ……杏仁豆腐…?」
「あぁ」
「…食べて…いいの…?」
目をキラキラさせて聞いてくる
"コクン" と笑顔で頷き肯定する
「頂きます♪あ~ん♪パク♪……………」
そのまま、固まった
「にこにこ……………………あ、あれ?」
味には自信があった一刀は全く反応のない
桜の様子に笑顔が引きつる
「………………」
「お、お~い。さ、桜~?」
「…………」
桜はスプーンを口にしたまま動かない
そこに褐色の美女…蓮がやってきた
「一刀~お風呂上がったよ~」
寝間着から伸びる上気した
四肢がより色ぽい
「って台所で何してんのよ、アンタたち」
ムフフ♪と口に手を当て
スススイ~と入ってくる
「実は…」
杏仁豆腐を作り始めたところから
桜の反応が無くなったところまでを話す
「杏仁豆腐か~久しぶりね~♪
一刀ぉ~♪一刀ぉ~♪私のは~?」
目をキラキラ~☆
うん、あるよ!だから、ヨダレ拭こうね!
「ほら、蓮」
「ん☆ありがと~う♪
では、では、頂きまーす☆
あ~ん♪パクん♪………………………」
案の定……停止
「えぇ!?また!?嘘だろ!?」
一刀はオロオロするしかない
「桜や~い!!蓮や~い!!」
ひらひらと手を振ると…
「「………じわ」」
二人の目尻に変化が
「へ?」
「「お…」」
「お…?」
謎の言葉に一刀は首を傾げる
「「おかぁ──さぁ────ん!!!」」
「ビク!!?」
るぅ一──!!!
と二人の目から涙が滝のように流れ出した
「な、なんでじゃ─────!」
一刀は頭を抱えるしかなかった…
「えぇ…と…」
目の前で少女たちが泣いている
嗚呼、デジャヴ!デジャヴ!
「どうしたんだ二人とも…」
二人の頭を撫でる
「…ご、ごめん一刀…」
「ぅう…不覚だわ…」
二人が大分、落ち着いて来たので
やっと、話しができるようになる
「杏仁豆腐、口に合わなかったか?」
苦笑しながら二人を見る
涙を流して意味不明な叫びをあげる程だ
余程、口に合わなかったのだろうと
一刀は考えて、レシピの封印を考えていた
「「美味しかったよ(わ)!!」」
だが、二人は首を横に振る
ではなぜ、二人は固まり…あまつさえ
涙まで流したのか
二人は話してくれた
「お母さんを…思い出したの…」
「えぇ…母様を…思い出したわ…」
うぅ…ひっく…ぅうう…
また、思い出したのか二人は
子供のように泣き始める
「………そうか」
一刀は優しい瞳で二人を見つめる
「一刀…ありがとう…
私…大切な事を思い出せたよ」
「一刀…私も礼を…
私も…考えを改めたわ…」
二人は何度も一刀に礼を述べる
「いや、俺は何もしてないよ
今でも強く心に残っていた
優しいお母さん達を誇るといい」
「そうだね…一刀と母に感謝を」
「えぇ…一刀と母に感謝を」
二人は器に残る杏仁豆腐を
ホロホロと泣きながら食していった
一刀は自身の手の中にある器を
見つめて思う…
「うん…封印しよう…」
こうして『郷愁の杏仁豆腐』は封印された




