真名
千葉家に入って行く
神道無念流創始・斎藤弥九郎の背中を
見送った俺たち
「そう…だよね……一刀!来て!」
何事か呟いた周作は手を取って
家の横の山道に入っていく…
こっちにあるのは朝に来た小川か?
案の定、小川に辿りつくと周作は手を放す
ここなら誰も来ないよね…
当たりを見渡して気配を探る周作
気配がないことに確認し、口火を切った
「一刀…私ね…一刀が好き…
一刀は私のこと好き…?」
両手を祈るように組んだ周作は
揺れる瞳で一刀を見つめる
「うーん…いや?」
一刀はさも当然のように首を振って答える
「っ!?…そうか…そうなんだ」
明らかな落胆…周作は組んだ手を下ろす
「"愛してる"の方がしっくりくるな」
下ろされようとする手を掴み引き寄せる
「愛してる、周作」
「え?…あい…して…る?……ぼん!!」
あ、一瞬で真っ赤になった
「い、意地悪だよ!一刀!」
「はは!確かに…でも本当に
そう思ったんだ」
目尻の涙を指で拭い去る
「うん…私も愛してます…一刀
だから…受け取って…私の真名…」
真名…か…
「え?真名?」
「私は、姓を千葉、名を周作
真名を桜…宜しくね♪」
腕の中でえへへ♪と笑う周作…いや、桜
確かに…この笑顔は
満開の桜を思い起こさせる
「あぁ…だけど…すまない…俺には
真名はないんだ。」
「うんん…いいよ。真名がないことは
貂蝉から聞いてたから。大丈夫。
一刀…あのね…真名で呼んでくれる?」
「…桜…」
「っ~///一刀ぉ!だめぇ!
もう抑えられないよ!ちゅ…!」
ぐいっと引き寄せられて
唇を奪われる。キスの雨…
前々から思ってだけど…
桜って…キス魔?
「ぷは…!ちょっ!桜!待った!むぅ!」
「ちゅ!何?さっき埋め合わせしろって
ちゅる…言ったじゃない…んん…ちゅ」
「いや!今はまだいい!
ほら!弥九郎も待ってるし、ね?」
「ちゅぱ!………弥九郎…ねぇ…ふん!」
ガッ!と襟元を掴んだ桜は腕を取り
足をかけると見事な一本背負いを放つ!
「ぐはっ!いてぇ!ちょっ!
桜、何して、んん!」
そのまま、桜は一刀に跨り、強襲をかける
「ん…ちゅぱ!彼女のことは…むちゅ!
いいの…!」
結局…俺は逆強姦されました
シクシク…俺が何したって言うんだよ…
「フフ…頂きます…一刀…」
「え!?ちょ、待っ…むぐ!?」
まさか…桜がこんなに積極的な女の子だったとはね…
…とりあえず…おい…そこに隠れてる
弥九郎。見てないで…助けろよ
いや、無理って?
邪魔したら、斬られそう?
ですよねー
俺は諦め、この身を投げ出す覚悟を決めた
なんとでもなれ、だ
「すぅ…すぅ…」
そうして、全てが終わったのは、昼過ぎのこと
満足そうな寝顔で、俺の膝に丸くなる少女の頭を撫でて一息つく
よく…よく頑張ったな…俺…
そして……弥九郎!てめぇ!
手を合わせて…ごちそうさま♪じゃねぇ!
あ、こら!あぁ…帰ってくし…
まあ、幸い…福まん効果のお陰なのか、身体はすっきりして動ける
「このままじゃ、風邪を引きかけないしな。帰るか」
桜に服を着せ…自分も着替えて帰路につく
とりあえず…あいつに言わなきゃならないことがある!
「弥九郎!何で助けねぇか!」
帰宅して布団に桜を寝かせた後
縁側で寝そべりお菓子と茶を口にしながら
『週刊剣豪は見た!』を呼んでいる
弥九郎を発見
「あ、おかえり~一刀♪」
よっ!と手を挙げて出迎える
か、軽いな~
「あと一刀。私のことは"蓮"って呼んで」
じゃないと返事しないもーんと
週刊紙を読み始める
「はぁ…分かった…蓮…とりあえず
礼を言わせて貰う。蓮が居なかったら
桜はずっと真名を隠したままだったろう
それが、桜も心に引っかかって
いたらしい。感謝する、ありがとう」
「周作、幸せそうな顔してたわね…」
ポリッとお菓子を食べながら
蓮は湯飲みの中を覗いて呟いた
「ねぇ…一刀?女の幸せって分かる?」
「女の幸せか…まだ…分からない…
いや、ずっと分からないだろうな」
蓮の『女の幸せ』という言葉に
一刀は目を瞑り今まで出逢ってきた
愛しい人たちを思い返す
春蘭…秋蘭…季衣…流琉…桂花…風…稟…
凪…真桜…沙和…霞…天和…地和…人和…
そして…華琳…
彼女たちの笑顔…泣き顔…
怒った顔…呆れた顔…驚いた顔…
全部が俺には幸せだった
どんなときも隣に居てくれた
どんなときも隣に居させてくれた
そんな日々が幸せだった
そして…新たな場所ができた
愛してくれる人ができ
愛したい人ができた
「女の幸せは分からない。
でも…幸せのある場所は分かる…
彼女の隣が俺の幸せがある場所だ」
そこで目を開けると
「ふふん♪分かってるじゃない」
目の前には嬉しそうな顔をした蓮がいた
「さぁ?どうだろうね…」
自分でも曖昧な答えに
俺は苦笑するしかなかった
「ちゃんと分かってるわ…あなた
それじゃ…ちゅ…」
ガバッと抱きついた蓮は俺を押し倒して
口内を熱い舌で蹂躙する
「ちゅ…私をその末席に加えて貰える?
私、貴方に惚れちゃった♪」
チロと舌を出してごめん♪と謝る
「そうくるかな~とは思ってたよ」
「あ、やっぱり?私、初めて会った時に
衝撃を受けたのよ…この人なら私の
人生を預けれるって…」
押し倒した男の胸に
のの字を書いて品を作る
「いや、初めて会った時って…お前…
刀投げた…んちゅ!」
言い終える前に口を塞がれる
「ちゅ…!そんな昔のこと…忘れたわ!!!」
口を放し…ドーンと構える
いや、一番重要なところを忘れたって…
お前なぁ……はぁ…
「ま、私の気持ち…しっかり受け止めてよ
…ね♪一刀…ちゅ…ちゅぱ…はむ…」
「ぢゅ…ちゅぱ…そりゃ受け止めるさ
こんな綺麗な女の子
ほっとけるわけないよ」
「女の子…?」
一刀の言葉にキョトンとする、蓮
「ん、綺麗な女の子」
蓮をビシ!と指差す
「っ~~///はぁ…もう…///
大好きよ!一刀~!」
顔を真っ赤にした蓮は、照れ隠しに
ぎゅ~と抱きついてくる
"ガラガラ"
ちょうど…そこへ…
目を覚ました桜が…入ってくる
「あ、やば…………それじゃね~一刀♪」
蓮は縁側から逃げようとしたが…
"ビン!"
「わっ!ととと…!きゃふ!」
いつの間にやら足に巻きついた紐に
引っ張られて、縁側に辿り着く前にスッ転ぶ
「いたた…なによこれ…紐?」
紐がぐいぐいと引っ張られる…
紐の先を目で追っていくとそこには
鬼がいた…
「へ?」
紐の正体を知った蓮は
何とも間の抜けた声を出した
「ねぇ…弥九郎…うんん…蓮ちゃん…
お話ししましょう?」
にこっと笑う…が完全に引きつってるー!
「あはは…!真名で呼んでくれるのね!
いや~こっち来てから真名の交換した
のになかなか呼んでくれないから
本当は嫌われてるのかな~って思ってたけど
そうじゃなかったのね~!
嬉しいなー!これで私たち立派な友!親友!
そう!棒姉まいぃいやあぁあ…!」
笑顔(偽)で桜は紐を手繰り寄せる
蓮は引っ張られて、畳に涙と爪痕を残し
ながら絶叫を上げて、ズルズルと
鬼のもとに引き寄せられていく
「……どんな、ホラー映画だよ…」
一刀はただ黙って見送るしかなかった
「一刀!お願い助けてよぉ!
あんなに愛し合った仲でしょ!?」
「…そうなの?一刀…」
「サー!未遂に終わりました!サー!」
「そう…それじゃ…どんなことを
しようとしたのか…じっくり
教えてね…蓮ちゃん…」
「うわーん!裏切り者ー!一刀のばかー!
大体、桜も良いじゃん!ケチー!
一刀はみんなのものなのよー!
私だって一刀が好きなのにぃ!
自分だけズルいわよー!うわぁーん…
"すー…パタン"
障子の向こうに二人は消えて行った
とりあえず…ご飯…作るか…
一刀は少し遅めの夕飯の
準備に取りかかった




