引き寄せた運命
周作さんのお陰で幸運を呼ぶ
体質になった俺は
「…幸運、ねぇ…」
悪態をつきながら
柱に刺さった刀を引き抜き
目の前で目を回す女性の前に出る
前から涙を流して向かってくる
鬼神に相対するために
前回から、俺たちは2回目の行為に
及ぼうとしていた
長い綺麗な黒髪を傷めぬように
気をつけながら縁側に寝かせる
漆黒の瞳
ほんのり赤い頬
艶々した唇を指でなぞる
「ん!一刀の手…大きいね…安心する…」
手に頬ずりして甘えてくる
逆の手を胸に置くと、熱く強い鼓動が伝わってきた
「っ…あん!…訂正ぇ…どきどきするよ」
"ちゅぱ、ぅん、ちゅる、ぢゅるる"
指を口に含みしゃぶりだす
ねっとりとした熱い舌が指に絡みつくなか、腰に脚を絡めてきた
「ちゅ…かじゅと…」
熱い視線で一心に、見つめてくる
『愛してください…』のサイン
キスをしようと顔を近づけようとした
その時!
視界の隅で何かが光る
「「っ!?」」
二人は瞬時に離れ、戦闘大勢に入る
一年の成果は確かに出ているようだ
轟音と共に二人の間を何かが通過し
千葉家の柱に突き刺さる
横目でその正体を確認する
"刀"であった
長さは普通の刀と変わらない。
太さと厚さは刀の3倍。
刀に間違いはないが、太く、重量もあるな
コレを正確に投げるとなると相当の力が…
そう思い、持ち主であるだろう人間を見て
「!!?」
俺は息を呑んだ
身構えた二人の視線の先には…
赤い着物から褐色の四肢を覗かせた
美しい女性が
「周作!無事!?」
桃色の髪を風になびかせ、青い瞳で
俺を睨みつけたまま、周作に語りかけた
「あなた、誰かな?」
にこにこー☆と周作は
現れた女性へ笑顔を向ける
あ、あれは怒ってる時の顔だ…
それも…もの凄く…
「へ?周作!?私!私よ!」
女性はおろおろして
状況を飲み込めないでいる
「あはは…!誰か分からないけど
面白い人~!いいよ!私が…直々に…」
"すら"
懐から刀を抜き出す
いや…だからどこから出した!どこから!
ていうか、怖!華琳が怒った時そっくり!
殺気が膨らみ、隣の俺さえ飲み込んでいる
「バラしてあげる!!!」
その言葉と共に……周作は消えた
"ひゅん!"
次の瞬間、女性の近くで
風を斬る音が聞こえる
目を向けると
周作が混乱している女性を襲っていた
「へぇ!よく避けたね!弥九郎!」
「ひーん!覚えてるじゃないのー!」
"ひゅん!シュッ!"
「うん!今、思い出した!斎藤弥九郎!」
"シュッ!シュッ!"
「じゃあ、なんで襲ってくるのよー!」
"ピク"
ついに壁際に追い込まれてしまった
女性。周作はゆらりと刀を構える
「人の恋路を邪魔する奴は…斬る!!」
うわーん!と泣きながら周作は刀を振る
"ひゅん!"
「思いっきり思念じゃないか!」
「思いっきり思念じゃない!」
初めて会った二人の心が
重なった瞬間だった…
ひぃーん!と泣きながら女性は
寸でのところでかわすと
ころころと転がり
一刀の前まで来る
「きゅう~!」
転がり過ぎて目を回してるな…これ
後ろから涙で前が見えないだろう周作が
刀を乱舞しながら突っ込んでくる
「はぁ…幸運ね…」
悪態をついて、柱の刀を抜く
ずしりとくるが扱えない重さじゃない
軽く振って…女性の前に出る
「あーぁ、可愛い顔が台無しだな…」
"うわーん!ちねー!"と鬼神周作が
向かって来る
ひゅん!ひゅん!ひゅん!
感情の乱れのせいで、刀の軌道は
単純なものになってしまっている
疲労もあるのか、剣速も遅い
「逢瀬が~!一刀との逢瀬が~!」
感情だだ漏れ!!!
「ぶっ!!黙れ!周作!」
"ごっ!"
刀を去なして、周作に拳骨をいれる
「うにゃーん!」
奇っ怪な声を上げ、頭を押さえて
しゃがみ込む
落ちそうになる周作の刀を受け取り
女性の刀共々、脇に置く
「…しゅうさく…」
手を彼女の頭に置く
"ビクン"
「ぅう…………ごめんなさい」
自分の失態に気づき
"しゅん"とする周作
すっかり大人しくなった周作の
頭を撫でながら
「あまり、心配させないでくれよ…頼む」
とだけ言っておく
「うん…ごめん…」
「ふむ…」
小さい身体を更に小さくした周作の
耳元に口を近づけ内緒話
『これ、貸し一つな?埋め合わせは…
後で…たっぷりして貰うから…ちゅ』
顔を放す時に頬への口付け
「……うん///」
「はは…良かった…無事で」
周作の頭を撫でる俺の後ろから
"にゅ"と手が伸びてくる
そのまま…後ろに引き込まれた
ぶ!柔らかい感触が顔を襲う
「ぅう…ありがとうー!」
そこには"るー"と涙を流した女性が…
突然、ガシッ!と抱きついて離さない
「ど…どう致しまして…」
あぁ…やめてぇ…周作の視線が痛い…
「あなたが助けてくれなければ
"神道無念流"は今日、この日を持って
潰えていたわ!
何と礼を申して良いやら
あ!私としたことが!
私は神道無念流創始、斎藤弥九郎!」
宜しくね!と頭を下げる
"チリン"と花の髪飾りが鳴った
あれ?あの髪飾り…
「俺は北郷一刀といいます」
一刀と呼んでください、と
一刀も礼をする
千葉周作に続き、斎藤弥九郎…か
やっぱり女性なんだな…
あっちの世界で十分に慣れた
はずなんだけどな…はぁ
「一刀…ね…いい名前だわ…
それに…」
いい男!きゃ~♪と
頬に手を当て品を作る
「む~!一刀はあげないよ!べー!」
ラブ電波を敏感に察知した周作は
一刀の腕に絡みつき、舌を出した
「あら?それは一刀が決めることよ?
私は別に周作のお手付きでも
構わないし。一刀…私とどう?」
大人の色香を漂わせ
着物をズラして豊満な胸元をチラリ
「一刀…目が見えないようにしてあげる」
怖いこと言うなよ!周作!
もう!冷汗が止まらんよ!
「それは置いといて
俺は君のこと何て呼べばいいの?」
必死で話題を逸らす俺!仕方ないよな!
「ぶー!つまんなーい!まぁ、いいか。
私のことは"蓮"って呼んで♪」
レン?妙に…馴染むな…あれ?これって…
「ちょっと!弥九郎!?それは!!」
周作が慌てて身を乗り出す
「何?あなた…まさか…身体を
許しておいてまだ渡してないの?」
頭を抱えて『はぁ…』とため息を吐く
「一刀…その子、大事な話があるそうよ」
少し席を外すわ…と刀を鞘に納め
手をヒラヒラと振って
千葉家に入って行った




