6_所有物
勉強に集中する。周りの様子とか物音とかを視野の端と耳から拾っているが、そんな状態でも私は集中できているといえる。事実、難易度が高いと言われている問題集をすらすらと解けている。
何に対してもとはいかないが、こと勉強に関しては集中という普通ならやろうと思っても難しい行為を私は自在にコントロールできた。
決められた答えとか方式をインプットして、それからアウトプットする。そんな単純作業を繰り返しているうちに私は学校一の学力を誇ることになった。別に1位であることに心は浮くことも沈むこともしないが。
私は勉強をさせられている。失敗した母の目標を叶えるための手段が娘に勉強させることだった。周りの人は私のことをどういうふうに視ているのだろうか。
親に勉強を強いられる可哀想な子?
それとも、そこそこ裕福な家庭で英才教育を受けている恵まれた子?
どちらでもいいとは思う。要は考え方次第で恵まれてるとも可哀想とも取れる環境なのだ。
母の行きたかった大学、なりたかった弁護士という職業。厳しい母だから私がその夢を拒めば怒りをぶつけてくるだろう。でも、それだけだ。私は反抗して勉強から逃げる機会は何度もあった。それを選ばなかったのは私自身だ。母の敷いたレールの上を歩いているのは、私が選んでいる道なのだ。
理由が欲しかった。私にはなかった。現状を変える原動力となるほどの理由が。
思い浮かぶのはキクチ君とコトリちゃん。どっちも私の友人だ。そしてどっちも恋を原動力に変わった人間だった。私だって恋はする。キクチ君もシラクボっちもアサガオ君もがっつり恋愛対象だ。他にも気になっている男子はたくさんいる。しかし、そのどれもが原動力にするには不十分だった。たぶん私にとって恋愛という要素は、ゲームのサブイベントといった感じなのだ。まあ、ゲームとかほとんどしたことないんだけど。
そういえばキクチ君はつい先日彼女と別れたらしい。いっそアタックしてみようか。高校生活の最後に恋人がいないというのも味気ない。告白して振られたとしても私は大して傷つかず、半日もしないうちに痛みは忘れるだろうから、リスクは低い。
そんなしょうもないことを考えながらも勉強の手は止まらない。脳が2つあるみたいに、マルチタスクで勉強と考え事をこなしていく。
そのタイミングで教室のドアが開かれたことに気づく。ドアを開けた人物が見知った女の子だと気づき私は顔を上げる。
「お疲れ様。ここでお弁当食べていい?」
コトリちゃんだ。可愛らしい小動物のような見た目で撫でまわしたくなる。
「いいよー。お食べー。てか遅くない?」
「ずっと仕事で。お昼食べて来いってセイヤ君が代わってくれたの」
「ほーん。やっぱシラクボっちは優しいねー。文化祭実行委員ってわけじゃないよね?」
彼は生徒会でもないので、完全に手伝っているだけなのだろう。
「うん。朝の力仕事だけ手伝ってもらうつもりがまた頼っちゃった」
悔しそうな、でも嬉しそうな顔をしている彼女を見て、まだ彼が好きなのだと察する。私的にはシラクボっちはナガサさんのことを好きなのだろうと思っているので、コトリちゃんの恋は叶わないと思うのだが。いや、でもわざわざコトリちゃんを手伝いに来るわけだから脈はあるのかもしれない。
「コトリちゃんはシラクボっちに告ったりしないの?」
「へ?しないよ。定期的にカマかけてみるけど手応えないし…」
カマかけてるんだ。なかなかやりおるなこの娘。
「まあ、あのナガサさんの告白を断り続ける男だしねー」
「そこなんだよ。学校一の美少女で性格もあんなにいいのに、セイヤ君って恋愛感情とか持ち合わせてないのかなぁ?」
この学校でモテる女子のNo.1とNo.2から好かれておいて、恋愛感情が揺らがないとは実に不思議だ。
ひょっとすると恋愛対象が女の子ではないのかもしれない。そうだとしたら、キクチ君やアサガオ君との関係性も見え方が変わってくるので非常にドキドキしてくる。
「男の子が好きっていう説はないかな?」
若干の腐女子要素も兼ね備えている私は少しテンションを上げながら説を唱えてみる。
「うーん。ないと思うけど。生徒会のイケメンに告られた時も断ってたし」
「んー、そうなんだ~」
ん?ちょっと待て?イケメンに告られた時もって言ったか?そっちのエピソードが気になってしまいシラクボっちの恋愛対象の話などどうでもよくなってしまった。
「まあ、脈の薄い私にまつわる話は置いておいて、アキちゃんのほうは恋バナないの?」
イケメンの告白エピソードを聞こうとしたのに、話題が私にシフトしてしまった。ちなみにアキちゃんというのは、クルス アキラという私の名前にあだ名をつける際のお決まりパターンだ。
「ないなー。気づけば元カレと別れてから半年以上経ってるのか。まあ、残りの高校生活は受験がメインだし、私の恋バナは大学生編に期待かな~」
受験生。恋から遠ざかるには真っ当な理由だ。しかし常に受験生みたいな生き方をしている私には正直あまり関係のない理由だった。それでも私に彼氏ができるとしたら大学生になってからだろう。なぜならば、私には午後6時という小学生レベルの門限があるからだ。前の彼氏も午後6時には家に帰さなければならないという私のルールを理由に別れ話を切り出してきた。
まあ、この門限もあと数か月で終わりである。大学生になれば親元を離れられるのだから。
「受験かー。私はもう推薦で決まったからなー。正直、クラスで私だけ受験が終わっているのは肩身が狭いよぉ」
「あのー、私もその受験生なんですけどー」
「アキちゃんはぶっちゃけ余裕でしょ?今さら気を遣ったりしないよ」
「親しき中にも礼儀ありという言葉があってですねぇ」
まあ、ぶっちゃけ余裕である。志望校の法学部の模試はA判定だった。今すぐ試験開始と言われても確実に合格できる自信があった。それでも勉強は続けなければならない。なぜならゴールは大学ではなく弁護士として働き続けることなのだから。
「やっぱり受験って大変だよね。それを理由に別れてるカップルが最近すごい増えてる」
「あー、キクチ君とかね。ヤツも受験を理由に別れたりしたのかなー」
「詳しくは聞いてないけど、ナガサさんはそのことで怒ってるらしいね。セイヤ君も寂しそうにしてたし」
「いやー、あのメンツの勉強会に誘われてたけど行かなくてよかったー。超絶気まずい思いするとこだった」
私は男性陣3人とは交流があるが、ナガサさんとカワイさんとは話したことがなく、なんとなく気まずかったので断ったが正解だった。
コトリちゃんのほうを見るとどうやらお弁当を食べ終わったらしい。小さい口でもぐもぐ食べる姿が最高に癒しだったのだが、それが終わってしまって悲しい。
「それじゃあ、私行くね」
そう言って彼女は去って行った。
教室に来て15分くらいしか経ってないのだがもう仕事に戻るらしい。
私も勉強に集中しようと机に向かう。
集中していればすぐに時間は過ぎるもので、文化祭1日目は終わり下校の時刻となっていた。
そのまま校門へ行き、迎えに来た母の車で家に帰る。
その道中で母から話があった。
「大学のことなんだけど、アキラちゃんに1人暮らしをさせるのは不安だから私もついていこうと思うの」
最初はやんわりとその提案を断った。
それに対し母は、1人暮らしをさせない理由を1つ1つ説明した。予め用意していたのだろう。
その母の準備した理由を1つ1つ潰していった。
私が話している途中で急に母は声を荒げヒステリックに怒りだした。
それに対して冷静に諭すように言葉を返す。
そんな問答を繰り返すこと10分弱。
「あなたは私の物なの!全部言う通りにしないといけないの!」
怒り狂った母はそう言った。
その言葉を聞いた時、私の中でプツンッと何かが切れた。
これまで母の言いつけを守り、青春を勉学に費やしてきた。
高校生活において最後の青春を味わえる文化祭というイベントも、1日中勉強に費やしたのだ。
こんな生活もあと半年。そう言い聞かせながら今日という日を耐えたのだ。
それなのに大学生になっても母は私を縛ろうとしている。
私は母の所有物なのだから当然だと言葉にして。
ぐるぐると頭の中に感情が駆け巡って、私は考えるのをやめた。
私はそれ以上、母に何も言い返さなかった。
その夜、初めて私は勉強をしなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クルス アキラ。
良く言えば穏やか、悪く言えば誰に対しても関心の薄い父と、良く言えば真面目で、悪く言えば偏見持ちの母との間に生まれる。
大学で教授をしている多忙な父は子育てを母に一任していた。母は専業主婦で、私が9歳の頃までは付きっ切りで勉強を教え、10歳になると家庭教師を雇った。
母が幼かった頃からの夢。弁護士。その夢に破れた母は、冴えないけれど安定した職業に就いている父と結婚し、たまたま才を持って生まれた娘に夢を託す。
私は頭がよかったらしい。早い時期から言葉を発し、算数を教えればすぐに解き明かし、五十音を1度教えれば本を読むようになっていた。小学校受験も難なく突破し、母に溺愛されて育つ。父と全く話さないなんてことはないけれど、いつもどこか他人のような接し方をされていた幼い私にとっては、母だけが絶対的な味方だった。
10歳で家庭教師がついたときも天才と絶賛され、少しずつ、少しずつ、天才というクルス アキラの輪郭が鮮明となり、少しずつ未来への道が狭くなっていった。
転機というほどでもないが、そんな順調に成長し、少しずつ首を絞められていく私に変化が生じたのは小学5年生も終わりに差し掛かった頃だった。
ただ放課後に遊ぶ同級生に混ざりたくなったのだ。放課後は遊んで、帰った後に勉強をするようにしたいと母に言ったとき、それに何の利益があるのかと言い立てられた。自分に利益があるかなど考えず、ただ楽しいから、遊びたいから遊ぶ。そんな他の子たちがしていることを、私は許されなかった。家に帰ってしまえば勉強の時間が始まってしまう。だから、家に帰らず、放課後に公園で友達と遊んだ。小学校入学と同時に渡された家族だけと連絡が取れる制限が掛けられたスマホ。それを使って友達と遊んで帰るとは連絡していた。連絡直後に来た母からの電話もメッセージも無視して、私は公園で遊んだ。何をして遊んだのかは覚えていない。ただドキドキしたし、楽しかったような記憶はある。
警察沙汰になった。ただ日が出ている時間帯に子供が公園で遊んだだけで、母を通報をし、お巡りさんに呆れられながら、面倒に思われながら、私は強制的に家に帰された。
翌日から他の子たちは放課後に私を遊びに誘うことはなくなった。1年ほど経って知ったことだが、母は友達の親と学校の先生に対して、執拗に苦情を申し立てたらしい。
早起きして、2時間勉強して、学校で息抜きのような授業を受けて、寄り道は許されず、帰宅したら寝る時間まで勉強して、また早起きする。繰り返す。繰り返す。
中学生に上がると順位がはっきりと表れる。100点。1位。代り映えのしない結果に心は動かない。この結果なら母に喚かれることもないと安堵だけする。
中学2年生の冬、彼氏を作った。学年2位。生徒会の一員。今思うと、どころか当時からさほど好きではないなと思っていたが、嫌いでもなかった。それに彼なら母も認めてくれるくらいには優秀だと思った。
デートなんてできる環境にいなかった私とでも、彼は真剣に付き合おうとした。夜、通話をしながら勉強しようと提案される。何の利益があるのかと問われても、勉強を教え合うためと言い返せるため、その提案は都合がよかった。しかし、母は気に食わないようだった。数分単位で私の様子を伺いに来た。通話しているのだから途中雑談もする。それを発見した母はこれ見よがしに不満を爆発させ、通話越しに彼氏へと薄っぺらい理論武装をした暴言を浴びせた。申し訳なくなった私は、翌日には別れを切り出した。
そんなクルス アキラという天才少女は、同級生たちから異物を見るような目を向けられ始めていた。もちろん全員が異物を見るように私を見ていたわけでもなく、むしろ大半は私に同情していたようにも思う。だが、私が"普通"とは少しズレた環境に身を置いていることを無駄に賢い中学生たちは感じ取っていた。
そんなこともあって私は生き方を少しだけ変えた。もう少し正確に言えば、普段の態度を変化させた。真面目で、どちらかと言えば大人しく、成績1位を取り続け、恋人に苦情を申し立てる"老害"と揶揄される母を持つ、どこか得体のしれない天才少女というレッテルを捨て去った。
敢えてバカっぽい口調で話すようにし、冗談ばかりを言うようにした。そうすることで腫物の天才から、少し変人で親しみやすい天才へと変貌した。なぜそんなに勉強するのか問われると苦笑いしか返せなかった少女は、『うちの母親やべーやつだからー』とおどけた口調で返すようになった。
そうして私は、学校という小さな世界のカースト上位グループに属するようになった。
結果から先に言えば、それがきっかけでエスカレーター式で高校生になる予定だった私は、進路を変更し、比較的偏差値の高い皆瀬川高等学校へ入学することとなる。
まあ、単純な話だ。いくらエリートと呼ばれる私立の中学生も、世の中に反抗したくなる時期だ。私の属していたグループが停学処分になるような事件を起こした。その際に私は左手首骨折という怪我をした。
その若気の至りで済まされてしまうような事件については、停学はギリギリ免れ、私たちは反省文の提出で済んだ。もちろんそのまま進学することはできた。
しかし、ここでも母が出てきた。停学擦れ擦れの非行に走り、あまつさえ骨折までした娘を同じ環境に置くことなど許さなかった。そうして私は9年間過ごした学園を離れ、皆瀬川高等学校に入学した。
中学生から高校生へ、見知った顔1つもない、そんな劇的変化に思えた環境は、案外すんなりと日常と化した。何より、早起きして、2時間勉強して、学校で息抜きのような授業を受けて、寄り道は許されず、帰宅したら寝る時間まで勉強して、また早起きする。その私の生活サイクルも変わらなかったのだから、環境の変化などないに等しかった。
高校生活は、というより高校生活もそれなりに楽しく過ごした。特別中学の時より色鮮やかというわけでもなく、色褪せているというわけでもない。勉強ばかりのライフスタイルにしては、十分に青春を謳歌したという自負すらある。
勉強は苦ではない。私にとって勉強とは"退屈"の象徴だ。そんな退屈な時間ばかりの人生に焦りの衝動が湧き出ることが定期的にあった。月に1度くらい、どうしようもなく逃げ出したくなり、泣き出したくなり、言い表せない何かに押しつぶされそうな瞬間がある。数日じっと勉強をしていれば収まるその衝動は、抜け出したいと強く思っていても螺旋のように巡ってくる。
過去を振り返れば、勉強ばかりでもっと何かできることがあったのではないかと不安になる。
将来を考えれば、夢を叶え弁護士として繰り返し同じような仕事を要領よくこなす自分がいる。
どちらも世間一般でいう成功のための人生に見えるのに、どちらも幸福に結びつけることができない。そんな考えても仕方のない事で頭が満たされる前に、私は目の前の課題に取り組む。勉強は苦ではない。退屈なだけだ。
私は不幸ではない。お金に困ったことはない。勉強に困ったことはない。友人関係に困ったことはない。ならば私は幸福なのか。成績1位なのは幸福なのか。衣食住が不自由なく揃っているから幸福なのか。学校で友人と笑い話ができているから幸福なのか。もしそんな私が幸福であると言うならば、なぜ私は自分が幸福かなどと考えてしまうのだろうか。
何の根拠もなく、母から離れれば私の人生は大きく変わるような気がした。これまでの人生は母がずっと近くにいて、ずっと人生の変化を感じることができなかったからそう思うのかもしれない。わからないけれど、根拠なんかないけれど、高校生活を終えて、親元を離れた地に行ってしまえば、私の人生は変わるのではないだろうか。
私が母から離れれば。
私が、母の所有物でなくなれば。きっと。
『大学のことなんだけど、アキラちゃんに1人暮らしをさせるのは不安だから私もついていこうと思うの』
先ほど言われた言葉を思い出す。
『あなたは私の物なの!全部言う通りにしないといけないの!』
胸の辺りに得体のしれない違和感を感じる。泥水が沸々と泡立つような、そんな不快で奇怪な感覚が、胸から頭へと伝わり、気がおかしくなるのを感じる。
先が見えなくなる。大してワクワクもしない成功者の順路が、今までは仕方ないと思っていた順路が、嫌で嫌で仕方なくなる。
息が上手く吸い込めない。死にたいという衝動が湧いてくる。衝動が湧いてすぐ、体が鉛のように重くなり、暗くて汚くて狭い場所に行きたいとふと思った。なぜかわからないが、そんな場所なら安心して眠れるような気がした。
勉強は苦ではない。こういう衝動に支配されたときは、目の前の課題に集中すればいい。そうすれば数日で衝動は消え去り、いつもの私に戻れる。
いつもの私に戻れる。
いつもの、私に、戻れる…
いつもの、私に、戻って、それから、また、今のように死にたくなる日が来る。
その夜、初めて私は勉強をしなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
高校最後の文化祭が終わる。
今回は2日ともクラスの男子たちと文化祭をまわった。
8人くらいの集団でバカ騒ぎしながらまわるのは他の生徒からしたら迷惑だっただろうが、当の本人たちは楽しんでいた。こういう集団は外から見れば不快で、内から見ればイケてるグループのように感じる。
そんな自己中的な視点と客観的な視点が混ざり合い、楽しかったはずなのに心のどこかで何してんだろうという気持ちがよぎる。
もうすぐ文化祭の閉会式が行われるため、生徒たちは体育館へ向かっている。なんとなく気分の優れない俺はグラウンド脇の階段に腰を下ろしていた。
「キークーチー君!」
ぼんやりしていると校門のほうから綺麗に染まった金色でショートヘアーの女の子に声を掛けられる。
肩とかがフリフリしているプリティな見た目の服を身に纏っている。
「閉会式、サボったの?」
急に知らない女の子から話しかけられ、戸惑いながら言葉を返す。
「えっと、どちら様?...クルスか?」
顔をまじまじと見てみると、見知った顔に似ていることに気付いた。
「せいかーい!もっと早く気付いてほしかったな」
女の子の正体はクルス アキラだった。近くで顔を見たのと声を聞いてギリギリ気付くことができた。
「無茶言うな。学校サボってイメチェンとか想定できねえよ」
「それよりどお?可愛い?」
普段から頭悪そうな喋り方をする彼女ではあるが、今日は一段と頭の悪そうな喋り方をしている。
「何でこのタイミングでグレてんだよ?」
そんな俺の問いに、彼女はフフッと愉快な声で、それでいてどこか奇怪な声音で言葉を返す。
「こんなタイミングだからこそだよ。受験シーズンに非行に走るってあるあるじゃない?」
それは確かにそうかもしれない。しかし、よりにもよってクルスがそうなるとは意外だった。
「こんな子供みたいなマネするなんて意外だな」
「幼少期が大人びてたからこその反動ってやつだよ」
「ほーん。そんなもんか。学年1位が急に髪染めて登校してきたら先生たち泣くぞ?」
「いいねぇ。泣かしてみたいかも。でもうちって髪染めるのOKじゃん」
ついさっき染めてきたのであろう金色の髪をつまみながら彼女は楽しそうに喋っている。
「ナガさんが染めてるのとクルスが染めてるのとでは違うんだよ」
「むー、差別だー」
頬を膨らませながら彼女は答える。
今日はえらく表情が豊かだ。感情豊かで、年相応で、可愛らしい。そんな女子として、高校生として、模範解答を演じているように見えて仕方がない。いつもの少し変わった性格の天才とはまた違う。感情豊かなのに、心はここにないみたいに見えた。
「で、わざわざ学校サボってグレてたのに、何でこんな時間に学校来たの?」
呆れながら、心配しながら、慎重に、大胆に俺は彼女と言葉を交わす。
「キクチ君に会いに来た!」
何言ってんのこの娘?勉強のし過ぎでとうとうおかしくなったか。
「キクチ君!私とお付き合いしてください!」
「…は?」
まさかの告白の文言が耳から脳に入り、一拍置いてから間抜けな声が喉から漏れた。
間抜けな声を漏らしてから5秒ほどフリーズし、その間に彼女の目論見を推測する。きっと彼女は非行に付き合ってもらう相手を求め、光栄なことに俺を選んだらしい。
「いきなり何言ってんだよ。悪いがお断りだ」
ニコニコと笑いながらも、目には何も映していないような彼女に、俺は淡白な口調でそう答えた。これは告白などではない。きっとこれは彼女にとっての儀式だ。無理やり順路を変えるための、儀式の1つなのだ。
「振るにしてももうちょっと優しい振り方があると思うんだけど」
振られた彼女はあっけらかんとそう答える。
「別に俺のことが好きなわけじゃないってわかってんだよ」
「ひどいなー。一応ほんとに好きだったんだけど」
一応ってなんやねん。
「そっかー。残念。あ、彼女がダメなら体だけの関係ってのでもいいよ」
「本当に何言ってんのお前。嫌だよ。いい加減キレそうなんだけど」
「ごめんって。まあ、話はそれだけ。予想通りキクチ君はダメだったし、今日のところは帰るよ」
クルスの口調は明るく淡々としていて、どこかが狂っていた。明らかに様子がおかしい彼女は、このまま帰ってどうするのだろうか。
おそらく休み明けには普通に学校に来るのだろう。その金髪の姿で飄々と。放っておいても多分大丈夫だ。大丈夫ではあるだろう。だが、もしも彼女が先を見えなくなっているのなら。目を閉じてしまいたくて仕方がないのなら。
「待て」
彼女を引き止める。微かにしか力にはなれなくとも、微かでも力になれるのであれば、俺は。
「何?」
クルっと振り返り、無機質な音でクルスは返事をする。
「お前と恋人になるのはごめんだけど、話くらいは聞いてやる。飯でも食いに行くぞ」
「…」
クルスはキョトンとした顔で黙りこくっていた。その表情から感情は読めない。
「なんだよ?」
じーっと俺を見つめるクルスに問いかける。
「いや、急に優しい対応されたから。…本当に惚れそうだった」
「やっぱりさっきの告白は嘘だったんじゃねえか」
少しだけ、彼女の声音はどこか狂ったものから、いつものおどけたものへと戻ったような気がした。
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「…えぐ。えぐいてー。普通の男子高校生がかっこいいアドバイスできる内容じゃないってー」
そのまま学校を出て、適当な店へと入った俺たちは、席について飲み物を注文をするなり話に入った。
そして、彼女の口からクルス アキラの歩んできた道と、歩む予定だった道を聞いた。
「全部曝け出したのに、すごい情けない答えが返ってきた」
彼女は呆れた顔でこっちを見ている。
いや、だって無理だろ。なんだよ大学生になっても母親に縛られ続けるって。そんなの普通に耐えられるわけがない。これまでの彼女の生活サイクルも、少なくとも俺には真似できない。もちろん、世の中には彼女のように、もしかしたら彼女以上に勉強漬けの人生を送っている人もいるだろう。そんな生活に耐えられるかは、または楽しく生きられるかは、個人差や家族との関係性なども大きく関わるだろう。結果的にクルスは今の状態になったのだから、彼女を取り巻く環境が、彼女には適していなかったのは明らかだ。
「まあ、あとちょっとで親からの異常な束縛から抜け出せるって思ってた時に、理不尽に延長されたらそりゃ心折れるわ。むしろよくその程度で済んだな。髪色真っ赤にしてリーゼントとかにしててもおかしくないレベルだぞ」
「フォローの仕方がおかしい…」
さらに呆れた顔で彼女は呟く。
適していない環境の中で昨日までの彼女が正常であれたのは、優秀であったことが原因の1つなのだろう。最初から優秀な結果を残し、さらに時間を割けばその分だけ結果が返ってくる。優秀過ぎるが故、彼女は成功し過ぎた。成功している人間に、正常な人間に、他者も自分自身でさえも変化を求めることはない。彼女は変化するきっかけがなかった。傍から見れば一般的とは少し異なる環境も、彼女からすれば幼少期から変わらないもので、変化のきっかけには弱すぎたのだ。
積もり、積もって、最後は母親が大学生になってもついてくるというきっかけで、崩壊した。
母親から束縛された勉強ばかりの生活に嫌気がさした反抗期の女の子。そんな一文で片付けられてしまうこの状況を、そんな一文で片付けてしまいたくはないという感情が沸き立つ。
「で、これからどうするんだ?」
「わかんない。ただ今のままじゃ生きたまま殺されると思った」
抑揚のない淡白な声で彼女は答えた。
「そうだな。話し合いって言いたいところだけど、聞いた限り冷静に話し合えるかどうか」
「うん。難しいと思う。はぁ、このまま家出しようかな」
普段どこか達観したような彼女が、反抗期の子が言いそうなことを言ってなぜか少し安心した。
「それもいいけど、ちゃんと母親に気持ちを全部話すべきだよ。まだ話してないんでしょ?」
「話しても無駄な気がして」
「だからこそ話すべきだよ。もやもやしたまま家出するのと、もうこの親はダメだと見限って家出するのとでは、後者のほうがスッキリするだろ?」
俺は半分冗談、半分本気でそう意見する。
リホとの関係もスッキリした気持ちで終わらせたかったから、リホから言い出さなくても、別れ話の前に喧嘩の謝罪はするつもりだった。現状で本当にスッキリした気持ちになっているのかという疑問は一旦置いておく。
「なにそれ。でも、まあ、確かに私はスッキリしたいのかもしれない」
呆れたように笑い、伸びをしながら彼女はそう答えた。
「問題は冷静に話し合う方法だな。やっぱりその場に第三者がいたほうがいいよな」
「そうなると候補は教師かな」
「だな。でも、教師だと親側の意見を尊重しようとする可能性がある。それだとクルスの悩みが解決できない」
「じゃあ、キクチ君が同席してくれたりは…めっちゃ嫌そうな顔するじゃん」
しまった。顔に出てしまった。だって嫌だろう。同級生の親子問題の間に入るとか。
「教師は公平に判断してくれる人か、生徒側に立ってくれそうな人を選ぶか。あとは標準の高校生の意見を言える人間もいたほうがいいか」
"普通"なんて曖昧で偏った言葉はあまり好きではないが、それでも世間的に多数という意味の"普通"の高校生がいたほうが、クルスの家庭環境は少し過剰だという意見を通しやすくはなる。クルス母の人物像を聞く限り、他所は他所という意見で押し切られそうな気もするが。それでも今のクルスを1人で立ち向かわせるよりはいいだろう。
「…俺も同席するよ」
悩んだ末、俺もがっつり関わることにした。自分から相談に乗ったんだ。そのくらい協力しよう。
「ありがとう。思ってたよりもずっと頼りになる」
それは全然頼りにならないと思ってたけど、それよりかはって話じゃないですよね。まあ、感謝の言葉は素直に受け取ろう。
「あ、髪はそのままにしとけよ」
「なんで?」
「そっちのほうが緊急事態なんだって教師たちもわかるだろ」
「なるほど」
「あと、今の髪のほうが似合ってると俺は思うよ」
彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、表情を崩して言った。
「なにそれ」
笑いながらそう言う彼女は、学校のグラウンドで感じたどこかが狂ったような声ではなくなっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
文化祭も終わり、祭りの片付けのために教師陣も総出で学校中のあちらこちらに散らばり、生徒と協力して片付けを進める。
と言いたいところではあるが、教師の役目は2日間の休みを挟んでも未だに文化祭気分が抜けない生徒たちへの注意だ。
教師という立場になってしまえばちっとも楽しくない片付けという作業も、青春を謳歌する高校生たちからすれば立派な楽しいイベントである。そんな楽しむこと優先で効率悪く片付けする生徒たちを注意する教師も大変なものである。
注意をしようものなら、テレビやSNSに腐るほどいる理論的に言い負かせれば正義とでも言わんばかりの有名人たちの真似をして、クソ生意気な屁理屈を展開する生徒の反撃が始まる。
彼らを相手してはいけない。なぜなら彼らは大人たちとの口論を楽しみたいのである。早く精神的に安心したい彼らは、悲しくも大人たちを言い負かすことでその欲を満たそうとする。
昔々の時代であればドカンと殴って終いだったろうが、このご時世ではそうも言えない。そう考えると今の教師の役目とは、理論武装が得意な賢い人間に育てるのではなく、相手の気持ちを考えて行動するという幼い頃に言い聞かせられるようなことがきちんとできる人間になるように育てることなのかもしれない。
毎年そんなことを考え、わざわざ生徒なんて注意したくないなーと思いながらのこの憂鬱なイベントも、今年は気楽に過ごせていた。優秀たる生徒会を中心としたメンバーたちが、片付けの指示も、面倒な生徒たちへの注意も率先してやってくれた。
彼らの何が凄いかと言えば、空気作りである。日本人という民族は周りの目を異常に気にする。空気を読むのなんて当たり前で、そのうえで細心の注意を払いながら発言や行動をしなければならない。それは学生でも同じである。いや、学生たちのほうがよりシビアな世界かもしれない。そんな誰が決めたわけでもない暗黙の了解である"空気には絶対服従"という習性を、知ってか知らずか生徒会一行は利用した。片付けを明るく積極的に協力し合ってテキパキとやる。そんな口で言うだけなら簡単そうな空気を、彼らは作り上げた。
お陰様で今も片付けは滞りなく進み、学校中に散らばっていた教師たちもちらほらと職員室に戻ってきていた。そして、最も早くに職員室へ戻った私は、授業で使用する資料の作成へと着手する。
「イワダ先生に用があって来ました。入ってもいいですか?」
男子生徒の声がし、入口のほうを見るとキクチ マサムネが立っていた。そして、その隣には今日の朝から話題のクルス アキラの姿も見えた。
「どうぞ」
私は野太い声でそう返す。去年まで私のクラスの生徒だったキクチは遠慮ない足取りで職員室を歩く。職員室というのは、大半の生徒からすれば居心地の悪いものだと思うが、そんなことを気にする素振りは微塵もない。
「こりゃまた綺麗に染めたな~」
私は一緒に入ってきたクルスに声を掛ける。私への用とは十中八九彼女のことだ。気楽な雰囲気で会話を始めなければ生徒は心を開いてはくれない。
「でしょー!やっぱイワっちは見る目あるなー」
相も変わらず超優秀な成績を誇る生徒とは思えない口調でクルスは答える。
「それで、何の用だ?」
クルス絡みであることは間違えないだろうが、彼らは私に何を求めているのか。
「プライベートな内容も含むので、場所を変えましょう」
1年生の頃は可愛らしい少年という印象だったキクチはすっかりと大人びてしまったようで、しっかりとした態度で私にそう言った。
「じゃあ、隣の相談室で。鍵取ってくるから、先に行ってろ」
彼らは職員室を抜け、隣の教室へと向かう。私も腰を上げ、鍵を取ってふと空を見上げた。
程よく雲が散りばめられた秋空は綺麗なもので、散歩でもしたくなってくる。
秋、進路相談をはじめとして多くの事で相談室は利用される。教師になって15年。15周年だからといって誰も祝ってはくれないが、生徒から頼りにされるというのはどこか嬉しい。
私はクルスが1年生のときの担任だった。キクチが2年生のときの担任でもある。だが今年は1年生の担当になってしまったため、彼らとは接点がなくなっていた。そんな中で私を相談相手に選んだのには、私に求めている役割があるということだ。
大人から見ればただの反抗期、ただの進路相談に過ぎないのかもしれない。しかし、それが人生の分岐点とすら呼べるものになるときだってあるのだ。
私のモットーは平等である。平等とは何か。
私はキクチにも、クルスにも、他の生徒にも特別扱いをする。同僚にも、家族にも特別扱いをする。私にとって平等とは、全ての相手に対して特別扱いをすることだ。全ての人に異なる考え方、身体的特徴、過去、今、未来が存在する。だからこそ全ての人に同じ態度で接し、同じ言葉を掛けることは平等ではない。
私に求められている役割がそういう部分であるならば、私は信念に従って、彼らと集中して向き合わなければならない。
鼻から大きく空気を吸い込んで、ゆっくりと口から吐き出しながら、私は隣の相談室へと歩き始める。
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「話ってのは、この金髪反抗期優等生のことです」
「言い方悪いよ!イワっち、話っていうのはこのプリティイケイケ女子高生のことです」
開口一番、夫婦漫才のようなやり取りを見せられて、入れた気合が少し萎んでしまった。
「まあ、思ったよりも元気そうで何よりだ」
私は思ったことをそのまま伝え、本題に入る。
「それで、今回の問題点は何だ?」
「私の、母のことで。そして、進路のことで」
それから彼女はゆっくりと話し始めた。話し方はゆっくりであったが、流石というべきか要点がまとめられていて、彼女の現状を取り巻く環境を把握するのに大した時間は掛からなかった。
「だから、私、現状を大きく変えようと思うんです。母がどういう答えを持っていたとしても、現状維持という結果にだけはしたくありません」
「話し合いをする意志はあるのか?」
彼女のこれまでの話が終わり、これからの話に移る。
「あります。ちゃんと全部伝えます。そのうえで母が変化を拒むのであれば、私はどんな手を使ってでも親元を離れます」
どんな手を使ってでも、これは単に1人暮らしを始めるとかそういう話ではない。学校をやめてでも、浮浪者になってでも、そういう意味合いが含まれていることは、彼女の口調から感じ取れた。
「そうか。わかった。話し合いの場は設けよう」
「ありがとうございます」
ある意味で、予定通り話し合いの場が設けられることが決まる。
「キクチ、お前はどうする?」
私たちが話している間、生意気にも私が今回の件に相応しいかを見極めるような目でこちらを見ていた彼に話しかける。
「話し合いには同席しようと思います」
「部外者なのにか?」
「部外者だからです。部外者で、かつ生意気な年頃の高校生だからこそ、先生にもクルスにも言えないことを言える」
彼は自分がどういう役割の駒になるのか、既に決めているようだ。
「つまりお前が口を開くときは、話し合いが破綻したときだな」
先生、胃が痛くなってきたよ。でもまあ、本音を言い合う場では彼の役割も良い起爆剤になるかもしれない。もちろん起爆しないに越したことはないが。
「一応、先に言っておく。私は君たちの味方ではない。クルスのお母さんの味方でもない」
「わかっています」
クルスが真っすぐな目でそう答える。
「中立な立場というわけでもない」
「違うんだ!」
クルスの真っすぐな目は困惑に変わり、オーバー気味のリアクションを取る。
「私は、君たち親子の関係をどうこうしようとは思わない。仮に思っていたとしても私にできることはない。私にできることは君たち親子を配慮し、尊重することだけだ」
はっきりと自身の考えを伝える。私は38年間生きてきた大人だし、子供の先を生きる先生をしてきた人間だ。だが、いつだって未来を決めるのは当人たちだ。先ほどキクチに部外者と言ったが、私だって部外者なのである。そんな私にできることは、当人たちの考えを理解することに努め、それでも理解できたなどと驕らず、そのうえで当人たちの意志を尊重することだ。
もちろん今回の件は、その当人たちの意志が反発し合うのだろう。そんな状況で全員の意志を尊重すれば、私は傍から見れば八方美人に見えるかもしれない。それでも私は、クルスのことも、クルスの母親のことも、尊重する。それで2人が心から納得し合える未来を描けたのならばそれが一番であるし、描けなかったのなら2人の関係は決裂してよいと本当に思う。
こんな考えを持っている私はきっと、この時代を生きる教師には向いていない。それでも、だからこそ、彼らは私を選んだのだと思うから。
「良い話し合いにしようなんて言わない。まともな話し合いにすることもできないかもしれない。それでもクルスの気持ちをしっかりと伝えられる場にしよう」
話し合いの一番の目的を明確にし、この相談室での話は終わりとなる。
「先生、よろしくお願いします」
そう言ったのはクルスではなく、キクチだった。彼はもう私を測るような目を向けておらず、薄く微笑んでいた。どうやら彼の身勝手な審査には合格したらしい。
「イワっち、ありがとね!母がいつ来れそうか聞いとくよ。あの人暇だから、たぶん今週中には来るよ」
重たい話し合いの空気から一転、彼女の軽やかな話し方でこの場は締められる。
2人の生徒は相談室から去っていった。その後姿を見て思う。彼らの未来の姿を。
この資本主義社会で、効率が重視される社会で、便利を生み出すための過重労働がまかり通る生産主義社会で、愛だとか思いやりだとかを持ったまま生きていけるのだろうか。
親ガチャなんて言葉をよく目にする時代で、1人の人間である親という存在と向き合っていけるのだろうか。
無意識に自分に見合うかを秤にかけて、恋人も友人も選んでしまうこの人々の中で。
彼らは、私たちは、人の心と向き合っていけるのだろうか。
目を開けて、向き合っていけるのだろうか。




