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5_前進

空は暗くなったのに学校には大勢の生徒が残っていた。

彼ら彼女らは明日の祭りに向けて、熱意を持って作業に取り組んでいた。

去年までは自分も文化祭実行委員として活動に精を出していたが、今年に関しては大きな仕事はなかった。それは俺がこの高校生活で最も関わってきた人物が、俺の元を離れていったことが原因だ。そのことに僅かな寂しさを感じながら、明々と電気の通った校舎を歩く。


最近恒例となっていた図書室での勉強会が今日は中止となった。というのも文化祭前日のため、図書室も文芸部による会場設営で利用不可となったからだ。放課後の居場所を失ったコウとアイは早々に帰っていき、俺は教室で自習としていたら日が沈んでいた。マサムネとリホについても早々に帰ったのだが、この2人については先日までと状況が大いに異なっている。


丁度2年ほど前に付き合い始めた彼らが別れた。これを聞いたときは驚きが何よりも勝った。確かに前ほど恋愛しているという雰囲気ではなくなっていたが、仲は良好に見えていた。ある程度長く交際していたからこそ、恋愛の盛り上がりは姿を隠し、落ち着いた愛情へと変化したのだと解釈していた。しかし、その解釈は間違っていたようだ。部外者である俺の見えないところで、少しずつ2人の関係は芳しくない方向へと傾いていったのだと知った。


唯一、コウだけは2人の破局に驚くことなく、いつも通りの調子で過ごしていた。きっと彼には見えていたのだろう。2人の関係性の微弱な変化が。


アイはというと憤慨していた。大切な親友を傷つけたマサムネのことを許せない様子だった。マサムネとリホ、2人の問題であるから俺たちに口出しできる筋はないのだが、アイのあの怒りも、リホの様子を見れば無理はないように思えた。リホは目を真っ赤に腫らして、口角は下がり、目は焦点が合っていない様子だった。

いつもの彼女なら、辛くとも無理してぎこちない笑顔を作るのだが、それをする余裕もないようだった。その異常事態を察したアイはずっとリホに寄り添っていたが、俺は彼女を元気づける言葉など掛けることはできなかった。

いや、仮に俺がどんなに素晴らしい言葉をかけたところで、彼女の心を楽にしてあげることはできないだろう。リホのことはアイに任せて、俺はマサムネのところへと向かった。


「リホと別れたって聞いた」

単刀直入に俺はそう切り出した。ちなみに、俺にマサムネを責める気持ちはない。もちろん肯定する気持ちもない。ただ言葉を交わすことを怠ってはいけないと思った。俺自身にこうなってしまった状況を変えられるなどと傲慢なことは決して思わない。過去の自分なら兎も角、今の俺は弁えられるようになったつもりなのだ。


「うん。別れた。俺が別れたほうがいいって思って、別れようって言った」

マサムネは臆することなく、まっすぐと俺のほうを見て答えた。その姿に少し安心してしまう。彼はきっと、しっかりと考えたうえで答えを出したのだ。


「理由を聞いても?」

「上手く説明できない。だから悪い。理由は言わない」

言いたくないではなく、上手く説明できないと彼は言った。ならば、今の彼から話を聞き出すことはできないし、するべきでもない。

「そっか。わかった。もしマサムネの中でまとまったら聞かせてくれ。もちろん無理にとは言わないけど」

「ん」

彼は短く返事する。

そのタイミングで予鈴が鳴った。俺たちは言葉を交わすことはなく、手を軽く挙げてその場を去った。


そんな彼との短いやり取りを思い返しながら校舎を進んでいると見慣れた集団が見えた。そこには我が校が誇る生徒会長がテキパキと指示を出し、文化祭の準備を進める姿があった。

そんな光景を見ていると、あちらも俺の姿に気づいたらしく手を振ってくる。俺は大きく手を振り返し、再び下駄箱へと歩みを始めた。彼女らに声を掛けてもいいのだが、一生懸命に働いているのを邪魔するのも気が引けて、そのまま帰ることを選んだ。


実を言うと文化祭の準備が本格的に始まる前に、俺も生徒会と文化祭実行委員の手伝いをすると立候補はしたのだ。しかし、生徒会長によって却下されてしまった。俺の力に頼らずやり遂げたいとのことだった。


なので、ここ最近の俺はほんの少しの寂しさを感じながら勉学に励んでいたのだ。唯一、明日の朝はどうしても力仕事の数が欲しいとのことで協力を要請されたが、その他の仕事は本当に俺を頼る気はないらしい。


下駄箱を抜け、校門まで辿り着く。ふと空を見上げると、綺麗な満月が浮かんでいる。夏に虫の音を聞きながら歩く夜道も魅力的ではあるけれど、冬が近づくに合わせて空気が澄み、より一層明るく輝くようになった月と星がくっきりと見えるこの季節も捨て難い。


明日は最後の文化祭。高校生活最後の祭り。これが終わればイベント事は受験と卒業式くらいか。その2つだと祭りと呼ぶには少し楽しさ成分に欠ける。


目一杯楽しもうと尽くした高校生活だったけど、もう一つくらいは楽しい祭りをしたいものだ。といっても無いものは無いので、明日からの文化祭に全力で楽しもうと、そう意気込んで歩みを進めた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それでは第50回皆瀬川高校文化祭を開催します!」

とても小さな体でとーっても可愛らしい見た目をした生徒会長がスラスラと文化祭の注意事項を説明した後、文化祭の開催が宣言される。その宣言と同時に体育館には歓声が起き、ステージにはタキシード姿の生徒たちが登場してダンスを踊り始める。

そのダンスをぼーっと眺める。

気づいたころにはダンスは終わり、今は男子生徒2人がステージで漫才をしている。


「どうも、ありがとうございました!」

漫才をしていることに気づくと同時に終わりの挨拶がされ、次のステージ発表者が登場する。


「リホ。リホ…?リホちゃーん?リホ!」

「わっ。どうしたの急におっきい声出して?」

アイが急におっきい声で名前を呼んできてびっくりする。周りの人たちはステージ発表を見てるんだから、あんまり大きな声を出すと迷惑だと思うんだけど。


「さっきから何度も名前呼んでたんだけどー?上の空で全然気づいてくれないし」

ジト目になった彼女にそんなことを言われた。どうやら大きな声を出したのは私が原因だったらしい。


「ご、ごめん。ぼーっとしてた」

「はぁ。ここ数日ずっとそんな感じだねー。あんな薄情者のことさっさと忘れて私と遊ぼうよ」

薄情者というのが誰を指すのかはわかっている。彼のことをそんな風に言った彼女に内心ムッとしてしまう。でも、彼女なりに私のことを想って言ってくれたことだともわかっているので気持ちがこんがらがる。


「そろそろセイヤのシフト終わる時間だから合流しよ?」

「わ、本当だ」

今日の文化祭はアイとシラクボ君との3人でまわる。もともとは2人で回る予定だったところに私が割り込んだ形だ。完全にお邪魔虫な私だが、アイとシラクボ君が話し合ってそう決めたっぽい。めちゃくちゃ気を遣わせているようで申し訳ない。


「ごめんね。デートの邪魔をしちゃって」

「ほんとだよー。去年に引き続き文化祭デートできるはずだったのにー。まあ、リホが精一杯私のことを立ててくれればいいよ」

そんな返事をされる。

去年は文化祭デートをして、なんなら日ごろから休日も2人きりで遊びに行ってる彼女たちだが、恋人という関係ではない。定期的にアイが告白大作戦を決行しては見事な敗北を積み重ねている。最近は告白に関してもだんだんネタっぽくなってきた。1か月程前にミュージカル形式で告白していたのを見たときは流石にこの子の精神状態を心配してしまった。そして、アイの告白がネタに走るのに比例してシラクボ君の返事も雑になっている。


「シラクボ君も観念して付き合っちゃえばいいのにね」

「観念って…言い方ぁ…。まあ、ぶっちゃけ付き合ってなくても一緒に遊びに行ったりとか頻繁にしてるし、もうこれでよくね?と思い始めている私もいる」

「アイがそれでいいならいいけど。でも今の関係じゃキスとかハグとかそういうことできないよ?」

「あぁー、それはしたいー。ギューッとされた後に唇を奪われたいー。なんなら私が唇を奪いたいー。そしてそのままイチャイチャしてぇー!」

彼女に現実を突きつけた結果、欲望を吐き出し始めた。少し目が血走っていて怖いんですけど。学校一の美少女と呼ばれる彼女は恋人に飢えた悲しき獣へと変わり果ててしまったらしい。


そんな軽口を交わしているうちにシラクボ君のもとへ辿り着く。


「じゃあ、どこからまわろうか?」

目をキラキラさせている彼がそう口にする。この人はアイと同じで文化祭などの楽しいイベントが大好きなのだ。真面目にしないといけない場面ではしっかりとしていて、楽しむべき場面では全力で楽しもうとするのが彼だった。


背が高くて運動神経もよくて勉強もできて優しい性格。そりゃアイがぞっこんになるわけだ。おまけに顔のほうもなかなかハンサムである。ただ、顔に関してはびっくりするほど私の好みではなかった。まあ、私の好みなんてどうでもいいのだが。


彼をまじまじと観察しているうちに最初の行き先が決まったらしい。2人が校舎のほうへ歩き出したのでそれに付いて行く。

ふと思い出す。思い出したのは去年マー君と2人でまわった文化祭の記憶ではなく、その前年の5人でまわった文化祭であった。

今日は私との関係が終わったマー君の姿は当然なく、アサガオ君については彼女とまわると言っていた。

なぜだがあの頃が無性に恋しくなり、寂しさで胸が締め付けられる。


振られたあの日は全てを失ったような感覚だった。だけど、別に友達も家族も変わらずいるわけで、マー君がいなくなっても私の中には意外とたくさんのものが残っていた。


それでも思う。


やっぱり君にいてほしい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


私の名前はシラヌイ コトリ。

この学校の生徒会長を務める女子生徒だ。

そして生徒会活動も最後のビッグイベントを残すのみとなった。そのビッグイベントとは文化祭である。


毎年何かしらの事件が起きるのが我が校の伝統らしく、例にもれず今年の文化祭も準備からトラブル続きであった。1年生と2年生の作業スペース奪い合い戦争から始まり、買い出しのため集団で街をうろつく学生に対して近隣住民からの苦情、キャンプファイヤーの実施を拒む教師陣とそれに対抗するOB会の皆様、終いには文化祭実行委員の3割が感染症でダウン。そんな状況から何とか準備を完遂して文化祭が開幕した。


そして今の状況といえば、、、

「シラヌイさん、ステージ発表がかなり押してきてます。巻いていかないとスケジュール通り進みません!」

「シラヌイ先輩、受付の子が大量のパンフレットを水溜りにドボンしちゃって数が足りません。あと、パンフレット落としちゃった子がこの世の終わりみたいな顔になってます」

「生徒会長!1年B組で他校生がはしゃいで出し物を壊したことで喧嘩が起きてます!」

「コトリちゃん、中庭に椅子をもっと置きたいんだけど、実習室の椅子持って行っていいかな?」

「会長、好きです。俺と付き合ってください」

「コトリ!大変!ゲストのお笑いタレントが時間に間に合いそうにないって!どうしよう!?」

「シラヌイ コトリ、休憩所の数が足りていないように思う。グラウンド脇のスペースを使っても問題ないだろうか?」

「シラヌイ会長、ステージの音響の調子が悪いです。どのタイミングでメンテナンスを入れますか?」

「コトちゃん!迷子の子を見つけたんだけど、どこに連れて行けばいい?」

と、こんな感じで大忙しだ。これら問題を一つ一つ解決しながら、目まぐるしく文化祭は進んでいく。ん?なんか間で告白されてなかったか?


最後の文化祭だなぁと感傷に浸る暇もなく働くこの時間に、疲労と充実感を感じながら私は前を向く。


「コトリ、お疲れさま。手伝いに来たよ」

そう声を掛けてきたのはセイヤ君だった。


「友達とまわるんじゃなかったの?セイヤ君がいなくても何とかなってるよ」

「お昼食べてないだろ?その間だけでも代わるよ」

彼の言う通り昼食をまだ取れていなかった。時刻は14時半になっている。


「…うーん。わかった。30分だけお願いする!」

「りょーかい」

「正直セイヤ君には頼りたくなかったんだけど…」

「なぜそんな悲しいことを言う…」

彼にはどうしても人手が必要になる文化祭開始のタイミングのみ手伝ってもらった。これまでの高校生活において彼に助けられっぱなしだった私は、彼に頼らずともやり遂げられるということを証明したかった。


「うー、未だに一人前にはなれないもんだなぁ」

いけない。つい弱音を漏らしてしまった。彼を前にすると、こういう弱音を吐いてしまう点も直したい部分だ。


「いや、十分一人前だろ。コトリが一人前じゃなかったら教師含めこの学校に一人前の人間なんていないよ」

彼は呆れた顔でそう言ってくる。その顔に嬉しいようなムカつくような感情が湧いてくる。


「じゃあ、私がお昼行ってる間はよろしくね。あ、さっきも校内放送でアナウンスした通り、ゲストの到着が遅れることでスケジュール組み直しといたからそこだけ注意してて」

注意するポイントを言って私はお昼へ向かおうとすると、彼は言った。


「コトリはもう何にもできない女の子じゃないよ。頼りにしてる」

その言葉を聞いて思わず口元が緩む。それがバレないようにそそくさと場を離れる。


頼りにしてる、彼の口からその言葉を聞けたことが、私の高校生活で最も誇れることだというのは疑いようもない。


昼食を取るために別棟へ向かう短い時間で、私は高校生活を思い返していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


シラヌイ コトリは可愛いだけの女の子だった。


弱弱しく、小さく、お人形さんのように可愛らしい外見。

そして、臆病な内面。


そんな彼女を男子たちは守ってあげたいと好意を向けた。

そんな彼女を女子たちは疎ましく思った。

そんな彼女に友達と呼べるような人間はいなかった。


教室の隅でずっと本を読んでいるような女の子。

そんな女の子が持って生まれたものは、多くのものが嫉妬するような可愛らしい顔だった。


話したことのない男子から告白されること多数。

話したことのない女子から罵声を浴びせられること多数。


そんな自分を変えたいと思い続けて早5年以上。

何もできないまま、何一つとしてやり遂げることのないまま、高校1年生になった。


高校デビューをしようと意気込んでいた入学初日、自己紹介で斜め下を見ながら聞こえるか聞こえないかくらいの声で名前と趣味が読書であることを発表。

温かい目で見守るクラスの人たち、不快そうにしている一部の女子生徒。

自分から誰かに話しかけることもできず、かといって話しかけられても返す言葉を考えすぎて黙り込んでしまう女の子。友達などできるはずもなく1学期が終わる。


家と図書館と家族旅行で行った沖縄以外には、どこにも行かないまま夏休みを終える。

夏休み最終日、明日から学校嫌だなーと思いながら図書館で本を読んでいた。

その時、彼と初めて会話をした。


「あれ?シラヌイさんじゃん。奇遇だね」

図書館の角っこの席で本に没頭してたところを急に話しかけられてパニックを起こす。

いつも通り言葉を発することはなく、かといって無視したみたいにならないようにブンブンとお辞儀をする。

読んでいた本をお守りのように両腕で抱え込んであたふたしていると彼は言った。

「お、その本読んでるんだ。俺もそれこの前買ったよ。まだ読めてないんだけど」

私が抱えていた本は、1週間前に発売されたばかりの私の大好きな作者さんの新刊だった。


「どのくらい読んだ?おもしろい?」

質問をされ、さらにパニックになった私は完全に下を向き、口をパクパクしていた。


「.........えと、、えっと、、、あの、、」

と、か細い声にもならない音を上げ、そのまま私は黙り込む。1人のときは話しかけられたときのシチュエーションをたくさんしているのに、いざ話しかけられると黙り込んでしまう。何を言えばいいかわからず、何を言うのが正解かを考えて、考えすぎて時間が経って、ここまで時間が経ってしまっては返事をするのもなんだか変だよねと開き直って、そしてそのまま相手が去っていくのを俯いて待つ。それが私の得意技だった。


そんな私の得意技を1分くらいしていたが、彼から何か言ってきたりはしなかった。大抵の人はなんかごめんねなどと言ってそのまま去ってしまうのに。

もしかしてもうどこかに行ってしまったのだろうか。なにせ私は下を向いているので彼の姿は見えていない。

それからさらに30秒くらい経っても物音一つしなかったので顔を上げてみる。

もうどこか行ってしまったのではと思っていた彼はまだ目の前にいた。優しい表情で私の言葉を待ってくれていた。


「...今、半分くらい、よ、読んだとこ。で、この作者さんにしては珍しくどどど、、、…怒涛の展開ばかりでおもしろいよ?」

たどたどしく、途中嚙みながら、それでも初めて自分の意見を人に言うことができた。


「そうなんだ。俺も早く読みたくなったなー。あ、お互いに読み終わったら感想聞かせて。俺の周り本読んでる人少なくてさ。感想とか言い合うの憧れる!」

「あ、えと、はい...」

流されるままに返事をして、彼との約束を作ってしまった。


「やった。それじゃ、また学校で!」

そう言って、彼は去っていった。これまで私に話しかけて去っていく人は、もう話しかけないようにしようという雰囲気を漂わせていた。当然だ。わざわざ話しかけたのに会話にならなかったのだから。だから初めてだった。私に話しかけて去っていく人で、また話そうとしてくれる人は。


その日は上機嫌で家まで帰った。スキップとかしちゃってたかもしれない。あ、私スキップできないんだった。

不思議な感覚だった。男の子に好意を向けられたことは多々あったが、彼からはそんな好意ではない何かを感じた。


次の日、学校に行くと早速彼は話しかけてきた。昨日のことは夢だったんじゃないかと疑っていた私の考えは、すぐに否定されたのであった。

そうして彼は私の初めての友達になった。


それから1か月くらい経って、ようやく彼に対しては普通に話せるようになった。

そして私は彼に恋慕を抱くようになっていた。私は私が思っているよりもちょろかった。


つり合わない。それは自覚していることだった。だから私の中だけで完結させる恋物語だった。

それでも急に仲良くなった私と彼が恋人だという噂が流れることもあった。正直なことを言ってしまえば、私はまんざらでもなかった。実は彼は私に惚れていて、そのうち告白してくるんじゃないかと期待してしまっていた。私はそう期待できるくらいに、心の奥底では自分が可愛い女の子だと自覚していたのだ。


そんな時、2人の男子生徒が話しているのを聞いた。

セイヤ君の親友のマサムネ君とコウ君だ。セイヤ君の話を聞く中で、その2人と特に仲がよいことは知っていた。


「最近セイヤのやつ、あの小っちゃくて可愛い子と仲良くない?」

マサムネ君の言ってる子が私だと気づいた。


「コトリちゃんのこと?そうだね。仲良しさんだね。マサムネもしかしてコトリちゃんのこと気になるの?」

「そんなんじゃないよ。ただ、セイヤがあの子のこと好きならナガさんが可哀想だなーって」

ナガさんというのが誰かはわからない。


「あー、そういうこと。それなら大丈夫だと思うよ」

「なんで?」

「だってコトリちゃんは可愛いところ以外、特に何もなさそうだし。まあ、普通は可愛いだけで十分好きになれるんだろうけど」

コウ君の言葉で胸がキュッとなった。可愛いところ以外、特に何もない。それは事実だった。私自身、その事実を理解していた。けれど、セイヤ君の身近な人が私をそう評しているという事実に、悔しさと恥ずかしさで涙が滲んだ。


「あー、そういうこと。それなら納得した。セイヤって可愛いだけの女の子が一番嫌いだもんね」

「まあ、中学でのことがあったからなー」

その言葉を聞いて絶句する。セイヤ君のことを深く理解しているであろう2人が言った。

『可愛いだけの女の子が一番嫌いだもんね』

これほど私に刺さる言葉は他にない。私が何よりも気にしていて、何よりも向き合うことを拒んでいたコンプレックスだ。


彼は可愛いだけの女の子が一番嫌いで、私は可愛いだけの女の子。

つまり、彼が私を特別な間柄に選んでくれることはない。

でも、これで諦めることができた。5歳で本の登場人物にした初恋以来の、私の恋は終わりを告げた。


はずだった。

我ながら絶対に諦めると思っていた。内心私のことを嫌ってるかもしれない彼とはこのまま少しずつ距離をとって、それでまた独りぼっちに戻るはずだった。


前々から変わりたいと思っていたこと。彼とつり合うような人間になりたいと思ったこと。その2つが重なったことで、私はようやく歩き出すことができた。


「私のこと、実は嫌いだったりする?」

直接彼に聞いた。返答次第では今後気まずくなったりするかもしれない質問。でも決意を固めた私は勇気に満ち溢れて…うそ、すごい声震えながら質問したのでした。


「一言じゃ言えないけど、嫌いなところは確かにあるよ」

そう答えられた。彼の顔はいつもの優しい顔じゃなくて、かといって悪意を含んでいる様子もなかった。私の質問に真剣に、誠実に向き合おうとする顔だった。


「そっか。その…どういうところが嫌い?」

私は聞いた。自分で聞いておいてなんだが、具体的に嫌いなところを言われたら泣いちゃうかもしれない。


「…被害者面してるところ。私は何も悪くないのに不幸ですっていう態度がとても嫌い」

その言葉を聞いて私は中学でのことを思い出した。


『たまたま可愛い顔で生まれてきたよかったね。その顔面がなかったら今頃みんなアンタのこと大っ嫌いだったのにね』

気の強い女子生徒。その子の好きな男の子が私に惚れていたから、私を攻撃してきたというありふれたお話。

この悪意に満ちた言葉を聞いたとき、私は確かに思った。私だって可愛い顔で生まれたかったんじゃない。こんなことに巻き込まれるなら可愛い顔なんていらなかった。

きっとそういう性根。そういう私の被害者面した性根の部分が、彼は嫌いなのだと理解できた。


可愛い顔なんていらなかった。ずっとそう思ってきた。でも本当は違う。目を向けるポイントは他にあった。本当は、ずっと前から気づいていた。


何もしなかった私も悪かったんだ。

告白されたときは、返事もすることなく、ずっと俯いていた。

罵声を浴びせられたときは、言い返すことも謝ることもせず、ずっと俯いていた。


俯いているのは楽だった。何もせずにみんなが私を諦めてくれるから。

俯いているのは楽だった。私自身が悪者のようには見えなくなるから。

俯いているのは、、、息苦しかった。


だから、もう俯かない。小さなこと。でも、俯くというのは私にとっては当たり前のこと。私の中で当たり前になっているこの悪癖をぶっ壊そうと決めた。


顔を上げる。目を開ける。彼の顔を見る。私の嫌いなところを正面から言ってくれた彼に、私は俯くことなく真っすぐに目を合わせた。


「セイヤ君、お願いがあるの。私、変わりたい。可愛いだけの自分をぶっ壊したい!」

そう言った私に対して彼は、今まで見たことのないくらい嬉しそうな笑みを浮かべた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「文化祭実行委員を男女1人ずつ選出しないといけないんですけど、誰かやりたい人います?」

気だるげに発言した学級委員長の手元には、手作りのくじ引きがあった。どうせ立候補者は出ないと踏んで、事前に用意していたのだろう。そんな学級委員長の予想に反して、教室には1つの手が挙げられていた。


手が挙げられたのは丁度クラスのど真ん中の席。後列の席の皆さんと、正面に立つ学級委員長の目が大きく開かれる。そんな学級委員長の反応に疑問を持った前列の席の皆さんが一斉に振り返る。クラス中の注目を一斉に浴びて、吐き気を催し、挙げていた手を下ろしたくなる衝動を必死で抑えながら、私は手を挙げ続ける。私は文化祭実行委員に立候補しますと声を上げるべきなのだろうが、喉まで声を引き上げることができずに固まっていた。


通常なら学級委員長が、シラヌイさんが立候補するということでいいですか?とか聞いてくると思うのだけど、学級委員長も予想外の人物が立候補したことにより固まってしまっている。そんな10秒くらいのクラスの静寂を破ったのはセイヤ君だった。


「コトリが実行委員やるの?」

私のほうに体を向けて、遠くの席からそう投げかけてきた。


「ウンッ!」

何か答えないといけないと焦った私は、その場に相応しくない大きな裏返った声で返事をした。家に帰ったら思い出して、ベットで悶えることになるそんな私の返事に彼は『じゃあ、俺も立候補しまーす』と明るい声で言った。


私が原因のクラスの緊張感は、彼の陽気な雰囲気で緩和され、私はようやく呼吸ができた。


「コトリちゃんが実行委員やるなら、俺が立候補するー!」

そう冗談とわかる声のトーンで言ったのはコウ君だ。


「そんな下心で実行委員は務まらないよ。ナガタもそう思うよな?」

セイヤ君がコウ君に言い返し、学級委員長であるナガタ君に同調を求める。


「あー、そうだな。じゃ、文化祭実行委員はシラヌイさんとシラクボで決まりで」

緊張の解かれた学級委員長は、再び気だるげな口調に戻って、文化祭実行委員の決定を発言した。


「えー。セイヤだってコトリちゃんが立候補してから、俺もやるーって言い始めたのに。俺との扱いの差が酷い」

コウ君の冗談交じりの発言に、クラスからはクスクスと笑い声が上がり、雰囲気は明るくなる。


「それじゃ、残りの進行は文化祭実行委員であるシラクボお願いなー」

学級委員長の発言により、セイヤ君が教卓へと出てくる。私も出たほうがいいのかなと迷う前に、お前もだよとセイヤ君がアイコンタクトをしてくる。


教卓の前に立った私は心臓をバクバクさせながらクラスの皆の顔を見る。彼ら彼女らは微笑んでいて、これからの文化祭の話し合いに対するモチベーションが少しだけ高まっているように見えた。そうして少し安心した矢先、視界の隅にある女子生徒の顔を捉えた。彼女は面白くなさそうな表情で私を見ている。今度は心臓がキュッとなり、冷や汗が出たのがわかった。


私は逃げるように板書のほうを向き、チョークを探す。無意識の内に記録係になろうと体が動いていた。そんな私の行動を見透かしていたセイヤ君は、大きな体で私の進行を阻んだ。彼と目が合い、私は数日前に彼と交わした言葉を思い出した。


「文化祭の実行委員やろっか」

そんな無茶な発言を彼は私に投げかけた。


「ムリムリムリムリ!いきなりハードル高いって!」

そんな弱気な発言を強気でする私に彼は言う。


「それでいいの?」

その一言は私に効果絶大で、私は一度深呼吸をして、もう一度深呼吸をして、さらにもう一度深呼吸をした。


「…やります。変わりたいって私が言い出しました。ごめんなさい。やります」

半べそかきながら私はそう言い返し、彼の目を見た。


「でも、なんで文化祭実行委員?」

「強制的に人と関われるから。人と話すのは苦手だけど、仕事なら普通にコミュニケーション取れるっていう人は多い。コトリにはまずそこから経験してほしい」

「なるほど」

わかってはいたが、彼はちゃんと私のことを考えてくれている。


「本当は仕事以外の話を色んな人とできるようになってほしいんだけど、関係性ゼロから雑談は難易度高いからね。まずは実行委員としての仕事を一生懸命やる。そして、共通の話題である文化祭の話を、雑談として他の文化祭実行委員の人たちとする。最後に何気ない話題で会話できるようになろう」

「簡単そうに言うけど、コミュ力ゼロの私には難しすぎるよぉ」

彼の言うことはもっともなのだが、私にとってはエベレストくらい高い壁だ。


「俺と雑談できるんだから大丈夫だって」

「それはセイヤ君がコミュ強だからだよ。それに本っていう共通の話題もあったし」

確かにセイヤ君とは楽しく会話できているが、だからといって私のコミュニケーション能力が高いと驕ることはない。彼との会話が成り立つのは、彼の能力に私が乗っかているからなのだ。もしも、相手が寡黙な人だったり、次々質問してくる人だったり、ついていけないテンションでたくさん話す人だったりしたら、今の私に会話を成立させることなどできようもない。


「まあ、今コトリの臆病発言を聞いてても仕方ないし、実際に色んな人と話してみて対策を講じていこう」

私の弱音タイムをスキップする合理的な彼は、私が反論を唱える前に次の発言をする。


「あとは文化祭実行委員なら人前で話す機会も多い。今のコトリにとって人前で話すということは、絶対に自信につながる」

「吐きそうになってきた」

人前で話す自分を想像し、本気で吐き気を催す。


「そう言わずに想像しろ。想像するのは人前で話しているときの自分じゃなくて、しっかりと話し終わった後の自分だ」

想像する。仮に私がしっかりと人前で話せたとして、そのときの気持ちを。


「おぉ。私じゃないみたい。自分をかっこいい女の子に思えそう」

「よし。それなら、やっぱりコトリには必要な経験になるな」

すっかり彼の口車に乗せられそうになっているが、それでいい。口車に乗せられてでも自分を動かさなければ、私はいつまでも変われないのだ。


「あと最後に、文化祭実行委員をしてほしい一番の理由だが」

「え?まだあるの?多くない?」

たくさん理由を出されてしまうと本当にやらなくちゃいけなくなってしまう。いや、やらなくちゃいけないんだった。もう自分の中で両極端な考えが浮かんで、私の感情は滅茶苦茶だ。


「一番の理由は、コトリと楽しい思い出を作りたいからだ」

ニッと笑って彼はそんなことを言った。私の顔がぐわぁと熱くなるのを感じる。彼の最後の言葉だけで、私はもう文化祭実行委員をやると心に決めてしまった。


そして、教卓に立ち、人前で話さないといけない状況の今に至る。

私はこれから話し合わなければならない内容がまとめられたプリントに目を通し、クラスの皆さんへ向けて発言する。


それでは、まずは文化祭の出し物を決めたいと思います。何か案がある方はいますか?


シーンと教室は静まり返っている。あれ?おかしい。先程まで和やかな雰囲気だったのに、誰一人として発言しないことがあるだろうか。クラスメイトの顔を見てみると、不思議そうな顔で私を見ている。え?どういう状況?


「コトリ、声出てない。口だけ動いてた」

隣から小声でそう言われた。言われた内容を理解するのに5秒かかる。

状況を理解した私はカーッと顔が赤くなるのを感じた。最悪だ。人前で話すことがなさ過ぎて、自分では発言したと思っていた言葉たちは喉を通過できていなかったらしい。


「あの!出し物!ありますか!」

焦った私は言葉足らずな内容をクラスに呼び掛け、頭はどんどん真っ白になっていく。


「パンケーキ作りたーい」

そんな私の足りていない説明から意図を汲み取ってくれた女子生徒が発言する。


「パ、パンケーキ!わかりました!頑張ります!」

心臓をずっとバクバクさせながら私は、普段出すことのない声量で返事をする。パンケーキか。作り方勉強しなくっちゃ。セイヤ君作れたりするかな。と、思いながら彼のほうを見る。


「いや、まだ決定じゃないよ。他の意見も聞かないと…」

彼は眉を下げて、テンパりまくっている私にそう言った。


「私も思い付きで適当に言っただけだから、そこまでこだわりないよ」

発言してくれた女子生徒は笑いながらそう言った。私はまた顔を赤くさせて、それを誤魔化すように必死で発言する。


「ほ、他に何やりますか!」

またも若干言葉足らずな聞き方になってしまった。それでもクラスメイト達はたくさんの意見を出してくれた。


最終的に3つの候補に絞られ、多数決を取る。そして多数決の結果、お化け屋敷とショート映画が同票で残る。多数決で結果が決まらないことを想定していなかった私が何十回目かのパニックに陥っていると、セイヤ君が提案をした。


「同票なので、どちらにするかは投票をしていないコトリに決めてもらいます!」

心の中で彼の名前を叫ぶ。酷い!私にクラスの運命を左右する決定ができるはずがない。それに投票をしていないのは司会進行をしている彼も同じだ。それなのに私の選択に委ねるなんてズルだ!と心の中で唱えながらクラスメイト達の顔を伺う。どちらの出し物が正解なのか。


そこまで考えて思い出す。これまでの私を。

正解の答えばかりを考えて、結局わからずに俯いて、黙り込む。そんな私を。


わからない。お化け屋敷と映画作り。どちらが簡単かとか、どちらが成功するかとか、どちらがクラスメイトの反感を買わないかだとか、わからない。私は何も決めたくない。けれど、私は自分の意志で決められるようになりたい。


私は選択する。私の意志で選択する。それが正解かなんてわからない。でも、この選択ですべてが決まるわけじゃない。選択した後に、その選択に対して責任を持ち、成功へと向けて努力することこそが大事なのだと信じてみる。


「お、お化け屋敷で!」


第48回皆瀬川高校文化祭、1年C組の出し物はお化け屋敷。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「私が選択したことに責任を持って頑張るって思ってたのに、結局クラスの出し物には全然関われなかったなー」

高校生活最初の文化祭が幕を下ろし、振替休日を挟んでからの登校日、文化祭の片づけをしながら私は言った。


「仕方ないよ。文化祭実行委員は多忙だからね。クラスのことまで手は回らないよ」

そうセイヤ君はフォローしてくれるのだが、文化祭実行委員とクラスの仕事の両方をバリバリやっていた彼に言われても説得力に欠ける。


「そんな目で見ないで。コトリが文化祭実行委員に注力してくれた分、俺がクラスのほうに時間使えたんだよ」

私が不信な目を彼に向けていると、彼からもっともらしいフォローが返ってくる。


「私が達成できた文化祭実行委員の仕事は60点くらいだよ。セイヤ君は文化祭実行委員100点、クラスの仕事80点くらいやってたじゃん。私はクラスの仕事は5点くらいだよ」

割と正しいと思える採点に、私と彼の実力差を痛感する。完全に拗ねている私をなだめようと、彼は様々な角度から私を褒めようとしてきた。途中から訳わからない褒め方をしてきたものだから、拗ねた態度を続けていた私も笑ってしまう。


「でも、楽しかった。たくさんの人とお知り合いになれたし。夢に見るような恥ずかしいトラウマもたくさん生まれてしまったけど…でも、やってよかったと思ってる。セイヤ君、本当にありがとう」

彼に対して深く頭を下げる。本当に感謝している。心の底から湧き上がるこの気持ちを彼に伝えたいと、2日間の休みの間ずっと思っていた。心からの感謝を人に、ましてや同級生の男の子に伝えるなんて恥ずかしくて、つい拗ねたフリをしてしまった。


「どういたしまして。俺も、コトリがキャンプファイヤーの注意事項を全校生徒に向けて噛まずに言い切ったときはボロボロ涙が出たよ」

茶化しているのかと顔を伺ってみると、彼は当時の私を思い出して泣きそうになっているので、本気で言っているんだなと気づく。それはそれとして、なんだかとても恥ずかしいのでやめてほしい。


「はぁー、でもやりきったー!私成長できた気がする!」

清々しい気持ちで伸びをしながら私は言葉を吐き出した。

ここ数週間は緊張の連続だったけど、これでようやく穏やかな日常を送れる。


「じゃあ、次は生徒会選挙だな」

彼の発言で私は凍り付く。私はすぐさま180度回転して全速力で走りだしたが、わずか3秒で彼に捕まってしまう。


それからの日々は入学当初の私では考えられないくらい大変だった。

地域のボランティアに参加したり、生徒会選挙に出て惜しくも敗退したり、学級委員長になったり、私からしたらとんでもない毎日だった。


そして高校2年生。体育祭のリーダーと文化祭の実行委員を仲間にたくさんの迷惑をかけながらもやり遂げ、生徒会長に立候補。

クラスの人気者の男子生徒や才色兼備の女子生徒、ウケ狙いで立候補した陽キャ男子たちよりも票を集め、とうとう私は生徒会長になった。ちなみに立候補してたその3人とは同じ生徒会の仲間として、すごい仲良しになれた。


そんなこんなで1年間、生徒会長として過ごしてきた。最初は全校集会で壇上に上がる際に転んで、そのことを廊下ですれ違った下の学年の子にいじられたりもした。後輩の分際で生徒会長をいじるとは…まあ、その子は現在進行形で文化祭実行委員でもないのに仕事を手伝わせているからいいんだけど。


シラヌイ コトリの高校生活は、自他共に認める優秀な人物として成長するまでのサクセスストーリーであった。サクセスストーリーというには失敗談が多すぎるんだけど…


そうして今、生徒会長としての最後の大仕事、第50回皆瀬川高校文化祭初日へと至る。


お昼ご飯のため、仕事をセイヤ君に任せて別棟まで歩く。

その短い道のりの中で、これら高校生活を振り返り、別棟の文化祭時限定の自習ルームに辿り着いた。

どうせ買う暇もないだろうと思い作ってきたお弁当を手に持ち、教室へと入る。


部屋には数名の生徒がいて、その中に私の友人を発見した。

クルス アキラ。この学校一の学力を誇る女子生徒だ。

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