0.面接準備
「君の仕事は面接官だ。転生候補を選ぶためのね」
いつか神は俺をデスクに呼びつけてそう言った。
あの世とこの世の狭間にいると時間感覚が曖昧になる。自分がいつから面接官などやらされているのかは分からないし、これが何回目の仕事なのかも定かではない。しかしやるべきことは分かっている。
ある日、上司(つまりは俗に言う神)から新しい転生希望者の募集について話があった。
「これが今来ている候補者だ」
神は美しいとしか形容しようのないほっそりした顔にどこかシニカルな笑みを浮かべて、資料の綴じられたファイルを差し出した。
手渡されたエントリーシートの写真と名前を確認し、その下に書かれた略歴をざっと眺める。中には輝かしい経歴を持った者もいるが、それだけで候補を選べるわけではない。前世でうまくやれた人間が転生後にも同じようにできるとは限らない。
「今回はそれほど責任重大な仕事じゃない。人間限定、性別不問。対象となる世界はオーソドックスな剣と魔法の世界だし、求められる人材も勇者だとか賢者だとかじゃないしね。もちろんそれなりの才能は付与した上で転生してもらうつもりだけど、今回はどちらかと言うと文化面に影響を与えてもらいたいんだよ。人柄採用と言っても良いね」
最近新調したというパンツスーツに身をやつした神はタバコに火をつけながらそう言った。今日の髪型は肩まである金髪で、同じく金色の瞳に雪のような白い肌をしている。この神という上司はコロコロ見た目が変わる。共通しているのは、常に中性的でどこか人間離れした美しさを纏っていることで、やっぱりこの人は神様なんだなと改めて思う。
「書類審査は別の担当者が既にやってるから、それほど厄介な相手は来ないと思ってくれて良いよ」
「転生後の環境は?」
「さっきも言った通り剣と魔法の世界。そこのある程度裕福な商家の跡取りとして生まれる。魔法の才能の付与あり。前世の記憶引き継ぎあり。赤ん坊として生まれるか、それともある程度成長した姿で向こうに行って、最初からそこで生きていたことにするかは応相談。転生後の人生についてこちらからのオーダーは特に無しだ。こういう仕事に就けとか、魔王を倒せみたいなものは無い」
「自由に生きろってことですか。ざっくりしてますね」
「いろいろ観察はさせてもらうがね」
神は足を組んで淡々と述べる。業務の話が簡潔なのは助かるが、俺は正直言ってこの上司が苦手だ。超然として底が見えないからかもしれない。なにぶん神様なのだからしょうがないのかもしれないが。
それにしても死んだ人間を異世界に転生させることに一体どんな意味があるというのだ。それも妙な面接などしてまで。なんらかの目的はあるのだろうが、そんな壮大なる神の意志などはいまだに俺の理解の外にある。俺にできるのは目の前の仕事をこなすことだけだ。
「合格基準はなんです?」
俺の質問に対し、神は妙に意味深な笑みを浮かべた。
「それは君が決めてくれ」
「は?」
「君が思うように合否を決めて良い。君は面接官だからね。その権利がある。たださっきも言ったように、私は文化面に与える影響を見てみたいと思っている。だから、転生してもだらだらと親の脛をかじってニートなどされるのは面白くない。犯罪者なんかになられても困る。責任問題になるからね。善良かつ骨のありそうなやつを選んでくれ」
「無茶苦茶言いますね」
「頼むよ面接官」
俺はため息をつき、資料にざっと目を通してから面接室へと向かった。