過去編5
スタンピードを引き起こすアイテムを手に入れる事は簡単だった。
道中に強力な敵が出る事も無く、分かりづらい所にある以外の障害は無く、場所を知っている私には何の問題も無く入手可能なアイテムだった。ただ予想外だったのは
「2つある」
遺跡の奥、隠された部屋の中にそれは置かれていた。手の平サイズのガラス瓶の様な容器に入った黒いモヤの様な物体。蓋の類は無く完全に密閉された、パッと見て何に使うか分からないアイテムがそこにはあった。
予想外だったのは2つあった事で、ゲームでは1つしか入手出来ないアイテムであった為驚いたのだ。
ゲーム本編はまだまだずっと先だ。それまでに壊れたりしたのだろうか?地震とかで?
「まぁ、いっか。予備があって困る事もないだろう」
考えても分からない事は考えない。現実に有るのだし、もしかしたらもう一度使う事もあるかもしれない。2つとも持って帰ろう。
そんなこんなでそこから1週間、行きも合わせて往復2週間かけて私は学園へと帰宅した。学校?それくらい休んだって平気平気。
因みに移動方法は乗り合いの馬車である。人口が多い地域どうしでは定期便があるのだ。それ以外はレンタル馬。これは各地にある牧場でレンタル料と飼料費用と万が一の場合の補償金を払う事で借りられるもので牧場の仕事の1つである。これでも貴族の端くれ、乗馬は習ったのだ。振り落とされない程度には乗れる様にはなった。
……それはそれとしてあの馬いつか馬刺しにしてやる。
帰って来た翌日の夕方、ダンジョンに突入。
人目の無い場所を探してうろつく。不審人物に見えない様に気をつけながら周囲を散策する。そうして人が多く通るルートから外れた場所の物陰に黒いモヤの入った瓶を置いておく。念の為周りの石等を置いて不審にならない程度に隠しておく。こうしておけばいずれこの瓶はダンジョンに飲み込まれるだろう。
ダンジョンでは無機物や人間、モンスターの死骸は時間経過で消えて無くなる。正確にはダンジョンに飲み込まれるのだ。地面に吸い込まれる様に死体が消えていくのは正直ちょっと面白い。
さて、何故この瓶がダンジョンにスタンピードを起こさせるのか?
まずこの黒いモヤの正体だが、ゲームの設定では『魔力過剰供給薬』となっている。これを摂取すると大気中や地脈等ありとあらゆる要素から大量の魔力を送り込まれる。それこそ摂取者の耐えうる限界以上の量をガンガン送り込んでくる。
コレをダンジョンに放置するとどうなるか?ダンジョンに放置された無機物はダンジョンに飲み込まれる。すると解放された魔力過剰供給薬はダンジョンに大量の魔力を送り込んでくる。大地からもガンガン送り込んでくるので使用後しばらくは周囲の土地が痩せる程だ。するとダンジョンは自身のキャパシティを大きく超える魔力を送り込まれ、その圧に耐え切れず内部から崩壊を始めるのだ。しかし、ダンジョンは崩壊を防ぐために魔力で大量のモンスターを作り外に放出し続ける。ダンジョンも必死だ。生きる為に全力でその機能をフル稼働してくる。
これがスタンピードを引き起こすメカニズムである。
因みにこの薬、現在では生産されていない。大昔にその危険性から生産が禁止され、既にある物も廃棄されたらしい。賢明な判断だね。その後長い年月が経ち製法は失われ、そもそもその存在すら過去の文献に少し載っている程度である。あの遺跡にあった物はそんな中生き残った貴重品である。きっといつの時代もいる世の中に反抗的な人間が隠し持っていた物だろう。
そんなわけで魔力過剰供給薬をダンジョン内に仕込んだ私はるんるん気分でダンジョンを後にする。放置された瓶がダンジョンに取り込まれてダンジョン内のキャパシティを超えてモンスターが外に出てくるまで、半日といったところだろうか?帰って武器手入れをしておこう。明日は朝から忙しくなるぞー。