過去編4
ハッ‼︎っと、目を覚ます。周囲を見回せば周りには幾つかのベッドがあり、それらには怪我をしている人達が何人も寝かされていて全部のベッドがうまっている。ここはどうやら病院の一室の様だ。私自身もそのうちの1つに寝かされていたみたいだ。
私はどうやら倒れてしまい、ここに運ばれて治療されていた様だ。体中に包帯が巻かれている。
「目が覚めたか」
直ぐ近くから声をかけられ、振り向くと、白衣を着た、草臥れたおじさんが立っていた。覇気を全く感じない佇まいだが医者だろうか?
「ちょっと見せてみろ」
そう言って私の目を開いて見て見たり、心拍数を測ったりした後
「もう良いだろ。さっさと着替えて退院してくれ。今日は怪我人が多くベッドが足りてないんだ」
そう言ってさっさと他の患者の所に行ってしまった。愛想が悪いが本当に忙しいのだろう。さっきから引っ切りなしに医者や看護師さんが働いている。前世残業時に心の中で上司に中指を立てていた身として彼等に多少、ほんのちょっぴり、申し訳なく思い、さっさと退院の準備をする。
とりあえず治療費を払い病院を出てギルドに向かう。と言うか病院の隣がギルドだ。この街で一番怪我人が多い職場だ。近場にあると便利だからだろう。
ギルドはファンタジー小説である酒場を併設したウェスタンな雰囲気ではなく、市役所の受付と冒険者の交流の場を併設しました、みたいなちょっと小綺麗な感じの事務所である。荒くれ者の印象を少しでも良くしようと言う事務方の努力の表れだ。
「えっと、いるかな」
ギルドの中を人を探してうろつく。
「あっ、いたいた」
目的の人物を見つけて近寄っていく。
「お、嬢ちゃん。怪我はもう大丈夫なのか?」
事務所にいた、私を助けてくれた4人組のパーティーに話かける。
「はい、おかげさまでもう大丈夫です。あの、助けていただいてありがとうございます」
そう言って、バッっと勢いよく頭を下げる。
「気にするな、ダンジョンでは互いに助けて合うのが冒険者のルールだからな」
「そうそう、全然気にしなくて良いわよ。それより、貴女こそ大丈夫?ほら、他のパーティーメンバーが……」
言いづらそうにそう聞いてくる。
「大丈夫です。確かに悲しいですけど、実は今回初めて組んだメンバーでして、余りお互いのことをよく知らないんですよ。だから、そこまで大きなショックは無いんです」
「そっか、まぁあんまり無理すんなよ」
そう言って肩をポンポンと叩いてくる。
「っと、そういや名乗って無かったな。俺はユバル。こっちの2人がナバルとバーリー。であっちの手を振ってるエルフがシェリーだ」
「あ、はい私はアンリって言います」
「アンリちゃん。これも何かの縁だし、何かあったら相談してね。力になるわよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってもう一度頭をさげる。
「さて、そろそろ時間ですし、行きますか」
ナバルがそう言って立ち上がる。
「そうだな」
「それじゃ、またね、アンリちゃん。私達しばらくはこの町にいるから今後一緒に冒険に行きましょ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って4人と分かれる。
その後真っ直ぐに家に帰る。私は今、学園の学生寮に住んでいる。寮の部屋は四畳半の部屋にベッドと机があるだけの小さな部屋だ。もちろん風呂トイレは共同。前世でなら不満があるが、今世ではマシなほうだ。
部屋に入りドアに鍵をかけベッドに飛び込み枕に顔を埋めて布団を頭から被る。
「くひっ。く、く、く」
「あーははは!あはははははははははははははははははは」
ベッドの上でうつ伏せで足をバタバタさせる。
「上手くいった!上手くいった!上手くいった!上手くいった!」
「やったやったやったやったやったー!」
途中下らないミスで死にかけたが、いや、実際一度死んでしまったが、最終的に全部良い方向に転がった。
怪我の痛みも気にならない位の嬉しさでベッドの上で転げ回る。
ここまで都合よくいくと逆に不安になってしまいそうだ。
今回の件は最初から最後まで私の予想とは違う流れになってしまったがそのおかげで、これ迄にたまった課題の解決が一歩、いや、二歩三歩前進した。
そう、最初の予定違いはスタンピードを引き起こすアイテムを手に入れたところから始まったのだ。