表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第十四話 何気ない帰り道

「美鈴、久々の学校生活はどうだった?」


 放課後、雪也は美鈴にそんなことを聞く。


 昼休みの一件があったりしつつ、あとは普通の学校生活を送っていると気づけば放課後。

 雪也は美鈴と約束通り下校を共にしていた。

 いつもの帰り道とは違っていて、ゲームセンターへと向かっている。


「楽しかったです。クラスの人たちも心配してくれて、案外学校生活も楽しいなって」

「病気で心がそれどころじゃなかったんだろうけど……改めて学校過ごしてみると悪くないだろ?」

「そうですね、隣の席の女の子とも少し仲良くなれましたし」


 美鈴はニコっとしながら喋っている。

 

 どうせ近い将来死ぬのなら、誰にも心配させずに一人で生きて死んだ方がいい。


 見舞いに行っている時に美鈴が発した言葉だ。

 多分、美鈴はずっと一人で生きてきて、そのせいで自分の価値を下げていた。


 加えて病気のせいでそれを加速させていた。


 けれど病気が治った今、笑顔が増えて前よりも人生に色がついた、そんなことを言いたげな表情を見せている。

 やはり美鈴には笑顔の方が似合っている。


「なら良かった……にしても、急に学校であんな風に接せられると困る」

「昼食の件ですか? それは……すみません。お友達もいたのに自分の気持ちを優先させてしまいました」

「学校では、その……ちょっと距離とった方がいいっていうか……」

「すみません、嫌でしたよね……これから一人で食べます」

「やめてくれ、そう言われると俺の心が痛い」

「だって雪也くんしか友達いないですもん。せっかく友達になったのだから雪也くんと食べたいです」


 美鈴にこうもストレートに求められると嬉しくなる反面、困る。

 第一、今日も同級生からの視線が痛かった。

 あの後、透と永戸だけでなく他の人にも追求されたのでうまくはぐらかしたが、明日も追及されるだろう。


「それは嬉しいんだけどさ、学校では美鈴って天使様って呼ばれるくらい人気だろ?」

「……事実ですね、変な異名付けられて困ってます」

「だからちょっと距離は取って欲しい」

「でも嫌ですよ、だって友達ですよね。話してて何がいけないんですか。雪也くんと過ごしたいって思うのは当然です……もちろん雪也くんには別の友達もいらっしゃるのでそこは自重しますけど」


 美鈴に正論を言われてぐうの音も出ない。

 友達といたいというのは当然の感情だ。


 ただ、学校で仲良くすることで雪也が危惧していることも起こりうる。


「美鈴の言うことはたしかにあってるけど……」

「その……嫌でしたか? 嫌ならはっきり言ってください。雪也くんにはもう迷惑かけたくありません」

「嫌じゃないよ、それははっきり言える。けど学校では一旦距離をおこう。変な噂とか立てられたりしたら嫌だろ? それに仲良くすることで美鈴に危害を加えるような迷惑な人たちもいるかもしれない」

「……なるほど、たしかにそこは考えていませんでした。私が仲良くすることで雪也くんにも迷惑がかかりますね」

「俺は別にいいんだが、心配事はなるべく減らした方がいいとは思ってる」

「では……私はどうすればいいんでしょうか」


 美鈴は少し視線を下げて、俯いた。

 

 本人は深く悩んでいるが割と簡単な話である。


「俺以外に友達を作ればいいんじゃないか? 美鈴だって友達作りたいだろ?」

「雪也くん以外……でも私、コミュニケーション苦手ですし、今更仲良くしてくれる人なんて……」

「いるだろ、男子は別として純粋に美鈴と仲良くしたいって思ってる女子は絶対に。だから俺以外に友達を作ればいい」

「……その、協力してくれますか?」

「ああ、もちろんだ」


 雪也がそう言うと美鈴の顔色は晴れて明るくなる。

 

 踏み外した部分があったかもしれない。

 しかし今からでもやり直しはできる。

 雪也もそれを支えるのでまたゆっくり学校生活を頑張っていけばいい。


 そんな会話をしつつ、二人でゲームセンターに向かっていた。

 ただ、一本の電話が雪也にかかってくる。

 電話をかけてきた人物は母だった。


「ごめん、出てもいい?」

「はい、私のことはお気になさらず」


 雪也は母からの電話をとり、スマホを耳に当てた。

 一体、何の電話だろうか。


『あ、もしもし、雪也、聞こえる?』

『うん、どうしたの?』

『今日大事な会議あるの忘れててさ、突然だけど今から雪乃を家に返すから面倒見ててくれない?』

『本当に突然だな』

『ごめんね、本当に。もしかして今どこか友達と遊んでる? なら十七時半までに保育所行って雪乃を迎えに行って欲しいんだけど』

『じいちゃんとばあちゃん、今日は仕事休みじゃなかったっけ』

『痛めた腰の様子見に行くために病院行ってるみたいなの』

『わかった、なら俺が雪乃を迎えに行くよ』

『ありがとう、助かる。じゃあ切るね』


 母はそう言って電話を切った。

 

 十七時半までに雪乃を迎えに行かなければならない。

 今は十六時四十五分くらいなので遊ぶ時間はあまりないらしい。


「ごめん、雪乃迎えに行くことになった。母さんの仕事が長引くみたいだから」

「そうですか……ではゲームセンターはまた今度ですね。でも雪乃ちゃんですか……私もついて行っていいですか?」

「たしかにそうだな、雪乃も会いたがってるし」


 美鈴と雪乃は去年以来会って遊んでいない。

 雪乃も久しぶりに美鈴と遊びたいだろう。


 けれどゲームセンターに連れて行けない申し訳なさはある。


「……ごめんな、ゲームセンターはまた明日にでも行こう」

「いえ、大丈夫です。こうやって一緒に帰るだけでも青春なので」


 雪也はそんな美鈴の暖かさに少し救われた。

 そして二人は踵を返して、そのまま保育所に向かった。


「なんか夫婦だ、夫婦なのですー!」


 二人で迎えに行くと雪乃はそんな風にはしゃいでいた。

 夫婦じゃないし友達だから、と否定しつつ、そう言われてどこか嬉しい自分がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ