表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

第十三話 久々の学校生活

「またあなたですか、雪也くん。毎日、毎日暇なんですか?」


 土曜日の昼過ぎ、雪也が美鈴の病室に入ると美鈴はそんなことを言う。

 

 美鈴の手術が終わって、約一週間が経った。

 容態が悪化して予定より早く手術することになった時は、驚いたがその後の経過はよかった。

 手術してすぐは少々苦しそうだったが、徐々に回復していき、状態が以前より良くなった。


 そして明日、美鈴は退院である。

 

「美鈴の見舞い人が誰もいないのは可哀想だろ」

「自分で結構言っていますが、雪也くんから言われると少々イラッとしてしまいますね」

「なんでだよ……で、明日退院なんだろ?」

「はい、通院は続けなきゃいけないですがひとまず退院です。あ、退院祝いとかいりませんからね」

「俺の言葉を先読みするな……ちなみにだけど月曜は学校行くのか?」

「そうですね、出席日数が危ないので。進級できても三学期の成績に一がつくのは嫌です」


 美鈴は三学期が始まってから一度も学校に行っていない。

 公欠にならないそうなのでテストの点が良くても出席日数が危ないそうだ。


「授業ノートとかいるか?」

「いえ、クラス違いますし、大丈夫です。病院いる間もちゃんと勉強してましたから」

「真面目だな、流石」

「ええ、正月でさえ暇でしたし、やることなかったので」


 美鈴はそう言って微笑んだ。

 

 病気が治って、友達になって、雪也に笑顔が向けられるようになった。

 そして何故かその笑顔が向けられるたびに胸が落ち着かなくなる。

 治ってよかった、そんな安堵と友達になれた実感からだろうか。


「……どうしました? 私の顔に何かついてます?」

「あ、いや、ごめん。ぼっーっとしてた」


 雪也は我に帰り、美鈴から視線を外した。

 やはり最近、胸の調子がおかしい。

 風邪気味なのだろうか。


「ところで、月曜日なのですが帰り、一緒に帰りませんか?」

「い、いいけど、なんでだ?」

「ほら、約束したじゃないですか。手術が治ったら私の青春に付き合ってくれるって」

「あー、そういえば、早速か。どこか行きたいところあるのか?」

「ゲームセンター、というものに行ってみたいです」

「じゃあその後、ファミレスでご飯食べるか」

「いいですね、青春っぽいです」


 雪也は美鈴とそんな会話を楽しむ。

 以前とは違う関係、違う会話。


 思っているよりも、天使様は青春に飢えた普通の女子高生だった。


 ***

 

「なあなあ、お前天使様の話知ってる?」


 月曜日の四時間目の授業が終わってすぐ、雪也が席で片付けをしていると透が話しかけてくる。

 永戸も後にやってきて雪也の席で天使様に関する話をし出した。


 どうやらしばらく休んでいた天使様の話題は他クラスにまで及んでいるらしい。


「あー、聞いた聞いた。病気だったんだよな」

「そうそう、入院してて学校行けなかったらしいぜ」

「……なるほどな」

「なんか興味なさげだな、雪也」

「いや、苦労してるんだなと」


 雪也はあえて知らないふりをする。

 

 全部知っている上に何ならお見舞いも毎日行っていた。

 ただ、それが知れ渡ったり、仲の良いことが露呈すれば変な噂が広がるかもしれない。

 故に雪也は学校で美鈴に話しかけたりすることのないようにしている。


「雪也って本当にそういうの興味ないよなー」

「逆に何で天使様がそこまで人気なのかわからないんだが」

「え、だって、可愛い上に佇まいも清楚そのもの。お淑やかな雰囲気で包容力のある話し方。まさに天使そのものだろ」


 透は天使様についてそう説明する。

 

 ただ、改めて雪也は天使様と美鈴とのギャップを実感する。


 天使様の内面を知っているのは雪也だけ。

 そう思うと何だか嬉しいと思う自分がいる。


「天春さん、僕と昼食どうですか」

「お前、先駆けすんな。天春、良かったら俺と……!」

「あの、お二人とも……申し訳ありませんがお断りさせていただきます」


 三人で天使様に関する話をしていると、廊下から当の本人の声が聞こえてくる。

 久しぶりに学校に登校した天使様はどうやらモテモテらしい。

 

 そんなお誘いを相変わらずことごとく断っている。


「でもやっぱモテるよなー。けど俺はやっぱり唯香ちゃんかな」

「そういえばあの二人付き合ったらしいぞ」

「嘘っ!?」

「もちろん嘘」


 冗談を言い合いながらいつも通り楽しく会話していく。

 雪也含めて三人にとって天使様とは無縁、学校では話す機会などない。

 そう思っていた。


「あの、雪也くん……」

『……へ?』


 透と永戸はそんな腑抜けた声を出す。

 何故なら程遠いと思っていた天使様が雪也に話しかけたからだ。


 天使様は弁当を持って姿勢良く佇んでいる。


「えっと、美鈴?」


 雪也は反射的にいつものように名前呼びをしてしまう。

 

 しまった、と思った頃には二人の視線は雪也に向けられていた。

 二人どころか教室のドアの方からも数人の男子や女子からの視線がある。


「すみません、お話中……でしたか?」

「い、いえ、俺たちは大丈夫っす。ゆ、雪也になんか用っすか?」

「はい、雪也くんと昼食を共にしたいなと思いまして」

「俺は……」


 雪也はいつも通り二人と食べるつもりだった。

 しかし雪也が二人に視線を戻すと二人は顎を軽く何回かあげて「行け」と言ったようなジェスチャーをしている。


「別にいいけど……」

「では一緒に食べましょう……ちなみにお二人は雪也くんの友達ですか?」

「は、はい、そうっす」

「それならお二人もご一緒にどうですか? 突然来た私が一方的に雪也くんを借りるのもいかがかなと思いますので」

「俺らのことは気にしないでいいっす。な、な? 透」

「お、おう、本当大丈夫なんで。雪也貸し出します」


 透のそんな言葉に俺は物か何かなのかとつっこんでしまう。

 

 突然のことに驚いたが断れる雰囲気でもなく、雪也は美鈴と食堂に向かった。

 道中、並んで歩いていた時の周囲の視線は雪也へと集中していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ