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2-16.ウサギ王国の崩壊

『ああくそ、どういう理屈だこれは!わけがわからんぞ!!』


『落ち着いてください、アリウス様。』



 あれからおおよそ30分。今は取り巻きのラビットを掃討したマリオンも合流しているが、いまだに王たる特異種を仕留めることは出来ていない。


 かれこれもう10回以上はこのウサギの肉体を致命的に破壊をしているはずなのだが、その度にその遺体は不自然にうごめくと、みるみるうちに元の形状へと復元をしてしまう。


 油断さえしていなければ向こうの攻撃はアリスへ当たることはなく、アリスは疲労とは無縁なためにジリ貧になるということも無いのだが、決定打というものがなかなか見いだせないでいた。

 今もまた頭部と胸部を同時に破壊したが、ほんの少しふらついただけで、何事もなかったかのようにアリス目掛けて氷の刃を差し向け始める。


 アリスはまたかとげんなりするが、幸いなことに、どうやら今度は何らかの成果があったらしい。



『アリウス様、少々気になる点が…試しに、再生中の心臓を連続して破壊してもらっても構いませんか?』



 現在マリオンは戦闘には参加せずに、ボスの観察に集中をしてもらっている。


 初めは遺体から再生する雑魚の掃除を手伝ってもらっていたのだが、そのたびに王から分断するのも面倒になってきたために、今はアリスが片手間に処理をしてしまっている。

 例え親玉の攻撃であってもアリスの肉体に傷がつかないことは身をもって証明できていたため、雑魚は居ても居なくても大して変わりがないからだ。


 それにどうやら、あれは肉体が大きく破損すると半ば機械的に魔法で迎撃を行うらしく、それに万が一にも被弾をしてしまうとマリオンの肉体では破損する可能性がある。そのため、なるべく離れて万が一を防いでおきたいというのも理由の一つであった。



『心臓は即死しないから効果が薄かったが…わかった、この再生が終わるまで待ってくれ。』



 あれから色々と試行錯誤をしてはみたのだが、どこをどう破壊してもあのウサギは再生をはじめ、数十秒もすれば元通りに戻ってしまう。

 だが再生中の魔法は、ただひたすらに敵対者を追い続けるだけで大した工夫も感じられないため、おそらく再生している間は意識がないのだろうと推測を立てている。


 ちなみに一度、数秒間じっくりと演算をした本気の魔法を発動し、超高密度のプラズマの渦に叩き込むことで肉体をすべて分解することを試みてはみた。

 だがどうやらあのウサギは魔法への抵抗力が桁外れであるらしく、物理的な衝撃を伴わない魔法であるとほとんど影響を受けることがないらしい。


 おかげで、思わず口をついて出た「やったか!?」というセリフに被せるように飛んできた氷の矢を避けそこなってしまい、今着ている上着は大きく破かれ、素肌が覗いてしまっている。


 別にそこまでお気に入りというわけではないのだが、普段着として着慣れていただけに、そこそこにはムカついていた。


 他にも火攻めにしてみたり水攻めにしてみたり空気砲を連射してみたり…色々と試してみたはものの、はやり純粋な魔法では効果が薄く、結局は魔法を纏わせたうえで直接殴るか釘を投げるかでないと効果がないという結論へと至っていた。


 あとは地底深くに生き埋めにするか、宇宙にまで吹き飛ばすかというのも思いついてはいるのだが、それは最終手段としている。

 万一その状態で魔法を放てるようであれば、最悪吹雪を止める手段がなくなりかねないためだ。

 あれはできれば、ここで確実に仕留めておきたい。



 そんなことを回想しつつ、マリオンにリクエストされたように釘を一本心臓に叩き込むと、胸の中心が大きくえぐれてはじけ飛ぶ。続けてグニグニと再生を始めた傷口にもう一本、少しの時間差をつけて二発目を叩き込む。



『むっ?』


『やはりそうです、()()()()()()()()。胸部だけは、再生速度が異常です。』


『どういうことだ…?心臓…いや、もしかして、魔石か?』



 魔物の胸には通常の生物と同様に心臓があるだけではなく、そのさらに奥

の背骨の付近には、魔物特有の器官である魔石が位置している。

 他の部位とは異なりそこだけが異常とあれば、その周辺に原因がある可能性が高いのではないだろうか。


 そうして再生を終えたラビットの、あえて心臓や魔石を避けた胸部を穿ったことで、ようやくついに、致命的な違和感へと気が付くことが出来た。



『なるほど、魔石だけは破壊できていないのか!』



 左右の胸にあいた大きな風穴を見て、ようやく得心がいった。


 心臓に目掛けて釘を打ち込んだ際は大穴こそあくものの、向こうの景色が見えるほどに貫通することがない。

 胴体を狙う際は無意識に心臓を狙っていたために、元々ボリュームのある胴体部は頑丈であると、勘違いをしてしまっていたらしい。



『くそ、こんな単純なことを見落としていたとは…』


『あまりに異常が過ぎますし、仕方がありません。破壊する方法はありそうですか?』


『魔法は効き目が薄いし、全力の釘でもダメとなると物理的には厳しいかもしれないな…とりあえず、抉り出してみるか?』



 そうして追加で数度の試行を経て、体内の魔石があるであろう位置を、正確に把握することが出来た。それは握りこぶしほどの大きさで、心臓とほぼ同じ程度の大きさであろうことが伺える。



『よし、次で仕掛けるから、可能であれば引きずり出してくれ。』


『承知しました。』



 そういうと、ありったけの釘をラビットの周りへと豪快にまき散らす。

 念のために1ダースほどは残してあるが、下手にチマチマと消耗するよりは、ここで一気に仕掛けてしまうのが得策だろう。


 そして準備として吹き飛ばしておいた頭部が元に戻り、その目がジロリとこちらを睨んだのを見計らって、周囲を囲う釘へと一斉に魔法を発動する。


 王の全周に配置された釘は一斉に赤く輝く光の矢となると、あらゆる方向から胸部を刺し貫くように殺到する。だがその標的は魔石そのものではなく、魔石があるであろう部位の周辺すべてを削り飛ばすような軌道を描く。


 光が収まるとそこには、歪なボール状へと成型された、真っ赤な血肉の塊が取り残されていた。

 そして、真っ赤なボールのその血肉の隙間からは、鈍く銀色に光る()()()()()が覗いている。



『なっ』


『魔石ではない!?』



 確かに、魔物の体内にあったのが魔石ではなかったことも驚きではある。だが、アリウスが驚愕した理由は、それだけではない。



『新型リアクターだと!?』



 アリウスは、わずかに覗くそれが何なのかに心当たりがある。なにせアレは、アリスに搭載されているそれと、ほぼ同形状であったのだ。


 使い捨ての閉鎖型のマナリアクターというものは一般にも使われるため、そこまで珍しいものではない。だが人間の心臓を緻密に模倣し、その存在感に身震いするほどの強力なマナを内包するリアクターなど、ほかに存在するはずもない。


 今は見ることの叶わないブラックボックスとの予期せぬ再会に、アリスの胸に収まる同じ形の心臓が、ドクリと脈打ったかのような錯覚を覚える。

 


 そんなアリウスの驚愕も意に関せず、機械の心臓にへばりついた肉の膜は一瞬ビクリと脈打つと、瞬く間に膨張をし、冒涜的な肉の塊として再生を始めた。



 …だが、かの暴虐なウサギの王が、再度君臨することは叶わなかった。



 それは、洞窟の天に空く穴から、赤く輝く雷光と共に、降臨をした。



 その存在は、今なお意地汚く生きあがこうとしていた王の心核を、もののついでに踏み砕くと、猛烈な衝撃と轟音と礫の嵐と共に、空洞の中心へと君臨する。


 衝撃と共に濃霧のように洞窟内を漂う土煙は、だが突然に、不自然に、まるで記録映像を逆回しをしたかのように、爆発の中心へと渦を巻いて集まっていく。


 そうして不自然に静寂に満ちた空洞の中央には、男が一人。

 アリスの姿をその両の目でしっかりと睨めつけながら、静かに佇んでいる。



「なぁ…」



 その短い髪は降り注ぐ月の光を反射し煌めく銀髪で、手入れが適当なのかツンツンと尖った髪は、その人物の凶暴性を象徴しているかのようだ。


 肌は浅黒く、青みがかったその色は一見不健康なようにも見えるのだが、生命力に満ち溢れたその肉体は彼が一線を画した生物であるということを証明している。


 そしてその側頭部には、ねじくれた一本の角。いまも脈打つように赤く光るその角には、どれだけのマナが内包されているのか想像するのも恐ろしい。



「てめぇら…ここでなにやってんだぁ…?」



 その白目と黒目とが反転したような瞳には、知性こそ感じられるものの、同時にあのウサギの王をも遥かに上回るような、暴虐の気配を漂わせている。


 その怒りに満ちた刺し貫くような視線は、かつてガラス越しに邂逅したその時とは決定的に異なり、今はハッキリと、アリス達の姿をとらえていた。

【魔人】


 マナに満ちた世界に生まれた新人類。

 あるいは、旧人類の生れの果て。

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