2-11.氷の女王
前話から分けたため、またちょっと字数が少ないです。
2度作り直した部分なためちょっと無理があったらごめんなさい。
そして操作ミスで公開…!
「なるほど…これが、彼らの親玉ですか。」
「これほどの巨体…どれだけの年月を生きてきたのでしょう。」
ウルフたちが守っていた窪地の奥。
周辺の平原から隠れるようにすり鉢状になったその地形の中心には、ちょっとした家ほどの大きさもある巨大なウルフが氷の玉座へと伏せ、鎮座をしていた。
その毛並みは月のように輝く銀色で、先刻ヴィルドーの街へと襲い掛かってきた特異種のウルフ達とよく似ている。
だが、その体格も風格もその比ではなく、静かに横たわったままにこちらを眺めるその瞳には、深い知性が感じられる。
魔法で生み出した氷を全身に纏う様子はまるで、ドレスと王冠を身に纏った女王のようであった。
先ほどまでこちらへ飛び掛かってきてていたウルフたちは今は女王を護るように周囲へと集まり、今もこちらを威嚇し続けている。
どうやらこちらの歩みを妨害することは出来そうにないために、女王の周りを固めることを優先したらしい。
だがこれ以上近づけば彼女を守るために、まさしく命を賭して襲い掛かってくることだろう。
だがそんな状況でも女王は氷の寝台に寝そべったまま動き出す様子がなく…そして、この吹雪を起こすような魔法を発動している様子が見られない。
彼女はただそこに鎮座をし、この状況を静観しているだけであった。
「やはり、原因はこのウルフではありませんね。」
「はい。それに…彼女に、戦うだけの力はなさそうです。」
女王は窪地のちょうど中央、恐らく自分で作ったであろう、巨大な氷の寝台へと横たわっている。
いや、アレは氷のベッドなどではなく…地面まで巻き込むようにして、その腹を覆うように周辺を氷で包み込んでいるのだ。
そして、女王の周囲を囲うウルフの陰に隠れてよくは見えないが、どうやらその氷の奥には、赤い氷で覆われた管のようなものが埋まっているらしい。
恐らくあれでは、長くはないだろう。
『……アリウス様、提案があります。』
『やはり、あれが例の”森の守護神”だと思うか?』
『希望的観測も含みますが、可能性としては高いかと思います。』
先日、街で茶葉の店を訪ねた際に店主の老人より聞いた、古い話である。
それは、森へ入ろうとする子供たちを嗜めるような内容のおとぎ話であった。
なんでも、かつてのヴィルドー周辺の森の中には、守護神と呼ばれるようなとても強大な魔物が存在していたらしい。
その魔物と町の住民たちとは友好な関係を結んでおり、安全に森の恵みを享受することが出来たのだそうだ。
だがある時、街の長が強欲な者に代替わりした際に、何らかの事件によりその魔物を激怒させてしまったらしい。
それからその魔物は森を去り、以降、森の奥深くへは踏み入ってはいけないという掟が出来たのだという。
一般的に魔物は獰猛で、他の生物とは相いれることがないが、ごく一部には例外が存在する。それが、特異種の魔物だ。
魔物はその身に宿る魔石を利用して、無意識のうちに、その肉体を強化するための魔法を常時発動している。
だがその代償として、生存本能や闘争本能といった野生のそれも強化がされるために、大抵の魔物は獰猛な性格となってしまうのだ。
だが特異種の魔物はその身に宿る魔石を受け入れ、体に流れるマナを完全に制御することで誕生するのだそうだ。
その結果として特異種の魔物はおしなべて、野生の本能すらも押さえつけ、知性が高くなる傾向にあるらしい。
そして、私たちがこの地に来てからウルフたちのことを調べるうちに、気づいたことがある。
彼らは普段は森の奥深くに住んでおり、時に深くまで潜りすぎた人間が彼らの被害にあうという事件も発生はする。
だが、彼らが自ら街のそばに出て人のことを襲うといった事故は、今回の事件が起きるまでは驚くほどに数が少なかったのだ。
そして、この女王の姿を直接見たことで確信をした。
恐らく彼女は、意図的に人間たちとは生活の場を分け、ウルフ達を御するだけの知性がある。
今も時折周りのウルフたちへと視線を向け、こちらへ襲い掛かろうとしているのを止めようとしているのがその証拠だ。
『とりあえず、交渉次第だな。』
そうして、女王の前へと一歩足を踏み出す。
それに合わせ、周りのウルフたちの殺気が一段と膨れ上がる。
これ以上進むと、恐らく戦いは避けられなくなるだろう。
「そこのあなた!あなたがこのウルフたちの、女王とおみうけします!」
仕方なく、30mほど離れた場所から、大きな声でウルフの女王へと話しかける。
すると、うなだれるように寝そべっていた女王の耳がピクリと動き、ゆっくりと顔を持ち上げてこちらを一瞥した。
その表情は怒りでも恐怖でもなく、ただこちらを品定めするかのようにじっと見据えている。
「あなたたちが、ラビットたちに追われ困窮していることは、理解しています。問題は私たちが解決しますので、街を襲うのはやめていただけないでしょうか?」
女王の周りを囲う特異種たちが、一斉に唸りを上げる。
恐らく彼らも、言葉を理解するのに十分な知性を持つのだろう。
だが女王がその顔をひとにらみすると、特異種たちは尾を下げておとなしくなる。
やはり、言葉は通じていそうである。
マリオンが一歩前に出ると、エプロンのポケットから、緑色の薬液が詰まった瓶を数本を取り出す。
彼女のエプロンのポケットはアリスの持つポーチのように空間拡張が施されているため、これくらいのものであるば容易に格納できる。
ポケットに物を入れると服のシルエットが崩れるのをマリオンが嫌がったために、安くない金額で特注品を頼んだものであった。
「これは、傷を治すための魔法薬です。あなたほどの主であれば、見たことがあるのではないでしょうか?これを差し上げますので、どうか、よろしくお願いいたします。」
そうして、マリオンが頭を下げる。
数秒の静寂が続いたのち、女王は小さくグルリと、弱弱しい唸り声を上げた。
その声はひどく弱ってはいたが効果は絶大であった。
この場に漂っていた、戦いの空気が一瞬で散っていったのだ。
今にも飛び掛からんと周囲をうろついていたウルフたちも、その声を受けて一斉にその場へと伏せる。
こうしてウルフたちの女王との交渉は、平和裏に進めることが出来た。
【特異種の魔物】
特異種の魔物は本能を元とした凶暴性こそ薄れますが、別にその性格までが変わるというわけではありません。
そのため、もともとその個体が粗暴な性格だった場合は、下手に知性がある分やっかいな存在となってしまいます。
女王はもともと穏やかな性格であったのと、かつて人間たちと交流があったその経緯から、人間とは距離を取るべきとは思いつつも悪感情までは抱いていません。
先刻ヴィルドーへと襲い掛かってきた特異種のウルフは群れの中でも武闘派で、かろうじて女王が抑えていたものの衰弱と共に抑えが利かなくなってしまいました。
とはいえ彼自体は別に凶暴というほどではなく、群れを率いる次世代の王として、追い詰められた同族を養うために街を襲うことを決意しています。
ただ、結果的にアッシュたちに返り討ちにあってしまったために、彼がウルフたちの王となる未来は訪れませんでした。
ただし仮に襲撃に成功していても、街を壊滅させたことが知れれば後日中央ギルドから手練れの討伐隊が送られてくるのは確実なため、街を襲うという選択肢は悪手でしかありません。
女王はそういう人間たちの事情も理解をしていたために、基本的に人間たちとは距離を取ることに決めていました。
ちなみに、彼女の年齢は200を優に超えています。
魔物の寿命は一般的な動物と比べると長命になりますが、特異種ともなると実質的な寿命はなくなります。
ちなみに特異と変異で表記ゆれが残っているかもしれませんが、同じ意味なのでご了承ください。
通常の魔物が変異した結果生まれるのが、特異種の魔物です。
書いてたら自分でもどっちかわからなくなったので、一応特異で統一しています。




