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第9話 小さなケダモノ

 その次の朝、ぼくはいつも通り登校した。5年2組のみんなは何事もなかったように「おはよう」といってくれた。

 でも、ぼくのちんちんに毛が生えたことは学年中にもう伝わっていた。1時間目の授業が終わっていつものように児童便所におしっこに行くと「おい●●●が便所にいくぞ」と、わらわらとダンシがついてきた。そして便器の前に立つと彼らはぼくを取り囲んだ、「はやくおしっこしろよ!」とか「はやくちんぽ、出せよ」とかのヤジが飛び交う中、ぼくはどうしてもちんちんを出せなかった。でも、おしっこももうガマンできないところに来ていた。ぼくのあたまにズボンの股のところからポタポタとしずくが垂れているのが浮かんだ。このままだとみんなの前でもっと恥ずかしいことになりそうだったので、ぼくは仕方なくズボンの前のチャックを下ろし、ちんちんをつまみ出した。

「わあ、すげえ、オンナブにくせに本当に生えている!」

「ほんと、ボーボーだ」

「はやく。しょんべんも出せよ」

そんなヤジを耳にしながらぼくはみんなの目の前でおしっこをした。それでも自分で止めることできないままいつものようにちんちんの先から勢いよく出てくるおしっこはどうしようもなく間抜けですごく恥ずかしかった。


 次の2時間目の授業も終わりごろになるとおしっこがしたくなった。ぼくはもともとおしっこが近い体質で。保育園に通っていたころはおしっこが近いのに焼いたギンナンが効くとお母さんに食べさせられた。さっきの休み時間でひどい目にあったので、ぼくはどうしてもおしっこに行く気にならなかった。この夏の林間学校の二日間ずっとうんこをガマンできたので、運がよければおしっこも下校するまでガマンできるかもしれないと思ったけど、それはぼくの甘い考えだった。3時間目の終わりごろにはもう耐えられなくなり、追いかけてくる子たちをかまわずに大あわてで児童便所に行き、またみんなの目の前でおしっこするはめになった。


 あと、体育の時間で教室で着替えるときも、ぼくは手が不自由でズボン脱いでから下の体操着をはくのに時間がかかるので、その間にいたずらな子がパンツを下ろして「ほら、ちん毛をみせろよ」とちんちんを丸出しにされることはよくあったし。「●●●のちんぽ毛がボーボーでまっくろくろ」というヘンな節をつけた歌を作って流行らせた子もいた。教室の黒板に「●●●のちんぽ」と題がついた明らかに毛の生えたものの殴り書きされた落書きが昼休みの間にされていることもあった。でも、そういう落書きがされていてもO先生は苦笑いしながら黒板消しで黙って消すだけだった。もちろん、それ以外のことは恥ずかしくてO先生にも言えなかった。勇気をだして言っても「みんな、いち早くおとなになったおまえのことがうらやましいんだ」程度のことしか言われなかった。


 ぼくは、しかたなく、それから逃げるために授業が終わって休み時間の終わりごろとかとか、一般教室から離れた児童便所におしっこにこそこそと行った。そして児童便所の中では一番奥まで行き、脇からのぞかれないように便器から斜めに立っておしっこした。着替えるときは教室以外の誰も来ない屋上階の階段の裏で着替えた。

 でも、追いかけてくる子はそれでも追いかけてくるし、そんなことをして授業に戻るのが遅れてO先生に怒られることも時々あった。ちんちんに毛がはえたときのを見つけたときは自分が毛むくじゃらケダモノになったような気がしたけど、こそこそと誰もいない児童便所を探したり着替える場所を探したりするぼくは他のケダモノにおびえる一匹の小さなケダモノみたいだった。


 おしっこはそうじゃないけど、ダンシの場合、学校の児童便所でのうんこがバレたら、穴実小ではそれだけで「うんこもらし」という汚いことをしたバイキン決定だった。そうして一度バイキンになれば、しばらくうんこをもらした赤ちゃんレベルのバカとしてからかわれ遠ざけれた。

 でも、低学年の頃のぼくは、手が不自由なことや家が忙しいのに祖母によく旅行に出かけてあまりかまってもらえなかったことで、うんこしなくても、多くの女子にダンスの時に手を組みたくないとか3年生のときに給食で初めて配った食べたくないと言われるほど汚いバイキン扱いだった。そんなぼくが学校でうんこしたら「バイキンがバイキンを産んだ」とか「バイキンがうんこもらして本当にバイキンになった」とふつうの子どころじゃないバイキン扱いされることは低学年だけどわかった。

 だから、低学年のころから、どんなことがあっても学校の児童便所ではうんこしていけないとぼくは自分に言い聞かせてきた。学校でうんこしたくなったら必ずガマンしてきたし、夜に家でうんこするときは学校までおなかの中にためて行かないように必死にうんこした。

 それまで4年生のとき、おなかを壊して一度だけこっそりと児童便所にいったときを除いて、学校でうんこしたことはなかった。しかも、その一度の時のときも、すごく恥ずかしかったけど結局クラスの誰にもバレないまますっきりできてよかった。


 でも、そんなぼくでもちんちんに毛がはえてからかわれることにはどうすることもできなかった。うんこと違っておしっこは一日中がまんすることはできないし、それよりもなぜ、そんなにして必死に他人のちんちんの毛を見たがり、それをからかうのかがよく理解できないことが不安で怖かった。

 学校でうんこした子をからかうきもちは、ぼく自身学校でするなんてバカだなと感じていて理解できたし、心理学の講義でフロイトの肛門期という概念を学んで納得できた。しかし、他人のちんちんの毛なんか気持ちが悪いだけで、一時期銭湯に通う生活まで送ったことまであるけど、今までわざわざ一度も見たいと思ったことがなかった。たぶん一生わかんない気がする。


(続く)


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