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婚約者

「俺は、神の使徒でも、反逆者でもありません。ただ、世界との繋がりを持ってしまっただけの人間です」



 それは真実でもあり虚偽でもある、現状を理解している俺から見れば不思議な言い回しだった。竜神クロノス様から世界を託された点から神の使徒だと捉えることも出来れば、魔神となった魔王エイミー・ロゼットを倒そうとしている点から神に対する反逆者とも捉える事ができる。



 魔力や神気を通して世界との繋がりも持ってはいるが干渉は出来ないのでこれに関してもどっち付かずだ。何より、今の俺は人間ではなく半神半人に近い為人間と言えるのかすら怪しいレベルだ。



「世界との繋がりとは?」


「以前、死霊のダンジョンに一人で赴いた際に死に掛けまして、その時に自分の魂の根幹に触れ世界を認識出来るようになりました」



 これも全てが嘘という訳ではない。死霊のダンジョンで死に掛けたことは事実だし、俺の魂に付属する竜神クロノス様の力の根幹に触れより神様に近い存在になった。



「世界を認識するとはどういう感覚なのですか?」


「物事の価値基準が人間ではなく世界になります。もちろん、自我が消える訳でも思想が侵食される訳でもありません」



 ケルベロス相手に魂を摩耗した事で得た思想の変化が正しく世界を認識する感覚だった。きっと、この感覚がより強くなれば神様の思想になるのだろう。



 俺の説明を聞いて何かを考えるように黙り込んでしまったフィリップさんを見て、ついでとばかりに俺は魂の摩耗についても話しをすることにした。



「死霊のダンジョンで死に掛けた時に何となく魂の在り方と、死後魂が魔力へと変換され世界に還元される感覚を掴めたので今回のケルベロス相手にもその感覚を元に保有量以上の魔力を引き出しました。その結果が、魂の摩耗で魔力量が以前よりも増えているのはそれが原因と分かるのですが神気については何故こんなにも増えたのか自分でも分かりません」



 神気が増えた原因は俺の魂が摩耗した代わりに竜神クロノス様の魂の一部が代用品として補填されたからだ。ただ、コントロールが一切出来ないせいで魔力を纏う度に神気が付いてくるのでそこが難点だ。



 どうにか神気を抑える方法はないのかと考え始めたところでフィリップさんが焦ったように声を発した。



「待ってくださいアレンくん。君は今、魂の摩耗と言いましたね」


「はい、言いました」


「そうですか。では正直に答えてください。起きてからこれまでとは違うような違和感はありますか?」



 会議室の中にいる面々が焦っている様子のフィリップさんを見て訝しげな様子を見せている中で俺だけはその質問の意図が理解出来た。今俺が聞かれているのは後遺症の有無だ。そして、魂の摩耗という言葉だけでその点に気づけるということはフィリップさんは魂に対して一定の見識があるのだろう。



「今確認出来ているだけでも、味覚の麻痺と先程言った価値基準の変化、加えて一部の記憶に靄が掛かっているように感じます」


「そこまで把握しているということは分かっていてやったということですか?」


「はい、あの場で生き残るにはこれしか方法がありませんでしたから」


「そうですか、」



 小さくそれだけ呟くと鎮痛な面持ちでフィリップさんは顔を伏せた。その感情に名前を付けるなら同情や憐れみだろうか。俺からすれば今後のことを考えてもメリットの方が多いのでただの成長のようなものだが何も知らないフィリップさん基準では単純な自己犠牲に映るのだろう。



「フィリップ殿、先程から黙って話を聞いていたがいまいち要領が掴めない。今はアレン・ツールに対する褒賞と誰を婚約者にするのかについての話だろう?」



 顔を伏せたフィリップさんに対してそう言ったのはリリーの隣に座っていた見たことのない竜人族の男性だった。見るからに強いこととこの場に居ることを考慮してもそれなりの地位にいる人物であることは間違いない。



 だがそれよりも気になったのは婚約者という単語だった。そもそも、俺は何も聞かされずにここに連れてこられたのでこの会議室で行われている議論の内容を知らない。



「いいえ、ダンツ殿。この問答は我々聖法国が彼を評価するのに必要不可欠なものでした。力を是とする竜人族とは違い我々はその人間の在り方に重きを置いております。神気を纏っているのなら尚のこと、彼の善性を確かめる必要があります」


「ふん、他国の聖女を命懸けで護衛し、本来なら討伐隊を編成しなければならないケルベロス相手に単身で戦い二人を無傷で守り抜いた男に今更善性を問うなどそれこそ時間の無駄だろう」



 フィリップさんの口から出たダンツ殿という単語を聞き、俺は目の前で最高司祭であるフィリップさんを相手に一歩も引かず言葉を並べる竜人の正体を悟る。竜王国タレクターの国王にして、竜人最強の異名を持つ戦士、ダンツ・フレイム。それが、彼の正体だった。



 国のトップが三人揃っている。そう考えただけで早く帰りたいと思ってしまうがこの場で俺に発言権はない。そんな風に悟っているとダンツさんの観察するような視線が俺を貫いた。



「こうして見ているだけでも分かる。金色の炎に覚醒したリリーを下し、カイザーまで倒したと聞いた時は我が耳を疑ったが、神気と混じりながらも一切(かす)まない高密度の魔力がお前の強さを物語っている。城でリリーが同じことをやっているのを見た時は何の意味があるのかと疑問だったが、お前レベルの精度ともなると俺でも簡単には破れん」


「えっと、ありがとうございます」



 何処か好戦的な笑みを浮かべ俺のことを評価してくれるダンツさんに一泊遅れてお礼を口にする。神気が混ざっているのにも関わらず俺の魔力操作の技術に目をやってくれるのは素直に嬉しい。そう考えたのも束の間、次に口を開いたダンツさんから驚きの提案がもたらされた。



「それで本題だがアレン・ツール、お前をリリーの婚約者にしたいのだが不服はあるか?」



 ありますと堂々と口に出来るはずもなくダンツさんの隣に座っているリリーに視線を向けるとリリーは少し恥ずかしそうに顔を逸らした。年相応の反応に内心和みつつもリリーからの助けがないことは理解した。と、そこで待ったを掛けたのはフィリップさんだった。



「話を一方的に進めるのは控えてくださいダンツ殿」


「そうだな、少し急だったか」


「はい、病み上がりのアレン君に今この場で決めさせるのは流石に早計でしょう」



 フィリップさんの言い分は正論でダンツさんも一度引いてくれるようだった。だが、それだけでは終わらない。



「ところでアレン君、我が国の聖女であるアリア様と婚約者になる気はありませんか?神気を纏う君ならばきっと皆が祝福してくれることでしょう」



 アリアとの婚約、フィリップさんの提案を聞きいよいよ脳の処理が追いつかなくなって来た俺に、国王がさらなる追い打ちを掛けてくる。



「困惑しているようだから改めて説明しておくが今この場で行われていた議論はお前に対する褒賞と婚約者についてのものだ。竜王国タレクターはリリー王女を、聖法国ミラーレスは聖女アリア様を、そして我が国からはルーナをそれぞれお前の婚約者として挙げていた。そのタイミングでお前が起きたと報告がなされたという訳だ」



 事の経緯が国王から説明されても尚、俺の頭は混乱していた。けど、前の世界でそれなりに人生経験を積んでいたお陰で現状の把握だけは行えた。俺は貴族であり、酷い言い方をすれば駒だ。



 つまりこれは政略結婚であり、各国の様々な思惑が複雑に絡み合っている。父さんがこの場に居れば取り持ってくれたかもしれないが生憎この場に父さんはいない。そんな中声を発した人物がいた。



「皆様の意見は良く理解しましたがフィリップ殿が仰っていた様にこの場でアレンに決断させるには内容が大き過ぎます。この件は一度持ち帰らせてもらえないでしょうか?」



 妙に俺のことを親しげに呼ぶ男性を見て心臓の鼓動が加速するのが分かった。突然俺に襲い掛かってくる謎の不安。その正体は国王が彼の名前を口にしたことで解明される。



「そうだな、婚約者の件は一度ダンプ・ツールに預け今はアレンの褒賞について考えようと思うがどうだろうか?」



 国王の言葉に俺は自分が失ったものを理解し、視界が真っ白に染まった。

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