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事件の顛末

 念の為と車椅子に乗せられ、メイドに誘導されながら俺が向かった先は王城の中にある会議室だった。貴族ではあるが庶民感覚の方が強い俺は重厚そうな扉を前に入りたくないと思ってしまうが、そんな俺の心境を無視してメイドは礼儀正しく声を掛けてから俺を押して中へと入る。



 失礼にならない程度に会議室の中を見渡すとそこには錚々(そうそう)たる面子が座っていた。会議室の最奥の椅子に腰を掛けているのはこの国の国王であるアルター・フィリッツその人であり、隣には現王妃のマーデル・フィリッツが居る。その他にもカルライナ王国側の重鎮が多数座っている。



 一方で、カルライナ王国とは別にこの場には二つの国が同席していた。一つ目の国は今回の事件の被害者でもある聖法国でありアリアの他に司祭のような人物が居る。二つ目の国は俺たちのことを一番初めに発見した竜王国で見覚えのあるリリー達三人の他に見たことのない竜人が座っている。



「ほう、これはなかなか」


「ッ!、この気配は」



 会議室にいる者の中で初めに口を開いたのは司祭服を着た男性と見たことのない竜人の二人だった。竜人の方は興味深げに、司祭服の男性の方は驚愕している様子で俺を見ている。だがそれも、アルター・フィリップが言葉を発したことによって中断される。



「よく来てくれたなアレン・ツール。このタイミングで君が目覚めてくれたことは好都合だった」



 国王の言っている好都合の意味はこの場にいる面子をみれば分かる。俺が目覚めてからここに来るまでの時間はそこまで長くない。その短時間に今回の事件に関わる聖法国と竜王国の人間を集められるとはとても思えない。つまり今は何かの会議中でたまたま目覚めた俺を何かしらの理由で呼んだのだろう。


 

 立場を考えるとこの場で跪いた方が良いのではないかと一瞬思案するが逆に国王の立場が悪くなりそうなので俺は相手の反応を待つことにした。



「いきなり呼ばれて困惑しているだろうが、今回の事件が起きた経緯とその顛末を説明させてもらう」



 俺の意見を一切聞かずに一方的に話し始めた国王は簡潔に今回の事件の顛末を語ってくれた。



 事の始まりは俺の予想通りくだらないポイント稼ぎと根本的な誤解だった。現王妃がルーナ王女の優秀さを認め、弟のステール・フィリッツ王子ばかりを構っていたことによってルーナ王女のことを王妃が良く思っていないと周囲に誤解をさせてしまった。



 それだけなら誤解を解けば良い話だが王妃に直接王女を嫌っているのですかとも聞けず誤解は解けないまま悪質な嫌がらせが始まってしまった。運が悪かったのは優秀であるが故にルーナ王女が我慢し耐えるという選択をしてしまったことと国王自身がルーナ王女に構えなかったことだろう。



 実態は違うが側から見ればルーナ王女は両親から邪魔者扱いされている厄介者にしか映らない。そんなルーナ王女についてしまった専属メイドが野心家であったことで今回の事件が引き起こされた。そのメイドは元々は伯爵家の次女だったらしくそれなりの努力をして王女の専属になることが出来たそうだ。



 しかし、蓋を開けてみれば約束された未来はなく城中から嫌われている王女の世話を焼く日々。その結果が貴族としてのコネをフル活用した今回の計画だったらしい。誤算だったのは俺という未来を知る存在がいた事とアリアを巻き込んだ事で事件が三つの国を巻き込むレベルまで大きくなった事だ。



 原因となったメイドは今牢屋に入れられているそうで俺たちが冥府の森に居た一週間の間に事件自体は解決して処分もすでに下されているらしい。



 全てを話し終わると国王はため息こそ吐かなかったが明らかに疲れた様子を見せる。まぁ、各国相手に自国の醜態を語るなど誰だって嫌だろう。そんなことを思っていると突然司祭服の男性が立ち上がった。



「始めまして、アレン・ツールくん。私は聖法国ミラーレスで最高司祭を務めているフィリップというものです。まずは我が国の聖女であるアリア様を護衛し、無傷で返してくれたことありがとう」



 最高司祭のフィリップさん、実際に会うのは初めてだが噂話ならいくらでも知っている。圧倒的な才覚と信仰心を持って聖法国ミラーレスの最高司祭まで登り詰めた聖人。そんな人物が一貴族でしかない俺に感謝の言葉を送っている現状が非現実過ぎてあまり飲み込めない。それでも、無視する訳にもいかないので無難な返答を返す。



「いえ、当然のことをしたまでです」


「謙虚ですね、アレンくん。けれど、私は一つ君に聞かなければならないことがある」



 人好きのする優しい笑みを浮かべている筈なのに不思議なプレッシャーを感じる。けど、俺がこの部屋に入室した時の反応で何が聞きたいのかは予想が付いている。



「その身に纏う神気について説明をしてほしい。神の使徒か、あるいは反逆者なのか、私はそれを見極めなければならない」



 フィリップさんの目は本気だった。きっと答えを間違えればここで殺される未来もあり得るだろう。けど、本当のことを言う訳には行かない。誰も一言も発しない部屋の中で俺は虚偽を口にする。



「俺は、神の使徒でも、反逆者でもありません。ただ、世界との繋がりを持ってしまっただけの人間です」

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