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金炎姫

「すみません、リリー王女。勝手に期待し過ぎていました」



 勝手な期待を一方的に押し付けてしまった。そう思い謝罪の言葉を口にした瞬間、リリーの雰囲気が明らかに変化した。いや、それだけじゃない。俺のことを睨みつけている赤い瞳が金色へと変わり魔力の感じも変質している。



「まさか、そんなこと!」


『この歳で発現させたか。これは逸材だな』



 手で口を押さえ驚愕しているフェルンさんに対して竜神クロノス様は少し嬉しそうにリリーを褒める。前の世界でリリーがこれを発現させたのは俺が知る限りでは十五歳の頃だった筈だ。当時でも天才だともてはやされていたのに今の段階でその領域に至るとは流石に予想出来なかった。



「アレン、その言葉を撤回しろ」



 たった一言。それだけでリリーはその場を完全に支配して見せた。王の風格とでも呼べば良いのか今のリリーは発言一つで人を支配するだけの力があった。まぁ、魔王と比べればやはり児戯のようなものだが。



「出来ないと言ったらどうしますか?」


「痛い目を見てもらう。今の私はお前よりも強いぞ」



 圧倒的な自信と自負。そして、それを裏付けるだけの実力。だけど、今のリリーは世界を知らない井の中の蛙だ。



 現在リリーが発現させている力。それは代々竜人族の王族のみに継承され、その中でも特に才能ある一握りの者しか開花させることの出来ないと言われている金色の炎だ。



 別名を不滅の金炎とも呼ばれているその力の正体は王族の血によって変質した魔力と王族が本来持っている炎の魔法が混ざり合い特殊な変化を起こした結果生まれた特殊な魔法。だが、その本質は未だに解明されていない。



『竜神クロノス様は金色の炎について何か知っていますか?』


『あれは権能に近い魔法と言った所だな。竜人族の王族の血にはほんの少し神力が混ざっておる。あの娘の場合は神力が魔法に干渉しているのだろう。ただ、相性の問題なのか炎魔法にのみ干渉が見られるな』



 試しに竜人クロノス様に聞いてみたら意外な回答が返って来た。だが、神力が関係しているのなら未だに改名されていないことにも説明が付く。



「それでアレン、撤回する気になったか?」



 と、そうだった。今はリリーの相手が先だ。とはいえ、どうしたものか。確かに煽っているような言い方をしたのは俺が悪かった。そこは素直に認めるべきだ。だが、期待をし過ぎたのは本当だし今のリリーがその期待を上回っているか、つまり前の世界の全盛期のリリー・フレイムを超えているのかと聞かれれば答えは否だ。



 それに、何というか怖くない。まるで伝説の魔剣を子供が振り回しているような、強過ぎる力に翻弄されているような印象を今のリリーからは受ける。圧倒的な恐怖を知らない、泣きたくなるような絶望を知らない、死にたくなるような敗北を知らない、失う悲しみを知らない。



 当たり前のことだけど、決定的な違い。今のリリーは人生経験が浅い。だから、俺が今やるべきことは彼女の成長の為に敗北を与えることだ。そう思い俺はリリーの瞳を見つめ挑発の言葉を口にした。



「撤回して欲しいなら俺に勝ってください。リリー王女」


「後悔するなよ、アレン。フレイムランス」


「魔力障壁」



 金色に輝く炎の槍と圧縮された魔力障壁の衝突。その攻防を見てリリーを含めた多くの竜人たちが驚愕していた。リリーの放ったフレイムランスは確かに俺の展開した魔力障壁に少しの罅を入れることに成功している。



 だが、言ってしまえばそれだけだ。代々竜人族の王族に受け継がれている筈の力が単なる無属性魔法に防がれている。



「はぁ!フレイムスピア」


「ドラゴンクロー、魔力障壁」



 遠距離攻撃では埒が明かないと判断したのかリリーは金色の炎を槍の先端に集め俺目掛けて突進してくる。直上的な動きで避けるのは簡単だ。けど、俺は敢えて右腕だけにドラゴンクローを展開させ魔力障壁越しにリリーの槍を受け止める。



「あり得ない!」


「俺的には魔力障壁を貫かれたことの方がショックなんですけどね」



 槍の一撃を止められたことに驚愕するリリーだがその槍の先端は俺の展開した魔力障壁を貫通しドラゴンクローによって止められている。流石に金色の炎は伊達ではないということなのだろう。



「終わりですか?」


「あぁ、次で終わらす」



 そう言って空へと飛んだリリーに俺は彼女が何をしたいのかをすぐに察した。



「死んでも恨むなよ、アレン」


「はい、もちろんです」



 本当にこの一撃で終わらせるつもりなのだと理解させられるほどの魔力が全て槍へと収束して行く。空中という攻撃され難い状況で時間を掛けて極限まで圧縮された金色の炎。いっそ、幻想的とさえ言えるほどの光景だが、あの槍が地面に直撃すればうちの屋敷もただでは済まないだろう。



 人一人を簡単に殺せてしまえるほどの一撃を前にして俺は冷静に全身に流れる魔力を右手の人差し指に収束させて行く。実戦では殆ど使えない技だがリリーが時間を掛けて魔力を練っている為俺も存分に時間を使うことが出来る。



 俺がやろうとしていることは単純で先程と同様に魔力障壁を展開するだけだ。しかし、即席で作れる魔力障壁とは違い時間を掛けれる分その強度は比較にならないほど増している。



『時間が掛かるとはいえその領域まで来たか』


『はい、かなりの集中力が必要なのでドラゴンアーマー以外は使用出来ませんがこの三ヶ月間でここまで来ることが出来ました』



 竜神クロノス様との会話が終わるのと同時にリリーも準備が完了した様で俺と目が合う。



「穿て!フレイムスピア」


「魔力障壁」



 圧倒的なまでの力を感じる金色の槍に対して俺はそっと右手の人差し指を差し出しその先端に指先サイズの小さな魔力障壁を展開する。槍と魔力障壁が触れ合った瞬間、凄まじい衝撃が俺を押し出そうとするのをなんとか耐える。



 そして、数秒が経過した後元の居場所から大きく後退した俺の前には金色の炎を失い役目を終えた砕けた槍が落ちていた。少し視線を先の方へとやると力を使い果たしかのかリリーが地面に膝を着き息を荒らげている。



 もう勝負は着いたと思うがフェルンさんが何も発しないので俺は仕方なくリリーに近付き右手のドラゴンクローを突き付ける。



「勝負ありですね」


「…………負け……ま………した」


「勝負あり、勝者はアレン様です」



 その日、リリー・フレイムは本当の意味での完全敗北を味わったのだった。

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