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勇者一行

「それにしても、アレン様はお強いのですね」


「全くだ、もしかしたら勇者以上かもしれんぞ?」


「それは、少し大袈裟ですよ」



 リリーとの勝負を終えた後、パーティー会場に戻るまでの道中俺たちは気軽な感じで談笑していた。本来なら竜人国の王女と聖法国の聖女という雲の上の存在のような二人とこうして話せるのは凄いことだ。



 これが普通の貴族ならこのチャンスを見逃すまいと必死になって算段を立てるのだろうが生憎と俺にそんな下心は一切ない。それもまた、彼女たちが俺に気兼ねなく接してくれる理由の一つなのかもしれない。



「動いたからか腹が減ったな。パーティー会場に肉はあったか?」


「はい、ありましたよ。けれど、ドレスを着替える方が先ですね」


「そうだな、流石にこの格好では示しがつかん」



 土の付いたドレスを見て複雑そうな表情を作るリリー。その内心には負けたことに対する悔しさと強敵と出会えた喜びの二つの感情が存在していた。



「私は着替えてから合流する故、それまでは二人で適当に過ごしていてくれ」


「分かりました」


「このまま解散しないんですか?」



 会場近くまで戻って来てここで一度解散する流れかと思っていたらリリーが合流すると言い出しアリアもそれに賛同する。正直なところあまり目立ちたくない俺はこの後壁の花になる予定だったので解散してくれた方が有難い。



 そう思っての発言だったのだが、二人にそのつもりはないようだ。



「そう冷たいことを言うな。私とアレンは既に拳を交えた仲だろう」


「そうですよ。こうして出会えたのも何かの縁です。お互い仲良くしましょう」


「そういうことなら喜んでお供させていただきます」



 立場的に断れる筈もないし、二人の性格を知っている俺からすれば断る理由もない。目立ってしまうのは少しアレだけどユリウス兄さんの弟として目立つのは既に決まってるしこの際考えないことにしよう。



 そうしてアリアとこっそり会場に戻った俺は元居た壁際の席へと座り向かい合う形でアリアも座る。



「もう、勇者任命式は終わってしまったようですね」


「はい、まさか見逃してしまうとは」



 アリアの言葉に俺はテンションを下げた状態で応える。折角のユリウス兄さんの晴れ舞台を見逃してしまうとは勿体無い。



「そう落ち込まないでください。アレン様」


『其方は余程兄が好きなようだな』



 アリアや竜神クロノス様の言葉も今の俺の耳にはあまり入ってこない。人生で二度目だとしてもユリウス兄さんの勇者任命式は見逃せないイベントだった。



 勇者になったことによる苦悩をまだ知らない、俺からしてみれば勇者の全盛期と言って良いイベント。この日を境にユリウス兄さんはさらに修行に励みどんどん強くなっていく。



 そんな少し先の未来について考えていると正装に身を包んだユリウス兄さんが一方的に見知った顔を二人連れてこっちまで歩いて来た。



「こんな所に居たのかアレン、会場を見ても居なかったから心配したんだぞ。そちらの方は聖法国ミラーレスの聖女アリア様ですね。お初にお目に掛かります、ユリウス・ツールと申します」


「お初にお目に掛かります、ユリウス様。そちらのお二人は?」



 和かな笑みを浮かべユリウス兄さんに挨拶を返したアリアは次にユリウス兄さんの両隣に居る男女へと視線を向ける。



「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はこの国の騎士団団長の息子でソード・バランスと申します。以後お見知り置きください」


「私は魔法師団団長の娘でマリン・カーマンです。よろしくお願いします」



 目の前で交わされる挨拶合戦を見て俺は少し遠い気持ちになっていた。勇者一行の魔法使いとしてその名を轟かせた天才魔法師マリン・カーマン、剣の腕だけなら勇者をも凌ぐと言われ剣聖の異名を持つソード・バランス。



 お互いに騎士団団長の息子と魔法師団団長の娘という立場だったが故に功績目当てに魔王討伐の任務を与えられその命を散らした被害者だ。



『この者たちも勇者一行のメンバーなのか?』


『はい、俺も何度か会っていますがとても強く人の良い人達です』



 魔法に関しては才能がなかったから教えてもらえなかったけど、ソードには少しだけ剣術を教えてもらったことがある。



「それで、こっちがユリウスが話してた弟か」


「魔力の練度は確かに高いけど正直ユリウスに勝ったっていうのは信じられないかな」



 あれ?なんか二人から感じる視線に若干の敵意を感じるのは何故だろうか?いや、ユリウス兄さんからこの前の勝負の話を聞いてるんだったら怪しまれるのも当然か。



 とはいえ、いつまでも黙っているのも良くないので一応挨拶だけはしておくことにする。



「初めまして、ソード・バランスさんにマリン・カーマンさん。俺はアレン・ツールです。以後お見知り置きを」


「よろしく」


「うん、よろしくね」



 なんだろうこの雰囲気。いや、原因はなんとなく分かる。普段からユリウス兄さんの修行相手をしてる二人からすると魔法すら使えないぽっと出の弟にユリウス兄さんが負けたことが気に食わないんだろう。よくある話だ。



「ほう、私が居ない間に人数が増えているようだな。アレンの知り合いか?」



 そんな雰囲気を知ってか知らずか我関せずと言った様子で入り込んで来るリリー。思えば、ここにいるメンバーは俺を除いて皆勇者一行の面々だ。知らない人間からしたら将来有望な子供の集まりでしかないが知っている人間からすればサインでも求めたくなるような光景だ。



 それからユリウス兄さん達三人がリリーにもアリアにしたような挨拶を行い話を始めるが流石のソードとマリンも竜王国の王女相手だと緊張しているようでそんな様子をリリーはつまらなそうに眺めている。



 将来はもっと気兼ねなく話してる様子だったけどまぁ、初めの出会いなんてこんなものだろう。



 それからも俺は壁の花へと徹し勇者一行の言動を観察しながらそれなりに楽しい時間を過ごしたのだった。

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