メイ恋 第七話「第一歩」
ゴールデンウィークも終わり、そろそろ本格的に田頭の指導に入らなければ。そんなことを思いつつ授業を受けていた。
「ふぁあ...。今日も授業時間は長くて眠い。塾で予習しているから学校の授業はただの復習にすぎない」
いつもなら、積極的に教科書の問題を解くのだが、休み明けということもあって授業を受ける気にならない。
今日はぼーっとして授業を受けているとあっという間に昼休みになった。
「おーい!正平!!昼飯たべようぜ」
「あぁ。はるか...。いいぞ。今日は久しぶりに弁当を持ってきている。」
いつもなら一人で学食で安いうどんでも食ってるから人と一緒にたべるのは久しぶりだ。
「なぁ、正平知ってるか?なんかゴールデンウィークの時に正平と田頭さんが一緒に遊んでたって噂になってるぞ?」
.
..なに?まさかどこかでばれていたのか?
「ん?まさか本当に遊んでたのか?関わりないだろ」
「いや、ゴールデンウィーク中はずっと家にいた。誰かの見間違えだろ。田頭はかわいいし彼氏とデートしてるのを俺と見間違えただけじゃないのか?ほら世界には似てる人が3人くらいはいるらしいじゃないか」
「そんな近くに現れるか?もうドッペルべンガーじゃないか」
はるは笑いながら喋ってるが俺はそれどころじゃない。最悪だ。
昼休みがやけに長く感じ弁当の味も覚えてない。どうにかしなければ。
「ところで、その話を聞いたのは誰からなんだ?」
「あー、いや盗み聞きしただけなんだけどよ、南さんと安達さんが話してたんだよ」
「よりによって陽キャ達が喋っていたのか...」
困ったな...もし田頭の耳に入ったらどうすればいいんだ。これからが本格的に指導していこうと思ってたのに、このままじゃ関係どころか大変なことになりそうだ。
そんな事を考えているとあっという間に授業が終わっていき気づけば放課後になっていた。
「もう放課後なのか。嫌な噂だがそんなの気にしている場合ではない。約束したのだからしっかりと責務を果たさなくては」
「今日の18時からバイトか、バイトに行く前に田頭に連絡をしておこう。」
「今週の土曜日暇か?よかったらメイドの練習しよう」っと。これでよし。バイトに行くか。
今日のバイトは忙しかったな。そんなことをおもいつつメッセージアプリを見てみると田頭からメッセージが返っていた。
「今週の土曜日ですか?大丈夫ですよ!ついに指導の開始ですね!楽しみにしときます!!」か。
とりあえず安心した。嫌な噂は耳に入っていないのか、わからないな。
そんな約束をしてから気が付くとあっという間に土曜日になっていた。あれから嫌な噂も少しは聞かなくなったがたまに噂が耳に入る時があるがだんだん気にしなくなっていた。
今日は田頭を指導する最初の日でもある。事前に集合場所などを伝えていたので街中にあるカフェに行くところだ。
俺は時間になると家を出て待ち合わせである公園に向かった。
「少し早かったか。まあいいゆっくり時間を潰そう」と思っていると30分も早く着いたが待ち合わせ場所には田頭がいた。
「もういるのか。ん?何してるんだ田頭は」
よくみると田頭は手鏡をもって笑顔をみてたり前髪をチェックしていた。
「あぁ、そうか今日が本格的な第一歩でもあるもんな。それにしてもすごいな。見ていないところで努力しているとは」
「やあ、田頭。学校ぶり。」そう返すと
「え?ああ!上林君!ずいぶん早い到着だね!まだ集合時間まで30分くらいあるよ」そういい慌てたのか手鏡を隠した。
「ん?ああ。早く着いたんだが、田頭のほうが早くついてるだろ...。」
そんなくだらないことをいい俺たちはカフェに向かった。
「わあ...!すごいお洒落なカフェだね一度ここに行ってみたかったんだよ!」
たしかにお洒落なカフェだ。全体的に白く所々に観葉植物があり植物園みたいな感じだ。
「とりあえず注文しよっか」
俺は無難に珈琲を頼み、田頭はというとオレンジジュースに、パンケーキ、そして珈琲ゼリーと...
「頼みすぎだろ...」
「えへへ、いいじゃん。せっかく来たのだから!」そんな笑顔を見せているが本来の目的を忘れてそうで怖い。
「とりあえず、練習をはじめよう」そういうと田頭は元気な声で言った。
「はい!お願いします!上林君!!」
元気だけはいいようだ
「まず、最も大事なのは最初の第一印象らしい。なので今日は第一印象を鍛えよう!第一印象といえばやっぱり笑顔かな。とりあえず笑顔みせてくれ」
そういうと迷わず笑顔をみせてくれた。
うん。可愛い。
「笑顔に関しては言うことないわ。そうだないらっしゃいませの声はどんな感じで言っているんだ?」
「いらっしゃいませ!ご主人様!」こんな感じです!
「なんというか。全然いいのだが胸に響かないな...。」
「あはは、難しいこといいますね...」
「声のトーンを上げて言ってみて」
「いらっしゃいませ!ご主人様!!」どうですか?少しだけ声のトーンを上げました!
「さっきより全然いい!いやむしろこっちのほうがいいな」
それから1時間以上声のトーンを変えたりテンポを変えてみたりと試行錯誤を繰り返した。
そして「いらっしゃいませ!ご主人様!!!」
...完璧になった。
「いやー今日は長い時間ありがとうございます!上林君。おかげで成長した気がします!!えへへ」
「それはよかった。ところで言いにくいのだが安達らが言っていた噂は知ってるのか。」
「知ってますよ。でも仕方ないですよね。噂なんか気にしたら負けですよ」
そんな言葉の返しに納得してしまった。
「あと、今日早く来て手鏡をみて笑顔の練習してたな。やっぱりすごいな田頭は。見てないところでの努力がすごい。」
「え...もしかしてみてました!?」
「ん?あぁ少しだけな」
「ふぁぁぁ...」といいなぜか顔を赤くしていた気がした。
「ん?なにかまずいことでも言ったか?」
「いえ!なんでもないです!またお願いしますね!上林君!!」そういい解散した。
この時まだ俺は田頭の本当の気持ちをわかる由もなかった。
-----------------第六話[完]------------