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1 地球にて

「うぅ、風がつめてぇ」


 顔に吹き付けてくる寒風に、俺は思わず顔をしかめる。

 俺は現在自転車を来いで、最寄りの書店へと向かっている。

 この地域にある唯一のちゃんとした書店だ。

 俺はお気に入りの新刊が出るたびにこの店におもむいているのだが、一つ難点があり、俺の自宅からの距離がチャリでも二時間ほど掛かってしまうということだ。まぁ俺の住まいは東北のど田舎だからな、ある程度のものを揃えるためには少しばかり遠出しなければならない。でも正直努力でありつけるだけまだマシだと思えなくもない、高校生の俺が物理的に通えないような場所なら本当の意味で絶望だっただろうからな。ありがたいと思って生きるようにしてる。


「にしても寒い……今日は氷点下までいくんだっけ」


 今朝のニュースでそんなことを言っていた気がする。

 夜には雪も降るとか。

 今日の出張は一旦延期で、家でぬくぬくしておいた方がよかったか? いや、それはありえない、今週は待ちに待った漫画『純一さんは今日もごきげんです』の新刊の発売日。田舎書店のため通常の入荷日より数日は遅れて陳列されるのだが、それでも週末の今日は日数的にもまず間違いなく並んでいるはず。今日が土曜なので、もし明日を逃せば俺がその漫画を手にするのは一週間先の話になってしまう。それは流石に待てない、俺の本能がすぐにでも手にしたいと、そう叫んでいる。こんなことで折れるわけにはいかないんだよ!


「……でもやっぱり寒い……おばあちゃんのマフラーまでしてきたというのに貫通してきやがる……ん?」


 何気ないことを考えながらのんびり山道を走っている時だった。

 正面からやけにふらふらと走ってくるトラックが見えた。

 なんだ? 様子がおかしい? もしかして酔っ払い運転とか? まぁトラックまでの距離はまだ余裕があるし、路傍の外側もずいぶんと広い。思いっきり避けてしまえばまず当たることはないだろう。


 多分大丈夫だとは思うが、一応念のためということで俺は一度自転車から降り、しっかりと端によった。

 そして肝心のトラックはそこそこのスピードを出しながら、普通に俺の横を通過した。

 やばい、大丈夫かあれ、まぁ俺には関係ないからいいか。


「え?」


 そして気づけば俺の頭上から大量の岩が落っこちてきていた。

 あれ、そういえばここ山だっけ。あれ、てことは、これは落石ってやつ? うん、確かにこの辺は至るところに注意の看板があったようななかったような――


 そこまで考えたところで、俺の体に強い衝撃が走った。

 一瞬のできごとだった。

 そして意識が途切れる寸前で、思った。

 ああ、こんなことって…………












「うぐ……あれ」


 気づけば俺は知らない場所にいた。

 見渡すかぎり真っ白な空間。

 床まで真っ白で、アートの世界かなにかに紛れ込んでしまったような錯覚を覚える。

 でも間違いなく俺はここにいて、当然知らないような場所だった。


「ここは……どこだ?」


「うむ、目覚めたか」


 ふと声がしたのでびっくりして背後を振り返る。

 そこには灰色のヒゲを蓄えたおじいさんがいた。


「あなたは……?」


「ワシは神じゃよ。といってもお主の想像するような全能の神ではないがの。何人もおる下位域神のうちの一人じゃ。まぁお主からすれば意味も分からんじゃろうから、普通に神と思って貰って構わん」


「神……様?」


 なんだ、いきなり何を言い出してるんだこの人は。たまにいるヤバい系の人なのかなと一瞬悲しい目で見てしまったが、よくよく考えれば今の状況はかなり特殊だ。どんなことがあってもおかしくないと、冷静な部分の俺が僅かながらに思ってしまっている節もある。


「そうじゃ。で、ここは天域と言っての、平たく言えば神々の住まう場所といったところじゃよ。本来なら人間の魂はここではなく天界と呼ばれる下の階層へと運ばれるんじゃが、今回は特別にワシが呼び出したんじゃ」


 なにやら話が進んでいるが、正直ついていけそうにない。いや、言葉上では理解はしているが、まだ正直困惑の方が大きい。魂がどうとか言っていたが、だったら今の俺はなんなんだ。地球にいたはずなのに、どうしてこんなところにいる?


「ここは地球ではない……ということですか?」


 恐る恐る質問してみた。


「無論そうじゃ。肉体が死亡して居場所を失った魂は、基本的には天界へと運ばれそこで処理される。じゃが今回お主には一つ頼みたいことがあっての、こうして呼び出させて貰ったというわけなんじゃが……その感じじゃと己が死んだということを覚えとらんな?」


「え、死んだって……だって、こうして生きて……」


「岩なだれでじょがーーーーんじゃ」


「……あ……あ、ああああああああ!!」


「思いだしたか」


 そうだ、たしかに記憶がある、俺が確かに死ぬ間際に見た光景。言われて思い出した……でもやっぱり記憶自体は薄い……神様がいうには俺は死んだという。だとしたらあまりに即死しすぎて覚える間もなかったということが考えられないだろうか。ああ、俺死んだのか……最悪だな……でも記憶が弱いせいかそんなに実感自体はないんだよな、今こうして意識はあるわけで……なんとも不思議。


「一応……思い出しました、すみません」


「それならよい。混乱されたままでも話が進めづらいところじゃからな」


「それで……僕を呼び出したみたいな話をされていたかと思うのですが……」


「ああ、それなんじゃがな」


 おほんと調子を整えた後、神様はしわがれきったあまり好きになれない唇を開いた。


「お主、異世界の魔王を倒しては貰えんか?」

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