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その被検体は興味深く

今日送られて来た患者は奇妙だった。


性別は男、のように見える。

生殖器まではとある事情で確認できず。

年の頃は3歳か4歳と見えるが、筋肉の発達が異常で、平均的な大人よりも明らかに発達している。

人の域を超えていると言ってもよい。

目は見えているのかわからず、食欲に顕著に示す、一言で言うと獣だ。

そこまでなら良くあることだが、注意書きに記載があったのは『人』。

おかしい。

明らかにおかしい。

ここに運ばれるのは通常『人』以外のはずだ。

だが、彼は『人』だという。

非常に興味深い。


便宜上、名前が無いのでここでは『彼』と呼ぶが、『彼』は例の村の住人に襲い掛かったところ、買えりうちにあってここに運ばれてきたらしい。

どうも、空腹で食べ物に困ってのことらしい。

そこまでの生活の一切もうかがい知ることは不可能だが、服を着ておらず、髪を切った形跡もなく、身体が酷く汚れていることから自力で生きてきたらしい。

実に興味深い。


彼に関してうかがい知ることは出来ないが、情報は無いことはない。

意思疎通を彼と取ることはできなかったが情報自体は引き出すことは出来たようだ。

そして、実験と称しいつもの工程を踏んだらしい。

身体を切り刻み、薬液につけ、ありとあらゆる苦痛を与える。

その結果、ここに居る。

それらを全て乗り越えて、それでも『人』であるらしい。

使い方によっては、食料何だろうと、あらゆる病の抗体を作るための母体にでも出来るだろうに、彼らは『彼』にそういうことを期待していないらしい。

いや、むしろ出来ないと言った方がいいのかもしれない。


なぜ、なぜと言っているように聞こえるが、気のせいと断じてさっさと済ませようと思う。

どうせ、『彼』との付き合いは長くないし、長く付き合いたいとも思わない。

患者と深くつきあってもいいことはないし、深く付き合って情を与えた先に実は患者ではなく間者だったなんてことになったら、次こうなるのは自分なのだ。

それ自体には耐えられたとしても時間の無駄だし、彼らに利益を与えるのはもっと不快だ。


「だからそろそろ何か話してほしいんだけどねぇ」


『彼』はさるぐつわをされているので、うーうー唸り、にらみつけるだけで何も出来ない。

両手両足拘束され、電流が流れ続けているのに暴れ続けている。

実に元気のいいことだ。結構なことだ。


「『彼』は人のようだけど、『彼』に言葉を教えたのは君なのかね? それと、その力も『君』なのか、それとも『彼』が元々持っているものなのか」


彼自身は先ほどから変わらない。

だが、ため息をつくようなか細い声が聞こえてくる。


『彼』は、あぁ、確かに『彼』は人間だったのだろう。

両手両足、顔、共に『人』の特徴を持っている。

だが、ある一点だけ、特異な点がある。

奇形や異形という話では無い。

そんなものは個性の一環でしかない。

そんなものを超越するものがそこにある。

『彼』の顔には口がもう一つある。


『話せば助けてくれるのかしら、プロフェッサー』


そのもう一つの口はふさがれていない。

明らかに『彼』のものではない、甲高い声が聞こえてくる。

その口から『プロフェッサー』と呼ばれるのが酷く不快に思った。


「助ける? 何を言ってるのかね。君たちは既に助かっているではないか。それと私をそう呼ぶのはやめてくれ。そのような高尚なものではない卑賎の身でそう呼ばれるのは非常に恥ずかしい」


そういうと、その口はクスクスと笑う。

不快だ。

とにかく不快だ。


『助けるとはそういうことではないの。そういうことではないのですよ』


あぁ、不快だ。

何が深いかわからいが、とにかく不快だ。

あぁ、確かに彼は人間だ。

だが『それ』は人間ではない。

それが何かをつきとめろということだろうか。

それこそバカバカしい。

あぁいう類のものなど、決まっているだろうが、それがわからないほど彼らはもう既に終わっているのだろうか。


「あぁ、私はやはり不幸なのだろうな」


こんな妖の類と関わるのはいつぶりだろうか。

いや、いつものあれとは違うのだろうが、延長線上に居るものなのだろうな。

延長線上の到達点とこんな所で出会うとは思っていなかったが。


「あぁ、帰りたい。。。」


確かに『彼』は人なのだろう。

確かに『それ』は人ではないのだろう。

そんな風に、他人を区別している私は、最早何者なのだろうか。。。

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