悪魔とか妖怪いるのに学園ラブコメとか勘弁願いたい
「お前がこれから行くのは地獄だよお」
老婆のような何かは、道端に座り込む自分に声をかけた優しき青年の肩を、枯れ木よりも細い指で掴む。
老婆なる者は妖怪、あるいは悪魔。例外を除けば、いずれも人を惑わし自らの糧とする者。
妖怪が周知されていた時代であれば警戒されていたかもしれないが、現代で道路の縁に座り込む老婆など警戒できるはずもない。
老婆も例外には当てはまらず、良くみれば肌がコールタールのような粘液に覆われている。
老婆なる者は確信した、目の前の男を花を摘むかのように借りとれることを。事実魂はすでに掌の上だ。
老婆が魂を刈り取ろうと力を込めた時、男は目を細め呟いた。
「やるのか」
老婆はぞわりと無いはずの鳥肌を立てた。恐怖ではない、目の前の食材が消えてしまうためだ、そう老婆は判断してしまった。
そのまま老婆は、あの世とされるこちら側に引き込もうと手を動かす。しかし動かない、錆び付いたレバーのような、動く気配があるものが動かないのではない、まるで地球と相撲をとっているような感覚だ。
老婆は驚愕によって固まっていると視界が真っ白に染まる。
「!!!!」
老婆は吹き飛ばされ電柱にぶつかる。老婆はなにをされたか理解できなかった、しかしどうなったかは理解できた。
顔が溶けるように崩れる、続いて大激痛。老婆の穢れた魂が煙を立てて削れた。
「ぐぁああああがぁぁ!!」
転がる老婆を鼻で笑い、先ほど老婆を殴り付けた拳を掲げながら、男は侮蔑を込めて言葉を発する。
「そんなに寝転がってどうした?サーフボードにされたいなら今すぐしてやるよ」
殴り飛ばしたその間合い5m、それを助走なしでの跳躍で一息に詰める超人芸、着地点は老婆の脳髄。
全力の一撃ではない、それでも知恵を得て何十人もの魂を啜った怪物を葬れる一撃。
周囲に響き渡るコンクリートの粉砕音。しかしそこには老婆が脳髄を撒き散らし成仏する光景はなかった。
「...貴方ね、ここ最近の失踪事件の犯人」
綺麗な女だ、セミロングに切り揃えた群青色の髪に銀色の髪飾り、そして印象的な白髪のメッシュが揺れる。高校生だろうか、目の前の制服を着た女が今の一撃を受け止めたのだ。粉砕音はその衝撃を流した足元から出た物だろう。
女は自信に満ちた凛とした声でいい放つ。
「貴方を違法霊障使用の罪で拘束する、痛い目を見たくないなら這いつくばりなさい」
「バカかこいつ」
「はぁ!?」
糞以下のの出会い、そう思った。しかしこれが俺の人生を、俺の糞以下のやり直しを変えた出会いだった。
高頻度投稿目指してがんばります。