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四冊目 池袋ウエストゲートパーク その五

 ♪


 戦争ごっこ。ルールはそこそこ難しかった。

 まず二つのチームに分かれる。

 チームの誰かが敵陣地にある旗を掴めばその時点で掴んだチームの勝ち。

 陣地は空き家を使う。

 家のどこに旗を置いてもいいけど、物置や押入れや戸棚など、隠すことはしちゃだめ。

 それぞれの家の一室は牢屋となっていて、捕まえられた敵はそこから出られない。

 捕まえられた人と同じチームの人がその部屋を開ければ出れる。どこも鍵は掛けちゃだめ。牢屋は物置でも押入れでもいい。だけど棚はだめ。苦しそうだという理由から。

 捕まえるという行為はタッチすればいいとかじゃなしに、羽交い締め、床に倒す等、身動きが取れないようにしなければならない。

 殴る、蹴る、突く、押す、足を引っ掛ける等、怪我を負うような行為もやっちゃだめ。髪引っ張るのもだめ。やるならお相撲さんみたいな感じか、取っ組み合いでやること。

 でも道具は使用オーケー。事前に何を使うか言って使っても大丈夫かみんなで相談して決めること。

 以上。私が小学校に入学する以前に行った、歳が歳なら普通に捕まる犯罪行為オンパレードの危険な遊びである。


 ♪


「ハーッハッハッハッハァ! いいだろういいだろう! 三対二じゃどうにもつまらんと思っていたところだ!」

「今日もぉ二連敗してるのにぃ。勝てるかなぁ」

「ここまで十二勝六敗だからねー」

「よく覚えてるねぇ。そんなことぉ。わたしもう全然だよぉ」

「あんた名前は?」

「あい」

「あいちゃん何歳ー? わたしたちみんな五歳ー」

「よんさい」

「なんでそんなのしてるの?」

「ハロウィン……」

「ハロウィンってなーにー?」

「聞いて!」

 ミイラが床を叩いた。

 先ほど私を追い回していた三人とプラス一人に私を紹介するということで、敵チームの空き家に来ていた。たぶん居間なんだろう。焦げ茶の柱には傷があちこちにあった。元は畳敷きだったようだが、引っ剥がされて木の床が覗いていた。ぎしぎし鳴ってる。穴空きそう。そしてみんな当たり前のように土足だったから私もそうした。

「さっきのでっかい音ってこれ?」

 床に散らばった大量の花火を指差した。

「そうよ! よくぞ聞いてくれたわね! ロケット花火七十発! かんしゃく玉四十発!  爆竹六箱! 財産のごぶんのさんをつぎ込んだ! 今日こそは息の根止めてやるわ!」

「うそ! 貯めたお小遣い全部使った! これ全部あの駄菓子屋のでしょ? いっつも隅に置いてるやつ。変なもの買っちゃいけないってこの前じいとばあから言われたばっかりなのに」

「いいの!」

「チャッカマンで付けるのはダメだからね。ロウソク使うこと。当てないこと。当てたらその時点で負けだから」

「わかってるもん」

 白黒のタートルネック同士が額を突き合わせ言い争う。

「あの二人いつも喧嘩してるから気にしないでー。わたしとー、みーちゃんとー、おんなじチーム。よろしくねー」

 見てると横からぽわんぽわんした雰囲気の子が顔を近付けてきた。カボチャを被っていても距離が近い。おかっぱ頭で垂れ目の女の子。オーバオールにピンク色のロンT。寒そう。

 みーちゃんってのは、さっき助けてくれた子らしい。

「それから」

 ぐりんとミイラがこちらを振り向いた。びくりとする。紹介されたとはいえ、知らない子たちと喋るのは初めてだ。緊張しているのはもちろんだが、背が高く、リーダーっぽいこの子は怖かった。格好のせいもあったろう。


「罰ゲームのでこぴんは変更。こちらが勝ったらその仮面、俺がもらいうける」


「……え?」

「ちょっとー。あーちゃん。それはだめだよー。あいちゃんがかわいそーだよー」

「いいよ。やる」

「……」

 周りのみんなが気まずそうにカボチャとミイラを見ていた。誰か止めないのかとみんなが視線を合わせる。しかし、喧嘩をしていた子――みーちゃんが呆れたようにため息をつくと、結局、その条件で戦争ごっこは開始されることとなった。

 後から思い返して分かったこと――というか、ただなんとなくそうなんじゃないかな、と思ったことなんだけど――たぶん、あのミイラはミイラのコスプレをしていたわけじゃなかったんだろう。口調と言い、当時公開されて大ヒットを記録した漫画原作の邦画、その敵の総大将の格好を真似していたのではないか。だから彼女は気が大きくなっていたし、理不尽な物言いもわざとやっていた――とか? 時期的にもちょうど合致する。……まあ。

 あの時の私はそんなこと知らなかったし、目の前のこいつはなんて嫌な奴なんだろう、山の下にはこんな子がいるのか、くらいにしか思っていなかった。

 お母さんと一緒に作ったジャック・オー・ランタンを奪おうとするなんて。

 絶対に、絶対に負けない。

 泣かしてやる。

 くらいの気持ちだった。

 ま、最終的に私が泣くことになるんだけどさ。

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